プレスリリース

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北極海での海氷面積が観測史上最小に
-今後さらに予測モデルを大幅に上回る減少の見込み-

平成19年8月16日

海洋研究開発機構
宇宙航空研究開発機構

概要
 海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏、以下JAMSTEC)及び宇宙航空研究開発機構(理事長 立川敬二、以下JAXA)は、海洋・大気観測データ、衛星観測による海氷データを共同で解析した結果、北極海における海氷面積が、過去最小を記録した2005年夏を大幅に上回るペースで減少し、8月15日に1978年から開始された衛星観測史上最小となったことを確認しました。海氷の減少は、9月中旬まで続き、海氷面積はさらに大幅な減少となる見込みです。この海氷の減少は、IPCC第4次報告書で予測されている北極海での海氷の減少を大幅に上回るもので、このような観測と予測の大きな差は、予測モデルでは北極海で起こっている現象が十分に表現されていないことの現れであると考えられます。

内容
 JAXAが開発・運用している改良型高性能マイクロ波放射計AMSR-E(アムサー・イー)※1による海氷密接度の観測データ、可視画像を解析した結果、

  1. 7月以降、各月日の北極海での海氷面積の最小記録を継続して更新していること
  2. 8月以降シベリア沖に発生し停滞する低気圧の影響で海氷の減少が加速していること
  3. 8月15日北極海全域での海氷面積が観測史上最小になったこと
  4. このままのペースで減少が続けば、IPCCの予測を大幅に上回り、2040-2050年の予測値に達する可能性があることが判明しました。(図2図3

推定原因
 北極海でJAMSTECが現在実施している船舶観測データ、継続的に行っている漂流ブイ(JCAD、POPS※2)観測のデータ、大気データ等を総合的に解析した結果、本年の海氷減少を加速させている原因として、
  1. 本年は、アラスカ沿岸のみならず、カナダ側の北極海沿岸でも海氷の減少が確認されており、沿岸域からの摩擦を受けにくくなり大規模なスケールで海氷が動きやすい状態になっている。このため、沿岸付近で作られたばかりの脆く融けやすい氷が北緯80度を越えて北極海内部にまで広がったこと
  2. 北極海内部に広がった脆く融けやすい氷が早期に融解したことにより、太陽の日射を吸収することで、海洋の加熱が進み、さらに海氷減少が加速されていること
  3. 北極海から大西洋に放出される海氷が増加したため、北極海内部の海氷が減少したこと
 が推定されます。(図4

 なお、北極海の海氷密接度の最新画像および過去に観測された画像は、JAXAが米国アラスカ州立大学北極圏研究センター(IARC)に設置しているIARC-JAXA情報システム(IJIS)を利用した北極海海氷モニターwebページ上で日々更新を行い、公開しております。
(URL:http://www.ijis.iarc.uaf.edu/cgi-bin/seaice-monitor.cgi?lang=j

※1
AMSR-E(アムサー・イー):

米国地球観測衛星Aqua(アクア、2002年5月打上げ)に搭載された高性能マイクロ波放射計。地球から放射される微弱な電波を観測することで、海氷をはじめ、海面水温、水蒸気、降水などを昼夜の別なく天候にも左右されずに計測することが可能。現在、後継センサであるAMSR2(GCOM-W1に搭載)の開発を、2011年度の打上げを目指して計画中。

※2
J-CAD(JAMSTEC Compact Arctic Drifter):

水深250mまでの水温・塩分及び海流、北極海海氷上の気温、気圧等の自動観測を行うブイ。北極海氷に設置し海氷の漂流とともに広域の観測が可能。JAMSTECが独自開発し、2000年から2005年まで使用。2006年以降は、次世代のブイであるPOPSを展開。
POPS(Polar Ocean Profiling System):
北極海多年氷海域でアルゴフロートによる観測を可能にした観測システム。海氷に取り付けたプラットフォームからケーブルを吊り下げて、そのケーブルにアルゴフロートを取り付けている。アルゴフロートはこのケーブルに沿って上下し、水深10〜1,000mの間の水温・塩分観測を行う。


関連リンク
海洋研究開発機構 地球環境観測研究センター 北極海気候システムグループ
http://www.jamstec.go.jp/arctic/
宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター AMSR-Eホームページ
http://sharaku.eorc.jaxa.jp/AMSR/index_j.htm




図1.2007年8月6日、北極海を観測航海中のルイサンローラン号から見た北極海氷状況
(JAMSTEC 北極海気候システムグループ 伊東素代研究員撮影)


2005年9月22日(史上最小面積) 2006年9月14日


図2.AMSR-Eが捉えた最近2年間(2005、2006年)の年間最小時北極海の海氷状況と
2007年8月15 日の海氷状況 (赤枠内は、海氷融解域(図4参照)を示す)

2007年8月15日、過去最小を記録した2005年9月の分布よりも小さくなっており、
特に北米沖、東部シベリアの北方海域において、北極点方向に著しい海氷の後退が見られる。



図3.AMSR-Eが捉えた北極海海氷面積の推移(2002-2007年分)
2002年から2007年までの北極海の海氷面積の増減を折れ線グラフで示したもの。
今年は、6月までは2002-2006年と同じような面積の変動を示していが、
7月に入って以降、海氷面積がその日の最小記録を更新している。
8月15日に2005年9月に記録した最小面積を一ヶ月以上も早く更新した。
今後も減少は続き、本年の最小面積は大幅に記録を更新する見込み。



図4.海氷融解域(アラスカ沖:北緯73.5-76度、西経145-155度【図2の赤枠領域】)における
海洋表層水温と塩分の経年変化

表層海水温の温暖化が進行しつつあり、今夏の状態は、2000年以降最も高温である。また、高温化に伴う、海氷融解も進行しており、表層塩分の著しい低下(※)が観測された。
※海氷にはほとんど塩分が含まれない為、融解すれば、海洋の塩分が低下する。