プレスリリース

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宇宙関連材料強度データシートの発行について

平成21年6月4日

物質・材料研究機構
宇宙航空研究開発機構

概 要
 独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)は、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(理事長:立川 敬二)と連携してH-IIA及びH-IIBロケットの信頼性向上を目的とした実使用材料の強度特性データ整備活動を推進しており、その成果の一つとして、宇宙関連材料強度データシート『No.12 アルミニウム合金A356-T6鋳造材の破壊靭性および高サイクル疲労特性データシート』、『No.13 Cu-Cr-Zr合金の低サイクル疲労特性データシート』および宇宙関連材料の破面写真集『No.F-3 アロイ718鍛造材(φ165 mm billet)の破面』を発行した。
 本活動は、物質・材料研究機構(以下、「NIMS」という。)の第二期中期計画(平成18年度〜平成22年度)における知的基盤の充実、及び宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」という。)の第二期中期計画(平成20年度〜平成24年度)における基幹ロケットの維持・発展に向けた取り組みの一環として進められており、これまでにチタン合金やニッケル基超合金の極低温における疲労メカニズムの解明等、多くの成果を挙げてきた。
 今後、ロケットエンジンに用いられているニッケル基超合金(一方向凝固材、溶接材)やチタン合金のデータシートの発行を予定している。


【発行内容について】
  1. 宇宙関連材料強度データシート No.12
    このデータシートは、H-IIA及びH-IIBロケットのエンジンに使用されている、アルミニウム合金A356-T6鋳造材(Al-7.0Si-0.35Mg)に関するものである。液体水素温度(20 K)、液体窒素温度(77 K)、室温(293 K)での引張特性、破壊靭性、高サイクル疲労特性の各データ、ならびに金属組織写真、高サイクル疲労試験後の破面写真を掲載している。
  2. 宇宙関連材料強度データシート No.13
    このデータシートは、H-IIA及びH-IIBロケットのエンジンに使用されている、Cu-Cr-Zr合金鍛造材に関するものである。室温(293 K)、高温(773 K, 823 K, 923 K)での引張特性、クリープ破断寿命*、低サイクル疲労特性(三角波、引張保持*、圧縮保持*)の各データ、ならびに金属組織写真、低サイクル疲労試験後の破面写真を掲載している。
    *クリープ破断寿命と引張保持と圧縮保持の低サイクル疲労特性データは高温のみである。
  3. 宇宙関連材料の破面写真集 No.F-3
    この破面写真集は、H-IIA及びH-IIBロケットのエンジンに使用されている、アロイ718鍛造材(52.5Ni-19Cr-3.0Mo-5.1Nb-0.90Ti-0.50Al-19Fe)に関するものである。発行済みのデータシートNo. 5に掲載したデータの試験片(引張試験片、シャルピー衝撃試験片、破壊靭性試験片、高サイクル疲労試験片、き裂進展試験片*)の金属組織写真と破面写真を掲載している。なお、今回発行する破面写真集の配布は、国内の希望者に限定しており、破面写真集にはPDF化したファイルが記録されたCD-ROMが付加される。
    *き裂進展特性は、宇宙関連材料強度データシートNo.5に掲載されていないため、別途データシートとして発刊することを予定している。

【発行に伴う波及効果について】
液体ロケットエンジンの信頼性を向上させるためには、エンジン運転時の過酷な環境下(高温・高圧、極低温、熱衝撃、水素)における強度余裕を高い精度で把握し、構造設計や製造・検査工程に反映する必要がある。今回発行したデータならびに既刊のデータは、H-IIAロケット及びH-IIBロケットの第1段エンジン(LE-7A)と第2段エンジン(LE-5B-2)の強度余裕評価や改良設計に使用され、打上げ成功に大きく寄与している。また、将来のロケットの研究・開発にも用いられる。


(参考情報)
1.宇宙関連材料強度データシート発行までの経緯
 平成11年11月のH-IIロケット8号機の打上げ失敗の調査において、原因となった液体水素ターボポンプやエンジンについて、設計する上で重要な材料特性データ(チタン合金やニッケル基超合金の極低温における強度特性データ)を、米国航空宇宙局(NASA)やNIMSが発表していた文献値に依存していたことが指摘された。
このような状況を踏まえ、平成12年6月、宇宙開発事業団(現 JAXA)は、極低温における材料特性評価に実績のあるNIMSに協力を依頼し、H-IIAロケットの信頼性向上を目的とした実使用材料の強度特性データの整備を開始した。
 これにあたり、整備した強度特性データがさらに有効に活用されることを期待して、宇宙関連材料強度データシートとして発行することとした。これは、クリープデータシートや疲労データシートを発行することにより、多くの人に材料データの重要性が認知され、使用されてきた材料自体の信頼性も向上してきたという、30年以上にわたるNIMSの実績を踏まえたものである。
 なお、宇宙関連材料強度データシートは平成15年2月からデータシートNo.0、1及び2の発行を開始し、平成20年3月にはデータシートNo.11を発行した。また、平成21年3月19日には、NIMSが行った宇宙関連材料の研究成果がH-IIAロケットの信頼性向上やH-IIBロケットの開発に多大に貢献したことに対し、JAXAから感謝状が贈られた。

2.データシートの連携体制
 現在、強度特性データの整備活動は、NIMSとJAXAの連携により実施されている。
 取得したデータ及び破面写真は、国内のロケットエンジン関連メーカーや材料メーカーからの委員を含めた宇宙関連材料強度特性データ整備委員会において詳細に検討し、データシートや破面写真集として発行している。今後は、取得データに関する検討内容をまとめた資料集の発行も予定している。
 データシートには、極低温(液体ヘリウム温度や液体水素温度)をはじめとした特殊環境下での試験技術についての情報も含まれているため、強度設計者のみならず、材料技術者の試験技術の発展にも有益である。

3.今後のデータシート発行予定
材料発行時期
チタン合金(き裂進展特性) 平成22年3月
アロイ718鍛造材(き裂進展特性) 平成22年3月
ニッケル基超合金 一方向凝固材
(引張特性、高サイクル疲労特性)
平成22年3月

なお、NIMSでは、平成14年5月20日に認証を受けたISO9001“Quality management system”
(JIS Q 9001「品質マネジメントシステム)に従い、データシート発行業務の運営を行っている。