本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
1. 概要
「みどりIIの運用異常」、「のぞみの火星周回軌道への投入失敗」と続いた一連の事故を受け、今後の衛星の確実な打ち上げと運用に向けて万全を期するため、現在、JAXAにおいて衛星の総点検活動を実施している。科学衛星については、第23号科学衛星(ASTRO-EII)、第17号科学衛星(LUNAR-A)を対象として総点検を進めているところである。
この総点検活動を進めている中で、今回、LUNAR-Aに関し、ペネトレータ(槍型の貫入体、地震計等を搭載)の技術開発について課題があることが判明したため、その総点検実施状況及び今後の対応方針を報告する。
なお、LUNAR-Aは、平成15年度末頃に衛星搭載の20Nスラスタ用推薬弁(米国MOOG社製)がリコール対象となったため、その改修の都合から平成16年夏期の打ち上げは見送ることとし、また、打ち上げ時期については、JAXAが実施する総点検活動の結果等を踏まえた上で再設定することとしていた。(平成16年3月31日宇宙開発委員会報告)。
2. LUNAR-Aの総点検実施状況について
総点検活動は、衛星ミッションの最低成功基準を確実にクリアする設計になっているか、またそのための開発・試験の体制がとられているか、という観点を中心に進めてきたが、その過程においてLUNAR-A母船(衛星本体)、キャリア(母船からの分離後ペネトレータを月面に打ち込む装置)及びペネトレータに対し軽重取り混ぜて複数の課題を抽出した。
このうち、母船、キャリアにおける要対策事項は、「のぞみ」事故の水平展開としての指摘が殆どで、その実行に困難はないと判断した。一方、ペネトレータに関しては以下のような技術的課題が判明した。
- ペネトレータと母船間の通信回線の成立性に関してマージンが不十分で、母船との通信時間を十分確保出来ない可能性があり、通信回線の強化が必要である。
- ペネトレータの月貫入時の耐衝撃性については目処が得られているものの、ミッションの確実性を向上させるため、搭載機器の作動にバックアップ等の処置を講じるべきである。
なお、平成15年11月に実施したペネトレータの貫入試験では、タイマーシーケンスに予定したイベントが飛ぶ可能性(予定した時刻に予定した事象が起きない可能性)が判明したが、現在までに原因が究明されておらず、総点検活動でも課題とされている。
上記の対策としては、通信方式の改善やペネトレータ搭載機器改良と複数回のペネトレータ貫入試験が必要であると判断されており、これらに要する期間は3年間程度と見込まれる。
3. 今後の対応方針
LUNAR-Aのペネトレータ技術は日本独自の発想であり、実現できれば比較的小型ミッションが中心となっている我が国の惑星探査において主要な探査手段となり得るものであり、また今後もミッションの意義そのものは変わらないと考える。
しかしながら、LUNAR-A計画開始以来13年を経た現在、ペネトレータ開発に更に約3年の歳月と更なる経費を必要とする状況は重大な事態と判断せざるを得ない。これまでの技術的判断及びプロジェクト運営に関する総括を行った上で、JAXAとして計画を見直し、今後の対応策を立案することとしたい。