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第5回ライフサイエンス国際公募宇宙実験候補テーマ選定結果

平成16年11月17日

宇宙航空研究開発機構

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。


1.ライフサイエンス国際公募について
(1)公募の目的及び第5回公募の特徴
  • 本制度について
    ライフサイエンス国際公募は、ライフサイエンス国際戦略会合に参加する各宇宙機関が国際宇宙ステーション等における科学的研究に係るフライトテーマを国際的に募集・選定するものであり、限られた実験装置及びリソースを効率的に利用し、最大限の科学的成果を得ることを目的としている。(参考資料1


  • 過去の公募の状況
    これまで4回の公募により、日本からは12テーマが選定され、現在はそのうち9テーマについて実験準備を継続しているが、国際宇宙ステーション計画の遅れ等により実験の実施には至っていない。各国とも似た状況にある。(参考資料2

  • 今回の公募の特徴
    このため今回の第5回国際公募は国際宇宙ステーションを利用する研究の成果を早期に上げることができるよう、米、欧の既存の国際宇宙ステーションリソースで2007年頃までに実施可能な実験を対象とし募集を行った。また、早期実施のため特定のモデル生物(植物、線虫等及びヒト)に限定した実験を募集することが事前に参加各機関で取り決められた。
2.ライフサイエンス国際公募について
(2)募集と選考の結果
  • 募集の結果、国内から植物3テーマ、線虫C. elegans 2テーマ、医学2テーマの合計7テーマの応募が有った。
  • 国際科学評価では、うち次表に示す5テーマが基準点を上回る評価を受けた。
    評価内容を確認し、JAXAとして上記5テーマを科学的に優位な提案として国際調整の場に推薦することとした。
  • 国際技術評価において、上記5テーマは、いずれも実施の困難度が低いと判断された。
  • 国際ライフサイエンス戦略会合・国際公募評価部会において、日本の推薦する5テーマについていずれも実験実現に向けて国際調整に入ることが合意された。
  • よって、次表に示す5テーマについてわが国の宇宙実験候補テーマリストに加え、選定の結果を提案者に通知する。
  • なお、各国の選定状況は参考資料3のとおり
表1 宇宙実験候補テーマ

第5回ライフサイエンス国際公募においてわが国の宇宙実験候補として選定されたテーマ一覧 
(テーマの内容紹介は参考資料4

生物種代表研究者提案テーマ名称利用装置・器具
植物
シロイヌナズナ
保尊隆享
(大阪市立大学)
植物の抗重力反応における微小管−原形質膜細胞壁連絡の役割 ESAの植物培養装置
(EMCS)
植物
シロイヌナズナ
西谷和彦
(東北大学)
微小重力環境下におけるシロイヌナズナの支持組織形成に関わる遺伝子群の逆遺伝学的解析 ESAの植物培養装置
(EMCS)
植物
シロイヌナズナ
高橋秀幸
(東北大学)
微小重力下における根の水分屈性とオーキシン制御遺伝子の発現
ESAの植物培養装置
(EMCS)
C.elegans 東谷篤志
(東北大学)
線虫C.elegansを用いた宇宙環境におけるRNAiとタンパク質リン酸化
NASAの線虫培養器具など
ヒト 松本俊夫
(徳島大学)
飛行前ゾレドロネート静注投与による宇宙飛行中の骨量減少・尿路結石の予防 なし
(宇宙飛行士の医学データを取得)
3.今後の予定など
今後の予定 
今回選定された宇宙実験候補テーマについては、今後の実験計画設定作業及び並行して行う実験実施機関(NASA及びESA)との国際調整を経た後、実験の実現性、リソースや準備計画等を評価しフライトテーマとして決定を行う。
その他
今回の公募テーマ選定作業にあたり、NASA以外の各機関はおおむね従来どおりに科学優先の考えに基づき行ったのに対して、NASAは自国のテーマについて科学評価を通過した29テーマのうち、基礎科学(植物、細胞、生命科学等)重視の17テーマを選定せず、米国の新宇宙政策で示されている有人探査ミッションに貢献するテーマを採択した。有人探査ミッションに貢献するテーマであれば、例えばJAXAの医学テーマのような他機関のテーマであっても積極的に共同参加を求めるが、基礎科学のテーマについては、採択しないケースが目立つなど、有人探査ミッションに貢献するテーマを重視する方針を明確に示した。



参考資料1


第5回ライフサイエンス国際公募の実施過程





参考資料2

ライフサイエンス国際公募のこれまでの実績

  日本の応募総数
(括弧内は国際応募総数)
日本のフライト候補テーマ選定数
(括弧内は国際選定総数)
第1回ライフサイエンス
国際公募(1997)
日本は不参加
第2回ライフサイエンス
国際公募(1998)
発出 1998. 6.1 39(165) 5(39)
応募締切 1998. 9.10
選定 1999. 4.25
第3回ライフサイエンス
国際公募(1999)
発出 1999 .8.31 25(112) 1(12)
応募締切 1999.11.22
選定 2000. 4.26
第4回ライフサイエンス
国際公募(2001)
発出 2001. 5.16 15(120) 6(24)
応募締切 2001. 8.20
選定 2002. 1.23
第5回ライフサイエンス
国際公募(2003)
発出 2004. 2.18 7(150) 5(37)
応募締切 2004. 4.23
選定 2004.11月

表2 これまでのライフサイエンス国際公募の時期と応募・選定状況



参考資料3

各国のテーマ選定状況

担当機関 応募テーマ数科学・技術評価を通過した
プロポーザル数
最終的に 選別した
フライト候補数
ESA 37 6 5
CSA 8 4 3
CNES 13 4 3
DLR 20 10 8
JAXA 7 5 5
NSUA 4 1 1
NASA 61 29 12
合計 150 59 37
表3  第5回ライフサイエンス国際公募における各国のテーマ選定状況



参考資料4

選定テーマの紹介

植物が陸上に進出し、茎と葉を基本構造とする植物の体制を進化させた過程では、1g 重力加速度に抗して植物体を支える装置(支持組織)の構築が不可欠であったと推測できる。以下の2テーマはそれぞれ別の観点から重力に対する植物の抵抗性の仕組みの解明を目指すものである。


保尊テーマ
概要
本提案では地上実験の結果から、植物の皮層細胞の微小管から細胞膜、細胞壁までの一連の構造体と重力感受の生理的反応が重量に対する抵抗性を担っているとの仮説を立て、シロイヌナズナの微小管や関連タンパク質、細胞膜のステロール合成に関わる突然変異体を用いた宇宙実験により重力抵抗のメカニズムを遺伝子レベルから明らかにし、またこの仮説を証明する。
西谷テーマ
概要
本提案ではシロイヌナズナの花茎の支持組織に関わる16の重力感受性遺伝子群を地上実験の結果から識別している。これら遺伝子群に着目し、植物の姿勢支持は重力シグナルによる正確な細胞壁関連遺伝子ファミリィの発現調整により達成されているという仮説を証明する。
高橋テーマ
概要
植物は重力屈性だけでなく水分屈性を示すこと、根が湿度勾配の感知によりその成長をガイドすること、また両反応にはオーキシンが関わっていることが明らかになっている。
宇宙実験により水分屈性と、重力屈性の反応を分けて解析することが可能になる。 根の水分屈性と重力屈性に関わるオーキシン誘導遺伝子を確認する。これにより2つの屈性の分子メカニズムを理解し、さらに微小重力下での植物栽培に水分屈性が利用できるかを検証する。
東谷テーマ
概要
ほぼすべての動植物に、特定の遺伝子を沈黙させることで有害な遺伝子から細胞を守ったり、正常な遺伝子の活動を調整する「RNA干渉(RNAi)」と呼ぶ仕組み備わっていることが近年明らかになってきている。 これは特定の遺伝の発現を抑制・妨害する機能として、線虫において見出され、その後、ヒトを含めた多くの真核生物においても、抗ウイルス機構や特定の発生プログラムなどでRNA干渉機構が機能していることが知られてきた。宇宙生命科学分野においてもヒトを含めたRNA干渉法の活用が想定されるが、未だ宇宙環境におけるRNA干渉効果の検証例はない。そこで、今回、初めての実験系をC.elegansを用いて構築し、微小重力でのRNA干渉の機能を検証するほか、宇宙環境がシグナル伝達を含めた蛋白質リン酸化の変動に及ぼす影響について明らかにする。
松本テーマ
概要
長期宇宙滞在で最も重要な医学的課題として骨量減少と尿路結石があり、これらの対策法を確立させる必要がある。我々は3ヶ月間のベッドレスト実験を3宇宙機関(JAXA、ESA、CNES)の共同研究として実施し、骨吸収抑制効果のある薬剤ビスフォスフォネートをあらかじめ静脈注射することにより、骨量維持(図参照) 、尿中カルシウム排泄量抑制、尿路結石形成防止効果が期待できることを確認した。
本研究では、閉経後骨粗鬆症における骨吸収抑制効果が1年持続することが証明されたゾレドロネート(ビスフォスフォネートの一種)を飛行前に静脈注射し、飛行前後の骨量、骨代謝マーカー、尿路結石関連項目を血液、尿などのサンプルから評価し、宇宙飛行における骨量の維持、尿路結石形成防止効果を検証する。


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