プレスリリース

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宇宙船内用日常服の1J/Aミッション搭載について
―宇宙での快適生活を目指して―

平成20年2月22日

宇宙航空研究開発機構

  独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「宇宙への参加を容易にする仕組み」を実現する 施策のひとつとして、「宇宙オープンラボ制度」を2004年6月に開始し、現在25件の共同研究を実施 しております。その中のひとつである「近未来宇宙暮らしユニット」(*1)が開発した宇宙船内用 日常服(船内被服)が、1J/Aミッションに搭載され、軌道上にて土井飛行士が試着し、着心地を確認することになりました。

 近未来宇宙暮らしユニットでは、宇宙船内の生活環境を一層向上させ、心身共に健康を維持し快適 に過ごすために、温熱的快適性、清潔さの保持、動きやすさ、シルエットの美しさ、軽量コンパクト 化を素材開発の目的としています。宇宙船内での安全性要求を満たすとともに、保温・吸湿・吸水・ 速乾・抗菌・防臭・消臭・制電・防汚・皮膚への低刺激性(肌触りの良さ)を付与した着心地の良い宇宙仕様素材、ならびに、難燃性、ソフト性に優れた面ファスナー(マジックテープ®)を開発しました。
 また、衣服アイテムに応じた、日本独自の新しい縫い目の無い縫製技術開発を進め、ニット用と織 物用の2種の無縫製技術を開発しました。更に、宇宙船内の生活環境での心と身体の健康維持管理を支援する衣服を製作するため、運動による熱や水分の移動を考慮した素材を工夫するとともに、宇宙船内特有の中立姿勢に対応する衣服のカッティング技術を導入しました。

(*1)
「近未来宇宙暮らしユニット」は、日本女子大学 多屋淑子教授がリーダーとなり、従来宇宙開発に 関与していなかった民間企業や宇宙開発経験のある企業がそれぞれの技術力を合わせて、宇宙飛行士 が宇宙船内でより快適に生活できることを目標に、宇宙船内に必要とされる様々な機能を有する新しい船内被服を開発しています。ユニット参加企業は、株式会社ゴールドウインテクニカルセンター、 株式会社島精機製作所、クラレファスニング株式会社、東レ株式会社、有人宇宙システム株式会社です。



補足資料1

技術説明
1) ニット用、織物用の無縫製技術は、縫い代を必要としないために、軽量・コンパクトな衣服を製作することができます。また、縫い目が無いことから、縫い目による皮膚への刺激がありません。無縫製衣服は、身体にフィットし、様々な動作に対応して変形するため、シルエットが美しく、かつ、動きやすいという着心地の良さを特徴としています。下着、半ズボン以外の全アイテム(運動着上下、半袖・長袖ポロシャツ、長ズボン、靴下)に用いられています。

2) 宇宙仕様素材として、高いレベルでの消臭、抗菌防臭、制菌、有機物分解、制電性を併せ持つ素材の開発を行いました。素材にナノマトリックス加工技術を用い、単繊維の一本一本に光触媒粒子、抗菌剤、制電性を持つ機能樹脂を規則的に配列して付着させることにより、光触媒による汚れの分解、体臭の除去、防臭、抗菌剤による汗腐敗臭の防止、静電気抑制を両立させることに成功しました。今回は半ズボン、長ズボン素材に使用しています。

3) 宇宙船内特有の中立姿勢での下着の身体への適合性を向上させるため、体液移動による身体サイズの変化に伴う下着の身体への圧迫や拘束を軽減する宇宙仕様カッティング技術を開発しました。また、下着用素材には、制電性、抗菌機能、消臭機能、保温機能を付与し、皮膚への刺激の少ない肌触りの良い素材を開発しました。

4) 今回開発した面ファスナーは、PPS(ポリフェニレンサルファイド)素材のため従来品と比較して難燃性に優れています。本開発品の生産方式は、従来使用していた補強用としてのバックコート剤を使用しないため、CO2削減効果のある新しい生産方式です。環境有害物質を含まず、オフガスの点でも優れています。また、ソフトな風合いにより、動作時の違和感が少ない特徴があります。面ファスナーは半ズボン、長ズボンに使用されています。

捕捉資料2:JAXAオープンラボ近未来暮らしユニット 宇宙船内用日常服(船内被服)(PDF:127KB)