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無重力による骨量減少メカニズムの一端を解明
―国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟における
2ヵ月間のメダカ飼育と破骨細胞の活性化による骨量減少―

平成27年9月24日

国立大学法人 東京工業大学
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

[要点]

  • 世界で初めて2ヵ月間におよぶメダカの長期飼育に成功
  • 骨を吸収する細胞である破骨細胞の活性化による骨量減少を確認
  • 骨粗鬆症の原因解明にも繋がる

[概要]

 東京工業大学大学院生命理工学研究科の工藤明教授らは、国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟で2ヵ月間飼育したメダカを分析し、無重力で骨量が減少するメカニズムの一端を世界で初めて明らかにした。破骨細胞が無重力下で活性化され、破骨細胞の特徴である多核化(注1)がより進んでいることが分かった。また破骨細胞のミトコンドリアの形態異常が観察され、ミトコンドリアに関連している2つの遺伝子「fkbp5」と「ddit4」の特異的な発現上昇が認められた。

 世界で初めて宇宙で2ヵ月間もの長期にわたり魚が飼育できたことに伴う成果であり、この研究成果を通じて無重力での骨量減少を解明する新たな手掛かりが得られた。本成果により、動物モデルが無い老人性骨粗鬆(そしょう)症の原因解明に繋がることが期待できる。  この成果は、英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」で9月21日に公開された。

研究成果

 骨量減少の原因解明は、老人性骨粗鬆症の予防や長期の有人宇宙探査における重要な課題である。その解明のためには、培養細胞のみならず生物個体での観察・解析が重要であり、世界的にも注目されている研究領域である。
 東工大の工藤教授らは、東京医科歯科大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等との共同研究で、宇宙で飼育したメダカの骨組織を蛍光解析と組織解析した結果、2ヵ月間の無重力環境の影響として咽頭歯骨(注2)の骨量減少が明らかになった。その原因として、破骨細胞の活性化、特に多核化が進んでいることが分かった。また、ミトコンドリアの形態異常が観察され、ミトコンドリアに関連する2つの遺伝子「fkbp5」と「ddit4」の特異的な発現上昇を明らかにした(図1参照)。「fkbp5」と「ddit4」はストレスに応答するグルココルチコイドの受容体(GR)の下流で発現する遺伝子で、GRはミトコンドリアで作用することが知られる。今回の破骨細胞のミトコンドリアの変形と、これら遺伝子発現上昇の相関関係については今後の更なる解析が必要であるが、無重力環境におけるミトコンドリア関連遺伝子の発現が破骨細胞の活性化を引き起こし、骨量減少に繋がったことが示唆される。
 個体レベルで解析できる生物を用い、宇宙の無重力環境下での破骨細胞活性化、それに伴う骨量減少メカニズムの一端を定量的に示した世界で初めての成果である。

軌道上実験

 国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟に搭載された、JAXAが開発した水棲生物実験装置を用いて、無重力下における骨量減少メカニズムの解明を目的に、2012年10月から12月の2ヵ月間にわたりメダカを長期飼育した。「きぼう」では星出宇宙飛行士とケビン・フォード宇宙飛行士が実験装置の設置や実験作業を行った。スペースシャトルでは2週間の魚類飼育が最長であったが、水棲生物実験装置では、給餌、飼育水の浄化と温度・流量・酸素などの環境維持、ビデオ観察などが自動化され、国際宇宙ステーションでの長期間の小型魚類飼育が初めて可能となった。
 用いたメダカは、骨を造る造骨細胞と骨を吸収する破骨細胞の様子が蛍光で観察できるトランスジェニックメダカ(注3図2、3参照)である。メダカは無重力特有の回転遊泳行動が観察されたが、水棲生物実験装置での生育には影響がなかった。

実験試料(メダカ)

 骨量減少の原因解明のための研究には、ヒトやマウスなどの哺乳類と異なり、体が透明で生きたまま体外から骨の様子を観察しやすく、また細胞の動態を蛍光で観察できるトランスジェニックメダカが有効である。工藤教授らの研究室では造骨細胞と破骨細胞の様子を同時に生きたまま観察できるダブルトランスジェニックメダカを確立し、今回の実験に用いている。
 宇宙空間での動物飼育実験は難しいとされる中、小型魚類であるメダカは16匹全てが健全に維持され、交尾行動も認められたことから、メダカが宇宙環境への適応に優れたモデル脊椎動物であることが実証された。

今後の展開

 今回論文で発表した長期飼育実験の後、2014年2月に無重力への骨代謝の初期応答を調べる実験を「きぼう」で行っている。これは、今回同様のダブルトランスジェニックメダカを用い、メダカが生きたままの状態で1週間連続で蛍光顕微鏡観察する実験であり、無重力下での造骨細胞、破骨細胞の動態をリアルタイムで観察したものである。その結果は現在論文として準備中である。
 「きぼう」の水棲生物実験装置では、メダカ以外にもゼブラフィッシュを用いた筋萎縮の実験も行われており、宇宙での筋・骨量の減少等に関する研究を通して、地上での健康維持や高齢化社会への対応等への貢献が期待されている。

[用語説明]

(注 1)破骨細胞の多核化:破骨細胞は細胞融合によって単核の細胞が多核の細胞に分化する。この多核化によってより広い面積で、より深部までの骨吸収が可能になるため、多核化は活性化の1指標となる。

(注 2)咽頭歯骨:メダカののどの奥に500本以上ある咽頭歯を支える骨。歯の再生に伴ってこの骨が再生され、古い骨の上に破骨細胞が存在し、骨吸収を行っている(図3参照)。

(注 3)トランスジェニックメダカ:細胞特異的に発現するメダカの遺伝子に蛍光タンパク質を発現する遺伝子を繋げ、このコンストラクト(構築されたプラスミド)をメダカ卵に注入して遺伝子組み換えメダカを作成する。

[論文情報]

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル: Microgravity promotes osteoclast activity in medaka fish reared at the international space station.
著者: Chatani, M., Mantoku, A., Takeyama, K., Abduweli,D., Sugamori, Y., Aoki, K., Ohya, K., Suzuki, H., Uchida, S., Sakimura, T., Kono, Y., Tanigaki, F., Shirakawa, M., Takano, Y. and Kudo, A.
論文のWebサイト; http://www.nature.com/articles/srep14172
DOI: 10.1038/srep14172

(関連リンク)



図1

今回の論文で示された内容

宇宙で活性化した破骨細胞の特徴

1. 多核化の亢進
2. 細胞体積の増加
3. ミトコンドリアの真円率低下

骨組織における宇宙での遺伝子発現変化

4. ミトコンドリア関連遺伝子の発現上昇

微小重力環境

  • fkbp5とddit4はGR(グルココルチコイド受容体)の下流で発現する遺伝子として知られる。
    GRはミトコンドリアや核で作用すると考えられている。

遺伝子の発現変化が破骨細胞活性化の原因か

図2

国際宇宙ステーションで飼育したダブルトランスジェニックメダカ

図3

骨形成と骨吸収が盛んな咽頭歯骨

歯を支える咽頭歯骨に多くの破骨細胞と造骨(骨芽)細胞が局在している

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