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「はやぶさ」探査機の状態について

平成17年12月14日

宇宙航空研究開発機構

 「はやぶさ」探査機は、燃料漏洩に起因するガスの噴出と推定される姿勢変動を生じたため、12月9日以来、運用ができない状態が続いており、現在、復旧作業を行っています。長期的には復旧できる可能性は比較的高いものと考えられますが、当初計画されていた2007年6月に地球に帰還させることは難しくなり、飛行を3年間延長して、2010年6月に帰還させる計画へと変更することとしました。

 12月8日、臼田局からの消感1時間半ほど前に、突然、受信レベルの低下とレンジレートの大きな変化が観測されました。観測されたレンジレートの大きさがゆっくりと減衰していることや受信レベルも緩やかに低下したことから、原因は、先日の燃料漏洩に起因したアウトガスの噴出に伴う姿勢異常が生じたものと推定されます。

 燃料の漏洩は、11月26日の離陸後、及び11月27日の消感後に発生したと推定されており、11月29日にビーコン受信が復旧して以来、探査機内各部の温度を上昇させ、発生しうるアウトガスを逐次排出するべく運用を行ってきました。指数関数的に発生する加速度が減衰してきたことから、理論どおりに排出されてきたと判断していたところです。

 探査機は、12月8日時点では、化学推進機関の復旧待ちの状態にあり、姿勢の安定化をはかるために、周期が6分ほどの緩やかなスピン状態に入れられていました。12月に入って緊急で運用に利用されていたキセノンスラスタによる姿勢制御能力は十分ではなく、加わった外乱トルクは、これをはるかに超えており、姿勢の発散を止めることができませんでした。現在の推定では、探査機は臨界ニューテーション角ないしそれを超える大きなコーニング運動に入ったものと考えられます。

 このため、「はやぶさ」探査機は、12月9日から地上の管制センターとの交信が行えない状況に入っています。解析によれば、復旧できる可能性は比較的高いものの、その復旧作業が順調に実施されて回線が復旧した場合でも、探査機内部の燃料漏洩に起因するアウトガスの更なる排出に、なおかなりの時間が必要であると考えられ、ただちに復旧しないかぎり、現時点での状況から判断して、今月いっぱいに地球帰還軌道に載せることは難しくなったと判断しています。この結果、2007年6月に地球に帰還させるスケジュールを3年間延期せざるを得ないと判断いたします。

 これにともない探査機の運用方針は、通常の運用モードから救出モードへの転換が必要になったと判断されます。救出運用は今後約1年間継続する予定です。この間に復旧できる確率は比較的高く、2007年初めまでに復旧できた場合は、その時点からイオンエンジンを運転して、2010年に地球帰還させる計画です。

 今後、新たな状況がわかり次第、お知らせいたします。



(補足) 「はやぶさ」探査機の救出運用について

 「はやぶさ」探査機は、受動的にも安定となるよう設計されており、現在のコーニング運動は、最終的には +Z 軸まわりの純スピン運動に収束していきます。12月8日に加わった外乱により、姿勢は偏向されているものと推定され、現時点では、通信回線と電力供給の両条件が常時は確保されていない可能性があります。

 「はやぶさ」探査機は、現在、ほぼイトカワに近い軌道上にあり、「はやぶさ」探査機のコーニング運動が収束した後には、太陽と地球に対する条件が同時に満たせるようになる可能性がかなり高いものと考えられます。今後、探査機との通信が復旧できる確率は比較的高く、継続して救出に向けた運用を行っていく方針です。探査機の姿勢と太陽角、通信距離などに関する検討結果の例を添付しました。(資料−1

 「はやぶさ」の軌道の不確定性を考慮しても、むこう半年から1年間の間は、臼田局のアンテナをイトカワに指向させることで、探査機をビーム幅内に捕捉できるはずで、この間に探査機を見失う可能性はごく少ないものと考えられます。

 「はやぶさ」探査機は、一旦全システムの電源系がダウンした場合であっても、決められた手順で再起動が可能であり、実際に11月29日にもこれを手順どおりに実施して、再捕捉に成功しているところです。

 探査機の軌道に関しては、2007年春までにイオンエンジンを再稼働させれば、2010年6月に地球に帰還させる飛行計画案が存在しており、この復旧運用案の実施に進むこととしました。(資料−2


 下図は、2007年3月までの間で、太陽と地球からの角度が復旧の条件を満たす+Z 軸姿勢方向の存在範囲を示したものです。かなり高い確率で、この条件を満たす姿勢方向が存在することがわかります。



2005年12月から2007年3月までに、
探査機姿勢が電力と通信条件を同時に満たす姿勢の範囲



 2007年の2月にイトカワ軌道からの完全な離脱を行い、地球に2010年の6月に帰還させる探査機軌道計画(案)(赤い線)を示します。帰還までの飛行時間が長くなるものの、現在の残キセノン薬量で飛行可能です。探査機の姿勢安定化をキセノンスラスタによる3軸安定化で行うかどうかなど、運用方法にはなお検討の余地があります。


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