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「きぼう」の飛躍的な利用拡大に向けて きぼう利用センター きぼう利用プロモーション室長 坂下哲也

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「きぼう」の飛躍的な利用拡大に向けて きぼう利用センター きぼう利用プロモーション室長 坂下哲也

Nextフェーズの3つの方向性

— 「きぼう」での実験や研究が「Nextフェーズ」へ移ろうとしているそうですが、どう変わるのでしょうか?

「きぼう」船内実験室(提供:JAXA/NASA)「きぼう」船内実験室(提供:JAXA/NASA)

 日本が開発した初めての有人宇宙施設の「きぼう」が2009年7月に完成して以来、私たちは宇宙の微小重力環境でさまざまな実験を行ってきました。運用も利用も最初は手探り状態でしたが、経験を積み重ねることによって、宇宙環境ならではの強みを活かして有望な成果を出せる分野や領域はどこか、宇宙実験をどのように行うと簡単かつ着実に成果を上げられるのかといったノウハウが身についてきました。そこで、蓄積された経験をもとに成果を最大化するフェーズに移そうと考えています。今後「きぼう」では、社会に大きな成果が期待できる実験に集中的に取り組んでいきたいと思います。

 現在、力を入れているのは次の3つの方向です。1つ目は、国の科学技術戦略への貢献。ゲノム医療や再生医療、省エネルギーなど、国が戦略的に取り組んでいる研究課題の解決に向けて「きぼう」を役立てようと計画しています。2つ目は、民間企業が抱える研究課題への貢献です。企業が行う創薬研究や新素材の開発などに役立て、産業競争力の強化に結びつけます。3つ目は、将来の宇宙探査に向けた日本独自のコアとなる技術の開発です。現在、月や火星の宇宙探査に向けた国際協力の話し合いが進んでいますが、その中で、日本がより多くの役割を果たせるような技術を獲得するために、「きぼう」を技術実証のプラットフォームとして活用していきたいと思います。

 そのために、提供できる実験機会自体を増やす量的拡大、より難易度の高い実験を行う質的な拡大、そして新しい発想によるこれまでにない研究分野を取り込む多様性の向上に取り組んでいます。

— 実験の内容はどのように決められるのでしょうか?

 実験成果の出口、つまりどのような問題の解決につながるとか、どのような技術や製品の開発・性能向上に貢献する、といった具体的なイメージを描くことができる実験を行っていきたいと思っています。

 そのために、昨年行った宇宙実験候補の公募では、国の技術研究開発戦略に沿った研究を募集する枠として、「ヒトの疾患に関連するエピゲノム研究」と「臓器立体培養等の再生医療に関する研究」の2つの分野を設定しています。同時に行った、これらの分野に限らない自由な発想に基づく研究の募集についても、選定にあたっては、これまで以上に出口の具体性に着目しました。いずれのケースでも、具体的な宇宙実験の準備に移る前に、地上での予備実験や実験結果の分析の費用として一定の競争的資金を獲得していただくことにしています。そのプロセスで、JAXA以外の視点からも研究の意義や出口について評価いただけるものと思っています。

 一方で、主に企業による利用を想定した有償での利用制度があります。これは、実験にかかる実費をお支払いいただき、知財を含む成果を占有することができるというものです。利用者様の側で応分の費用を負担するという判断がなされた時点で、実験成果の出口とその見返りについての評価をいただいていると考えています。そういう意味で、「きぼう」で有償の実験を申し込まれる方は、しっかりした出口のイメージをお持ちなのです。私の役目の1つは、このような企業の方たちの利用を増やすことです。企業の方に「きぼう」の利用についてお知らせするにあたっては、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)とも連携し、JSTが行う企業向けイベントなどでも「きぼう」のことを紹介しています。実験に関心を持ってくださった方のご要望が叶うよう精一杯努力したいと思っています。

できるだけ簡単に短時間で

— 宇宙で成果が出やすいのはどのような実験ですか?

宇宙で生成されたタンパク質の結晶宇宙で生成されたタンパク質の結晶

 一概にこれとは言いにくいですが、例えば、タンパク質の結晶生成実験の成果から、癌などの創薬への期待が高まっています。簡単に説明すると、病気は身体の中である特定のタンパク質が働くことで引き起こされます。タンパク質の詳しい構造を分析できれば、タンパク質のどの部分が、病気の原因となる働きに関係しているのか分かります。その部分の働きを妨げる化合物を見つけることができれば、つまり薬の創成に結びつきます。そのために必要なのが、病気を引き起こすタンパク質の高品質の結晶なのです。ところが、地上では重力の影響で対流などが起きるため、きれいな結晶を作ることが困難です。その点、宇宙では重力の影響がないため、品質の良い結晶ができるというわけです。

 これまで、宇宙での結晶化に向けて、いろいろな種類のタンパク質の結晶化に取り組んできました。その経験から、宇宙での結晶化には、打ち上げ前にタンパク質の純度を高めたり、結晶しやすい条件を設定したりといった準備を整えることが重要だと分かってきました。そうすることで、これまで結晶化がうまくできていなかったものでも、結晶ができる場合があるということが分かりました。さらに今後は、これまでの経験を活かして、低温での結晶化や、結晶化が特に難しいとされる膜タンパク質の結晶生成にも挑戦しようと技術開発に着手しました。膜タンパク質は主に細胞膜上に存在するタンパク質で、生物の活動に非常に密接に関係しています。このように結晶化の技術を進歩させるという点でも、「きぼう」の実験は次の段階に入ったといえます。

 また、タンパク質結晶生成実験は、私たちが目指す定型的サービスの先駆けとなりました。タンパク質の試料をユーザーからおあずかりして、宇宙で結晶化するのに適した条件を検討した後、ISSへ持ち込む。実験後は、試料を地上に持ち帰り、X線による構造解析データを付けてユーザーにお返しする。という、一連の流れがパッケージ化されています。

 関連リンク:高品質タンパク質結晶生成実験

— 定型的サービスは、実験までの期間が短いのでしょうか?

 タンパク質結晶生成実験の場合、試料のおあずかりから返却まで10ヵ月ほどです。さらに短縮したいとは思っていますが、これでもカスタムメイドの実験に比べたら格段に早いです。ある実験のアイデアに対して、そのための新しい実験方法を考え、装置も新しく作るとなると数年かかってしまうのです。けれども、実験の発案から実施までに何年も待たされるとなると、尻込みしてしまう企業もあるでしょう。そうならないためにも、できるだけ手順を簡単にして、短時間でできるよう工夫したのが定型的サービスです。また、タンパク質結晶成長実験の有償利用は1試料170万円で、この価格はユーザーの方から評価いただいています。「きぼう」をもっと利用していただくためには、コスト面でも満足していただけるようにしなければならないと考えています。

アイデア段階からユーザーとともに

— ほかにも定型的サービスはありますか?

「きぼう」から放出される超小型衛星(提供:JAXA/NASA)「きぼう」から放出される超小型衛星(提供:JAXA/NASA)

「きぼう」に設置されたExHAM(提供:JAXA/NASA)「きぼう」に設置されたExHAM(提供:JAXA/NASA)

 超小型衛星を「きぼう」のエアロックから放出する機会を提供しています。そのほか、昨年から、船外簡易取付機構(ExHAM)による実験が始まりました。この実験では、ユーザーからおあずかりした材料をExHAMに搭載して「きぼう」の船外に取り付け、宇宙空間に1~2年間さらします。人工衛星の断熱材など宇宙用材料の耐久性を評価するものから、宇宙塵を捕獲して有機物や微生物が宇宙空間を移動していないか観測するようなものまで、実験のテーマはさまざまです。これまで船外で行う実験は、宇宙飛行士が船外活動をして装置を取り付け、回収する必要がありましたが、ExHAMを使えばその必要はありません。「きぼう」のエアロックとロボットアームを使って取り付け、回収ができるのです。回収したサンプルは、地上に持ち帰り、ユーザーのお手元にお返しします。また、今年からは静電浮遊炉による高融点材料の超高温での物性計測サービスも始まります。今後さらにこのような定型的サービスを増やし、「きぼう」を利用しやすくしたいと考えています。

— ユーザーは実験のアイデア段階からJAXAに相談できるのですか?

 もちろんです。こんなことを「きぼう」でできないかなあと思ったら、JAXAにぜひご連絡ください。アイデアが生まれてきた段階からお話をうかがい、それを宇宙で行う必然性があるかどうか、宇宙で成果を出せそうかどうかを議論します。宇宙は制約が多く手間もかかりますので、地上でできることをわざわざ宇宙でするのではなく、宇宙でしかできないこと、宇宙だからこそ容易にできることを行うべきだと思うからです。そして次に、ユーザーの方と一緒に実験の方法を検討します。例えば、何万気圧の圧力を試料に加えてほしいと言われても宇宙では難しいため、現実的な方法を考えます。装置が必要ならばその開発もお手伝いします。ただし、大規模な装置になると、開発期間が年単位、費用も億単位になりますので、できるだけそうならないよう工夫し、アイデアをこちらからも提案します。そこまで話が進めば実現性が見えてきますので、正式な契約をユーザーと結びます。そしてその後JAXA側で、ご要望に応じて装置の開発、搭乗員の作業手順の作成、打ち上げと回収のスケジュール調整を行ったうえで、宇宙での実験が可能になります。

— 海外からの「きぼう」の有償利用も受け付けているのでしょうか?

 「きぼう」は日本の税金で維持していますので、現段階では国内の産業力強化のために利用していただくことを第一に考えています。そのようなことから、有償利用については国内の企業に限って受け付けています。ただ、海外の企業が国内企業と一緒に利用するような場合には門戸を開いています。また、国際協力という観点でいえば、昨年、国連と協定を結び、発展途上国が開発した超小型衛星を「きぼう」から無償で放出する取り組みを始めています。日本はアジアで唯一ISSに参加している国ですから、今後はより積極的にアジアの方々とISSを結びつける役割を果たしていきたいと思います。

「きぼう」を身近に感じてもらうことが大事

— 「きぼう」の利用を拡大するうえでの課題は何でしょうか?

超小型衛星を「きぼう」の船外に出すロボットアーム(提供:JAXA/NASA)超小型衛星を「きぼう」の船外に出すロボットアーム(提供:JAXA/NASA)

 例えば、「きぼう」の強みの1つは実験の試料を宇宙空間に直にさらして実験できること。しかも、エアロックとロボットアームを使ってそれを出し入れできること。これは「きぼう」でしかできない強みです。けれども、それをどれだけの日本人がご存知でしょうか? 「きぼう」は日本の財産ですから、「きぼう」で何ができるかを知っていただき、できるだけ多くの方に使っていただきたいです。そのためにも、「きぼう」のことをもっと積極的に紹介していきたいと思います。

 また、JAXAはスペースシャトルの時代から宇宙実験を行っていますが、長くやってきたせいで逆に発想の幅を限定してしまうようになっているような気がします。これまで「きぼう」ではさまざまな実験が行われ、その事例は1冊の本にまとまるほどたくさんあります。しかし、このほかに、誰も思いつかないような斬新なアイデアがあるはずなのです。

 例えば、酒造メーカのサントリーさんがお酒をISSに持ち込み、お酒がまろやかになるメカニズムを解明する実験を現在行っています。この実験などは、私たちが想像もできなかった「きぼう」の使い方のいい例です。宇宙はこんなことをするものだ、といった固定概念から抜け出さなければならないと感じています。

— 「きぼう」を有償利用する際の条件はあるのでしょうか?

 新しい発想でいろいろな使い方をしていただき、幅広い成果を出してほしいと思っています。「きぼう」を利用する目的は技術的なことだけでなく、教育や企業の社会貢献活動など用途はさまざまです。ただ、「きぼう」は宇宙の実験室ですから、できるだけ実験室の本来の目的である研究開発のために利用してほしい。しかも、大きな課題解決のために使ってほしいと思います。JAXAとしてそのような意志を持ち、「きぼう」の利用拡大に向けた取り組みを進めていくつもりです。

— 今後の展望をお聞かせください。

坂下哲也

 国の戦略的な技術課題への貢献、企業の競争力強化、将来の宇宙技術の獲得。最初に申し上げた、この3つの方向性はどれも同じくらい重要だと思っています。中でも、将来の技術の獲得については、その意義について、繰り返し議論が行われています。けれども、この先、世界の国々が協力して新しい有人宇宙探査を行うときに、日本がそれに参加できるだけの技術を持っている状況にしておくことは、国際社会での存在感を維持するためにも価値あることだと思います。そして、その状況を作ることこそが、JAXAの任務だと思うのです。

 一方で、「きぼう」の価値を目に見える形で国民の方に理解していただくためには、「きぼう」をもっと利用し、国や企業の研究課題に貢献するような成果を見せなければなりません。実験室はすでに宇宙にあるのに、それをどう活かすかという発想が十分にないのが今の課題です。発想次第で「きぼう」がもっと多くの方に役立つと思うのです。みなさんにも、移動の電車の中などで「重力がなくなったらどうなるのだろう」と考えていただけると嬉しいですね。普段の生活ではなかなか感じない重力を、改めて意識していただくことで、何か新しい“ひらめき”が生まれるかもしれません。「きぼう」のNextフェーズでは、そのひらめきを存分に活かせるような環境を作っていきたいです。

 関連リンク:「きぼう」を使ってみませんか

坂下哲也(さかしたてつや)

坂下哲也

JAXA有人宇宙技術部門 きぼう利用センター技術領域リーダー 「きぼう」利用プロモーション室長

1990年 東北大学大学院工学研究科(修士)修了。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)入社。国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟開発、ISS生命科学実験施設の開発(生命科学実験棟担当)、宇宙ステーション輸送機「こうのとり」開発に従事。その後、広報部を経て2014年より現職。

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[ 2016年2月25日 ]

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