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宇宙線陽子の生成源を特定
―フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡による成果を「サイエンス」誌に発表―

平成25年2月15日

宇宙航空研究開発機構
京都大学
広島大学

 フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡を用いた観測によって、宇宙線陽子が超新星残骸で生成することの決定的な証拠が見つかりました。この発見は、米国科学誌「サイエンス」2月15日発行号に掲載されました。
 宇宙から地球にやってくる宇宙線(一次宇宙線)の大部分(90%)は陽子で、9%がヘリウムをはじめとする原子核(以下、陽子と原子核の成分を合わせて陽子成分と呼びます。)、そして、1%が電子です。一次宇宙線の大部分は、銀河系内の超新星の爆発に由来するのではないかと考えられてきましたが、観測的な裏付けはありませんでした。最近の観測によって、宇宙線の電子成分の源が超新星残骸であるということがようやく突き止められました。地球に降り注ぐ宇宙線の大部分を占める陽子成分についても、超新星残骸で生成されているという示唆はありましたが、決定的な証拠は得られていませんでした。
 この問題の解決には、高エネルギーガンマ線の観測が重要な役割を果たします。というのも、高エネルギーの陽子や原子核が周囲のガスと衝突すると「中性パイ中間子(*1)」が生成し、それがすぐに崩壊して特有なエネルギーのガンマ線を出すからです。超新星残骸からこの特徴的な放射が観測されれば、それは宇宙線の陽子成分が超新星残骸で生成することの決定的な証拠となるのです。
 フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡は、まさに、中性パイ中間子からの特徴的な放射が現れると予測されているエネルギー帯域に感度を持ちます。京都大学の田中孝明助教をはじめとするフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のチームは、ふたご座の方向にあるIC 443(図1)とわし座の方向にあるW44(図2)という2つの超新星残骸について、2008年の観測開始から2012年までの約4年間の観測データを解析しました。図3に得られたガンマ線スペクトルを示します。いずれの超新星残骸についても、低エネルギー側でエネルギーフラックスが急激に小さくなっており、中性パイ中間子が崩壊することによる放射であると結論付けることができました。1912年の発見から百余年、ついに宇宙線陽子の源が特定されたのです。この成果は、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のデータ解析方法の改良や較正の精度向上などが進んだことで、はじめて可能となりました。

*1 日本人初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹博士が存在を予言したパイ中間子の一種。

 フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡は、日本・アメリカ・フランス・イタリア・スウェーデンの国際協力によって開発され、2008年6月にNASAによって打ち上げられました。日本の研究機関では広島大学、JAXA、東京工業大学が開発に大きく貢献しました。約1000万電子ボルト以上の高エネルギーガンマ線に感度を持ち、全天をくまなくサーベイしています。

論文名:Detection of the Characteristic Pion-Decay Signature in Supernova Remnants

責任著者:田中孝明 (京都大学, 2012年4月まで米国スタンフォード大学)、内山泰伸 (米国 SLAC国立加速器研究所)、Stefan Funk (米国スタンフォード大学)

日本人共著者:高橋忠幸 (JAXA)、深沢泰司、大杉節、水野恒史、高橋弘充、大野雅功、花畑義隆、林克洋 (広島大学)、田島宏康 (名古屋大学)、片岡淳、中森健之(早稲田大学)、林田将明 (京都大学)、山崎了 (青山学院大学)、釜江常好、勝田隼一郎 (スタンフォード大学 & SLAC国立加速器研究所)

図1: 超新星残骸IC 443。マゼンタがフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡で得られたガンマ線画像。黄色が可視光。青、水色、緑、赤は赤外線で得られている画像。
(NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration, Tom Bash and John Fox/Adam Block/
NOAO/AURA/NSF, JPL-Caltech/UCLA)

図2: 超新星残骸W44の画像。マゼンタがガンマ線画像。黄色、赤、青はそれぞれ、電波、赤外線、X線で得られている画像。(NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration, NRAO/AUI, JPL-Caltech, ROSAT)

図3: 超新星残骸IC 443とW44のガンマ線スペクトル。黒い矢印で示されたエネルギーより低い側でエネルギーフラックスが急激に小さくなっている。これが中性パイ中間子が崩壊することによる放射の特徴である。(Ackermann et al. 2013 Scienceより転載。)