プレスリリース

プリント

第26回宇宙ステーション利用計画ワークショップの開催結果について

平成16年9月15日

宇宙航空研究開発機構

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。


1.報告事項

 「第26回宇宙ステーション利用計画ワークショップ 〜宇宙開発の新たな展望とISS計画への期待〜」の開催結果の概要について報告する。

2.開催目的

 国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)計画に関して、ISS利用者と国民一般の理解を深め、ISS及び日本実験モジュール(JEM: Japanese Experiment Module/愛称:きぼう)の利用拡大・多様化を図るとともに、提案された意見を今後のISS/「きぼう」利用計画等に反映する。

3.開催概要
(1)日 程: 平成16年9月7日(火)、8日(水)
(2)場 所: 砂防会館 シェーンバッハ・サボー
(3)参加者: 宇宙環境利用に関係又は関心のある研究者、企業、一般の方を中心に、2日間で延べ580名が参加(1日目348名、2日目232名)。
(4)主催: 宇宙航空研究開発機構、 共催:文部科学省
(5)後援: 総務省、国土交通省
(6)その他: 講演資料と議事録は、整理した上で、国際宇宙環境利用研究データベース(http://idb.exst.jaxa.jp/)に掲載する予定。過去のワークショップ資料については、本データベースに掲載済み。
4.開催結果(プログラム
(1)1日目

  黒川国際宇宙ステーション・きぼう利用推進委員会委員長、及び木谷文部科学省大臣官房審議官より開会の挨拶が行われた。


(a) プログラム1(1): 我が国におけるISS計画をとりまく課題

 JAXA山元理事から、総合科学技術会議等で議論されている我が国におけるISS計画推進の方向性、有人宇宙開発の展望を報告するとともに、我が国におけるISS計画の課題について報告した。


(b) プログラム1(2): 米国の宇宙開発計画の現状と今後の展望

 NASA ISSプログラムサイエンティスト ドナルド トーマス氏(宇宙飛行士)から、米国の新宇宙探査ビジョンの概要、スペースシャトル飛行再開への取り組み、新ビジョンによるISS計画への影響について報告があった。米国においては、新ビジョンにより探査につながる領域への重点化が行われているとの発言があった。


(c) プログラム1(3): 各極におけるISS利用計画の現状と今後の展望

 ISS計画に参加している各国際パートナーから、ISS利用の現状と展望等について紹介され、またISS利用に向けての準備は順調に進んでいる旨報告された。特に、国際パートナーの中でアクティブに活動している欧州宇宙機関(ESA)より以下の報告があった。

  • 2001年以降既に5人の欧州宇宙飛行士がソユーズ・タクシーフライトを経験し、今後更に2005、2006年に同様の計画がある。
  • 利用面でも、NASAとの協力でISSでの早期利用実験を始め、ロシア・回収カプセル、小型ロケット実験、航空機実験、落下塔利用等、多様な手段による実験計画が目白押しである。
  • 第一世代の共通実験装置開発をほぼ終了し、第2世代の実験装置開発に着手。
  • 欧州実験棟(コロンバス)の運用に関し、欧州補給機(ATV)調達を含めた一括契約を欧州企業と既に締結。

(d) プログラム1(4): 我が国におけるISS計画と利用の現状

 JAXAから、「きぼう」の開発、運用準備、セントリフュージやHTVプロジェクトの現状を報告するとともに、ISS利用の現状と宇宙開発委員会報告を受けた利用の重点化、多様化、利用制度の見直し等について報告した。

(e) プログラム1(5): 我が国の有人宇宙計画のあり方

 日本学術会議会長であり、国際宇宙ステーション・きぼう利用推進委員会の委員長でもある黒川清氏と、日本の宇宙開発に関する著作の多いノンフィクション作家の松浦晋也氏のご両名による、我が国の有人宇宙計画のあり方についての対談が行われた。以下の話題を中心として、大学生をはじめとしたワークショップ参加者とのやり取りを交えて、討論が行われた。

  • ISS計画の遅延の原因に関する考察。競争相手の不在が原因か?
  • 科学技術の進展と戦争との関係について。
  • ビッグプロジェクトの成功の鍵とは何か。米国のリーダーシップについて。
  • 国際協力と国際競争の重要性について。
  • 宇宙開発と有人宇宙計画の意義と目的について。
  • アジア各国との連携など、国際協力を実施する1つのツールとしてISSを利用することの提言。
  • 巨大インフラ構築でなく、小型な宇宙機を短期に開発しアップグレードしていくような開発手法の必要性。ゆるやかな国際連携によるプロジェクトの柔軟性。
(f) プログラム1(6): 今後のISS利用計画における国際協力について(パネルディスカッション)

 プログラム1(1)〜(5)の報告を受けて、各国際パートナーの代表者をパネリストに迎え、国際協力の意義と有効性が各種実例をあげて発表され、今後のISS利用における国際協力については、以下のような提案がなされた。

  • ISS計画の成果のアピールとして、2001年に各国との協力で開催されたワークショップ:ISS Forum2001(2001年、独ベルリンで開催)のような場を再開すべき。
  • ISSに関連した教育活動や幅広い利用を推進すべき。
  • 会場から宇宙実験ニーズを実現するために国際的に協力できる仕組み構築や、わかりやすい情報発信への要望があった。
(2)2日目
(a) プログラム2(1):各利用分野における展望と期待

 以下の利用分野ごとに、ISS初期利用の重点化方針の紹介とともに、ISSの中長期的利用の展望について期待が述べられた。

  • (宇宙生命科学分野)初期利用において、宇宙ゲノム科学・行動科学・宇宙環境科学を重点化課題に設定した。今後の展望として、モデル生物からヒトへ、ゲノム科学をキーワードに進化・適応・多様性という生物にとって重要な課題を宇宙環境利用により明らかにしていく。
  • (微小重力科学)ISSでの初期利用は、基礎研究を目標とし、国際公募、一次選定テーマなど科学的に評価の高いテーマ群を含む高品質・高付加価値化結晶成長メカニズム研究が最優先課題とされた。また当該研究分野の特徴として、流体/燃焼研究等は、短時間微小重力実験(小型ロケット、航空機、落下棟等)も多くの成果が創出されており、重要である。更に、北海道地域振興の一環として、民間NPO(北海道宇宙科学技術創成センター)設立が紹介され、安価かつ頻繁な実験機会の確保を目標とした独自の小型ロケット開発計画等、意欲的な計画が実施されている。
  • (基礎科学分野)ISS利用としては、最も新しい分野ではあるものの、我が国には基礎物理・化学研究で世界的にも非常に優れた研究コミュニティがあり、まずは、非平衡複雑系ダイナミクス・極低温量子現象・臨界点ダイナミクスを重点化課題に設定し、宇宙実験計画の具体化進めることが報告された。
  • (宇宙医学分野)宇宙医学研究戦略として、長期宇宙滞在における医学的課題の解決を目的とする5つの重点分野(生理的対策・精神心理支援・放射線被曝管理・軌道上医療システム・船内環境衛生)を検討中である。
  • (応用利用分野)平成11年度から実施してきた『先導的応用化研究制度』を発展的に解消し、大学や独立行政法人に軸足を置いた新しい宇宙環境利用の応用利用制度を現在検討中であることが報告された。利用分野としては、タンパク質結晶生成並びに、ソフトマテリアルである。また、3次元フォトニック結晶生成プロジェクトの準備状況についても報告された。
  • (技術開発分野)ISSの中でも際立った特色をもつJEM曝露部を先端技術開発のテストベッドとして活用すべきと主張。そのためには多様な利用に対応可能なインフラとしてJAXAが多目的プラットフォームを準備して、宇宙機器の技術実証や、大型構造物組立等、将来の有人宇宙活動に必須な先端的な技術実証を行うべきとの報告があった。
  • (科学観測分野)初期利用テーマとして全天X線監視装置やサブミリ波リム放射サウンダーを準備中である。初期利用に続く利用テーマとして、公募地上研究制度により高エネルギー宇宙線観測や地球観測などの準備研究を進めてきたが、早期の宇宙実験テーマの募集選定が望まれていることから、曝露部を利用する研究の方針を早期に取りまとめる必要性が強調された。
  • (教育をはじめとする一般利用分野)「地球人として活躍できる人材の育成」「人類未来の開拓」「宇宙利用における新しい価値の創出」を本分野の目標として推進することが報告された。大学生のための航空機実験コンテストなどの教育プログラムの継続的実施や、教育現場との連携を目指した教育ワークショップの継続開催が求められている。今後は、組織や制度を整備し、これまで育ててきた芸術など分野にとらわれない様々なアイデアをもとに一般利用を推進していく必要性が述べられた。
(b) プログラム2(2):特別講演「おどろき空間・無重力」〜ISS滞在中に実践した楽しい理科実験〜

 ISS第6次滞在クルーであるNASAドナルド ペティ宇宙飛行士から、ISSの教育プログラムとして実施された興味深い各種実験と、ISSから撮影された示唆に富む数多くの写真が紹介された。さらに、会場のワークショップ参加者との活発な質疑応答がなされた。

(c) プログラム2(3):ISS/「きぼう」をどのように利用するか  〜宇宙環境利用の将来展望〜(パネルディスカッション)

 国内外の情勢報告と分野ごとの将来展望の報告を踏まえ、各利用分野の有識者をパネリストに迎え、「日本の宇宙環境利用はどこに向かうのか。そのためにISS/「きぼう」をどのように利用するのか」などについて、分野横断的な視点から議論を行った。以下の話題を中心として、会場のワークショップ参加者とのやり取りも交えて討論が行われた。

  • ISSを頂点とし、実験要求に合わせた多様な手段を組み合わせた機会の確保。
  • 成果の相乗作用を生む体系的総合的研究の推進。他分野への波及も考慮。
  • 日本が優位な科学、技術を活かした独自の研究の推進。
  • 宇宙利用の課題(時間、安全性、サービス支援)の解決。
  • ISS利用の十分な説明や資金削減に伴う利用拡大の困難さの主張が必要。探求することの重要性、子供の理科離れよりも大人の理科離れが問題。
  • ISSは科学と技術のフロンティアであり、日本の未来への投資。宇宙飛行士がいることが魅力である。
  • ISS計画が人類にとって、新たな学問領域の誕生、教育、創造性豊かな企業活動、更には新たな文化や芸術の創出に資する場として重要なプロジェクトであることを全ての国民と共有するためには、一般利用活動の推進が必須であると共に、効果的である。
  • 会場からは、政策担当や若者への発信の重要性、米国宇宙政策への対応に十分な検討が必要であることなどのコメントが出された。
5.まとめ

 本ワークショップでは、例年にない対談やISS宇宙飛行士の講演、米国の新宇宙探査ビジョンの報告により活発な議論が両日行われ、貴重なご意見を頂いた。
 本ワークショップで得られた参加者(ISS利用コミュニティー)からの意見は、「ISS・きぼう利用推進委員会」の場等を通じて、十分検討した上で、今後のISS利用推進方策の検討に反映させていきたい。また、「きぼう」の打上げを3年後に控え、より一層の利用拡大・多様化が進み、一般の方のISS・きぼうに対する理解が増進するワークショップとなるよう改善していきたいと考えている。




第26回宇宙ステーション利用計画ワークショッププログラム
〜宇宙開発の新たな展望とISS計画への期待〜

開催日: 平成16年9月7日(火)、8日(水)
会 場: 砂防会館 シェーンバッハ・砂防


■第1日目:9月7日 (火) 〜 国際宇宙ステーション(ISS)及び 「きぼう」 を取り巻く現状と新たな展開 〜
会 場所要時間1 F    大   会   場
10:00−10:10 10分 開会挨拶:
国際宇宙ステーション・きぼう利用推進委員会委員長 黒川 清
10:10−10:20 10分 挨拶 : 文部科学省 大臣官房審議官 木谷雅人
10:20−10:40 20分 【プログラム1:(1)我が国におけるISS計画をとりまく課題 】
山元孝二 理事(JAXA)
10:40−11:20 40分 【プログラム1:(2)米国の宇宙開発計画の現状と今後の展望 】
新宇宙政策、スペースシャトルの飛行再開計画など  Dr. Donald A. Thomas (NASA)
11:20−12:10
25分
【プログラム1:(3)各極におけるISS利用計画の現状と今後の展望】
(1)NASA  Dr. Donald A. Thomas(NASA)
(2)ESA  Dr. Martin U. Zell (ESA)
昼  食(12:10−13:30)
13:30−14:20
25分
(3)CSA  Dr. Nicole Buckley (CSA)
(4)FSA  Ms. Tatiana V. Vasilieva (FSA)
14:20−15:00 40分 【プログラム1:(4)我が国におけるISS計画と利用の現状 】  
白木邦明  国際宇宙ステーションプログラムマネージャ(JAXA)
吉冨進 宇宙環境利用センター長(JAXA)
休  憩・パネル展示解説 (15:00−15:20)
15:20−16:20 60分 【プログラム1:(5)我が国の有人宇宙計画のあり方】
・対談  
黒川  清 (国際宇宙ステーション・きぼう利用推進委員会委員長)X
松浦晋也 (ノンフィクション作家)
16:20−17:30 70分 【プログラム1:(6)今後のISS利用計画における国際協力について 】
・パネルディスカッション 
座長:吉冨 進 宇宙環境利用センター長(JAXA)
パネリスト:各極代表


■第2日目:9月8日(水) 〜各利用分野における国際宇宙ステーション(ISS)/「きぼう」利用の展望と期待〜
会 場所要時間1 F    大   会   場
9:30−11:35
25分
【プログラム2:(1)各利用分野における展望と期待 】
(1)宇宙生命科学分野
 発表:浅島 誠 教授 東京大学
(2)微小重力科学分野
 発表:
 竹内伸 教授 東京理科大学
 伊藤献一 専務理事 北海道宇宙科学技術創成センター
(3)基礎科学分野
 発表:北原和夫 教授 国際基督教大学
(4)宇宙医学分野
 発表:埜中征哉 国立精神・神経センター武蔵病院 名誉院長
(5)応用利用分野
 発表:澤岡 昭 学長 大同工業大学
昼  食(11:35−13:00)
13:30−14:15
25分
(6)技術開発分野
 発表:狼 嘉彰 教授 慶應義塾大学
(7)科学観測分野
 発表:海部宣男 国立天文台長 自然科学研究機構
(8)教育をはじめとする一般利用分野
 発表:高柳雄一 電気通信大学 教授
14:15−15:30 75分 【プログラム2:(2)特別講演 おどろき空間・無重力 】
 〜ISS滞在中に実践したたのしい理科実験〜
 ISS第6次滞在クルー Dr. Donald Pettit (NASA)
休  憩・パネル展示解説 (15:30−15:50)
15:50−17:30 90分





10分
【プログラム2:(3)ISS/「きぼう」をどのように利用するか〜宇宙環境利用の将来展望〜 】
・ パネルディスカッション
座長:清水順一郎 宇宙環境利用センター参事(JAXA)
パネリスト:各分野代表

閉会挨拶:
国際宇宙ステーション・きぼう利用推進委員会副委員長 海部 宣男



宇宙航空研究開発機構 広報部
TEL:03-6266-6413〜6417
FAX:03-6266-6910