プレスリリース

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「はやぶさ」のリハーサル降下再試験について

平成17年11月10日

宇宙航空研究開発機構

本日17時に開催された記者説明会において、下記の資料が配布されました。



 第20号科学衛星「はやぶさ」は、すでにお知らせしているように、平成17年11月4日に、接近・降下に関わる諸機能の確認を目的に、リハーサル降下試験を実施しましたが、自律航法機能の出力に異常を検知したため、中止をしたところです。

 同リハーサルについては、検討の結果、画像の逐次処理において、複数のオブジェクトを認識してしまったことにより、処理能力を超えたことがわかりました。本件については、適切な設定を行うことで対処可能であることがわかりました。(資料1)また、リアクションホイールを失ったことにより、常時、ジェットによる姿勢制御を実施していますが、それに起因するばらつきの大きな並進加速度の外乱を受けることが避けられず、これに伴う軌道分散が非常に大きな量に達していたことも確認されました。これについては、事前に想定していた機上の自律機能だけでは回避することは難しく、地上からの補助を新たに導入する必要があることがわかりました。
 また、同リハーサルの降下中に撮影された高精細の画像によると、着陸・試料採取の第2候補点である「ウーメラ域」は、予想以上に多数の大きな岩石に覆われていることが判明し、着陸・試料採取には適当でないと判断するにいたりました。(資料2

 前回のリハーサル降下試験の後、11月9日に、航法誘導機能の確認を目的とした降下試験を実施いたしました。この試験は、上述の2つのメカニズムをあらためて確認することと、前回のリハーサル降下では試験を実施できなかった、近距離レーザ距離計とターゲットマーカの分離およびその画像処理と認識機能の確認を目的に、実施されたものです。降下は一旦高々度への上昇を隔てて2回にわたって実施され、最低到達高度は、それぞれ約70m、約500mでした。(資料3
 この降下試験によって以下の成果が得られています。

  • 画像の処理については、9日の試験では問題は発生せず、対処法が有効に機能したものと判断されます。
  • ジェットの噴射による並進加速度の外乱を補償する機能として、地上での画像を基にした補助的な航法機能があらたに導入され、有効に機能することが確認できました。
  • 近距離レーザ距離計についても、最低高度点付近において、その距離計測出力が確認されました。
  • 第2回目の降下点において、ターゲットマーカの分離を試み、正常に分離され、またフラッシュランプによる間欠撮影と、差画像によるターゲットマーカのみを抽出する画像処理機能、およびその座標情報が毎秒時適切に出力されたことも確認できました。
    なお、この9日の試験で分離されたターゲットマーカは署名入りではありません。また、同マーカは、小惑星表面には投下されませんでした。(資料4
  • 降下中に、着陸・試料採取の第1候補点に近い領域の高精細の撮影を行うことができ、「ミューゼス海」の表面状況を確認することができました。表面には、岩石が少なからず散見され、一定のリスクが依然存在しますが、同域がイトカワ上での唯一の着陸・試料採取可能な箇所であるとの判断にいたりました。(資料5

以上の主要な機能を確認できたと考えています。
 これらの検討と試験結果を得て、再度のリハーサル降下試験を11月12日に実施する予定です。12日の再リハーサルでは、9日に採られたのに近い降下経路を予定し、「ウーメラ域」上空を通過したのち、「ミューゼス海」への緩降下を試み、同域にミネルバ探査ロボットを投下する予定です。
 同再リハーサルの結果によりますが、その後は、
1. 11月19日に、署名入りターゲットマーカを用いて第1回目の着陸と試料採取、
2. 11月25日に、第2回目の着陸と試料採取を
試みる予定です。なお、着陸・試料採取候補点は、どちらも「ミューゼス海」を想定しており、第2回目を実施するか否かは第1回目までの結果をみて判断いたします。

 着陸・試料採取点は、ほぼ「ミューゼス海」に限定されることになりましたが、イトカワの自転と地球の自転との関係で、「ミューゼス海」が地球方向を向く時間帯は、日本からは可視時間帯の外であり、米国航空宇宙局(NASA) の深宇宙追跡局網をもちいた遠隔運用を想定しています。目下、同追跡局網との間で、確実な運用を確保すべく、継続して協議と調整を行っているところです。




資料 1 探査機で得られた画像の一例。
岩石や地形が多数の面積をもった小斑状に見える。(左)
得られた各オブジェクトの画心がかなり多数識別される。(右)





資料 2 リハーサル降下(11月4日)に得られた「ウーメラ域」表面画像
左図の右上赤線長が 10m 。
非常に密に大きな岩石が存在していることがわかる。





資料 3 誘導航法機能確認試験(11月9日)における高度変化
(赤:探査機の視線方向距離とイトカワまでの距離の差、
緑:レーザ高度計(LIDAR) の計測値。紫:イトカワ地形表面)
世界時1時(日本時間10時)時点で最小高度(約70m)、
折り返して世界時4時(日本時間13時)時点で再降下(約500m)




資料 4 放出されたターゲットマーカとイトカワ





資料 5 「ミューゼス海」の詳細表面(左)。赤線は 10m 長を示す。
左画像が撮影された領域(広角航法カメラ画像)。
衝(Opposition)点に「はやぶさ」の影が見える。



(参考) 航法誘導試験の降下中に撮影された画像。
(左)衝(Opposition)点と「はやぶさ」の影。
(右)最低高度点付近で撮影された、近接画像。「ウーメラ域」付近から。
最大の岩塊の大きさが約 20m 程度。



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