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環境観測技術衛星(ADEOS-II)「みどりII」の運用異常について

平成15年10月27日

宇宙航空研究開発機構

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。


環境観測技術衛星(ADEOS-II)「みどりII」の運用異常について報告する。

1. 運用異常の状況

  1. (平成15年10月25日午前7時28分頃(日本時間)に地球観測センターで予定していた「みどりII」のミッション(地球観測)データの受信(注1)ができなかった。
    注1:午前7時28分の地球観測センターにおける「みどりII」のミッション(地球観測)データ受信は、データ中継技術衛星(DRTS)「こだま」を経由して行う予定であった。
  2. 「みどりII」のデータ受信ができなかったことから、直ちに、筑波宇宙センターの衛星運用担当者が、「みどりII」の状態を把握するため、緊急時の手順に基づき臨時に「みどりII」と地上局との間の交信の確保を図った(午前8時00分頃)。
  3. 午前8時49分の臨時交信(衛星は日陰中)において、衛星が軽負荷モード(注2)になっていることが判った。また、交信中の午前8時55分頃、衛星の状態を地上局に送信するテレメトリデータ信号が乱れ、データの受信ができなくなった。その後、27日現在まで、データの受信はできていない。
    注1:午前7時28分の地球観測センターにおける「みどりII」のミッション(地球観測)データ受信は、データ中継技術衛星(DRTS)「こだま」を経由して行う予定であった。注2 : 軽負荷モードとは、衛星の異常発生時に、ミッション機器ヒータとバス機器等の必要最低限な機器のみをONとすることにより消費電力を抑えた状態
  4. 衛星運用責任者の指示により、直ちに、午前9時23分の時点から、「みどりII」と地上局との通信を回復するためのコマンド(指令)信号を、衛星に向け送信開始した。27日現在まで、送信を継続している。
  5. 「みどりII」へのコマンド信号の送信とともに、筑波宇宙センターにおいて、それまでに取得していた衛星のテレメトリデータを解析したところ、25日午前1時15分頃に衛星の太陽電池パドルの発生電力が約6 kWから約1 kWに低下していることが、午前10時00分頃判明した。
  6. 原因究明及び対策の検討を行うため、10月25日に理事長を長とする「みどりII運用異常対策本部」を設置した。

2.異常発生前後の「みどりII」の状態

  1. 発生電力低下に関係する「みどりII」構成機器の異常発生前から通信が途絶えるまでの間の状況について、テレメトリデータを一次評価した結果は以下のとおり。
    (1) 太陽電池パドル系(PDL)
    • 10月25日午前1時15分頃、太陽電池パドルの発生電力が、約3分間で、約6 kWから約1 kWに低下し、その後約1 kWの状態を続けていた。
    • 電力低下前後に、太陽電池パドルの太陽方向への指向に変化はみられなかった。
    • 電力低下前後に、太陽電池パドルの張力の変動を示すような兆候はみられなかった。
    • なお、本年3月から7月にかけて、「みどりII」では、100 W単位の発生電力の変動があったが、7月末以降はその変動はみられなかった。
    (2) 電源系(EPS)

     太陽電池パドルの電力低下後、衛星搭載バッテリからの電力供給が始まり、7時18分にバッテリ下限電圧値(35 V)に達し、衛星は軽負荷モードに自動移行した。その後、バッテリ電圧は更に低下した。

    (3) 姿勢制御系(AOCS)

     電力低下の前後及び通信途絶の直前まで、衛星の姿勢は姿勢角、角変化率ともに安定しており、異常とみられる姿勢の擾乱はなかった。

    (4) その他のバス機器(注3)及びミッション(地球観測)機器

     その他のバス機器及びミッション機器については、通信途絶の直前まで異常を示すデータはみられなかった。

    注3:衛星の電力、姿勢制御、テレメトリ送信、コマンド受信等を行う機器
  2. FTA(Fault Tree Analysis(故障の木解析))
    現在、データ解析を実施するとともに、可能性のある原因を把握するために、FTAによる検討を行っている。
  3. 「みどり」との比較
     これまでの確認範囲では、平成9年6月に発生した「みどり」の太陽電池パドル破断による発生電力喪失と類似の現象(瞬間的な電力喪失、姿勢異常等)はみられないものの、共通原因の有無については現在究明中である。

3.現在の「みどりII」の状態(推定)

  1. 姿勢制御系
    姿勢制御系の電源がOFF状態と思われ、いずれかの方向に回転しているものと推定している。
  2. 太陽電池パドル系
    日照中において、パドルが太陽と正対する状態になった場合のみ、異常発生直後と同様な発生電力(最大1.1 kW)を得ている可能性があると推定している。
  3. 電源系
    衛星搭載バッテリは、既に電力を発生していない状態であると推定している。

4.実施している回復処置等

  1. コマンド運用
    衛星に対し、以下のコマンドを送信し、衛星の消費電力の低減化及び衛星との通信確保に努めている。
    1. ミッション機器及びバス機器(バッテリ及び推進系を除く)のヒータのオフ
    2. テレメトリ送信機のオン
  2. データ提供の依頼
     衛星状況把握のため、「みどりII」にセンサを搭載している他機関(環境省、NASA/JPL、CNES(仏宇宙機関))へ、発生電力低下時のデータを提供してもらうなどの措置を行っている。



参考



太陽電池 発生電力低下の状況

環境観測技術衛星「みどりII」の運用異常の経過

2003/10/25 0:07(JST)頃 パース局 テレメトリデータを正常に受信した
6:04頃 アラスカ局 ミッションデータを正常に受信した
6:22頃 鳩山局 データ中継技術衛星「こだま」経由の「みどりII」のミッションデータを正常に受信(データ中継衛星と「みどりII」の間の通信は正常にできていた。)
7:28頃 筑波局 データ中継衛星と「みどりII」の間の通信ができなかった。
7:28頃 鳩山局 データ中継衛星経由の「みどりII」のミッションデータを受信できなかった。
8:00頃 筑波宇宙センター 運用担当者が緊急時の手順に基づき、「みどりII」の状態を把握するため、臨時に、マスパロマス局における「みどりII」との交信を手配した。
8:30頃 筑波宇宙センター 関係者を緊急招集した
8:49頃 マスパロマス局 状況を把握するため、臨時にマスパロマス局でテレメトリデータの受信を行ったところ、「みどりII」が軽負荷モードになっていることが判った。また、受信途中(8:55頃)で、テレメトリデータが途切れ、「みどりII」との通信が出来なくなった。
9:00頃 筑波宇宙センター 可能な限り地上局を確保することを決定した。
9:23頃 勝浦局 「みどりII」と地上局との通信を回復するための送信機オンコマンド信号を送信したが、「みどりII」との通信は復旧しなかった。
10:00頃 筑波宇宙センター これまでに取得したテレメトリデータを解析した結果、10月25日午前1時15分頃に「みどりII」の太陽電池パドルの発生電力が約6kWから1kWに低下していることが判明した。(注4)
11:05頃11:23頃12:49頃13:34頃 沖縄局パース局沖縄局サンチャゴ局 「みどりII」と地上局との通信を回復するための送信機オンコマンド、及び衛星の負荷電力を減らすためのミッション機器/ヒータオフコマンドなどを送信したが、「みどりII」との通信は復旧しなかった。
15:00頃 筑波宇宙センター これまでに取得したテレメトリデータを解析した結果、10月25日午前7時18分頃に軽負荷モードに移行したことが判明した。
以降、衛星復旧のコマンドを打ち続けるが、「みどりII」との通信は復旧していない。

注4:10/25 6:04のアラスカ局でダウンリンクされた再生テレメトリを用いて確認した。

「みどりII運用異常対策本部」の構成

本部長: 理事長
総括責任者
(兼 本部長代理):
副理事長
本部員: 吉川理事、 樋口理事、 三戸理事、 山元理事、 古濱理事、 鶴田理事、 戸田理事、 堀川執行役、 佐木執行役、 渡辺執行役、 片木執行役、 稲田執行役、 高木執行役、 的川執行役
原因究明チーム
チームリーダ: 古濱理事
対外対応チーム
チームリーダ: 吉川理事


宇宙航空研究開発機構 広報部
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