プレスリリース

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宇宙関連材料強度データシートの発行について

平成20年6月16日

独立行政法人 物質・材料研究機構
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構

概要
 独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)は、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(理事長:立川 敬二)と連携してH-IIA及びH-IIBロケットの信頼性向上を目的とした実使用材料の強度特性データ整備活動を推進しており、その成果の一つとして、宇宙関連材料強度データシート『No.11 コバルト基超合金アロイ188の高サイクル疲労特性データシート』を発行した。
 本活動は、物質・材料研究機構(以下、「NIMS」という。)の第二期中期計画(平成18年度〜平成22年度)における知的基盤の充実、及び宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」という。)の第二期中期計画(平成20年度〜平成24年度)における基幹ロケットの維持・発展に向けた取り組みの一環として進められており、これまでにチタン合金やニッケル基超合金の極低温における疲労メカニズムの解明等、多くの成果を創出してきた。
 今後、ロケットに用いられている銅合金、アルミ合金、ニッケル基超合金(一方向凝固材、溶接材)などのデータシートの発行を予定している。


【発行内容について】
 今回発行したデータシートは、H-IIA及びH-IIBロケットのエンジンに使用されている、コバルト基超合金アロイ188(40Co-22Cr-22Ni-14.5W-0.07La)の棒材に関するものである。このデータシートには、同合金の液体窒素温度(77 K)、室温(293 K)、高温(750 K)での引張特性データ、衝撃吸収エネルギー値、高サイクル疲労特性データ、ならびに金属組織写真、高サイクル疲労試験後の破面写真を掲載している。

【発行に伴う波及効果について】
 液体ロケットエンジンの信頼性を向上させるためには、エンジン運転時の過酷な環境下(高温・高圧、極低温、熱衝撃、水素)における強度余裕を高い精度で把握し、構造設計や製造・検査工程に反映する必要がある。今回発行したデータならびに既刊のデータは、H-IIAロケットの第1段エンジン(LE-7A)と第2段エンジン(LE-5B)の強度余裕評価や改良設計に使用され、打上げ成功に大きく寄与している。また、将来のロケットの研究・開発にも用いられる。



(参考情報)

1.宇宙関連材料強度データシート発行までの経緯
 平成11年11月のH-IIロケット8号機の打上げ失敗の調査において、原因となった液体水素ターボポンプやエンジンについて、設計する上で重要な材料特性データ(チタン合金やニッケル基超合金の極低温における強度特性データ)を、米国航空宇宙局(NASA)やNIMSが発表していた文献値に依存していたことが指摘された。
 このような状況を踏まえ、平成12年6月、宇宙開発事業団(現 JAXA)は、極低温における材料特性評価に実績のあるNIMSに協力を依頼し、H-IIAロケットの信頼性向上を目的とした実使用材料の強度特性データの整備を開始した。
 これにあたり、整備した強度特性データがさらに有効に活用されることを期待して、宇宙関連材料強度データシートとして発行することとした。これは、クリープデータシートや疲労データシートを発行する ことにより、多くの人に材料が認知・使用され材料自体の信頼性も向上してきたという、30年以上にわたるNIMSの実績を踏まえたものである。
 なお、宇宙関連材料強度データシートは平成15年2月からデータシートNo.0、1及び2の発行を開始し、平成19年3月にはデータシートNo.10、ならびに宇宙関連材料の破面写真集No.F-1、 F-2を発行した。

2.データシートの連携体制
 現在、強度特性データの整備活動は、NIMSとJAXAの連携により実施されている。
 取得したデータ及び破面写真は、国内のロケットエンジン関連メーカーや材料メーカーからの委員を含めた宇宙関連材料強度特性データ整備委員会において詳細に検討し、データシートとして発行している。今後はデータシートに加え、データ取得に使用した試験片の破面写真集や、取得データに関する検討内容をまとめた資料集も発行する予定である。
 データシートには、極低温(液体ヘリウム温度や液体水素温度)をはじめとした特殊環境下での試験技術についての情報も含まれているため、強度設計者のみならず、材料技術者の試験技術の発展にも有益である。

3.今後のデータシート発行予定

材 料発行時期
銅合金 平成21年3月
アルミ合金鋳造材 平成21年3月
アロイ718鍛造材の破面写真集 平成21年3月

 なお、NIMSでは、平成14年5月20日に認証を受けたISO9001“Quality management system”(JIS Q 9001「品質マネジメントシステム)に従い、データシート発行業務の運営を行っている。