宇宙航空研究開発機構
独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と財団法人航空宇宙技術振興財団(JAST)は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の「戦略的国際科学技術協力推進事業」による日中共同プロジェクトとして、中国の武漢理工大学等と共同で「太陽光熱複合発電システム」の研究開発を2004年10月より進めています。
今回、2005年11月24日、25日に日中の関係機関が参集しワークショップを実施し、このシステムの設計目標値の確認や市場予測等が報告された他、以下の事項を決議しました。
・現在、宮城県利府町で行っている太陽光熱複合発電システム実証モデルの試験運転を2006年2月まで継続する。
・上記実証モデルを2006年4月より内モンゴル地区の砂漠地帯で1年間の耐久性試験を行い、順次無人運転に入る。
・実証モデルには日本製の熱電発電モジュールが使われているが、2006年7月にはこれを中国製モジュールへ切り替えて耐久試験を続け、低コスト化への道筋を付ける。
□太陽光熱複合発電システムの概要
この太陽光熱複合発電システムは、JAXAのSSPS(宇宙太陽光利用システム)※1研究から得たノウハウを生かし、可視光線に加え、一般的なソーラーシステムでは役に立たない(あるいは有害な)赤外線も利用するのが特徴です。レンズで集めた太陽光線を、可視光線は反射し赤外線は透過する特殊な鏡を使って分離し、可視光線は小型太陽電池で、赤外線は熱電発電※2モジュールで発電します(図1)。可視光線と赤外線の両方のエネルギーを用いることで、従来の太陽光発電に比べ約2倍の発電が可能です。さらに廃熱を利用した給湯が可能であり、発電と給湯を総合した太陽エネルギー利用効率は65%以上に達します。また、可動部分のないメンテナンスフリーの発電方式なので、砂漠地帯等での運用に適しています。現在は太陽光熱複合発電システムの実証モデルを製作、宮城県利府町にて世界で初めての実証実験を行っており、来年度にはこの実証モデルを中国・内モンゴル地区に移設し1年間の無人耐環境試験を実施する計画です。
□期待される成果
本システムは、中国の国家プロジェクトである「光明工程」※3の発電システムの有力な候補として、中国西部地区の無電化地域(約2,300万世帯が居住)への展開が期待されています。量産化が進み低コストが達成されれば、日本国内でも公共施設、集合住宅等への普及が期待できます。
※1 SSPS (Space Solar Power Systems)
SSPS(宇宙太陽光利用システム)とは、地上36,000kmの静止軌道に建設された宇宙セグメントと地上・海上セグメントで構成されています。宇宙セグメントでは太陽エネルギーを収集し、そのエネルギーを地上に効率的に送るために、マイクロ波またはレーザーに変換し、地上に伝送します。地上・海上セグメントでは、送られてくるマイクロ波またはレーザーを受けて、電力または水素に変換します。JAXAでは2030年頃の100万kW級SSPSの実用化を目指しています。
※2 熱電発電
熱電発電とは、金属や半導体などの電気を通す材料の両端に温度差を与えると電力が発生する「ゼーベック効果」と呼ぶ現象を利用した発電方法です。
より多くの電力を取り出すためには、熱から電気への変換効率の高い材料を作ることが重要な鍵となります。
※3 中国国家プロジェクト「光明工程」
中国西部には4億人を超える人々が居ますが、電力不足のために経済発展や住環境が阻害されています。しかし同地域においては、年間150MWh/ha程度の豊富な太陽エネルギーが得られることから、その有効活用が期待されています。
中国政府は、クリーンで環境指向型の高効率・低コストエネルギー変換技術を活用し、中国西部の広大かつ分散した地域に電力を供給することにより、持続可能な社会的発展を図り、内陸と沿岸地域間の経済格差の是正をはかる「光明工程」を実施しています。このプロジェクトの目的は辺境、辺鄙地区の一人当たりの発電容量を、100Wのレベルに達成することです。
太陽光熱複合発電システムは、光明工程プロジェクトの有力な発電システムの候補として期待されています。
宇宙航空研究開発機構 広報部
TEL:03-6266-6413〜6417
FAX:03-6266-6910