プレスリリース

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熱帯降雨観測衛星(TRMM)の運用終了について

平成16年7月14日

宇宙航空研究開発機構

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。


1. TRMMミッションの概要

(1)TRMMミッションの目的
  1. 日米協力により全地球規模のエネルギー収支のメカニズム解明等に不可欠な熱帯降雨の観測を行なうこと。
  2. 降雨レーダの開発及び機能・性能の確認。
(2)TRMM衛星の概要
  • 重量:約3,500kg
  • 軌道:円軌道
  • 高度:約350km (平成13年8月25日以後 約400km)
  • 打上げ日:平成9年11月28日
  • 寿命:3年
  • 主要ミッション機器
    1) 降雨レーダ(JAXA)
    2) TRMMマイクロ波観測装置(NASA)
    3) 可視赤外観測装置(NASA)
    4) 雲及び地球放射エネルギー観測装置(NASA)
    5) 雷観測装置(NASA)
(3)日米の分担
  1. TRMMについては、日米政府間の交換公文に基づくJAXA・NASA間の了解覚書において、両機関の分担が定められている。
  2. JAXAは降雨レーダの開発、TRMM衛星の打上げ等を担当し、NASAはTRMM衛星の開発・運用を担当することとなっている。


2. 運用の経緯と得られた成果

(1)運用の経緯
  • TRMMは平成9年11月28日にH-IIロケット6号機で軌道高度350kmに打ち上げられ、初期機能確認フェーズを経て平成10年1月30日から定常観測を開始した。以降、NASAによりTRMMの運用が行われている。
  • 平成13年1月末に3年間の定常運用段階を終了し後期運用段階に移行した。
  • 平成13年8月に、観測寿命を延ばすため軌道高度を402kmに変更した。
(2)技術的成果
  • テレメトリ及び内部・外部校正解析結果等から、降雨レーダは設計寿命の倍以上の6年を超える期間にわたり正常かつ安定した動作を行い、良好な降雨観測データを取得。
  • 気象庁へのマイクロ波放射計(TMI)観測データの準リアルタイムでの提供を含め、地上システムの運用も良好。
  • 降雨レーダからの降雨推定アルゴリズムも6回に渡り改良が重ねられ、精度が向上。
(3)科学面、利用面での成果
  1. 宇宙からの降雨観測技術の確立により下記の重要な科学的成果が得られた。
    • 6年以上の長期にわたる降雨レーダによる、海陸を問わない均質な降雨強度の分布の観測。
    • 降雨レーダによる降雨の3次元構造の観測。特に台風や集中豪雨の詳細な構造の観測。
    • 降雨レーダ/TRMMマイクロ波放射計同時観測による降水量推定精度の向上。
    • 降雨レーダによる土壌水分の観測。
    • マイクロ波観測装置、可視赤外放射装置による海面水温分布の観測。
  2. TRMMデータを用いた降雨情報の提供。
    • リアルタイム情報の配信。
    • TRMM台風データベース・台風速報。一日、14000件以上のアクセスを記録。
  3. TRMMデータを用いた全球の水・エネルギー循環の評価。
    • エルニーニョ・ラニーニャ等の現象解析。
    • 降雨による潜熱加熱量の算出。
  4. 気象庁予報モデルへのTRMMデータ同化による気象予報精度の向上。
  5. 国土交通省の洪水警報情報システムに対し、米国からTRMMも含めた複合降雨データセット(TRMM Real-time Multi-satellite Precipitation Analysis Data Set)を提供。


3. TRMM衛星及び降雨レーダの現状

  1. 5つの観測機器のうち、CERES(Clouds and Earth's Radiant Energy System;雲及び地球放射エネルギー観測装置)以外は正常に稼動中である。
  2. 衛星バスについては、一時片翼のパドル駆動に問題を生じたようであるが、リカバリされ、現在特に問題なく運用中である。


4. 運用終了に至る経緯

  • 平成15年10月に日米TRMM科学者会合において、NASAから、衛星設計上の寿命を超えていることから、運用継続に関する安全上の懸念があるため早期にコントロールド・リエントリ(軌道高度を自然落下させた後、軌道制御を行い安全な海域に衛星を落下させること)を行うことが提案された。
  • JAXAからは、安全上の要求を満たす範囲で可能な限り観測を継続するよう申し入れ、NASAはコントロールド・リエントリの実施時期について検討を進めた。
  • 平成16年4月、安全上の要求を満たすコントロールド・リエントリのオプションは、(1)直ちに観測運用を終了して1年間かけて自然落下させた後コントロールド・リエントリさせる方法と、(2)約2年間観測運用を行い、その後約2年間かけて自然落下させた後コントロールド・リエントリさせる方法の2案に絞られることが明らかとなり、後者についてはNASAとして資金上の問題があることが示された。
  • JAXAとしてNASAとも連絡を取りつつ対応を検討してきたが、5月下旬にNASAからTRMMの観測運用を終了したい旨正式に連絡があった。6月18日にNASAアスラー局長とJAXA古濱理事が会談し、NASAの方針を確認した。
  • なお、日本のTRMMデータ利用者に3回にわたり状況、NASAの方針及びJAXAの考え方について説明を行なった。


5. TRMM観測運用終了についての考え方

  1. TRMM衛星の運用については、日米間の合意により、NASAが担当することとなっており、NASAが負担できる範囲で運用を継続することとなっている。
  2. (1) TRMMは当初のミッション期間3年の2倍を越える期間にわたって運用され、優れた成果を生み出しており、研究開発機関としての責務を果たしたと考えられる。
    (2) 厳しい予算状況の中、TRMMの運用継続よりもGPMプログラムを優先する。
    との考え方をNASAは示している。
  3. JAXAからは、運用の継続をNASAに働きかけ、両者による検討・協議を進めてきたが、運用を継続するための適切な方策が見出せなかったため、今般、JAXAとしてはNASAの方針に同意することは止むをえないと判断した。


6. 今後の予定

  • 観測機器をオフにして観測運用を終了する。
  • TRMMは大気の影響を利用して軌道高度を下げたあと、約1年後に海域への安全なコントロールドリエントリが完了される見込みである。
  • TRMM観測運用終了後も、TRMM後継・発展ミッションであるGPM計画の準備のため、TRMMの成果のとりまとめを行うとともに、研究者と協力し、以下の科学的研究活動を継続していく。
    1. TRMM降雨レーダデータ処理アルゴリズムの更なる改良(バージョン7アルゴリズムの開発に本年度から3年計画で着手)
    2. 6年以上にわたり蓄積されたデータを用いた第4回TRMM研究公募(本年度から3年計画で着手)
    3. GPMアルゴリズム開発研究(第一次研究を昨年度から2年計画で実施中)



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