宇宙航空研究開発機構
ロシア連邦宇宙局(FSA)によれば、今年4月から国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在していた第15次搭乗員2名、及びマレーシア人宇宙飛行士のシェイク・ムザファ・シュコア氏を乗せたソユーズ宇宙船(14S)が、以下のとおり無事帰還しましたので、お知らせいたします。
なお、JAXAの個人被ばく線量計Crew PADLES (クルーパドレス)とタンパク質結晶生成実験装置も搭乗員と共に帰還しました。
着陸日時: | 10月21日(日) 19時36分(日本時間) 10月21日(日) 16時36分(カザフスタン時間) |
着陸場所: | カザフスタン共和国 |
帰還した第15次搭乗員(宇宙滞在期間 約196日): | |
フョードル・ユールチキン(FSA) オレッグ・コトフ(FSA) |
|
備考1: | JAXAが開発した個人被ばく線量計Crew PADLES (クルーパドレス)を、シュコア宇宙飛行士が携帯し、飛行中の個人被ばく線量計測を行いました。このCrew PADLES(クルーパドレス)は、帰還後JAXA筑波宇宙センターで解析され、測定結果がマレーシア宇宙庁へ提供されます(詳細は、添付の参考資料をご参照ください。) |
備考2: | 今回帰還したタンパク質結晶生成実験装置は、平成19年8月3日にプログレス補給船(26P)にて打ち上げられたもので、28種類のタンパク質の結晶生成実験を行いました。 |
備考3: | ソユーズ宇宙船は軌道上での運用寿命があるため、定期的に新しいソユーズ宇宙船と交換する必要があります。今回着陸に使用したソユーズ宇宙船(14S)は、第15次搭乗員をISSに運んだ宇宙船です。 |
参考:個人被ばく線量計Crew PADLES(クルーパドレス)について
Crew PADLES(以下、クルーパドレス)は、宇宙飛行士に携帯させる個人被ばく線量計です。
2008年から日本の実験棟に搭乗する日本人宇宙飛行士も、このクルーパドレスを携帯します。
クルーパドレスには、メガネのレンズ素材であるプラスチック板状の飛跡検出器CR-39と熱蛍光線量計TLDの、2つの素子が使われています。これらの素子を組み合わせ、ポリカーボネート製のケースと、JAXAストラップを取り付け、宇宙飛行士が携帯しやすい形状になっています。打上げ前に線量計を準備・組み立てて搭載し、帰還後に地上で線量解析をします。
(左)クルーパドレス (右)621日間、国際宇宙ステーション ロシアサービスモジュールに搭載したCR-39。化学エッチングをすると写真のような放射線の通過した跡(飛跡)を目で見ることができる。この形状を測ることで、吸収線量や線エネルギー付与を算出することができる。 |
![]() |
*画像中央の四角の大きさは 0.1mm四方です。
|
宇宙放射線計測には、CR-39の搭載が必須とされてきましたが、光学顕微鏡を使った熟練を要する解析技術と、1枚あたり数ヶ月に及ぶ解析時間がネックとなっていました。そこで、JAXAは2000年から宇宙放射線計測技術のための高速・高精度・自動解析システムの開発をスタートさせ、放射線医学総合研究所、高エネルギー加速器研究機構の協力により、AUTO PADLES(オートパドレス)システムを完成しました。
AUTO PADLESシステムは、(1)〜(3)の優れた機能を持ち、1回の実験で使用した複数の線量計を帰還後2週間での解析・データ提供をすることが可能となりました。
(1) 従来の光学顕微鏡と比べて、500倍以上の高速画像の撮影ができる広領域高速画像取得顕微鏡(HSP-1000)
(2) CR-39の宇宙放射線による飛跡を自動的に認識して形状計測・データ処理をするソフトウェア
(3) (1)(2)の顕微鏡システムと連動した、宇宙放射線計測専用の解析処理機能を持つ高精度・自動線量計算システム
シュコア飛行士が飛行中に携帯したクルーパドレスも、AUTO PADLESシステムを使って解析されます。
JAXAは、国際宇宙ステーションに搭載予定の各国の宇宙放射線測定器の国際比較照射実験プロジェクト(Inter Comparison for Cosmic-ray Heavy Ion Beams At NIRS :Icchiban project)にも参加しています。この実験プロジェクトは、国際宇宙ステーションに搭載予定の各国の宇宙放射線測定器を、宇宙放射線環境を模擬した加速器を使って、検出器の校正・測定精度の相互比較をする地上照射実験です。この実験プロジェクトにおいて、クルーパドレスは、高い測定精度を評価されています。
また、クルーパドレスは、船外・船内活動中の宇宙飛行士の被ばく線量を高精度に評価するために、人体ファントム*1を船外曝露部に設置するマトリョーシカプロジェクト*2や、国際宇宙ステーション船内にあるクルーキャビンの宇宙放射線に対する遮蔽効果を研究するためのアルトクリスプロジェクト*3等、個人被ばく線量計測に関する多くの宇宙実験にも搭載されています。
*1宇宙飛行士の被ばく線量の評価をするために、平均的な成人男性を模擬した人形。人体の 組成に近い物質で作られている。
*2ドイツ航空宇宙研究所を代表研究者とする9カ国16機関が実施する国際協同宇宙実験。
*3イタリア核物理研究所を代表研究者とする国際協同宇宙実験。