プレスリリース

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超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)による
デジタル・ディバイド地域における遠隔医療実証実験の実施結果について

平成22年12月1日

宇宙航空研究開発機構
東京都小笠原村

 宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)と東京都小笠原村(以下、小笠原村)は、超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)を使用し、小笠原村診療所と東京都立広尾病院(以下、広尾病院)を結んだ遠隔医療実証実験を実施し、成功しましたのでお知らせいたします。
 この実験により、高速通信回線のないデジタル・ディバイド(情報格差)地域との遠隔医療において、「きずな」による高速衛星通信が有効であることを実証しました。

1.実験概要
(1)実験日:平成22年11月30日(火)
(2)実験場所:小笠原村診療所、東京都立広尾病院
(3)実験項目
 本実験は以下の実験項目について、模擬患者、シミュレータを用いて実施しました。

  1. 複数の多発外傷患者発生時の初期救急対応
    小笠原村診療所より、放射線画像・エコー映像や外傷状況のハイビジョン映像を伝送し、広尾病院医師から初期救急対応のアドバイスや緊急性・治療の優先度判断を実施。(写真1参照)
  2. 症例カンファレンス
    小笠原村診療所医師の診断や治療に関して、放射線画像などの参照が可能となるハイビジョンTV会議を用いた広尾病院医師とのディスカッションを行い、治療方針を検討。
  3. 上部消化管内視鏡動画伝送による診断支援
    内視鏡検査映像を伝送し、広尾病院から診断や処置のアドバイスを実施。(写真2参照)
  4. 血液型判定のダブルチェック
    小笠原村で輸血が必要な救急患者が発生し、広尾病院から輸血製剤の飛行艇搬送を実施したケースを想定し、小笠原村診療所で血液型判定を行った判定用シャーレ画像をハイビジョン映像で伝送し、広尾病院においても検査誤認防止のためのダブルチェックを実施。
  5. 処置の技術指導(穿頭血腫ドレナージ(※1)、胸腔ドレーン挿入(※2))
    頭蓋内出血や緊張性気胸のため、飛行艇で本土へ搬送できないような重症患者に対して救急救命処置を行う際に、経験の浅い医師でも確実に施行できるよう、ハイビジョン映像を通じて広尾病院医師が小笠原村診療所医師に対して指示や処置の指導を実施。(写真3参照)

※1: 頭蓋内出血(急性硬膜外血腫など)により脳が圧迫され脳に異常をきたしそうなときに、頭蓋骨に穴を開け血腫を外に出して減圧し、救命すること。
※2: 肺表面が破れて空気が漏れ、肋骨と肺の間(胸腔)に空気が溜まり肺や心大血管を圧迫している(緊張性気胸)ときに、胸腔ドレーンを挿入し、空気の漏れを外に排除し呼吸ができるように処置すること。

2.実験結果
 小笠原村診療所と広尾病院の間での既存回線は64kbpsであり、「きずな」を使用することで合計24Mbps、3チャンネルの各種データを伝送することができました。内訳はハイビジョン映像(放射線画像など)が約12Mbps、内視鏡映像・エコーが約3Mbps、ハイビジョンTV会議が約9Mbpsです。これらについて安定した高速通信を行うことにより、緊急性のある処置を搬送前に安全に行うことができ患者の状態の改善につながる、現場で治療を完結できるようになり飛行艇搬送を減らすことができる、複数の医師の目を通すことでより正確さを増す、など非常に役立つことが実証されました。
 小笠原村診療所の医師からは、「とても1000km離れているとは思えず、専門外の処置においてリアルタイムに実技指導が仰げるのは助かる」、広尾病院の医師からは、「映像が非常に鮮明であり、放射線画像のフィルムの確認による診断や技術指導を行うことが充分に可能である」、「エコーや内視鏡の映像を、実際に小笠原で見ているものと同じ画質で見ることが出来るため、広尾病院からの処置指導により、これまで出来なかった現地での処置が出来る可能性が拡がる」というコメントがありました。専門医の後方支援を得られることで、救急救命患者の迅速で、かつ確実な治療につながるだけでなく、支援を得られる現地医師の安心につながることも実証しました。既存回線の“キロ”から「きずな」の“メガ”への高速通信を実現させることで、今後、医師不足に悩む離島や山間部など、デジタル・ディバイド地域での遠隔医療の発展が期待されます。




【実験概要図】


写真1:複数の多発外傷患者発生時の初期救急対応


写真2:上部消化管内視鏡動画伝送による診断支援


写真3:処置の技術指導(穿頭血腫ドレナージ)