プレスリリース

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韓国人宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する際の活動に関する
日本韓国間の協力について

平成20年1月17日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)及び韓国宇宙研究所(KARI)は、平成20年4月に国際宇宙ステーション(ISS)に初の韓国人宇宙飛行士として滞在するコ・サン氏のISS滞在期間中の活動について、協力を行うことになりましたのでお知らせいたします。宇宙飛行士に関する日韓協力はこれが初めてであり、JAXAとKARIは本日、ソウル市内で文部科学省と韓国科学技術部との間で開催された日韓局長級会合の席上、両機関による協力に正式に合意しました。

 具体的な協力内容は、以下のとおりです。

  1. JAXAが開発した個人被ばく線量計Crew PADLES(クルーパドレス)をコ・サン宇宙飛行士が携帯し、線量計測を行います。帰還後、JAXAが筑波宇宙センターで解析し、測定結果をKARIへ提供する予定です。なお、この個人被ばく線量計は、「きぼう」日本実験棟に搭乗する日本人宇宙飛行士が携帯する予定のものと同様のものです。


  2. JAXAが現在ISSに保有するハイビジョンカメラと小型ハイビジョン信号変換装置を使用し、教育、広報普及を目的とした映像の取得や将来の遠隔医療に向けた撮影実験を共同で実施する予定です。このハイビジョンカメラシステムは、JAXAと米国航空宇宙局(NASA)との協力により、平成19年10月にISSへ打ち上げられたものです。

 また、ISSに打上げ予定である日本実験棟「きぼう」共同利用に向けた検討(フィージビリティスタディ)についての協力についても正式に合意しました。


参考リンク:
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
http://iss.jaxa.jp/
韓国宇宙研究所(KARI)
http://www.kari.re.kr/



参考1:個人被ばく線量計Crew PADLES(クルーパドレス)について

 Crew PADLES(以下、クルーパドレス)は、宇宙飛行士に携帯させる個人被ばく線量計です。2008年から日本の実験棟「きぼう」に搭乗する日本人宇宙飛行士も、このクルーパドレスを携帯します。
 クルーパドレスには、メガネのレンズ素材であるプラスチック板状の飛跡検出器CR-39と熱蛍光線量計TLDの、2つの素子が使われています。これらの素子を組み合わせ、ポリカーボネート製のケースと、JAXAストラップを取り付け、宇宙飛行士が携帯しやすい形状になっています。打上げ前に線量計を準備・組み立てて搭載し、帰還後に地上で線量解析をします。


*画像中央の四角の大きさは 0.1mm四方です。
(左)クルーパドレス

(右)621日間、国際宇宙ステーション ロシアサービスモジュールに搭載したCR-39。化学エッチングをすると写真のような放射線の通過した跡(飛跡)を目で見ることができる。この形状を測ることで、吸収線量や線エネルギー付与を算出することができる。


 宇宙放射線計測には、CR-39の搭載が必須とされてきましたが、光学顕微鏡を使った熟練を要する解析技術と、1枚あたり数ヶ月に及ぶ解析時間がネックとなっていました。そこで、JAXAは2000年から宇宙放射線計測技術のための高速・高精度・自動解析システムの開発をスタートさせ、放射線医学総合研究所、高エネルギー加速器研究機構の協力により、AUTO PADLES(オートパドレス)システムを完成しました。
 AUTO PADLESシステムは、[1]〜[3]の優れた機能を持ち、1回の実験で使用した複数の線量計を帰還後2週間での解析・データ提供をすることが可能となりました。

[1] 従来の光学顕微鏡と比べて、500倍以上の高速画像の撮影ができる広領域高速画像取得顕微鏡(HSP-1000)
[2] CR-39の宇宙放射線による飛跡を自動的に認識して形状計測・データ処理をするソフトウェア
[3] 1、2の顕微鏡システムと連動した、宇宙放射線計測専用の解析処理機能を持つ高精度・自動線量計算システム

 本計測システムは、国際宇宙ステーションに搭載予定の各国の宇宙放射線測定器の校正・測定精度の相互比較をする地上加速器照射実験において、高い測定精度を評価されており、ISSでの国際共同宇宙実験にも提供されています。
 コ飛行士が飛行中に携帯するクルーパドレスも、AUTO PADLESシステムを使って解析する予定であり、昨年10月にISSに搭乗したマレーシア宇宙飛行士のシュコア宇宙飛行士もクルーパドレスを携帯し、飛行中の個人被ばく線量計測を行いました。

参考リンク:
PADLES (Passive Dosimeter for Life Science Experiments in Space):
ライフサイエンス宇宙実験のための受動積算型宇宙放射線計測技術
http://iss.jaxa.jp/kibo/kibomefc/srpds/index.html



参考2:ハイビジョンカメラシステムの概要

 今回使用されるハイビジョンカメラシステム(以下、HDTVシステム)は、ハイビジョンカメラ及び小型ハイビジョン信号変換装置により構成されたもので、NASAとの協力に基づき、平成19年10月のスペースシャトル「ディスカバリー号」でISSに搭載されたものです。

  1. HDTVシステムの特徴

    今回使用するHDTVシステムの特徴は以下のとおりです。

    a) 米国実験棟内でHDTV映像を録画可能
    b) NASA/ジョンソン宇宙センター(JSC)までリアルタイムダウンリンク可能
    c) NASA/JSCで録画された映像(電子ファイル)を日本へ転送(サーバ保存)*
    d) 日本のハイビジョンカメラ(市販品)を使用
    e) 撮影支援機器として、ハンドマイクを搭載

    * 日本(JAXA筑波宇宙センター)へのリアルタイム伝送は、国際回線の拡張後に実施可能となります。なお、将来的には同じシステムを「きぼう」に搭載する予定で、「きぼう」船外実験プラットフォームへの衛星間通信システム(ICS)取り付け後には日本の「こだま」を経由して、「きぼう」から直接筑波宇宙センターに伝送することが可能となります。



    小型ハイビジョン信号変換装置

    ハイビジョンカメラ
     


  2. KARIとの共同実験の概要
     コ宇宙飛行士は、ハイビジョンカメラを用いてJAXA/KARI双方の要望に応じた映像を撮影します。
     軌道上では、JAXAの要望により、将来の遠隔診断を目指した高精細度映像撮影に関する事前検証を行い、広報普及活動に利用する地球の映像を取得する予定です。またKARIの要望により、韓国人宇宙飛行士によるメッセージ及び教育目的の映像を撮影する予定です。
     これらの映像はJAXA/KARI双方が使用することができます。