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優れた技術を持つ日本だからこそ! 宇宙ステーション補給機「こうのとり」フライトディレクタ 麻生大

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優れた技術を持つ日本だからこそ! 宇宙ステーション補給機「こうのとり」フライトディレクタ 麻生大

信頼を高めた「こうのとり」5号機

— 「こうのとり」5号機の運用で印象に残っていることは何でしょうか?

ISSに接近する「こうのとり」5号機(提供:JAXA/NASA)ISSに接近する「こうのとり」5号機(提供:JAXA/NASA)

ISSのロボットアームで把持された「こうのとり」5号機(提供:JAXA/NASA)ISSのロボットアームで把持された「こうのとり」5号機(提供:JAXA/NASA)

 3つあります。1つ目は、「こうのとり」の地球周回軌道への投入に成功した時のことです。2015年8月19日の打ち上げの日、私はフライトディレクタとして筑波宇宙センターの運用管制室にいました。H-IIBロケットから分離され軌道へ投入された「こうのとり」の姿勢を確立し、点検する。そこまでが私の担当でした。実は、この時私は冷静を装っていましたが、とても緊張していました。およそ4ヵ月前にロシアのプログレス補給船が同じフェーズで失敗していたからです。コントロール不能となりグルグル回転するプログレスのその時の映像が頭に浮かび、絶対に失敗しないと思いつつも、心臓がドキドキしていました。

 2つ目は、油井宇宙飛行士が「こうのとり」をロボットアームでキャプチャー(把持)した時の映像です。「こうのとり」をISSの下方10mの位置に到着させるまでは私たちの役目ですが、それ以降は軌道上のクルーによりキャプチャーの作業が行われます。私はモニター越しに、ロボットアームが少しずつ「こうのとり」に近づくのをじっと見守っていました。リアルタイムでキャプチャーのようすを見られたのは6年ぶりのことです。2号機から4号機まではISSの位置の関係で映像を地上に伝送できなかったため、リアルタイムで見ることができなかったのです。成功の瞬間を見られてとても感動しました。

 3つ目は、ISSからの離脱が遅れたことです。ロボットアームの不具合で「こうのとり」がISSからうまく離れなかったため、地球1周回遅れで離脱をやり直すことになったのです。地球を1周する90分の間に、コンピュータの設定を変更するなどやるべきことがたくさんありましたが、トラブルを想定した訓練を何度も行っていましたので冷静に対応できました。実は、この1周遅れも6年ぶりだったのです。1号機の時に宇宙デブリを回避するために1周遅れを経験していました。でもその頃とはチームの熟練度が違います。私は2009年の1号機打ち上げから「こうのとり」の運用管制に携わっていますが、改めてチームの成長を感じました。

— 1号機の頃と比べて、NASAからの評価が変わってきたと感じますか?

種子島空港に到着したNASAの緊急物資種子島空港に到着したNASAの緊急物資

 「こうのとり」への信頼度が上がり、代わりがきかない大事な荷物を積んでほしいとNASAから頼まれることが多くなりました。「こうのとり」で運ぶのは、食料や水、衣料など宇宙飛行士の活動に必要なものや、実験装置などです。荷物を搭載した後にさまざまな試験や組み立て作業を行う関係で、通常、打ち上げの約4ヵ月前に荷物を搭載します。私はカーゴインテグレーションも担当しており、重量バランスを計算しながら荷物の配置や積み込む順番を決めます。重心の位置や打ち上げ方向などを考慮して決めるため、打ち上げ直前に荷物の内容が変わると計算し直さなければなりません。できるかぎり積み直しは避けたいです。

 ところが、5号機の打ち上げ前にアメリカとロシアの補給船が相次いで失敗し、予定されていた物資がISSに届いていないという事態が生じていました。そこで、宇宙飛行士たちが排出する尿を浄化する水再生装置に使うフィルターなどを搭載してほしいとNASAから緊急で頼まれたのです。「こうのとり」には、打ち上げ80時間前まで積み込みに対応する速達サービス(レイトアクセス)があり、生命科学実験に使う生体試料や生鮮食料品など新鮮な状態でISSに輸送する必要があるものなどをそのサービスで対応します。レイトアクセスで対応可能な荷物の量は、「こうのとり」が世界の補給船の中で最大です。とはいえ、新たな荷物のためのスペースは残されていませんでした。ISSではフィルターの在庫が尽きていたため、何としてでも届けたいけれども、もともと積んである荷物も予定通りISSに届けたい。その強い思いで、連日議論を続けた結果、普段は荷台には使用していない実験装置の前のスペースを利用すれば何とかいけることが分かりました。比較的軽い荷物をその場所に移動することで、緊急物資の場所を確保したのです。打ち上げ直前に荷物の積み方を変えるのは大変なことでしたが、NASAの期待に応えられたことで、日本の信頼度がさらに高まったと感じました。

信頼獲得のカギは安全性と時間の正確さ

— 信頼を得るために特に心がけてきたことはありますか?

「こうのとり」5号機(提供:JAXA/NASA)「こうのとり」5号機(提供:JAXA/NASA)

 信頼を得るのにいちばん大事なのは、第一に安全性で、次が時間の正確さです。ISSにいるクルーを危険な目にあわせないよう、「こうのとり」を安全にISSにドッキングさせることが何より大事です。今ではほとんどの補給船もISSにランデブーし、ロボットアームを使ってドッキングさせる方法をとっていますが、それを初めて行ったのは「こうのとり」でした。誰も試したことがない方法を世界で最初にとる。しかも、これまで有人宇宙船への無人補給機ランデブーの実績が全くない日本が行うというのですから、当然、NASAの安全担当者は当初、私たちの技術を信用してくれませんでした。そこで私たちは、あらゆるトラブルのケースや誤差を考えて8000通りもの軌道を計算し、どんな場合でもISSには一切危害を与えないということをコンピュータシミュレーションで示したのです。NASAはそれを見て納得はしてくれたものの、まだ不十分なので実績でも示すよう言いました。そのため「こうのとり」1号機の時は、シミュレーション通りに飛行しているか常にデータを取り、事前の解析通り安全に飛行していることをNASAに示しました。それほど、安全は重要なのです。

 また、予定通りに荷物を届けることも信頼性を向上させます。そのために重要なのは、ロケットチームも含めて、製造中に不具合を出さないことです。「こうのとり」は9号機までの打ち上げが予定されており、シリーズで作っているのも強みです。昨年は5号機を打ち上げましたが、次の6号機も並行して製造していましたので、万が一、5号機の部品に不具合が生じても、6号機用の部品ですぐ差し替えることができるというわけです。このように計画的に進めることで、配達スケジュールを守ってきました。「こうのとり」は、時間通り確実に荷物を運ぶ補給船として頼りにされています。

— 4号機から5号機の打ち上げまでに2年ほど間が空きましたが、チームの士気を維持するのは大変ではありませんでしたか?

「こうのとり」運用管制チーム「こうのとり」運用管制チーム

 そうですね。正直に言って、チームのモチベーションを維持するのは簡単なことではありません。けれども私たちは、この2年間を若返りのチャンスと捉えたのです。「こうのとり」の運用管制チームは約80人いますが、チームの4分の1を新人に変えました。打ち上げまでに2年間あったため、いつもより多く訓練を行うこともできました。誰もが、想定外のことに耐えられる技能をつけたうえで本番に臨むことができたと思います。日本の技術力を維持するためにも、技能の継承はとても大事なことだと思います。思い切ってチームの若返りをしてよかったと感じています。

「こうのとり」をさらに発展させて

— 「こうのとり」で獲得した技術を今後どう発展させていくのでしょうか?

HTV-Xのイメージ図HTV-Xのイメージ図

 3本柱で発展させていこうと考えています。まずは、ISSに物資を運ぶ技術をさらに磨くことです。ISSの運用は2024年まで行われますが、今後「こうのとり」は毎年1機打ち上げられ、9号機まで計画されています。ISSに予定通り確実に、安全に荷物を届けるという技術を伸ばしていきたいと思います。2つ目は、軌道上で実験する機会を提供することです。5号機には宇宙環境観測装置「KASPER」を搭載し、宇宙空間における帯電や、宇宙デブリを計測する技術を実証しました。また、デブリにワイヤを接続し、電気を流してデブリの高度を下げ、大気圏に再突入させて燃やすという構想があるのですが、その技術実証試験は6号機で行われる予定です。「こうのとり」の1つのミッションは40~60日間ありますので、実験装置を搭載しておけば、その期間は実験や観測ができます。荷物を運ぶだけでなく、新しい利用機会をもっと提供したいと思います。そして3つ目は、新型「こうのとり」の開発です。これまで培ってきた技術を発展させて、新しい宇宙機を作ります。現在JAXAでは、実験の試料を地球に持ち帰ることができる小型回収カプセルと、将来の月・火星探査にも応用できる「HTV-X」の研究が行われています。

— 「HTV-X」とはどのようは宇宙船でしょうか?

 HTV-Xは「こうのとり」の物資補給技術を維持・向上し、利便性を高めることを目標とした宇宙機です。実験ラックや飲料水などISSへの船内補給品を搭載する「こうのとり」の与圧部をほぼそのまま使いますが、棚の構造を見直して、従来よりも3割、積載量を増やしたいと考えています。同じく、船外用の実験装置を搭載する部分も、より大きな荷物を積めるようにします。「こうのとり」の与圧部を流用しますが、それ以外の部分は目的ごとに交換し、ISSからの荷物回収から将来の月探査までさまざまなミッションに応用できるというのが大きな特徴です。HTV-Xの検討は昨年から始まり、2021年に技術実証機を打ち上げることを目指しています。

国際宇宙探査には日本の技術で貢献を

— 日本の強みは何だと思いますか?

 やはり、日本人はチームプレーが得意ではないでしょうか。カリスマ的にチームを引っ張るリーダがいるというよりは、それぞれが自分の役割を理解し、チームのために何ができるかを一生懸命考えています。そして、そのチームを支えているのが、日本の高い技術力です。どれだけチームワークがよくても、「こうのとり」が設計通りに動かなければミッションを達成することはできません。これまで「きぼう」にしても「こうのとり」にしても大きな不具合がないのは、私たちが世界トップレベルの有人宇宙技術を持っているからだと思っています。

— 有人宇宙活動において、日本が今後果たすべき役割は何だと思いますか?

麻生大

 日本が強い分野をより伸ばすべきだと思います。例えば、ロボティクスです。有人宇宙活動を支援するロボットがあれば、人間はもっと安全にいろいろなことができると思います。将来、火星に人が行くとしても、先に火星に送り込まれたロボットが基地を作っておけば、人が基地を作るよりも安全です。基地の健全性が確認できてから初めて人を派遣すればよいのです。そういう意味では、無人で物資を輸送する「こうのとり」も、ロボットといえるかもしれません。そのような得意分野をどんどん伸ばし、優れた技術で国際宇宙探査に貢献していくことが、日本の重要な役割だと思います。

— 今後の目標をお聞かせください。

 私は現役のフライトディレクタの中で最年長なので、人を育てることが自分の使命だと思っています。将来の月や火星の有人探査に向けて、幅広い知識を持った運用管制官を育てたいです。個人的に考えているのは、「こうのとり」と「きぼう」の運用管制チームを統合することです。現在この2つは別々に作業をしています。私は「きぼう」の運用管制も担当していますので分かるのですが、「きぼう」チームは、人が住む施設を運用することには非常に長けていますが、宇宙船を飛ばすことについては弱いです。一方、「こうのとり」チームはその逆です。けれども、人が月や火星に行く場合、そこに到達する技術と、そこで住む技術が必要なので、「こうのとり」と「きぼう」両方の知識を兼ねそろえた人材が必要だと思うんです。運用管制官としての自分の技能を高めつつ、いろいろなミッションに対応できる人材を育てていきたいと思います。

麻生大(あそうだい)

麻生大

JAXA有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター技術領域リーダー HTVフライトディレクタ

人工衛星の追跡管制、管制設備の開発、ISS生命科学実験施設の開発(生命科学グローブボックス担当)を経て、現職。現在は、「きぼう」ならびに「こうのとり」の運用管制、「こうのとり」のカーゴ搭載を担当。

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[ 2016年2月25日 ]

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