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「第6回航空機による学生無重力実験コンテスト」
実施テーマの選定結果について

平成20年8月5日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、大学生等を対象に「第6回航空機による学生無重力実験コンテスト」の実験テーマ募集を行いました。有識者によるテーマ選定委員会で学生ならではの独創性や無重力環境を活かしているかなどの基準を踏まえて審査した結果、42テーマの提案から、下記のとおり5つのテーマを選定しましたので、お知らせします。
 小中学生を対象とした教材制作や造形芸術実験などの興味深い実験が本年12月頃に実施される予定です。取得された映像は、学校での授業素材としての活用も期待されます。なお、今回の研究提案書、過去の実験成果・体験談等は、以下のホームページをご覧ください。
 http://iss.jaxa.jp/education/parabolic/index.html


1.選定テーマ名
テーマ名 代表提案者
(代表提案者学校名)
無重力仮想宇宙空間における多孔質模擬天体衝突実験 瀬藤真人(神戸大学)
微小重力下における回転する球の軌跡の定量的考察 森川生(東京大学)
非ニュートン流体における造形的可能性について ジュリアン・キンテロ(筑波大学)
小中学校理科のためのビデオ教材の開発 伊藤智紗(東京学芸大学)
無重力状態の水中で、ピンポン玉と鉄球の位置関係が変わったらどうなるか? 関根絵美子(千葉大学)

2.今後の予定
平成20年8月〜11月  提案者による実験装置の製作・技術調整
平成20年12月  航空機実験の実施、データ解析、成果速報

(概要)
 本コンテストは、無重力実験への学生の参加を通じて、宇宙環境利用への理解・関心を深めると共に、将来の宇宙開発を担うべき人材の育成に寄与することを目的としています。
 航空機を放物線飛行させることで、機内には約20秒間の無重力(無重量)状態が作り出せます。学生自身で実験装置を製作して航空機に搭乗し、この無重力状態を利用した科学・技術・教育・芸術など様々な分野の実験を行います。

添付1:第6回コンテスト選定テーマ一覧
添付2:第5回コンテストまでの実施テーマ一覧



添付1

『 第6回コンテスト 選定テーマ一覧 』

区分 氏名/所属 チーム名 実験テーマ名 実験概要
自由 瀬藤真人/神戸大学 神戸大学 機動六課 スターズ分隊 無重力仮想宇宙空間における多孔質模擬天体衝突実験 太陽系の形成や惑星の進化の過程で重要な衝突現象を理解するための基礎データを得る。実験では模擬天体としてガラスビーズ(含SiO2)およびその焼結試料を使い、様々な速度の弾丸を試料に衝突させた時の形状変化を観察、解析する。
自由 森川生/東京大学 東大μGゼミ 微小重力下における回転する球の軌跡の定量的考察 無重力下で回転する球の軌跡を観察し、理論と比較することにより、回転に応じたマグナス力や空気抵抗の働き方を考察する。実験ではピンポン玉に初速と回転を与え、映像から軌跡を測定する。
自由 ジュリアン・キンテロ/筑波大学 ナティヤチーム 非ニュートン流体における造形的可能性について 予想不可能で有機的な動きを見せる非ニュートン流体に無重力下で振動を与えた時の動きをとらえ、新たな造形の可能性をさぐる。実験では非ニュートン流体として水に溶かしたコーンスターチを使い、スピーカーで振動を与えた時の流体の動きを撮影する。
課題 伊藤智紗/東京学芸大学 TGU E 小中学校理科のためのビデオ教材の開発 小中学校理科の映像教材を得るために、(1)自然対流伝熱と(2)水溶液の中和反応の界面を可視化する。
(1)の実験では液晶シートやサーモテープと水を接触させた時の変化を、(2)は酸とアルカリを無重力下で接触させた時の界面の変化を観察、撮影する。
課題 関根絵美子/千葉大学 Green's 無重力状態の水中で、ピンポン玉と鉄球の位置関係が変わったらどうなるか? 小中高生が浮力、重力の意味を考える教材となる映像を得る。実験では細長い透明容器に水とピンポン玉、鉄球を密封した装置を使い、無重力下で反転させた時のピンポン玉・鉄球の動きを観察、撮影する。


添付2

『 第5回コンテストまでの実施テーマ一覧 』


第1回コンテスト (平成14年度。4テーマ実施)

(1)実験テーマ:磁場と重力場における化学波動の伝播
提案者:
お茶の水女子大理学部化学科 中西奈美、他2名

テーマ概要:
常磁性のCo(II)EDTAが酸化され、反磁性のCo(III)EDATが生成される自触媒反応は、生成物の波(化学波動)が磁場の影響を受けることが確認されている。今回、微小重力を利用し、反応熱や密度勾配による対流を抑えた結果、磁場の影響のみが明瞭に観測された。その結果、本反応系は磁束密度のより低いところを自動的に見つけて空間を進行するということが明らかになった。これは、磁気エネルギーは熱エネルギーと比較して小さいと言う一般論とは異なる。

(2)実験テーマ:微小重力下におけるサカサナマズの前庭代償による背泳姿勢制御
提案者:
奈良県立医科大医学部耳鼻咽喉科 岡本譜史

テーマ概要:
前庭器官(姿勢制御に必要な器官)を片方摘出したサカサナマズと摘出しないサカサナマズ(正常固体)の姿勢を、パラボリックフライト中に比較した結果、片方の前庭器官摘出後も残った片側の前庭器官が姿勢を制御する”前庭代償”が確認できた。また、入射光への反応を観察、比較した結果、サカサナマズは微小重力中でも入射光に影響を受けない、特異な姿勢制御機能を持つことがわかった。しかし、“前庭代償”への重力効果を明らかにするには地上の擬似微小重力実験では限りがあり、宇宙での長時間微小重力実験が必要である。

(3)実験テーマ:人工重力下でのメダカの挙動解析実験
提案者:
東京大学教養学部理科?類 細居洋介、他4名

テーマ概要:
微小重力下において、メダカに地上でかかる重力とは異なる横方向に擬似重力(遠心力)をかけ、その時の水槽内でのメダカの位置を観察、解析することでメダカが感じる重力の範囲が0.21から0.26Gであることを明らかにした。また、メダカは遠心力がかかった条件下では、より重力の低い領域に集まる傾向があることがわかった。

(4)実験テーマ:温度勾配を有するワイヤ上の液滴の挙動観察(Wicking現象の観察)
提案者:
青山学院大学工学部機械工学科 宮田啓志、他1名

テーマ概要:
Wickingは、液滴が付着した表面の温度分布によって液滴内部に表面張力差が生じ、液滴全体が流動する現象であり、重力のある地上では観察し難い現象である。
本テーマでは加熱した銅パイプ表面のシリコンオイルを使い、密度差による動きが抑えられる微小重力条件下でWicking現象を観察した。実験で得られた画像から銅パイプの温度勾配、シリコンオイルの体積、移動速度などのデータを得、シリコンオイルの物性、液滴内部の対流について解析を行なった。


第2回コンテスト (平成16年度。6テーマ実施)

(1)実験テーマ:ミルククラウン形成に及ぼす重力加速度の影響
提案者:
東京都立科学技術大学 渡健介、他2名

テーマ概要:
シリコーンオイルを使い、微小重力環境におけるミルククラウン形成過程を観察した。得られた画像から液滴の衝突速度やクラウンの高さなどを抽出し、種々の無次元数で整理した。その結果、1Gと10-2Gではミルククラウン形成過程に若干の差異が認められたが、データ数が少なかったために、その要因を明確化できなかった。今後、実験装置を改良し、データ数の増加、データ取得精度の向上を図るとともに、データ整理方法を検討する。

(2)実験テーマ:重力変化時の血圧調節における前庭系のはたらき
提案者:
福井大学 粟津ちひろ、他2名

テーマ概要:
これまで、ラットの実験では、重力の受容器官である前庭系が血圧調節に関与していることが見出されている。
今回はヒトを対象とし、パラボリックフライト中にGVS(前庭系微弱電気刺激)を実施、心電図・血圧のデータを取得した。その結果、ヒトにおいても前庭系が重力変化に伴う血圧変化に関与していることが証明できた。今回の実験では、重力変化時の前庭系の役割について多くを考えさせられるものであった。

(3)実験テーマ:国際宇宙ステーションで着る新しい機能を持つ衣服設計のための実験
  〜微小重力環境下の水分移動挙動と形状変化〜
提案者:
日本女子大学 小川芽久美、他2名

テーマ概要:
衣服の素材を3種類準備し、それぞれの通気性について検証するとともに、衣服内環境および皮膚温を測定した。その結果、衣服材料によって形状変化挙動が異なること、重力変化に伴う皮膚音、衣服内温度に大きな変動は観察されないことなどが明らかになった。これらより、微小重力環境に適した衣服設計では生体の変化だけでなく、衣服形状の変化、衣服材料の構造特性・物性を考慮する必要がある。

(4)実験テーマ:微小重力下での磁性流体を用いた磁界解析実験
提案者:
東京大学 阿南隆史、他5名

テーマ概要:
磁性流体と電磁石を使い、地上と異なる磁性流体の挙動を観察するために実験を行なった。その結果、微小重力下では表面張力の影響が現われ、磁性流体のスパイクはより長く伸び、一本一本は丸みを帯びることがわかった。また、上下の電磁石の強さの組合せによって、磁性流体の様々な形状を観察できた。これは磁力の分布、磁力線の形状を可視的に示すものである。

(5)実験テーマ:微小重力環境における線香花火の火花の飛び方
提案者:
学習院大学 市村豊、他1名

テーマ概要:
パラボリックフライトを利用し、微小重力下における線香花火の飛び方を観察した。
その結果、微小重力状態では線香花火の火花が発生しないこと、重力が0Gから1.5Gに変化した直後に激しく火花が発生することが明らかになった。これは微小重力下では火球回りの空気対流が抑制され、火球への酸素供給量が変化したためである。

(6)実験テーマ:Sound Wave Sculpture II
提案者:
東京藝術大学 小野綾子、他1名

テーマ概要:
円筒筒内に衝撃LEDと鈴、ビーズ、羽毛などを封入し、微小重力条件下で正弦波を与えて造形表現を行った。その結果、地上では音波で動かせない物質の興味深い動きや美しさを記録できた。また、弱い音波で動かす方が美しく見える可能性があることを確認した。今回の実験結果を、無重力状態の新たな芸術表現への取組として広く紹介していく。


第3回コンテスト (平成17年度。6テーマ実施)

(1)実験テーマ:微小重力における毛管現象を用いた管内流体の挙動解析
提案者:
東京大学 青木翔平、他2名

テーマ概要:
断面形状の異なった種々の太さの毛管を扇状に配置し、微小重力下での水の到達距離、時間を計測した。実験では水溜から毛管にうまく水が入らず、予期していたデータをとることができなかった。これは、撥水コーティングが不完全だったことと、毛細管以外の場所に毛細管現象が起こる可能性を考慮していなかったことに起因する。しかし、地上では想像出来なかった現象が実際に観測された点は非常に興味深いものであった。微小重力の奥深さや魅力、そしてその可能性を垣間見ることができた。

(2)実験テーマ:無重力時の上下肢における酸素飽和度の比較・検討
提案者:
京都大学 山城丈、他2名

テーマ概要:
上肢、下肢の酸素飽和度を測定し、上肢と下肢の骨格筋や筋線維の萎縮の違いのメカニズムを知るために実験を行なった。その結果、無重力時には上肢 (腕) よりも下肢 (脚) において血流変動が顕著に生じることが明らかになった。しかし、下肢の酸素飽和度は、無重力への曝露中に下がり続けたわけではなかった。下肢における酸素不足や代謝の低下が下肢筋の萎縮の原因になるかどうかについては、さらに研究が必要である。

(3)実験テーマ:微小重力環境における霜の模様のパターン解析
提案者:
お茶の水女子大学 矢口たかね、他3名

テーマ概要:
微小重力および地上の1G条件下で冷却ノズル表面に霜を形成させ、その過程を観察、比較した。樹枝状に成長する霜の枝を一定時間カウントすることにより解析した結果、微小重力下では自然対流が抑制され、水蒸気の供給が止まるために、ほぼ霜の成長が止まることがわかった。拡散による成長は認められなかったが、より詳細に観察するためにはカメラの倍率を上げることが課題である。また、今回の観察により、霜の結晶が雪の結晶の樹枝状六花の一部に酷似していることも分かった。

(4)実験テーマ:Sound Wave Sculpture 3
提案者:
多摩美術大学 南波幸子、他14名

テーマ概要:
前回のSound Sculpture 2を踏まえ、ガラス管形状にU 字形、角ばったU字形を採用し、封入物に液体を加えるなど、装置を多様化させて実験を行った。今回は微小重力条件下での封入物の動きだけでなく、音楽的にも心地よいものを目指し、ある程度成功した。今後、装置をさらに改良し、「“音”と“動き”の相乗効果によって、視覚・聴覚の両面に訴えかける芸術作品」として完成させたい。

(5)実験テーマ:ぶつかれ青春〜粘性の異なる液滴同士の衝突
提案者:
北海道大学 大村益孝、他3名

テーマ概要:
無重力空間では液体同士が衝突した時に跳ね返ったり、質量の一部が移動する現象が見られる。この現象を観察するために無重力条件下で液滴同士を衝突させ、液滴挙動を撮影した。無重力環境下ではノズル先端に作った液滴をある速度で空間放出することも、20秒間で衝突実験を完了させることも困難であったが、液滴どうしの衝突の様子を実際に観察することができた。その結果、衝突速度が速いと必ずしも反発するのではなく、合体してしまう場合があることもわかった。

(6)実験テーマ:金魚を用いた微小重力下での前庭−眼球運動反射と心拍変動解析
提案者:
藤田保健衛生大学 江野佑子、他4名

テーマ概要:
耳石に重力がかからない場合の自律神経応答の変化、また、耳石が応答して生じる眼球運動と重力加速度の関係を調べるために実験を行なった。
実験は体長10~15cmの金魚を水槽中に固定し、パラボリックフライト中に心電図とエラ筋電図および眼球運動を計測・観察することにより行なった。その結果、金魚は考えられていた以上に加速度変動に敏感であることがわかった。これは魚類一般の特長である可能性がある。また、正常金魚と左側耳石器摘出金魚の眼球は異なることを確認した。


第4回コンテスト (平成18年度。5テーマ実施)

(1)実験テーマ:微小重力下における水と油の2重液塊の回転
提案者:
東京大学 荒井 俊哉、他6名

テーマ概要:
水と油を無重力状態にすると、水が容器の内側に移動し、ひとつの塊を作ることが知られている。この水塊を回転させた場合の挙動を観察・解析するためにパラボリックフライト実験を行なった。その結果、微小重力では地上よりも水塊が移動、変形しやすいことが分かった。これは、微小重力では地上よりも水塊の断面積が小さく、中心軸からずれやすくなっていること、容器の底との摩擦がないことが原因として挙げられる。回転数100(回/min.)の場合、地上では1つの水塊が微小重力では2つに分裂する一方、140(回/min.)では地上との違いは見られなかった。回転が速ければ、地上で実験を行ってもあまり重力の影響を受けないためと考えられる。

(2)実験テーマ:翔ベ!大きな夢とシャボン玉
提案者:
東北大学 平野 大地、他7名

テーマ概要:
シャボン玉の割れ方をはじめ、その形状、シャボン膜表面に見られる干渉縞、割れるまでの時間等が重力環境と微小重力環境でどのように変化するかを調べることを目的として、パラボリックフライト実験を行った。
その結果、微小重力環境では、シャボン玉はストローで発生する毛管引力によりストロー付近から割れはじめ、割れる時のシャボン玉の破断面が直線的にはならず不規則であることがわかった。また、均質な厚さになったシャボン玉の割れ方をハイスピードカメラで撮影したことにより、膜が層構造を形成していることがわかった。これらの現象は地上では重力によって隠されて観察できなかったものである。

(3)実験テーマ:無重力・微小重力空間における磁力造形
提案者:
筑波大学 溝口 昭彦、他2名

テーマ概要:
パラボリックフライト実験により、地上では視覚化の難しい立体的な磁界を小円盤で造形できた。また電磁石の位置、極の反転、電流スイッチの開閉で様々な形態ができることも確認できた。しかし、より意図的に造形するためには、パラボリックフライトのXY方向のGにも対応できる磁力強さ、安定した小円盤の発射装置の研究が必要である。
実験全体として、科学的な実験の形式をとりながら芸術的な要素を加味できたことも成果の1つである。時間軸の中で造形に動きや均衡などの変化をつけ、それに色彩や光の効果を付加することにより美術作品とする可能性を見いだせた。この結果は美術表現の場が拡大されたことを意味する。

(4)実験テーマ:加重力及び無重力時における上下肢の血流量の比較
提案者:
京都大学 松本 亜希子、他3名

テーマ概要:
微小重力条件下で生じる人間の上半身、下半身の筋萎縮の違いのメカニズムを明らかにすることを目的に、座位の被験者による航空機実験を行なった。測定項目は被験者の手指および足先の血流量、酸素飽和度である。
実験の結果、指の血流量は2Gでは減少、0Gと1.5Gでは変化しなかったが、足先の血流量はパラボリックフライト中、減少していた。また、指の酸素飽和度は0Gで増加したが、足先では減少した。したがって、指と足先で測定した血流量と酸素濃度のパターンは異なるという結論が得られた。足先の血流は微小重力で抑えられたと考えられる。

(5)実験テーマ:微小重力環境における「ロウソクの科学」
提案者:
学習院大学 渋谷 龍一、他4名

テーマ概要:
微小重力環境下では熱対流の消失に伴い、ロウソククの炎が球状になることが知られている。本研究は炎の形状変化を定量的に捉えることを目的にパラボリックフライト実験を行なった。
その結果、圧力によって炎の大きさの変化は見られなかった。また、炎の温度が低下するとともに、温度分布が重力下と異なることがわかった。いずれも、微小重力下では対流が抑えられ、酸素の供給が止まったことに起因すると考えられる。今回の実験では色と温度の検討が足りず、目的とする定量化には至らなかった。


第5回コンテスト (平成19年度。5テーマ実施)

(1)実験テーマ:ハエは重力を感知して飛んでいるのか?
提案者:
お茶の水女子大学 堀友香、他8名

テーマ概要:
微小重力および地上におけるハエ(Drosophila)の挙動を飛行時間、飛行方向、飛行速度、飛行方向の変化の4つの観点から解析した。
その結果、微小重力下のDrosophilaの方が長時間、ランダムに飛行し、飛行時間が長いなど、飛行パターンに明らかな違いが見られた。今回の実験により、Drosophilaの飛行に重力が関与していることは確かめられたが、長期微小重力の影響、重力の感知が後天的か先天的かなど、さらなる実験の余地がある。

(2)実験テーマ:ヒラメの行動と眼球運動
提案者:
藤田保健衛生大学 山田純也、他2名

テーマ概要:
フライトごとに行動観察用のヒラメ(体長10〜15cm)3匹、垂直眼球運動観察用1匹(体長20〜30cm)を搭載し、挙動観察および解析を行なった。
その結果、ヒラメは底と接触している体感覚が優位である(遊泳しない)が、重力加速度の変化に反応してローリングを示すことがあった。また、垂直眼球運動は左眼より右眼で顕著であった。ヒラメの場合、耳石器官が左右非対称であり、重力加速度の入力が左右の眼で異なると推定される。

(3)実験テーマ:微小重力下における濡れ性の違いの定性的観察
提案者:
東京大学 芳賀智亮、他5名

テーマ概要:
アクリルガラスに彫った溝の両側から水(界面活性剤を含む)およびシリコンオイルを移動させ、微小重力条件下で二液の接触挙動を観察した。
実験前、容器材との濡れ性の良いシリコンオイルが、水を押しのけて移動すると予想したが、実際はシリコンオイルが水を覆うような形状で安定した。既に水に濡れている面を、水をおしのけてシリコンオイルが濡らすことは困難であったためである。

(4)実験テーマ:テンプレートを用いた遷移金属ナノワイヤー電析における重力場の影響
提案者:
京都大学 大野恵、他2名

テーマ概要:
航空機による10-2から、遠心器による50Gの重力レベルで、PCフィルターをテンプレートとしてCuナノワイヤー配列を定電位電析させた。その結果、ナノワイヤー形態とナノポア内部及び外部の物質輸送過程のカップリング現象に、重力レベルが影響を及ぼすことが確認できた。また、パラボリックフライトによる10-2 Gでの実験は簡易的に重力場を制御したC/A配置と同様の結果をもたらすことも確認できた。
また、作用極に通常のNi平板に加えてNiナノワイヤー配列を採用し、1G及び10-2Gにおいて定電位で水電解を行った。これにより、発生した気泡の動きは重力レベルの時間変化に追随すること、気泡の電極からの離脱が緩慢な10-2Gでは、1Gよりも電流が小さくなることがわかった。ナノワイヤー電極は10-2Gにおいても平板電極よりも電流値が大きくなる。これはナノワイヤー電極が宇宙空間においても有用である可能性を示唆する。

(5)実験テーマ:水の電気的性質を利用した拡散・収束実験
提案者:
高松工業高等専門学校 舩城央、他2名

テーマ概要:
静電気により物体間に働く力を、わかりやすい影像として取得することを目的とした課題テーマである。
実験は、微小重力下でドライアイス、アトマイザ、シリンジを使って作った水滴を帯電導体により帯電、動きを観察することにより行なった。その結果、シリンジを使った場合には帯電した水滴が帯電導体に引き付けられる様子、反発する様子が観察できた。一方、ドライアイスで発生させた微細な水滴は電荷を蓄えることが困難であったために、引力・斥力による動きが観察できなかった。また、アトマイザ実験では撮影条件を整えることができず、画像が得られなかった。