概要
独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)は、中期計画における知的基盤の充実に向けた取り組みの一環として、国産のロケットに用いられる材料の特性取得と信頼性向上を図り、宇宙関連材料強度データシートを発行した。
今回発行したのは、『No.10 アロイ718鋳造材の破壊靱性および高サイクル疲労特性データシート』および宇宙関連材料の破面写真集『No.F-1 Ti-5Al-2.5Sn ELI合金(φ180mm Billet)の破面』、『No.F-2 Ti-5Al-2.5Sn ELI合金(φ160mm Billet)の破面』である。
このプロジェクトは、物質・材料研究機構と、宇宙航空研究開発機構との連携で推進している。今後、ロケットに用いられる先進材料のアロイ718、銅合金、超合金等のデータシートの発行を予定している。
○発行内容について
今回発行したデータシートは、H-IIAロケットの液体酸素或いは液体水素ターボポンプに使用されている材料と同等の、ニッケル基超合金718(53Ni-19Cr-5Nb-3Mo-1Ti)(954℃溶体化材)の鋳造材の液体ヘリウム温度(4K)、液体水素温度(20K)、液体窒素温度(77K)、室温(293K)と高温(767K)にかけての引張特性、衝撃吸収エネルギー、破壊靭性および高サイクル疲労特性データシートおよび発行済みのデータシートNo.1とNo.3に掲載した全てのデータの試験片の破面を掲載した宇宙関連材料の破面写真集『No.F-1 Ti-5Al-2.5Sn ELI合金(φ180mm Billet)の破面』、『No.F-2 Ti-5Al-2.5Sn ELI合金(φ160mm Billet)の破面』である。破面集にはPDF化したファイルが記録されたCD-ROMが付加される。なお、今回発行する破面集は、国内に限定して配布される。
○波及効果について
液体ロケットエンジンの信頼性を向上させるためには、エンジンの過酷な環境(高温・高圧・極低温・熱衝撃・水素)での設計余裕を高い精度で把握して、設計の改良につなげるとともに、設計余裕を配慮した製造・検査の工程を設定する必要がある。既に得られたデータは、H-IIAロケットの第1段エンジンLE-7Aと第2段エンジンLE-5Bの設計評価やエンジンの動作条件の確認に使用され、H-IIAロケットの打上げに大きく寄与している。
今回のデータシートでも、国内で初めて公表する実際に使われる国産材料の液体水素温度を含む使用温度における諸特性を掲載している。
(参考情報)
1.宇宙関連材料強度データシート発行までの経緯
平成11年(1999年)11月のH-IIロケット8号機の打上げ失敗の事故調査において、破損の大きかった液体水素燃料ターボポンプやエンジンに実際に使われているチタン合金やニッケル基超合金の強度特性のデータが整備されておらず、主に米国航空宇宙局(NASA)や旧金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構)が発表していた同じ合金成分の材料の特性を参照していたことを踏まえて、実使用材料の特性を取得するために、データシートの整備を開始した。
平成12年(2000年)6月、H-IIAロケットに用いられる材料の強度特性データを緊急に取得するにあたり、液体ヘリウム温度(4K)における長時間疲労試験機を用いて、極低温におけるチタン合金などのデータ評価に実績のある旧金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構)に、旧宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)よりデータ整備が依頼された。今後、宇宙関連材料の強度特性データの整備を進める中で、単にデータを取得してロケットの設計に用いられるだけでなく、得たデータをデータシートとして公表することで、多くの人に材料が認知され役立つとともに、材料自体の信頼性が向上するという観点から、従来のデータシートの実績を踏まえて、データの整備とデータシートの準備が始まり、平成15年(2003年)2月にデータシートNo.0, 1および2を発行し、平成18年(2006年)3月までにデータシートNo.9を発行した。
2.データシートの連携体制
データシートの試験は、当初、旧金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構)と旧宇宙科学研究所、旧宇宙開発事業団、旧航空宇宙技術研究所の宇宙三機関(現宇宙航空研究開発機構)との連携の下で推進され、三機関統合後の現在は、物質・材料研究機構と宇宙航空研究開発機構を中心に実施されている。取得されたデータは、国内の材料関連メーカーの委員を含めた宇宙関連材料強度特性データ整備委員会において詳細に検討され、配布先を確認した後、破面写真データとともにデータシートとして公開している。また、データシートを集め、今回のような破面集を発行するとともに、資料集を今後発行する予定である。データシートは、液体水素中を含むデータのみならず、極低温試験技術についても情報を提供することから、得られるデータシートは強度設計者のみならず、協力する材料技術者にも有用なものと考えられる。
3.今後のデータシート発行予定
材料 | 発行時期 |
Co基超合金 |
2008/3 |
アロイ 718/銅合金接合材 |
2008/3 |
チタン合金の資料集 |
2008/12 |