こうのとり2号機/H-IIBロケット2号機特設サイト

プロジェクトコラム:H-IIB

H-IIBロケットの設計・開発から打ち上げまで、様々な立場でH-IIBロケットに携わるスタッフのコラムをお届けします。

樋口 清司 / 副理事長
組織の経営から見た「2号機」の難しさや悩ましさを紹介しましょう。H-IIBロケットも宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)も極めて挑戦的なプロジェクトです。技術もスケジュールも資金もかなり背伸びをしたものです。リスクを見極め打つべき手をタイムリーに打つことが求められます。そんな中でH-IIBロケット試験機やHTV技術実証機(こうのとり1号機)は見事に成功しました。NASAをはじめ国際宇宙ステーション(ISS)の国際パートナーの信頼と期待はますます高まっており、身内も含めて周りは「2号機も大丈夫だ」という空気になります。また「2号機なのだから効率化しろ」という圧力もかかります。でもこれが怖いのです。H-IIBロケットもHTVも、よく見ると大変難しい技術が使われており運用も高度な能力が必要です。1回ぐらいの成功では、もう技術は確立した大丈夫だという気分にはとてもなれません。担当者の気の緩みや疲労度なども心配です。もちろん担当者を疑っているわけではありません。また、根性で難関を突破できるはずだという精神論に頼るわけにもいきませんので、できるだけ冷静に客観的に、2号機も成功させるためには何を為さねばならないか、打つべき手は打ってあるのか、ずっと考えてきました。あれは大丈夫か、これは大丈夫か、とむやみに問いかけて現場に余計な作業をやらせて混乱させるのもよくありません。
ある時ふと思ったのは、私どもがそんな風に考えているのだということを現場の担当者に直接、素直に伝えるのがいいのではないかと思いました。そしてH-IIBロケット2号機の極低温点検(F-0)時とHTVの運用訓練時に、打ち上げ運用隊の人たちに直接想いを伝えました。想いを伝えることによって少しだけ気が楽になりました。打ち上げは見事に成功し「こうのとり」2号機(HTV2)のISSでの運用も順調です。でも「こうのとり」2号機が任務を果たし南太平洋に無事落下するまで気は緩められません。
成功裏にすべてが完結したときに、祝杯をあげ、安堵感を楽しみたいと思います。その時まで緊張感を持って過ごすことになります。
引き続き、みなさんのご支援と叱咤をお願いします。
(写真中央:樋口 清司)
(写真左:三菱重工業株式会社 前村技師長、写真右:遠藤 打上げ実施責任者)

[2011年2月28日 更新]

中村 富久 / 担当:H-IIBプロジェクトマネージャ(打上執行主任)
H-IIBロケットは、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の打ち上げ等に対応するため、H-IIAロケットで培った技術を最大限活用して開発された我が国最大のロケットです。2009年9月に、HTVの技術実証機である「こうのとり1号機」を搭載した初号機(試験機)が打ち上げられました。この試験機は、我が国の主力ロケットの初号機として初めて予定した日時に打ち上げられ、軌道投入精度も良好で、要求以上の打ち上げ能力を有することを実証して、我が国のロケット技術の成熟を国内外に示しました。今回打ち上げる2号機については、「こうのとり2号機」を収納する衛星フェアリングの改良(分離機構の強度向上)等更なる信頼性向上を図りました。
H-IIBロケットは、我が国の主力ロケットとしては、N-I ロケットから数えて6代目にあたり、通算すると今回が51回目の打ち上げに、また、H-IIA/Bロケットとしては20回目という節目の打ち上げになります。打ち上げまで2ヶ月を切りましたが、打ち上げ成功に向けて、関係者一同、気を引き締めて、一丸となって着実に作業を遂行する所存です。試験機と同様に皆様の変わらぬご支援よろしくお願いいたします。

[2010年12月1日 更新]

村井 正 / 人事部 健康増進室長(医師)
私は、国際宇宙ステーション長期滞在時の人体への影響などの宇宙医学の研究に携わり、現在は宇宙飛行士やJAXA職員の健康管理、メンタルヘルスを担当しております。
H-IIBロケットの打ち上げに際しては燃料充填作業のため、打ち上げの約10時間前からロケットの周囲3kmが原則立入禁止となりますが、カウントダウンに関係する作業者約150名は、地下12mのところにあるブロックハウスと呼ばれる管制室に閉じこもって最後の準備作業を行います。この状況下で作業者に急病人が出た時にどうするか、例えば打ち上げ作業を停止して救急車を要請するかどうかの判断を行うために、人事部健康増進室の医師がブロックハウス内に残留することにしています。また急病人発生のリスクを少なくするために、打ち上げ日の数日前からブロックハウス残留予定者の健康診断を行って、体調の悪い作業者は残留しないよう調整します。
ブラックジャックのような“もぐり”の医師ではなく、皆さんが万全の状態で打ち上げに臨めるよう、ブロックハウスに一緒に“もぐって”その活躍を見守る役目を担ってます。

南極越冬隊≒宇宙?(村井 正インタビュー記事)

[2011年2月17日 更新]

東 伸幸 / 
宇宙輸送ミッション本部 宇宙輸送系推進技術開発センター 開発員(打ち上げ隊:ロケット班 推進系担当)
入社7年目になります。最初の3年間は種子島宇宙センターに勤務し地上設備推進系担当/第2段機体推進系担当/打ち上げ発射指揮者を経験し、現在は筑波宇宙センターで主に「姿勢制御装置」を担当しています。
姿勢制御装置は第2段機体に搭載されていて外から見えないのでイメージがつきにくいと思いますが、その役割は非常に重要です。
例えば飛行機では、補助翼・水平尾翼・垂直尾翼がそれにあたります。翼により空気の力を利用して姿勢を制御しており、これが無ければきちんと飛行できません。ロケットの場合、空気がない宇宙空間を飛行するため、翼のかわりにスラスタと呼ばれる小さなエンジンを吹くことで目標の姿勢に制御しています。H-IIBロケットの場合、姿勢制御用スラスタを6機搭載していますが、一つのスラスタは手のひらに乗るくらいのサイズで推力は約5キロほどです。第2段機体のLE-5Bエンジンの推力は約14トン(約14,000キロ)ですから、どれほど繊細な制御をしているか想像がつくかと思います。

ロケットには姿勢制御装置のほかにも、宇宙を飛行するために特有の装置がたくさん搭載されており、H-IIBロケットはなんと約125万点あまりの部品で構成されています。自動車は10万点程度ですので、極めて複雑なシステムです。しかも、故障してから交換するという方法がとれないため、種子島宇宙センターで行う最終機能点検は極めて重要です。どんな小さな異常の兆候も見逃さないよう、作業者やエンジニアは慎重に組立・点検作業を行っています。少しでもデータに異常が見られるときには、徹底的に原因を追及して故障につながる種を潰しています。射場でのスケジュールは非常にタイトなので徹夜になることもしばしばありますが、打ち上げ成功に向けて一丸となってがんばっております。
H-IIBロケット 2号機も数々の苦労がありましたが、打ち上げは大成功でしたので喜びもひとしおです。これからも連続成功に向けて着実に努力していきますので応援よろしくお願いします。

[2011年2月4日 更新]

三宅 麻美 / 広報部 企画・普及グループ(打ち上げ隊:打ち上げ英語実況担当)
私のつたない英語で良いの?…と戸惑いつつ、約15年、打ち上げ実況英語放送を担当してまいりました。
実況は、原則打ち上げ時刻15分前より、種子島宇宙センターの竹崎指令管制棟管制室から生放送で行います。打ち上げ実施責任者卓の並びの末端に付け足した机から放送していますが、室内は緊迫感みなぎる状況です。
「日本語に続いて原稿を読んでいるだけ」…とはいえ、何が起きるかわからないのがロケットの打ち上げ!予定通りに行かないこともあり、毎回とても緊張します。
もちろん日本語放送がメインですが、私も微力ながら協力して、ロケット準備〜飛行状況を随時イヤフォンで聞き、モニター表示に気を配り進捗を確認しながら放送するように心がけています。原稿に頼って、うっかり未確認情報を言えば大変なことになりますから…。解説トークはJAXA放送にお任せして、実況では生情報のみをタイムリーに淡々と伝えていきます。
打ち上げの瞬間は毎回感動しますが、見ている余裕がないのが残念です。
最初に英語放送を依頼された頃はネット時代以前で、「内部関係者(一部海外エンジニア)のみに向けた放送」という事だったはず…でしたが、知らぬ間に世界デビュー(?)し、今や間違えても、噛んでも、すぐに内外から反応があります。あがり症なので、ますます緊張、またまた噛み噛み…。そんな私が今まで英語放送を担当させていただけたのは、おそらく英語力のせいではなく、打ち上げ作業に多少知識があるから…だろうと思います。周りの皆様、応援してくださる皆様に支えていただき、これまで続けられたことに感謝いたします。ほんの僅かでも、打ち上げのお役に立てたなら幸いです。
(写真中央:三宅麻美)
(写真左:日本語放送前任者 長福紳太郎、写真右:日本語放送担当者 鈴木和哉)

[2011年1月31日 更新]

砂川 英生 / 宇宙輸送ミッション本部 宇宙輸送系推進技術研究センター 開発員(打ち上げ隊:技術説明員)
私はこれまでH-IIBロケットのメインエンジンであるLE-7A及び上段エンジンのLE-5B-2の開発を担当しておりました。
主にはターボポンプのインデューサやエンジン燃焼室などの負荷が厳しい部品に対して、試験にてきちんと確認できているか、フライト中に壊れてしまうことがないかを徹底的に確認し、信頼性の高いエンジンを完成させ、H-IIBロケット試験機の成功を下支えしました。
それらのエンジンの開発が終了した現在、H-IIAロケット、H-IIBロケットのさらにその先のロケットの検討、それに用いられる次世代のロケットエンジンLE-Xの研究開発に従事しています。
ということで今回はH-IIBロケット2号機の種子島での射場整備作業に関わることはなかったのですが、H-IIBロケット2号機打ち上げの後方支援として、プレスに対してH-IIBロケットの技術的なフォローを行う技術説明員という立場で打ち上げに関わることとなりました。
打ち上げは1月20日から2日延期されました。原因は“氷結層を含む雲”です。氷結層とは0℃から-20℃の温度域を指しており、その温度域の水分が対流によりぶつかり合うことで電気が発生し、対流が激しい場合は落雷へとつながることが知られています。また対流があまりない場合でもロケットがその氷結層を含む雲を通ることにより雷を誘発してしまう可能性があり、氷結層を含む雲に関して打ち上げができるかどうかの制約条件を設けています。最近ではロケットや設備の不具合ではなく、氷結層をはじめとした気象条件の制約にて打ち上げが延期されることがほとんどです。プレスの方々に雷発生のメカニズムや制約条件についての補足説明を行いましたが、学術的な面もあり説明に非常に苦労しました。
その後1月22日は好天に恵まれ絶好の打ち上げ日和。Y-0(打ち上げ当日)の作業も順調。あまりにも順調すぎて不安にもなりましたが、見事打ち上げは成功しました。やはり生で見る打ち上げは音と光がケタ違いで何度見ても感動します。
今回の打ち上げを通じてですが、H-IIAロケットやH-IIBロケットの打ち上げが合計20回を迎え、打ち上げ作業が精錬されてきたことを実感しました。今後想定外の事象が起こる可能性は否定できませんが、打ち上げを重ねることによりデータを蓄積し、真摯に技術と向き合い不具合の要因を限りなくゼロに近づける、またその活動を昇華させて有人宇宙輸送や惑星間輸送などの夢を実現可能にしていくことが、われわれJAXAの使命だと思います。
H-IIBロケットは次の宇宙輸送へとつながる非常に重要なステップでありますが、ゴールではありません。いずれは民間移管します。国民の皆さんがわくわくするような次の宇宙輸送系の姿を提示できるよう、現在の仕事に戻ります。
でも、やっぱり実際の打ち上げはいいですね。
(写真 2列目中央:砂川英生)

[2011年1月28日 更新]

丹羽 智哉、 和田 理男、 赤城 弘樹 /
環境試験技術センター 開発員(打ち上げ隊:音響計測・解析班 作業リーダ/副リーダ)
入社1〜3年目の私たちは「環境試験技術センター」という部署に属しており、普段は筑波宇宙センターで宇宙機の機械環境試験(音響試験、振動試験、衝撃試験など)に関する試験技術の研究・開発等の業務を行っています。
今回のH-IIBロケット2号機の打ち上げでは、ロケット打ち上げ時の (1)射点近傍の音響解析、(2)射点遠方の音響計測・解析を担当しました。

(1)射点近傍の音響解析
射点近傍とは射点から半径500m以内を意味し、ロケット打ち上げ時に音響環境が最も厳しくなる場所です。射点近傍の音響データを解析することによりロケットに搭載されている「こうのとり」および射場への影響を把握することができます。本解析は地上に設置したマイクによる計測データおよび飛行中のロケットから送られてくる技術テレメトリデータを解析するので、打ち上げ後に筑波宇宙センターで行う作業となります。

(2)射点遠方の音響計測・解析
射点遠方とは警戒区域(射点から半径3km)の外を意味します。今回は種子島宇宙センター周辺の民家の庭先や公民館をお借りして計測作業を行いました。打ち上げ3日前に種子島に移動して作業場所を下見し、電源容量・センサ設置方法・障害物の有無等を確認します。問題があればその場で対応策を考え、必要に応じて機材を追加・変更し、作業員の配置・当日の動き・操作手順を練り直します。屋外でのフィールド計測、打ち上げ時の計測は一発勝負という難しさもあるため、臨機応変に迅速に対応することが求められます。
ロケット打ち上げ時の射点遠方の音響レベルはおよそ120dBにも達し、音響レベル・周波数分布はロケットの性能だけではなく、温湿度・風向き・雲量・雲底高度などの天候に大きく左右されます。一昨年の試験機は夏季の打ち上げで当日は低い雲に覆われていましたが、今回は冬季の打ち上げで晴天だったため射点遠方の音響環境が異なってくることが予想され、現在解析を進めています。

H-IIBロケットは日本最大の打ち上げ能力を持つロケットであり、射点近傍・遠方の音響環境を把握することは非常に重要です。今回取得したデータは、種子島宇宙センター周辺の地域住民の方々にロケット打ち上げ業務をご理解いただくために役立てられるとともに、これまでに蓄えられたH-IIAロケット、H-IIBロケット試験機のデータと併せて将来の新型ロケット開発時や射場整備時に活用されます。
H-IIBロケット打ち上げという巨大プロジェクトの現場において、私達の経験や知識を活かすことができてとても嬉しく思うとともに、H-IIBロケット2号機の打ち上げと同じく私たちの音響計測も成功し、今は安堵の気持ちでいっぱいです。ご声援ありがとうございました。次回の打ち上げも応援よろしくお願いします!!
(写真左から:丹羽智哉、和田理男、赤城弘樹)

[2011年1月27日 更新]

植田 豊作 / 担当:宇宙輸送系推進技術研究センター 開発員(角田宇宙センター エンジン燃焼試験担当)
ロケットエンジンはほんの僅かな寸法の違いや、傷がその性能や作動に影響を与えてしまうほど繊細なものです。また、打ち上げ失敗の約7割は、何らかの推進系統やロケットエンジンに起因するものと言われており、フライト前のエンジンの性能/作動確認が重要です。
私は、地上試験設備を利用してこの確認を行うLE-5Bエンジンの燃焼試験を担当しています。燃焼試験では、圧力、温度、流量など数百点の計測が行われ、エンジンが所定の性能を満たしているか、振動などのエンジン作動に対して有害な兆候が無いか等の確認をします。H-IIBロケット 2号機では、LE-5Bエンジンは2段機体を減速させ、高精度に制御落下させるためにアイドル燃焼を行います。このため、通常のフルパワー作動に加え、アイドル燃焼のデータ計測も行いました。アイドル燃焼は、その名からイメージされるように可愛らしい燃焼をするのですが、あまりにも弱々しいために推力が直接計測できなかったり、推進薬が蒸発したりするので正確なデータ計測のためには、結構大変な作業でした。
また、エンジンの燃焼試験を実施する上で欠かせない試験設備を、使用可能な状態に維持することも私の大切な仕事です。LE-5Bエンジンの燃焼試験は、角田宇宙センターにある高真空環境下で試験が可能な高空燃焼試験設備を利用して行われるのですが、建設後約30年が経過しており老朽化がかなり進行しています。ほぼ私と同い年なのに、私と違って使うと必ず不具合が発生するほどに経年劣化が進んでいますので、計画的に更新を行っています。
こうしてH-IIBロケット2号機用のLE-5Bエンジンは、角田宇宙センターでの試験を無事終え、今や遅しと打ち上げを待っている状況です。問題なく宇宙まで「こうのとり」を連れて行ってくれるはずです。

[2011年1月21日 更新]

石川 主税 / 担当:宇宙輸送ミッション本部 射場技術開発室 開発員(打ち上げ隊:ロケット班 設備系担当)
私は、入社後3年間、種子島宇宙センターでロケット構造担当、燃焼試験担当、設備担当の経験の後、筑波宇宙センターでロケットを打ち上げる設備開発をしています。
ロケットを打ち上げる設備といっても、なかなか思いつかないのではないでしょうか?
私もJAXAに入社するまで設備の存在を全く知りませんでしたが、なければ打ち上げができない重要なものばかりです。ロケットに燃料を充填するタンクや弁、ロケットの点検や制御をするコンピュータ、飛んでいるロケットを追尾するアンテナ、H-IIBロケット2号機で新しく整備した制御落下用の管制設備等、非常に多くのものがあり表舞台にはなかなか出てきませんが、縁の下の力持ちの存在です。
そんな設備の中で、主役級の設備を紹介します。写真は、燃料の液体水素を保管しているタンクで、最重要設備のひとつです。打ち上げの9時間前に、このタンクからロケットの温度、圧力、量を見ながら慎重に充填を開始します。タンクの燃料センサーが反応するまでが最初の緊張する瞬間です。打ち上げまでそのような緊張が連続して続きます。
打ち上げまであと3日、私たちJAXAは打ち上げ成功に向けて全力でカウントダウン作業を進めてまいります。みなさんの力強い声援のもと、必ず打ち上げは成功します。ぜひ種子島で、またライブテレビでお会いしましょう!

[2011年1月19日 更新]

大和田 陽一 / 担当:H-IIBプロジェクトチーム 主任開発員(打ち上げ隊:ロケット班 プロジェクト管理係主任代理)
H-IIBプロジェクトの資金管理や、文部科学省に設置されている宇宙開発委員会への対応など、プロジェクト全般に関わる業務を担当しています。
H-IIBロケット試験機は2009年9月11日に、日本の主力ロケットの初号機では初めてとなる、予定の日時に遅れることなく「こうのとり」1号機の打ち上げを良好に行うと共に、宇宙開発委員会で行われた「H-IIBロケット試験機プロジェクトの事後評価」でも良い評価を頂きました。
H-IIBロケット2号機の打ち上げでは、「こうのとり」の運用機を打ち上げることが目的であり、国際宇宙ステーション(ISS)運用のために大変重要な役割を担っていることから、試験機以上に重要な打ち上げと捉えています。
また、運用機以降はより厳しい資金管理が求められており、国際宇宙ステーションの運用を着実・効率的に達成できるよう、最後まで気を引き締めて取り組んでいきますので、ご声援お願いします。

[2011年1月18日 更新]

山崎 敏史 / 
宇宙輸送ミッション本部 宇宙輸送系要素技術研究開発センター開発員(打ち上げ隊:ロケット班 電気系担当)
2年前まで種子島宇宙センターの発射管制棟周りの設備保守や、ロケット打ち上げ作業期間中には設備班やデータ処理係を担当し、筑波宇宙センターに異動してからはロケットに搭載される計測通信系機器の研究開発を担当しています。今回のH-IIBロケット2号機では、それまでの設備班という立場からロケット班電気系係という立場に変わり、現在担当している機器だけでなく搭載される全ての電子機器(アビオニクス機器)を見る立場として携わります。
アビオニクス機器には、大きく分けて (1)誘導制御系、(2)姿勢制御系、(3)計測通信系と3つのカテゴリに区分され、どれもロケットを飛ばすには欠かせない重要な機器であり、電池や地上と直接インタフェースする機器も合わせると60ユニット程度の機器がロケットに搭載されています。私が担当するロケット班の仕事は、打ち上げ4日前から打ち上げ当日までを発射整備作業といいますが、この間、これらアビオニクス機器の状態を監視したり、アビオニクス機器を通してロケットの点検作業のデータを確認したりします。さらに、作業中に問題が発生すれば、開発メーカと一緒になって対策処置を考え、ロケットを万全の状態で打ち上げられるよう“最善を尽くす”ことも仕事です。
ロケットは、組立工場での点検から種子島の射場での点検まで時間をかけて一つずつ点検されていますが、発射整備作業中、さらには打ち上げ直前になっても不具合が発生することがままあります。先ほどの“最善を尽くす”というのは、このような打ち上げが押し迫る状況の中において不測の事態に適切に対応することであり、ロケットの打ち上げを成功させるための「最終ミッション」と私なりに捉えています。その際重要なのは“平常心”を保つこと。これは昔の打ち上げ人(うちあげびと)が種子島の現場に標語として残されていますが、人間誰しも押し迫った状況ではピリピリしてしまい判断を間違えやすくなるので、人間の気質というものを根源的に捉えたこの言葉がとても心にしみます。打ち上げ当日は平常心を保てるよう、また、コラムを読んで下さった皆さんと一緒に成功を分かち合えるよう、気を引き締めて着実に仕事をこなして望みたいと思います。
さぁ打ち上げまであとわずか!最終ミッションのスタートです!!

[2011年1月18日 更新]

安藤 梨沙 / 宇宙輸送安全・ミッション保証室(打ち上げ隊:射場班 技術品質管理係)
私が担当する技術品質管理係の主な業務は、射場系設備(リフトオフ後のロケットの飛行状況などを把握する設備)に対する品質管理活動が、適切に行われているかを確認することです。打ち上げミッションの達成にはロケット本体だけでなく、射場系設備の確実な運用も欠かせません。確実な運用には適切な品質管理活動が重要です。そのため設備の整備・運用が必要な手順に従い適切になされているかを確認し、そうでない時には、関係者に注意を喚起したり、是正処置を要求したりします。
特に打ち上げ前には、射場系設備の様々な試験を行い、打ち上げの為の準備を整えていくので、これらの作業が確実に実施されているかを確認します。また、問題が起きた場合には、是正処置に関する作業に立ち会い、対応処置が適切になされているかを判断する必要もあります。
このように、技術品質管理係の仕事は現場で常にチェックの目を光らせているので、気が抜けない日々が続きますが、打ち上げが成功したときの安堵感はひとしおです。
打ち上げまであと数日ですが、打ち上げ日を万全の状態で迎え、確実なミッション達成に結びつけられるよう、これからの作業も全力で取り組んでいこうと思います。

[2011年1月18日 更新]

小松 満仁 / 宇宙輸送安全・ミッション保証室(打ち上げ隊:飛行安全班)
大切な衛星を宇宙へ無事送り出すこと―それがロケットに課せられた使命です。しかしそれと同時に、地上の人々や建物・船舶に対する安全を確保することも極めて重要です。私の所属している輸送安全・ミッション保証室では、後者のような地上作業中及び飛行中の安全確保のために必要なあらゆる事を考え、また実施しています。私はその中でも特に、ロケット飛行中の安全管制を担当するチームに所属しています。
入社後半年を過ぎ、その間H-IIAロケット17号機、18号機の打ち上げを経験してきました。今回のH-IIB ロケット2号機の打ち上げでは制御落下実験に関わる新規開発要素等も加わり、先輩方がこれまで築いてこられたシステムを勉強し追いつくのに精一杯な日々です。それでも日々新しいことを知り、時に失敗も経験し、それによって少しずつチームに貢献できるようになっていく自分を感じることができる、とてもやりがいのある仕事です。
今回H-IIBロケット 2号機の打ち上げをぜひとも成功させるとともに、そこで得られた教訓を次号機以降にどう活かすかを常に考えながら仕事に当たっていきたいと思います。

[2011年1月18日 更新]

井田 恭太郎 / 宇宙輸送安全・ミッション保証室 開発員(打ち上げ隊:飛行安全班 テレメータ担当)
H-IIBロケット2号機の打ち上げにおいては、人命・財産に対するリスク低減を目的に、「こうのとり2号機」を軌道へ投入した後、地上から管制し、第2段機体を事前に設定した海域に制御落下させます。
私は、試験機打ち上げ以降、約1年間にわたり、制御落下に関する運用シナリオ・管制システムの整備および制御落下に対する安全性評価解析を担当してきました。ロケット上段機体の制御落下は、JAXAのロケットとしては初めての試みであるため、これらはゼロから築いていく必要がありました。その分、自分の考えを反映させる割合が大きいので大変やりがいを感じることができました。
具体的な制御落下の管制としては、軌道離脱前に第2段機体が健全であることを確認し、事前に設定した海域に落下するかを予測し判断します。打ち上げ時には、これらのシステムをモニタし、第2段機体を予定どおり制御落下させることが主な担当です。
制御落下に対しては、たくさんのメーカ関係者とともに総力を挙げて取り組んできました。スケジュールが非常にタイトだった分、成功した時の喜びは格別なものとなるでしょう。この喜びを皆で分かち合えるよう、打ち上げ本番まで一瞬の油断も許さず、頑張っていきます。

[2011年1月13日 更新]

和田 英一 / 宇宙輸送系推進技術開発センター 開発員(打ち上げ隊:ロケット班 SRB-A担当)
大きなオレンジ色の機体のまわりに燦然と白く輝く4本のブースタ。これはH-IIAロケットのブースタと共通の固体ロケットブースタで、その名をSRB-Aと言います。
H-IIAロケットでは人工衛星の重さによって2本または4本仕様を使い分けますが(※かつて11号機で4本適用事例あり)、H-IIBロケットでは16トン以上もある「こうのとり」を打ち上げるために必ず4本仕様となります。
その大きさではちょっとおまけにも見えてしまうこのブースタですが、中には固体推進薬がぎっしり詰まっており、1本あたり約75トンもの重さがあります。H-IIBロケットの全体質量が約530トン(※「こうのとり」搭載前)ですから、実はH-IIBロケットの重さの約半分以上をこのSRB-Aが占めているのです。
SRB-Aは約120秒の燃焼でその使命を終えて分離されますが、その2分ほどの間に爆発的な推力を発生してH-IIBロケットをぐいぐいと加速します。重厚感たっぷりにどっしり構えた、まさに縁の下の力持ちですね。
今回、SRB-AはH-IIB試験機に使用したものと同じ仕様です。
「変わらず」「いつもどおり」に、我が国の基幹ロケットの足元を渋く固める縁の下の力持ちとして、フルパワーでの活躍をお約束します。

[2011年1月4日 更新]

齊藤 俊哉 / 宇宙輸送系要素技術開発センター 開発員(打ち上げ隊:ロケット班 構造系担当)
現在入社5年目。最初の3年間は種子島宇宙センターにてロケットの打ち上げと宇宙センターの企画・管理系の業務についておりました。昨年4月に筑波のロケットの研究開発センターに異動して以来、今回で2回目となるロケット班の構造系担当として種子島に戻ってきました。
H-IIBロケットは人を乗せたまま宇宙へ飛び立つことはできませんが、実は整備や点検作業のために人が乗り込める“秘密の搭乗口”がいくつかあります。私が立っているのはそのうちのひとつ。直径5.2メートルの第1段目と直径4メートルの第2段目をつなぐ結合部分です。つい先ほど、ここからロケットに乗り込み第2段ロケット側の機器類の取り付け状況の確認をしたところです。
私は打ち上げ時には発射台近くの地下の管制室にて発射管制作業や飛行時のデータ評価を担当する予定ですが、ロケットに乗り込む瞬間は打ち上げの瞬間と同じく私の仕事のクライマックスのひとつです。
理由のひとつにはその作業の重要性があります。
ロケットはひとたび発射台を離れると、何がおきても発射台に戻して修理することができません。また、飛行中のデータから何らかの異変がわかったとしても、後から太平洋の海底から現物を回収して検証することはなかなかできないため、事前の確実な点検と確認によって万全の状態で打ち上げに臨むことが何よりも重要です。
もうひとつの理由としては技術者としての想いがあります。
ロケットの中から外側を眺めたときの感覚は特別なものです。近い将来、有人ロケットを開発したあかつきには、コクピットで打ち上げを待つ宇宙飛行士の視界はまさにこんな感じなのだろうなという気分にさせてくれます。またロケットは、このまま乗っていれば宇宙へ行ける“乗り物”なんだという実感が改めて沸くとともに、この実感の延長線上に有人ロケットを捉えられる瞬間でもあります。
さて、そんな未来のロケットを作るためには、われわれ若手が日々の開発業務からいかに知識と経験に裏づけられた開発スキルを身につけられるかが重要だと感じています。
私がH-IIBロケットの担当として現在の部署に就いた時点では一通りの開発試験は終了していたこともあり、新しいロケットを丸ごとひとつ開発する経験を積む機会は少し先になりそうですが、それまでの間は不具合や技術課題の解決を成長の機会ととらえています。これらの問題は起こらないにこしたことはありませんが、発生してしまったとしても、それらはわれわれ若手エンジニアを確実に育ててくれます。
予定されている打ち上げスケジュールを確保しつつ、確実な処置を施すという一連のトラブル解決のプロセスそのものを経験することがまず何よりも重要です。そしてこのプロセスにおいては、通常現場作業では決して踏み込まない製造工程や設計思想にまで踏み込んだ考察が求められることもあるため、いわば開発を追体験することで技術スキルを身につけられるまたとない好機となるわけです。
それでは長くなりましたが「こうのとり」がいつか宇宙飛行士という「赤ちゃん」を運ぶ日を夢みつつ、まずは確実にH-IIBロケット2号機の打ち上げ成功を目指し、日々の仕事に励むことにしたいと思います。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。

[2010年12月27日 更新]

伊海田 皓史 / 宇宙輸送系要素技術開発センター 開発員(打ち上げ隊:ロケット班 フェアリング担当)
H-IIBロケットの構造系、特に衛星フェアリングの開発を担当しています。衛星フェアリングはロケットの最先端部に位置し、衛星(今回は「こうのとり」(HTV))をエンジンの音響や、大気中を飛行する際に生じる空気力、熱から護る役割を果たしています。またロケットが大気圏外へ到達すると、役目を果たしたフェアリングはロケットから切り離されることになるため、大きな力や音響に耐える一方で、指定のタイミングで確実に分離するという相反する機能を持たねばなりません。
今回H-IIBロケットで打ち上げられる「こうのとり」(HTV)には、専用に開発したフェアリングが用いられます。H-IIBロケットでは飛行中にロケットに加わる荷重がH-IIAロケットと比べて大きく増加したこともあり、試験機(1号機)の打ち上げまでに実施した開発試験では数々の困難に直面してきました。
関係者の努力によってそれらの技術的課題を1つ1つクリアし、試験機の打ち上げ成功に結実させることが出来ましたが、今回打ち上げる2号機ではより信頼性を向上させるべく、強度を向上させる改良開発を実施してきました。改良開発においては、これまでに蓄積してきた知見をベースに短期間で開発を完了させることに成功し、現在は2号機の打ち上げに向けて種子島での最終作業に取り掛かったところです。
小さな頃からの夢であったロケットの開発に携わるようになって約3年、日々の仕事で感じるのはロケットに適用されている技術は、これまでの開発を支えてきた技術者達の不断ない努力の結晶であるということです。一朝一夕で獲得できる技術ではないからこそ、しっかりと先駆者達の技術を継承できるように。そして何よりも、今回のH-IIBロケット2号機の打ち上げを成功させることができるよう、着実に打ち上げ作業に取組んでいきたいと考えています。

[2010年12月27日 更新]

森 茂 / 担当:H-IIBプロジェクトチーム 開発員(打ち上げ隊:ロケット班 システム設計担当) 
H-IIBロケットのシステム設計の担当をしています。エンジン、誘導機器等ロケットの打ち上げに必要な機能を取りまとめると共に、それらを用いて最適な飛行経路でHTVを打ち上げるプランを作成することが主な仕事になります。
HTVミッションは国際宇宙ステーション(ISS)にカーゴ(荷物)を輸送するために、通常の人工衛星とは異なった経路を飛行する必要があります。飛行経路には色々な制約があり、大気飛行中の空気力による機体への荷重、地上局からの可視性、飛行する経路の下にある地域の安全性等を総合的に判断して決定します。1号機(試験機)の打ち上げでは事前に計画した経路は問題なく正常に飛行したため、2号機に対する飛行計画の変更点はほとんどありません。ただし、HTV分離後の不要となった2段機体の扱いを変更することにしました。
通常、ロケットの打ち上げの際には打ち上げシーケンスの途中で不要となった機器は分離し、機体を軽くします。分離された固体ロケットブースター(SRB-A)、衛星フェアリング、第1段機体は予め設定した海域に落下することになります。しかし、2段機体だけは人工衛星(もしくはHTV)と同じ軌道に投入され、地球周回軌道を回り続けます。その後、時間と共に大気抵抗により高度は低下し、いずれ地上に落下します。
地上に落下する際の安全性を格段に向上させるために、HTV分離後の2段機体を設定した海域(南太平洋)に制御して落下させることにしました。この新しい試みを実現するために、ロケットに軌道離脱燃焼を行うための機能を追加し、安全に落下させるための管制設備を地上に整備してきました。これらの準備作業はほぼ完成し、打ち上げに向けた最終調整を進めています。
これからも確実かつ安全なミッション達成のためにベストを尽くします。

[2010年12月22日 更新]

小林 清 / 担当:H-IIBプロジェクトチーム 主任開発員(打ち上げ隊:ロケット班 プロジェクト管理係主任) 
私はH-IIBロケットの開発に約5年間係わらせていただいており、この間推進系の開発を主に担当してきました。また試験機と2号機の打ち上げでは、ロケット系作業の全体進行をとりまとめるプロジェクト管理係を担当しています。
H-IIBロケットは、H-IIAロケットと同じ1段のメインエンジンを2基束ねることで、より大きな推進力が得られるクラスタ方式を我が国で初めて開発し成功しました。
クラスタ方式の実用化により、今後のロケット開発の柔軟性や効率はより向上したと考えられます。私たちの技術は一足飛びには進歩しませんが、先輩たちが築いてきた技術を引き継ぐことで、我が国最大のH-IIBロケットを作り上げる事ができたのです。
今、私たちは2号機の打ち上成功に向かって、会社や組織の垣根を越えた多くの方々と共に協働で打ち上げ準備作業を行っています。ロケット打ち上げのシステムは大きく複雑で、打ち上げ成功のためには様々な分野の技術者はもちろん、多くの関係者一人一人の協力が必要不可欠です。
宇宙開発を応援して下さる皆様に支えられながら、たくさんの仲間達の想いと「こうのとり2号機」を載せ、H-IIBロケット2号機はもうすぐ宇宙へ向けて翔び立ちます。

[2010年12月22日 更新]

中辻 弘幸 / 担当:H-IIBプロジェクトチームファンクションマネージャ(推進系担当) 
私はH-IIBロケットの推進系開発を担当しています。H-IIBロケット2号機では第2段の制御落下を実施することになったため、第2段エンジンのアイドルモード燃焼という機能を使って第2段を落下させます。
アイドルというと、かわいい芸能人の女の子を考えがちですが、そのアイドルではなく自動車のアイドリングと同じ「空回り」という意味です。
第2段エンジンはターボポンプ式のエンジンで、衛星の打ち上げに使用するときはターボポンプを高速で回転させ、燃料の圧力を上げて燃焼させることで約14トンの推力を発生させます。しかしアイドルモードではターボポンプを回転させずに、ロケットのタンクの圧力だけで燃焼させます。ターボポンプを回転させないのでアイドルモードとよんでいるわけです。当然推力は1/30程度に低くなってしまいますが、ロケットのタンクに残っている燃料を有効に使いきれるので、今回の制御落下に採用することになりました。

私とアイドルモードのつきあいは古く、H-IIロケット第2段への採用をめざして、ステージ燃焼試験を実施していた頃にも担当していました。雪が降りしきる田代試験場でアイドルモードを採用するかしないか、熱い議論を戦わせたものでした。結局H-IIロケットでは採用しませんでしたが、めぐりめぐって今回制御落下に使用することになったのです。
制御落下用にアイドルモードの性能を確認する必要がありましたが、推力がとても低いために角田試験設備の計測設備から変える必要があり、やっと計測ができたと思っても圧力が低すぎて液体水素が蒸発してガス水素になってしまったり、困難の連続でした。
しかし、推進系技術研究開発センターや三菱重工業等の協力のおかげでアイドルモードの試験を完遂することができ、H-IIBロケット2号機の打ち上げ準備を整えることができました。
いままで日本のロケットは宇宙に行ったきりの一方通行でしたが、今回の制御落下を皮切りに、地球に帰ってくる時代になって欲しいと思います。

[2010年12月9日 更新]

佐藤 寿晃 / 担当:H-IIBプロジェクトチーム ファンクションマネージャ(打上執行主任代理、ロケット班長)
世界一美しいと言われている宇宙センターのある種子島に久しぶりに降り立ちました。懐かしさを感じつつも、これからの打ち上げに向けた作業に気が引き締まる思いです。この地で3年程前まで、企画主任という立場でH-IIAロケット打ち上げの全体進行、あるいは最近打ち上げ時に悩まされている雷雲の予測技術向上などに携わっていましたが、この9月から立場変わって、先輩や同僚たちが苦労して達成したH-IIBロケット試験機の成功という成果を引き継いで、ロケット開発全体のとりまとめ役としてH-IIBロケット2号機の最終仕上げを進めています。若い頃、自分が乗る宇宙輸送機を作りたいという想いでこの世界に足を踏み入れましたが、有人計画の一翼を担うH-IIBロケットの開発は、やり甲斐のある仕事です。

さて、H-IIBロケットの2号機は、基本的に試験機から大きくは変えていませんが、信頼性や安全性を高めるための改良を行っています。そのうちの一つとして、こうのとり2号機を軌道投入した後の2段を逆噴射させ、狙った安全な海域に落とすという、世界でもまだあまりやられていない制御落下実験に挑戦します。ロケットは通常15分程でミッションは終了なのですが、今回は地球を一周回ってきてから制御落下を行うので、いつもよりハラハラドキドキが長く続くことになるなと思っています。
ほぼ同じ頃に宇宙開発を始めたお隣の中国は有人ロケットまで打ち上げ、先にいってしまったかにみえますが、そこはSlow and Steady wins the raceということで、日本も今回の制御落下など色々な面で着実に技術を積み上げつつありますので、将来にご期待ください。
今回も既にたくさんの応援メッセージをいただいており、打ち上げを成功させて"こうのとり"と共に皆さんの夢も一緒に宇宙に運んでいければいいなと思っています。なお、目指しているのは、H-IIBロケット2号機の成功という目の前のことばかりでなく、計画されている7機全部やISS計画延長に合わせたその先の号機、はたまた将来の日本のロケットの発展へとつながる息の長い計画全体の成功だという気持ちで頑張っています。皆さん、最後まで応援よろしくお願いします!

[2010年12月9日 更新]