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低ソニックブーム設計概念実証プロジェクト
第1フェーズ試験の実施結果について(速報)

平成23年5月19日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、スウェーデン宇宙公社の協力の下、5月7日、5月16日(現地時間)の2回にわたり 、スウェーデンエスレンジ実験場(ESRANGE SPACE CENTER)において、低ソニックブーム設計概念実証プロジェクト第1フェーズ試験(D-SEND#1:Drop test for Simplified Evaluation of Non-symmetrically Distributed sonic boom)を実施し、世界で初めて低ブーム軸対称形状の効果を気球落下実験で確認いたしました。

 ソニックブーム※1の低減技術は将来の超音速旅客機実現の最重要課題の1つと言われており、JAXAでは静粛超音速機技術の研究の一環として、ソニックブーム低減効果の検証と、試験により取得したデータによる、ソニックブームに関する国際的な環境基準策定への貢献を目的として、2つのフェーズからなる低ソニックブーム設計概念実証プロジェクト(D-SENDプロジェクト)を進めています。
 本試験は、その第1フェーズとして、2種類の軸対称形状※2の供試体を気球から超音速で落下させることにより発生させた、通常のソニックブーム及び低減されたソニックブームを計測し、低ブーム軸対称形状によるソニックブ―ムを半減させる技術実証に成功しました。
 今回の試験により取得した軸対称形状による計測データは、ソニックブーム推算法の検証用データとしての希少価値が高く、今後の低ソニックブーム研究への貢献が期待されます。また、今回の試験を通じて、気球落下試験による低ソニックブーム効果の実証方法も、初めて確立いたしました。

 今回の試験実施にご協力頂きましたスウェーデン宇宙公社及び関係各方面に、深甚の謝意を表します。


※1 超音速飛行時の機体から発せられる衝撃波が結合して、落雷にも似た爆音を発生する現象
※2 円錐形や円筒形に代表される形状

※本実験のより詳細につきましては、以下のJAXA航空プログラムグループホームページをご覧ください。
http://www.apg.jaxa.jp/



(参考)

1. 試験概要
 2種類の供試体([1]N型波形モデル(通常のソニックブーム波形を発生させる)、[2]低ブーム波形モデル(低減されたソニックブーム波形を発生させる))を高度20〜30kmから順番に落下させ、自由落下により超音速まで加速し発生したソニックブームを、空中ソニックブーム計測システム(JAXA開発)及び地上計測システムを用いて計測する。


試験全体概要図


落下させた供試体

実施場所:   スウェーデン宇宙公社(SSC) エスレンジ実験場(スウェーデン、キルナ市)
役割: (JAXA)ソニックブームの空中・地上計測
(SSC)実験用供試体の投下・空中計測用気球の運用


2. 試験状況
  1回目試験 2回目試験
放球時間 5月7日5:44(日本時間12:44) 5月16日5:30(日本時間12:30)
分離時間 5月7日7:02(日本時間14:02) 5月16日7:36(日本時間14:36)
分離高度 約21km 約27km
到達速度 約マッハ1.43 約マッハ1.7
分離地点 北緯68度19分, 東経21度29分 北緯68度4分, 東経21度1分


落下試験のLBMの分離後の高度と速度の履歴


放球準備中の様子
(1回目試験)

気球上昇中の様子
(1回目試験)


3. 計測結果
 以下に、上空500mに設置したマイクロフォンで計測した、大気圧からの圧力変動の時間履歴(圧力波形)を示します。


第1回目、2回目ともにN型波形モデル(NWM)からは、ソニックブーム特有のN型の波形がはっきり計測されています。一方低ブーム波形モデル(LBM)では、N型に比べ平坦になっており、ソニックブームが半減されることが実証されました。

4. 今後の予定
 今回得られたデータのより詳細なデータ解析を進め、本年11月の国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)※3の超音速タスクグループにて報告する予定。

※3 国際連合経済社会理事会の専門機関で、国際航空運送業務が機会均等主義に基づいて健全且つ経済的に運営されるように、国際航空運送業務等の条約の作成や国際航空運送に関する国際基準、勧告、ガイドラインの作成を行っている。