将来、人間が宇宙で生活するときには、水、空気(酸素)、食料の自給自足ができる環境が必要です。そのためJAXAでは水と空気とゴミを再利用する技術開発を行っています。人間が物を食べれば排泄があり、呼吸をすれば炭酸ガスを排出し、水を使えば廃水があるといったように、人間の生活では必ず廃棄物が発生します。地球では、排泄物を微生物が分解し、それが植物の栄養となり、その植物を人間や動物が食料として摂取するという物質循環があります。このような地球の環境を、人工的に宇宙で作ることを計画しています。どんな種類、どんな性質のゴミ(有機物/燃えるゴミ)も短時間で確実に分解します。これは、現在のゴミ・環境問題にもすぐに役立つ技術です。
有機廃棄物処理装置
ハイプロシステムで処理した焼酎廃液(左:廃液、右:生成水)

私たちは、生ゴミ、廃水、し尿などの廃棄物を水に変えることを実証しました。そのために開発されたのが、ハイプロシステムという有機廃棄物処理システムです。まず、密閉した容器の中にゴミと廃水を入れてドロドロにします。そこに空気を入れて、高温高圧で処理をすると有機物の約50%は分解されますが、アンモニアや酢酸などが発生します。その残った有機物を、触媒が入った容器に入れてさらに分解をすると、水と炭酸ガス(二酸化炭素)が生成されます。この水は無色透明で、ゴミのカスも残っておらず、浄水器で浄化すれば飲み水として使用できます。また、生成された水には有機物を形成していた物質が残るため、植物の肥料としても使えます。有機物の分解に使う「触媒」とは、他の物質の化学反応を促進させる物質のことです。触媒にはいろいろな種類がありますが、私たちは、車の排気ガスをきれいにするときに使う触媒を使っています。
もともと、高温高圧で有機物を分解する技術は1930年代にアメリカで開発され、この方法で下水汚泥のリサイクルを試みた日本の民間企業もありました。しかし、生成された水は茶色くにごり、汚泥のカスも残った状態で、実用化には至りませんでした。その後、触媒を使う技術が開発されましたが、JAXAでは触媒を別の容器に入れて、ゴミを半分くらい分解してから触媒と混ぜる独自の技術開発に成功しました。この成果は民間企業に技術移転され、現在、1日10トンの焼酎廃液を処理する装置などの開発を共同で行っています。
民間に技術移転された、逆浸透膜を利用した浄水器

生活廃水やし尿などの汚水を、ミネラルが含まれる美味しい水に変える、水再生装置の開発も行っています。ハイプロシステム(有機廃棄物処理システム)で生成された水の浄化にも利用できます。水再生装置は、「逆浸透膜」という膜孔が0.1ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリメートル)のフィルターを使って水をろ過します。この膜孔は水中の最も小さいウイルスよりもはるかに小さいサイズのため、かなり純度の高い水を生成することができます。しかし、純度の高い水はミネラルを含まないためまずく、長期間飲み続けると健康に悪影響を及ぼすことがあります。そのため私たちが開発した浄水器には、人間に必要なミネラルを加える機能がついています。この技術は、宇宙での水の再利用を目的に開発されましたが、現在は民間企業に技術移転され、地上で使う浄水器としても実用化されています。
温暖化による海水の増加によって塩分が地下水へ混入したり、異常気象によって水不足が起きたりと、世界の水環境が悪化しているなか、安全で安心できる水が確保できるよう、JAXAの水再生技術で水環境対策にも貢献したいと思います。
スピルリナを使った二酸化炭素除去装置

人間が宇宙に長期滞在するためには、空気のリサイクルが必要です。現在は、地上から国際宇宙ステーションに酸素を運び、化学的な吸収剤を使って人間が排出する二酸化炭素を吸収しています。しかし、例えば、6名の宇宙飛行士が半年間宇宙に滞在した場合、吸収剤が1トン以上も必要になりますので、輸送コストが高いという問題があります。そこで私たちは、空気再生装置を開発しています。まず、人間が出した呼気から二酸化炭素を分離し、その二酸化炭素を水素と反応させて水を生成します。この水は飲料水にも利用できますが、電気分解することによって、酸素を作り出すこともできます。この酸素をまた人間が吸って二酸化炭素を吐き出しますので、うまく循環していきます。現在、宇宙空間での技術実証をめざして開発を進めています。
また、藻類の一種であるスピルリナを使った、光合成による空気洗浄技術の研究も行っています。スピルリナは35億年以上前の化石の中から見つかり、地上に最初に誕生した生命体の仲間だと言われています。もともと地球は今の火星のように二酸化炭酸が多く、酸素はありませんでしたが、このスピルリナのような藻類が、酸素のある大気を作ったと言われています。スピルリナはとても光合成能力が高く、たくさんの酸素を出します。これを使って二酸化炭素を酸素に変え、二酸化炭素を減らすことができれば、温暖化の要因となっている温室効果ガスの低減にも貢献できると期待しています。
国際宇宙ステーション搭載を目指して研究開発中の水再生装置

現在、国際宇宙ステーションには、常時、宇宙飛行士が滞在しています。その宇宙飛行士が生きていくために必要な、水・空気・食料などの物資は、地上からの輸送に頼っていますが、その輸送コストはとても高く、万が一の理由で輸送機が打ち上げられなかった時には、物資が不足してしまうという問題があります。そのため、生活の中で出てきた廃棄物を再利用する仕組みが必要です。今は、宇宙ステーションの廃棄物を3〜4ヶ月ごとにプログレス補給船に積み込み、大気圏に再突入させて焼却処分をしていますが、NASAは2008年に、尿を飲料水に完全再利用する装置を宇宙ステーションに設置する予定です。
JAXAでは、NASA の水再生装置の2分の1の大きさで、消費電力も少ない宇宙用水再生装置の研究開発を民間企業と共同で進めています。この装置を使うと、宇宙ステーションに滞在する6名の宇宙飛行士の1日分の排出量に相当する約200リットルの生活排水と尿を、8時間で処理できます。このJAXAが開発した水再生装置を、ぜひ日本実験棟「きぼう」で実証実験したいと思います。そして将来的には、日本製の水再生装置を、月面基地や火星基地に長期滞在をする、あるいは、移住するときにぜひ使いたいと思います。
ゴミを水に変える技術については、ぜひ一般家庭向けのものを実用化させたいと思います。この場合、1軒ずつゴミ処理装置を設置するのではなく、マンションなど集合住宅単位でまとめて処理をするのが効率的です。例えば、マンションの流しに取り付けたディスポーザーで生ゴミを細かく砕いて配管に流します。それと一緒に、トイレの廃水やお風呂の残り湯、洗濯廃水などを混ぜて処理をして、水を生成します。この水はそのままトイレ用に使えますし、浄水器で浄化すれば飲み水やお風呂にも使えます。また、この時生成される水は植物の肥料としても使えますので、水耕栽培で野菜を育てれば、無農薬で安全な野菜を食べることもできます。
ただ、実績の少ないゴミ処理装置を一般家庭ですぐに利用していただくのは難しいと思いますので、まずは自治体でこのシステムを使ってほしいと思います。最近はゴミを埋め立てる場所が減っていますし、ゴミを焼却する際に有害ガスが出るとも言われていますが、このシステムを利用すればそのような心配もありません。また、通常の焼却炉に比べて設備維持費も1/10以下になるほか、ゴミが分解する時に出る熱を地域暖房にも使うこともできます。例えば、下水処理場にこのシステムを導入すれば、今の4分の1くらいの敷地面積でできますし、完全に密閉した状態で汚物を分解しますので、匂いも出ません。このように、いろいろな可能性がありますので、ぜひとも自治体で使っていただきたいと思います。そして、日本発のゴミ再利用技術で、世界の環境問題に貢献することができればと思います。
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