宇宙航空研究開発機構
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、一昨年のH-IIAロケット6号機等の一連の事故・トラブルを踏まえ、昨年6月、元NASA長官 ダニエル・S・ゴールディン氏を委員長とする標記外部諮問委員会をJAXA理事長の下に設置し、国内外の宇宙関係組織の運営の経験を有する有識者にご参集いただくとともに、中長期的な観点から、より確実な開発・打上げ・運用を実現する方策についてご助言をいただいて参りましたが、このたび、最終報告書がまとまり、本日、3月23日(水)にゴールディン委員長から立川理事長に報告されました。
報告書では、より確実な宇宙ミッションの達成、宇宙技術基盤の徹底的な強化、及び効果的・効率的な開発体制の整備、等に関して、21の所見がまとめられており(添付別紙参照)、今後の当機構の開発業務に具体的に反映していくことになります。
開発業務に係る外部諮問委員会(以下:委員会)は、2004年6月から2005年1月にかけての委員会会合を経て、この最終報告をとりまとめた。委員会は、ISAS、NASDA、NALの統合に関する課題、世界クラスの宇宙機関を目指すJAXAのビジョンについて、JAXAの経営者層がオープンかつ忌憚なき議論の場を提供したことに対し感謝を述べる。委員会は、日本の宇宙開発プログラムが他の宇宙先進国と比べても歴史的に成功してきたと認識している。
委員会は、JAXAがその活動の多くをプライム企業に移転していくことは、日本としての政策の問題であると認識している。JAXAは日本の指導者から重要な体制変革を求められ設立された新規設置組織であり、JAXAにはビジョンと戦略計画が必要だと信ずる。ビジョンと戦略計画は、JAXAの利害関係者と協力して作られねばならず、重要な国家ニーズをとりこんだ形で、利用可能なリソースの中で、短期・中期・長期の到達目標が設定されていなければならない。ビジョンと戦略計画は、JAXAが将来達成可能な目標と道程を識別するのを助ける重要なツールとなり、JAXAが新たな環境の中でミッションサクセスを協力して目指していくような「1つのJAXA(One JAXA)」文化を醸成するためのツールともなる。加えて、ビジョンと戦略計画は、JAXA経営層が日本にとって最優先のプロジェクトにリソースを配分する際の助けにもなる。JAXAは、継続的に職員の能力開発を行い過去の経験からその活動を改善していくことにより、ビジョンと戦略計画で設定された目標を達成するよう努めなければならない。さらにJAXAは、すべてのミッションについて、打上げが承認される前にはすべての潜在的な不具合に対応できているような、ミッションサクセス文化・オープンな文化を推進すべきである。
日本の民生宇宙技術の中核機関としての役割及び宇宙システムに係るプライム企業の「賢い顧客(Intelligent customer)」としての役割という2つの新たな役割を補完するため、JAXAは、(プロジェクトから)組織的に独立したシステムズエンジニアリング能力、安全・開発保証(S&MA)能力及び専門技術能力を、正式な形で持つべきである。これらの中枢組織(central organizations)は、プロジェクトチームに対し専門家を提供するとともに、世界クラスのツール、技術力、プロジェクトの手順、専門能力の開発・訓練を提供し、経営層のために独立評価を提供する。この体制により、プライム企業に対する検査・監督(oversight/insight)を行うのに必要なレベルの能力が強化され、追加で必要な技術能力が開発される。この新たな組織体制の追加構成要素は、厳格な、機関レベルの、公式・非公式なレビューである。これらには、すべてのプロジェクトの進捗状況をモニターする定期的な経営レベルのレビューを含む。この新体制を効果的に運営していくため、JAXAは、機関レベルの専門技術能力開発・訓練プログラムを策定・実施することにより、ミッションサクセスの達成に必要な技術力をもつ人材を確保すべきである。
委員会は、産業界・学界・日本国民など外部との関係に係る多数の事項について検討した。JAXAは、プライム企業と連携し、産業界に移管されたプロジェクトのミッションサクセスについてプライム企業が完全に責任を持てるよう、すべての制約をとりさらねばならない。この工程を推進するためには、資金の確約があり且つ段階的アプローチをとった詳細移行計画を作成し、これにJAXAと企業が合意することが重要である。移行計画により企業との役割分担を明確にする一方、JAXAは、日本政府との連携を強め、宇宙開発(Space Exploration)に対する政策決定者の理解と情熱を得るべきである。同様の施策が国民や民間の利害関係者に対して行われなければならず、それにより、日本国民の日常生活に対し宇宙開発が与える利益についても啓発すべきである。
委員会は、ロケット、科学衛星、応用衛星プログラムの活動についてレビューするため、何度かヒアリングを行った。委員会が確信したのは、JAXA職員が、決められたミッションと予算とスケジュールの制約のもとで非常なストレスに直面しているということである。委員会は、ミッションの達成目標と与えることのできるリソースに不整合がある場合には、当初のミッションサクセスクライテリア、予算あるいはスケジュールを変えるだけのフレキシビリティを与えることで本件に対応することを、JAXA経営層に対し強く求める。
委員会は、21の所見をとりまとめた。これらが適切に実施されれば、JAXAは、世界レベルの成果を得てミッションサクセスを顕著に達成することができるであろう。委員会は、調査審議活動を通じJAXAの経営層の能力とコミットメントに深い印象をうけ、新組織が世界クラスの位置づけを得られるであろうと確信を持っている。
所見1:
利害関係者の関心に対応し認められたリソース計画とも整合の取れた、共有された1つのビジョンと戦略計画を策定すること。
所見2:
独立した文化と組織を「One JAXA」へと成功裏に統合することは非常に困難なプロセスであるが、本プロセスに全ての経営層が積極的にコミットすることなくして、ミッションサクセスは達成されない。
所見3:
JAXAが優先順位付けを行い日本国民に最も大きな影響と利益があるプロジェクトに集中しない限り、予算の制約がある中で、ミッションサクセスは達成できないであろう。
所見4:
JAXAは、将来の指導者を見出して訓練し、常に職員の能力基盤を強化し、業務手順を日々改善することを文化規範とした、「学習する組織」になるべきである。
所見5:
JAXAは、機関内部並びに大学及び産業界のパートナとのサプライチェーン全体を通して、日本の宇宙開発計画の共通の利益のために、開かれた信頼の文化を引き続き構築すべきである。多くのビジネス成功例や技術ベンチャーを見るに、日本文化は伝統的にこの分野に優れている。
所見6:
JAXAが高いレベルにミッションサクセスを向上させるためには、システムズエンジニアリング組織(SEO)の設置を検討すべきである。SEOは、プロジェクトマネージャがより効果的に働けるよう追加の支援を行い、経営者が、開発中の課題についてオープンに議論できるような透明性を確保する。システムズエンジニアリングは、将来の産業界プライム環境への移行において、より重要になる。
所見7:
コスト効果のある方法で新しいミッションコンセプトを速やかに評価し、ライフサイクルを通じてプロジェクトを計画し、策定し、指導するために、JAXAはミッションデザインセンター方式の採用を検討すべきである。
所見8:
JAXAは、全てのプロジェクトについて、要求段階から打上げ・軌道上に至るすべてのフェーズで継続的に実施される、完全な独立評価検証プロセスを採用すべきである。
所見9:
JAXAは、理事長及び副理事長又はチーフエンジニアに直接報告する安全・開発保証組織を設置し、JAXA全体の強力な安全・開発保証機能を確実にすべきである。
所見10:
JAXAは、専門技術組織を設置すべきである。専門技術組織は、世界クラスの宇宙航空技術の専門家のコアを形成し、機関のプロジェクトに対しマトリクス支援を行い、機関のミッションのために技術開発を行う。この組織は、現在の総研本部から多くのエンジニアをあて、JAXA内外の他の組織からも専門技術者を取り込んで設置されることが考えられる。
所見11:
JAXAは全てのプロジェクトにおいて、それぞれのミッションで受容可能なレベルのリスクと投資額を識別するために、技術成熟度(TRL)評価の適用を検討すべきである。
所見12:
JAXAは、プログラムのライフサイクルにおいて、プログラムとプロジェクトのパフォーマンスの評価、潜在的な設計/テスト/運用段階の課題を評価するために、独立評価の実施を強調すべきである。
所見13:
JAXAは、プロジェクトのライフサイクルに亘って、プロジェクトの実績を独立評価し、設計、試験、運用に関する課題を識別するために、プロジェクトをオーバーサイトする委員会を設置すべきである。
所見14:
JAXAを「learning organization」へ進化させ、「One JAXA」技術能力集団としての力を発揮するために必要な人材を開発するために、経営層が積極的に関与した、革新的で適切な訓練プログラムを確立すべきである。
所見15:
JAXAは、プロジェクトマネージャが、JAXAのプロジェクトチームを主導するために必要なトレーニング、技能、経験を有していることを確実なものとするために、プロジェクトマネージャの認定手続きを設定すべきである。
所見16:
委員会は、計測可能なマイルストーンと明確な責任が伴う、詳細な、段階的な、資金が完全に調った移行計画が準備され、実際に移行がなされる以前に、順を追って全ての関係者から合意を得るべきであると信じる。
所見17:
委員会は、日本の将来の宇宙開発プログラムの共有化されたビジョンと共通の理解を確立するため、利害関係者及び政策決定者に対して、より多くの働きかけをすべきと示唆する。
所見18:
JAXAは、その衛星活動と地上のユーザー(国民及び民間企業)のニーズとの間を繋げる努力をすべきである。
所見19:
委員会は、JAXAが学会及び宇宙航空以外の産業界との関係を拡大することにより利益を得ることができると信ずる。
所見20:
JAXAは打上げ機会が少ないという環境に対応した、将来のロケットの構成への安定した手法を確立すべきである。
所見21:
委員会は、科学、応用衛星ミッションの互いの特殊性「one-of-a-kind」を理解しているが、革新的ペイロード技術により集中するために、あらゆる可能性のある部分において衛星のコア・モジュールやシステムズエンジニアリング活動を共有化することを提案する。
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