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米科学誌「サイエンス」における「はやぶさ」特別編集号の発行について

平成23年8月26日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、小惑星探査機「はやぶさ」搭載の帰還カプセルにより持ち帰られた、サンプル収納容器(※1)からの小惑星「イトカワ」の微粒子の採集とカタログ化を進めています。

 その一環として、サンプルキャッチャーA室から回収された微粒子の中で電子顕微鏡観察により岩石質と同定した微粒子の初期分析(※2)を実施中です。

 この度、初期分析の成果の一部が平成23年8月26日発行の米科学誌「サイエンス」において表紙を飾るとともに、6編の論文が掲載されました。

 これは、小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星「イトカワ」の近傍からの観測成果が平成18年6月に、太陽観測衛星「ひので」が平成19年12月に、月周回衛星「かぐや」が平成21年2月にそれぞれ特集され、表紙を飾って以来の画期的なことです。

 今回、米科学誌「サイエンス」に掲載された論文は以下の6編です。
1)小惑星イトカワの微粒子:S型小惑星と普通コンドライト隕石を直接結び付ける物的証拠
2)はやぶさ計画によりイトカワから回収された小惑星物質の酸素同位体組成
3)小惑星イトカワから回収された粒子の中性子放射化分析
4)はやぶさサンプルの3次元構造:イトカワレゴリスの起源と進化
5)イトカワ塵粒子の表面に観察された初期宇宙風化
6)ハヤブサ試料の希ガスからわかった、イトカワ表層物質の太陽風および宇宙線照射の歴史

※1 サンプル収納容器内部は、サンプルキャッチャーA室及びB室と呼ばれる2つの部屋に分かれています。
※2 初期分析とは、キュレーション作業(※3)の一環として、代表的なサンプル(試料)について、カタログ化(同定・分類・採番)に資する情報を得る為に行う分析のことです。
※3 キュレーション作業とは、サンプルの回収、保管、カタログ化、配分、及び、そのために必要な分析のことを指します。

【サイエンス8月26日号 表紙】

小惑星探査機「はやぶさ」が「イトカワ」より持ち帰った岩石質の微粒子(150ミクロン)。

参考リンク:

米科学誌「サイエンス」: http://www.sciencemag.org/magazine.dtl
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES−C):
http://www.jaxa.jp/projects/sas/muses_c/index_j.html
東北大学: http://www.sci.tohoku.ac.jp/hayabusa/
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2011/cate_press/
北海道大学: http://www.hokudai.ac.jp/
http://vigarano.ep.sci.hokudai.ac.jp/
首都大学東京:  http://www.tmu.ac.jp/
http://www.se.tmu.ac.jp/
大阪大学: http://astrogranma.ess.sci.osaka-u.ac.jp/
茨城大学: http://www.ibaraki.ac.jp/index.html
東京大学: http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/
http://www.eqchem.s.u-tokyo.ac.jp/



付録 「サイエンス」誌「はやぶさ」特別編集号 掲載論文とその要旨一覧



Author: Nakamura et al (Manuscript number: 1207758)
Itokawa dust particles: A direct link between S-type asteroids and ordinary chondrites
中村智樹(東北大)他
小惑星イトカワの微粒子:S型小惑星と普通コンドライト隕石を直接結び付ける物的証拠
【概要】
詳細な鉱物学的研究の結果、小惑星イトカワはLL4〜6コンドライト隕石に類似した物質でできていることが判明した。同時にイトカワの起源と形成過程に関する重要な知見が得られた。イトカワの母天体の大きさは現在の10倍以上と考えられ、中心部分の温度は約800℃まで上昇、その後、ゆっくりと冷えた。その後、大きな衝突現象が起き、再集積したのが現在のイトカワになった。

Author: Yurimoto et al (Manuscript number: 1207776)
Oxygen Isotopic Compositions of Asteroidal Materials Returned from Itokawa by the Hayabusa Mission
圦本尚義(北海道大)他
はやぶさ計画によりイトカワから回収された小惑星物質の酸素同位体組成
【概要】
酸素同位体組成分析により、分析した微粒子は地球とは異なる同位体比を持つことがわかり、地球外物質である事が明らかになった。この分析により、S型小惑星イトカワが、地球に落下する隕石の一種である平衡普通コンドライトのLLまたはLグループの供給源の1つである証拠が得られた。

Author: Ebihara et al (Manuscript number: 1207865)
Neutron Activation Analysis of a Particle Returned from Asteroid Itokawa
海老原充(首都大東京)他
小惑星イトカワから回収された粒子の中性子放射化分析
【概要】
中性子放射化分析の結果、重要な元素の含有量が求められ、太陽系最初期に起きた元素の分別過程を保存している事が判明した。

Author: Tsuchiyama et al (Manuscript number: 1207807)
Three-dimensional structure of Hayabusa sample: Origin and evolution of Itokawa regolith
土`山 明(大阪大)他
はやぶさサンプルの3次元構造:イトカワレゴリスの起源と進化
【概要】
X線マイクロCTにより分析した微粒子の3次元外形は小さな重力しか持たない小惑星のレゴリスの特徴を有しており、レゴリス粒子の起源や進化が読み取れること、また、内部構造と構成鉱物の比率から、LL5あるいはLL6コンドライトに類似した物質である事が分かった。

Author: Noguchi et al (Manuscript number: 1207794)
Incipient space weathering observed on the surface of Itokawa dust
野口高明(茨城大)他
イトカワ塵粒子の表面に観察された初期宇宙風化
【概要】
微粒子のごく表面付近を特別な電子顕微鏡で観察した結果、宇宙風化によって作られた特有の元素を含む鉄に富む超微粒子の存在が確認された。これは宇宙風化の直接的証拠であり、LLコンドライトが宇宙風化を受けると、S型スペクトルをもつようになる事が明らかにされた。

Author: Nagao et al (Manuscript number: 1207785)
Irradiation history of Itokawa regolith material deduced from noble gases in the Hayabusa samples
長尾敬介(東京大)他
ハヤブサ試料の希ガスからわかった、イトカワ表層物質の太陽風および宇宙線照射の歴史
【概要】
微粒子に含まれる太陽風起源希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン)の分析結果により、これら粒子がイトカワ表層起源であることを証明した。粒子が最表面に露出して太陽風に曝された期間は数百年から数千年である。一方、高エネルギー銀河宇宙線照射の影響は検出限界以下であることから、イトカワ表層物質が百万年に数十センチメートル以上の割合で宇宙空間に失われつつあることが分かった。