プレスリリース

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「きぼう」船外実験プラットフォーム利用ミッション
超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES:スマイルズ)による
観測データの一般向け公開開始について

平成24年3月5日

宇宙航空研究開発機構
情報通信研究機構(NICT)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と情報通信研究機構(NICT)が共同開発し、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟 船外実験プラットフォームに取り付けた超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES:スマイルズ)は、絶対温度4K(-269℃)に冷却した超伝導検出器によって、これまでにない高精度の大気観測のミッションを行いました。

 JAXAとNICTでは、SMILESの観測データの高い観測精度を実証するために、大気微量分子の導出精度を高めるための改良を進めるとともに、平成21年8月の研究公募によって選んだ研究グループのみに限定して、観測データの提供を行なってきました。

 このたび、データの観測精度の高さが確認でき、一般の利用者向けに観測データを公開しましたのでお知らせします。今回公開するデータは、SMILESにより観測された625〜650GHzの電磁波の強度を解析することによって得られた、地球大気のオゾン及び化学的に関連する塩素化合物など合計11種類の大気微量分子の高度分布です。このデータは、成層圏や下部中間圏における大気微量分子の化学的現象を精密に測定したものであり、オゾンホールに代表される成層圏オゾンの変動や地球温暖化など気候変動の解明に大きく貢献します。


例)公開データを加工して得られる大気成分の分布状況
【SMILESデータ公開サイト】
http://smiles.isas.jaxa.jp/access/indexj.shtml
※データのダウンロードについては、ユーザ登録制とさせていただいています。データの利用を希望する方は、お名前・ご所属・利用目的(100字程度の簡単な記述で結構です。)を記載した電子メールを、data-release@smiles.tksc.jaxa.jpあてに送信してください。折り返し、データのダウンロード方法等を、返信メールにてご連絡いたします。


<用語 解説>
【SMILESとは】
 SMILESは、極低温に冷却した超伝導検出器により、大気微量分子の放出する微弱なサブミリ波を計測する地球大気観測センサです。超伝導検出器を使うことで測定ノイズを極限まで抑え、装置の測定性能を向上させています。超伝導検出器を使っていない既存の衛星観測センサと比べて、一桁以上高い観測性能を発揮することや、従来は測定が困難とされていた分子種の精密な観測を実現しました。平成21年9月に「きぼう」船外実験プラットフォームに設置され、平成22年4月に装置内部の発振器が故障するまで、約6か月間にわたって地球大気の観測を行い、データを取得しました。



補足資料
  1. SMILESデータ公開サイト入口 (http://smiles.isas.jaxa.jp/access/indexe.shtml


  2. 個々の公開データの例 (最も単純に図式化したもの)

    塩素化合物(ClO)の濃度の高度分布(例)

    青色の線が、今回公開したSMILESの観測データに含まれる塩素化合物(ClO:一酸化塩素)の分布で、北緯32度・東経140度の日本付近上空での観測例を示します。比較のために、赤色の破線で、米国の地球観測衛星(Aura)のサブミリ波リムサウンダ(MLS)によって近い場所で観測された同じ物質の分布も示しています。それぞれの折れ線に付した横棒は、濃度の誤差を表します。(幅が狭いほど誤差が少ない、つまり、精度が高いことを示します。)SMILESの観測データは、米国地球観測衛星の観測データに比べて誤差が少なく、また、分布自体もジグザグでなく山型になっていることから、自然現象をより精度良く正確にとらえていると考えられます。


  3. 公開データを加工して得られる大気成分の分布状況

    2010年1月28日に観測された、北半球高緯度での成層圏オゾンの減少と、それに対応する塩素化合物の量の変化

    2010年1月28日に24分かけて、カナダ東岸沖上空から北欧上空を通り中国上空までを観測した例を示します(右上図)。左上、左下、右下の図は、それぞれ、この観測で得られた、オゾン、塩素化合物 (ClO:一酸化塩素)、塩素化合物 (HCl:塩化水素)の高さ方向の濃度分布を示しています。

    • 左上: 北緯60〜65度・東経20〜55度付近のヨーロッパ上空 約20〜25km(丸印で囲んだ部分)で、周囲よりもオゾンの量が少なくなっている(暗い色)ことが示されています。
    • 左下: 同じ地域・高度で、オゾンを化学的に破壊する塩素化合物(ClO)が、周囲より多くなっている(水色・黄色・赤色)ことが示されています。
    • 右下: 同じ地域・高度で、通常は塩素原子を安定な形で保持する化合物(HCl:塩化水素)が周囲より少なくなっている(青色)ことが示されています。
    • 右上: これらの図を描くのに使用した観測データをSMILESが取得した地点を示しています。丸印で囲んだ部分が、オゾンや塩素化合物の量が周囲より変化している地点を示します。

《一般利用者向けデータの主な仕様》
観測期間 2009年10月12日〜2010年4月21日
※ただし、国際宇宙ステーションの運用による制約その他の影響で、観測データのない期間が一部あります。
観測対象分子 オゾン(O3, 同位体3種)・塩素化合物(HCl、ClO、HOCl)・臭素化合物(BrO)・シアン化合物(CH3CN)・硝酸(HNO3)・水酸化合物(HO2)、合計11種類
観測対象高度 約20〜60km
※分子によって対象高度は異なります。
観測データ点数 1日あたり最大 約1600点
※観測点数は各種条件により変わります。


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