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ノズル開口部断熱材のアブレーション現象について

平成16年1月9日

宇宙航空研究開発機構

本日開催された宇宙開発委員会調査部会において、下記のとおり報告をいたしました。


(1)固体ロケット内部混相流れ

固体推進薬は,酸化剤粒子と金属燃料粒子を燃料粘結剤に練り混ぜ硬化させたものである。衛星打ち上げ用固体ロケットの推進薬には通常、酸化剤として過塩素酸アンモニウム(AP)、金属燃料にアルミニウム(Al)、燃料粘結剤に末端水酸基ポリブタジエン(HTPB)が使用されている。

固体ロケットの平均燃焼室圧力は約5〜10MPa で約50〜100秒間燃焼するように設計される。燃焼ガスは、燃焼室内で温度が約3000℃であり、化学平衡状態での組成は質量比で液滴状のアルミナ(Al2O3)約30〜40%、気体成分として一酸化炭素(CO)20数%、水蒸気(H2O)数%などからなっている。

燃焼ガスの速度は燃焼室内では数~数10m/s からノズルスロート近傍で急加速され、スロートで約1000m/s、ノズル出口では約3000m/s に達する。高温・高速のため、ノズルスロート及び近傍の下流開口部では加熱が厳しい。気体からの対流加熱率で数10MW/m2(低温壁で)、粒子からの輻射加熱率で数MW/m2 に及ぶ。


(2)ノズルの熱防護

固体ロケットの場合、冷媒による強制冷却は事実上不可能であるため、スロートには耐熱材料を用いて高温での構造強度を維持し、ノズル開口部では内面に断熱材料を使用して金属構造体の熱防護を行う。

SRB-Aの場合、スロート用耐熱材料として三次元織りカーボン・カーボン複合材料(3D-C/C)を、ノズル開口部用断熱材として炭素繊維強化複合材料 (CFRP)を使用している。


(3)断熱材のアブレーション

CFRPは炭素繊維とフェノール樹脂より構成される複合材料で、樹脂の熱分解ガスによる冷却と、 炭化層の形成による断熱によって熱侵入を防御する炭化アブレータである。

図1に複合材料のアブレーションの諸過程を分類する。

図2にノズル開口部断熱材のアブレーション現象を示す。

熱分解は熱分解層と呼ばれる薄い層で起こり、熱分解を終えたCFRPは変質して炭化層を形成する。炭化層は強度をある程度保ちつつも、密度が低下しており断熱に寄与する。加熱の継続とともに炭化層とその先端部の熱分解層は内部に進行し、CFRP母材の厚みが減少する。

炭化層表面では内部混相流からの対流加熱、アルミ/アルミナ粒子の輻射加熱、粒子の衝突、水生ガス反応分子種の拡散等によって、主として化学的腐食と熱・機械的侵食によって表面後退が起きる。単位時間当たりの表面後退量を表面後退率と呼ぶ。


(4)局所エロージョン

エロージョンは学術的には熱・機械的侵食を意味する。但し、慣習的に表面後退全般を差して“エロージョン"と呼ぶことがある。

局所エロージョンは図3に示すような周囲に比べて表面後退率が顕著に増大する現象を差している。











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