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スクラムジェット燃焼器の委託飛行実験について

平成18年3月20日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、先進型宇宙輸送システムのエンジンとして有望なスクラムジェットエンジンに関する研究を、1987年以来進めてきました。この度、2006年3月28日(実験予備期間3月31日まで)に、オーストラリアのクイーンズランド大学に委託して、JAXAが独自に研究開発を進めてきたスクラムジェット燃焼器の飛行実験を実施致します。
 実験の目的は、JAXAが高温衝撃風洞による地上実験ベースで独自に研究開発を進めた改良型燃料噴射器(縦渦導入型燃料噴射器)を用いたスクラムジェット燃焼器の実飛行環境での試験データを取得し、地上実験データを評価することです。小型観測ロケットの先端にスクラムジェット燃焼器を搭載してマッハ8近くまで加速し、約6秒間燃焼試験を行い、燃焼器内の圧力分布データ等を取得します。
 この飛行実験は、JAXA長期ビジョンに掲げている将来の宇宙輸送機開発に役立てるとともに、今後の航空宇宙機開発に幅広く貢献することをねらったものです。


実験の委託先
オーストラリア クイーンズランド大学
実験場所
オーストラリア ウーメラ実験場
実施予定日
2006年3月28日 (予備期間 3月31日まで)
実験実施主体
オーストラリア クイーンズランド大学
JAXA担当部署
総合技術研究本部 複合推進研究グループ



補足資料

図1.ロケット先端に搭載するスクラムジェット燃焼器




図2.打ち上げ用ロケットと飛行シーケンス



用語解説

※1:スクラムジェットエンジン
 スクラムジェットとは超音速燃焼ラムジェット(Supersonic Combustion RAMJET : 縮めてスクラムジェット)のことで、およそマッハ4(音速の4倍)以上の高速で飛ぶ飛行機や先進型宇宙輸送システムに使用するエンジンとして研究が進められています。
 通常のジェットエンジンは取り入れた空気を多数の翼が付いた回転式の圧縮機で圧縮し、燃焼室に送り込んでいますが、飛行速度がマッハ3程度に達するとエンジンに流入する空気は下流方向に流路を狭めて行くだけの単純な構造により自分の勢いで圧縮されるようになり、複雑な構造の圧縮機は不要になります。このように空気の勢いを利用して圧縮する超音速飛行専用のジェットエンジンをラムジェットと呼びます。
 ラムジェットの中でも低速用のものは、エンジン内部の流れの速度をマッハ1以下(亜音速)にまで減速します。しかし、飛行速度がどんどん上がっていくと、吸い込んだ空気の温度や圧力が過大になり、エンジン性能が悪くなります。これを避けるために、マッハ4以上の飛行では空気をあまり減速・圧縮せず、エンジンの中でも音速より速い速度(超音速)のまま燃焼させるラムジェットを特にスクラムジェットと呼びます。

※2:縦渦導入型燃料噴射器
 スクラムジェットエンジンは、燃焼器でも気流を超音速に保ちつつ、0.5ミリ秒(5/10000秒)程度の極短時間に燃料と空気を混合し燃焼を行う必要があります。
 燃料と空気を混合させるには、空気の渦による乱流混合が最も合理的な方法で
 すが、超音速気流中では圧縮性の影響で渦(特に横渦:主流方向に垂直な回転軸を持つ渦)の成長が強く抑制されるため、燃料と空気の混合性能は著しく低下します。このため、超音速混合・燃焼の促進制御はスクラムジェットエンジン研究の最重要課題の一つであり、世界中で多くの研究開発が進められてきました。その中でも有望視されているのが縦渦(主流方向に平行な回転軸を持つ渦)を利用した超音速混合促進技術です。JAXAにおけるこれまでの研究で、縦渦は横渦に比べ超音速流中での生成と渦の大きさ、強さ、配置、回転方向等の制御が行いやすいことが明らかとなり、大規模かつ強力な縦渦を、より小さな損失で効率的かつ迅速に生成できる縦渦導入型燃料噴射器の研究開発が行われてきました。
 HyShot-IV飛行実験では、その中でも、壁面設置型の縦渦導入型燃料噴射器を搭載したスクラムジェット燃焼器について、実飛行環境下で燃焼実験を行い、超音速燃焼モードでの燃焼器データを取得します。


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