プレスリリース

プリント

熱伝導性耐熱絶縁材料を用いた
電動航空機用モーターコイルの開発について

平成25年5月14日

日本化薬株式会社
宇宙航空研究開発機構

 日本化薬株式会社(以下、「日本化薬」)と宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」)は熱伝導性耐熱絶縁材料を用いて、この度電動航空機の実用化に不可欠な、最大出力を従来の2倍以上の時間維持できるモーターコイルの開発に成功しました。

 JAXAでは、将来の航空機に求められる有望な航空技術の一つとして、従来より電動航空機の研究開発を進めています。電動航空機を効率よく離陸させるためには、離陸する数分間、最大出力を維持することが重要ですが、これまでのモーターは温度上昇によるコイルの焼損を防ぐために最大出力を長時間維持することはできず、モーターシステムを大型化し出力を制限したり、水冷システムを導入するなどの対策により必要な出力を確保していました。このためJAXAでは、小型で高性能な電動航空機用モーター実現のため、モーターコイルに塗布することで、熱伝導を促進しながらも、絶縁性と強度を持った塗料を求めていました。
 一方、日本化薬では、反応性ポリアミド樹脂をベースに用いることにより、250℃の高温まで使用でき、高い熱伝導性と高い接着性を有する熱伝導性耐熱絶縁材料を開発していました。日本化薬とJAXAは平成23年度より共同研究を開始し、日本化薬は熱伝導性耐熱絶縁材料の電動航空機用モーターコイルへの適用を、JAXAはこのモーターの試験及び評価を行った結果、最大出力で動作できる時間が従来の2倍以上で、最大効率も約1%向上させたモーターコイルの開発に成功しました。

 従来より大出力のモーターシステムを実現することができ、また従来と同程度の出力に抑えればシステムの軽量化も可能とする本技術は、航空機だけでなく今後さらなる高出力モーターが必要となるであろう大型自動車等様々な電動産業機器への応用が期待されるものです。



参考

熱伝導性耐熱絶縁材料を用いた電動航空機用モーターコイルについて


 従来のモーターでは、その中のコイルにおける銅損(電気抵抗で失われる電気エネルギー)が、モーター全体のエネルギーの損失の大きな部分を占めています。コイルは冷却が困難な部分に密集して設置されており、通電に伴う温度上昇で、電気抵抗も大きくなり電流が流れづらくなるため、モーターの最大出力が低下すると共にコイルの焼損を招くことから、コイルの温度上昇を抑制することはモーターの最大出力を維持する上で重要な課題でした。このため従来のモーターは、運転時間や最大出力を制限したり、システムを大型化したり、あるいは水冷システムを導入するなどの対策が必要でした。
 電気自動車用モーターでは30秒程度最大出力を維持することができる性能があれば実用的に十分でしたが、電動航空機用モーターでは滑走路から離陸する際の2〜5分間程度最大出力を維持することが求められるため、より耐熱性の高い絶縁材料と高い放熱性能が必要でした。
 今回用いた新材料は、日本化薬が独自開発した反応性ポリアミド樹脂をベースに用いることにより、250℃の高温まで使用することができる上、高い熱伝導性と高い接着性を有します。また加工においては、液状の前駆体を塗布した後に100〜150℃の熱処理で被覆加工できるため、鉄心−モータ筐体間の接着と同時に鉄心とステータを同時に被覆・接着加工ができるため、大幅に工程を削減できます。

 新材料を使用したモーターと従来の絶縁材料を使用したモーターを、JAXAで性能解析した結果を(別添)に示します。
 図1よりコイルの温度上限に達する時間が、従来より2倍以上と大幅に伸びており、試験後も被覆に変化は認められず、絶縁性の確保と強固な接着性の維持が確認できました。また図2より各出力におけるコイル温度が低下し、銅損を低減しています。この結果、表1に示すようにモーターの最大効率を約1%も向上させることに成功しました。

 本技術は、電動航空機に限らずモーターシステムを必要とする様々な電動機器、例えばバスやトラックなどより高出力のモーターが必要な産業機器への適用が期待できます。

(別添)

表1: 新開発コイルを使用したモーターと従来コイルを使用したモーターの性能比較


図1:最大出力時のコイルの温度推移


図2:コイル温度のモーター出力による推移