プレスリリース

プリント

「きぼう」船外実験プラットフォームに搭載された
全天X線監視装置(MAXI:マキシ)による
ファーストライト画像の撮影成功について

平成21年8月18日

宇宙航空研究開発機構
理化学研究所

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)および理化学研究所(RIKEN)は、平成21年8月15日(日本時間、以下同様)、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟 船外実験プラットフォームに設置されている全天X線監視装置(MAXI: Monitor of All-sky X-ray Image)によるファーストライト画像(最初の画像)の取得に成功しました (図-1)。


図-1 MAXIのガススリットカメラによるファーストライト画像


 この画像は、MAXI(別紙図-2)に搭載されているX線カメラのうち、ガススリットカメラ(GSC)(別紙図-3、4)を用いて、平成21年8月15日15時00分から同15日16時30分までの90分間(国際宇宙ステーション軌道1周分に相当)に撮影されたものです。
 露出時間や位置ずれの補正などの処理を行う前の画像ですが、主要なX線天体を観測できており、カメラが正常に働き、期待通りの性能であることが確認されました(別紙図-5)。
 この画像では、2キロ電子ボルトから10キロ電子ボルトにわたる広いX線のエネルギー範囲において、1周回でおよそ20-30ミリクラブ(1ミリクラブ: mCrabは、かに星雲のX線強度の1/1000という単位)の天体まで観測できており、予定の感度が達成できていることも確認できました。
 MAXIはこのような観測を繰り返すことにより、全天で1000個を越えるX線天体の1日から数か月にわたるX線の強度変化を90分に1回の間隔で監視し、いわばX線による全天の動画を撮影します。この時間の尺度で、クエーサーなどの銀河系外の活動天体を、MAXIほどの高感度(1ミリクラブ)で系統的にモニターするのは初めての試みです。
 また、今後、観測を重ねることにより、これまでの全天型のX線観測装置の10倍を超える感度に到達する見込みです。


【松岡勝 MAXIミッションチームリーダ(理化学研究所 名誉研究員) のコメント】

本日お見せした結果は、打上前にシミュレーション等で予想していたものとほぼ同じ結果が得られたわけで、大変喜んでおります。今年はMAXIの搭載が承認されてから13年目に入っていますが、ようやく国際的にも誇れる結果が出せる準備がほぼ整ったと言えます。この順調な第一歩を踏み出せたのは、これまでMAXIの開発で苦労をともにしてきた50名を超える大学・研究所の仲間たち、日本電気、明星電気他5社余りの企業でお世話になった多くの方々、そして「きぼう」に携わるJAXA、NASA、さらに企業も含めた多くの方々のご支援、ご協力の賜です。関係各位に深く感謝致します。今後は素晴らしい科学成果をだす責任を負って頑張って行く所存です。



別紙

 MAXIは、平成21年7月16日にスペースシャトル エンデバー号により打ち上げられ、同24日午前0時24分に若田飛行士らによるロボットアーム操作で「きぼう」船外実験プラットフォームに取り付けられ、8月3日より順次機器の立ち上げを行ってきました。今後、X線天体の観測データの蓄積を行うとともに、X線天体の位置やエネルギー強度を正確に決定するための較正処理作業を行い、本年11月末からの定常運用に向けて準備を進めています。9月末には長期間蓄積された観測データによる較正済みの最初の全天X線画像を公開する予定です。
 MAXIは平成9年4月に「きぼう」船外実験プラットフォームの初期利用テーマとして公募を行い理化学研究所から提案され、厳正な審査により採択されたミッションです。宇宙空間に直接さらされた環境で実験を行うことができる「きぼう」船外実験プラットフォームでこそ可能になります。MAXIの開発はJAXAや理化学研究所のほか、大阪大学、東京工業大学、青山学院大学、日本大学、および京都大学等の協力により進められてきました。
 MAXIでは、電力供給や姿勢制御、通信などの基本機能をISSに依存することができるため、従来より大型の検出器を搭載することが可能になり、その結果、天体が放出するX線をこれまでの全天監視型の観測装置より10倍高い感度で検出できます。MAXIは超新星やブラックホールと関わりの深いX線新星、γ線バーストなどの変動現象を世界中に速報し、光や電波などとの多波長による同時観測を促進します。さらに、変動する全天X線源のカタログを作成し、これまでに知られていなかった暗いブラックホールや中性子星などを検出するとともに、活動銀河など激動する宇宙の姿を明らかにすることを目指しています。MAXIは今後少なくとも2年にわたり「全天を見渡すX線の眼」として活躍することが国際的に期待されています。MAXIの成果をもとに、X線天文衛星「すざく」や、日本も参加しているスイフトγ線バースト衛星とフェルミγ線天文衛星、2013年打ち上げ予定のX線天文衛星ASTRO-Hといった詳細観測型のX線γ線天文台に緊急観測を要請するなど、協力して研究を進めます。


図-2  MAXIの外観
        


図-3 ガススリットカメラ(GSC)(図中のISS進行方向と天頂方向の青丸の部分)
 


図-4 MAXIによる全天観測の方法
ガススリットカメラは、国際宇宙ステーションの進行方向と天頂方向にそれぞれ1.5°×160°の円弧状の固定視野を持つため、国際宇宙ステーションが地球の周りを1周する毎(約90分毎)に図-1のような、ほぼ全天のX線天体の強度分布図が得られます。
 


図-5 MAXIのファーストライト画像に見られる主要なX線天体
X線の強弱を色で表しています。

<図-5の詳細解説>
  • この図は、全天を地球を取り囲む球になぞらえて、世界地図のように開いて描いた地図です。ただし、中央の水平軸は、赤道の代わりに銀河面(天の川)となっています。図の中心は銀河系の中心方向です。
  • 全部で 30個ほどのX線源がはっきり見えています。そのうち最も明るいのは、さそり座X-1という中性子星と小さな恒星の連星です。また、ブラックホール候補天体として最初に見つかったはくちょう座X−1やマイクロクエーサーとも呼ばれている高速ジェットも放出しているわし座のGRS1915+105、1054年に起きた超新星の残骸であるかに星雲も見えています。また、かに星雲の右上の暗いX線源は最近明るくなったトランジェント(変動)天体X0535+26も確認できます。いて座にある銀河系の中心の周りには、多くの明るいX線天体が密集しています。
  • MAXIの回転軸の両端には、カメラの視野外のため観測できない領域がありますが、この回転軸は少しずつずれていくので、10日もたてば穴は埋まることになります。なお、この穴の淵の明るい部分は雑音処理等がされていないためのものです。同様に、太陽も少しずつ天球上を動いていき、今回観測できないところも1カ月たてば観測可能になるので、9月末には最初の全天X線画像が得られます。