宇宙開発事業団
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
宇宙開発事業団は、平成12年6月2日(金)11時00分に種子島宇宙センター竹崎射場固体ロケット試験場において、SRB-A(QM2)の地上燃焼試験を実施した。
モータの燃焼特性及び推力方向制御(TVC)系の動作は正常で、主たる試験目的であるノズル開口部のエロージョン(損耗)対策についても、設計変更の妥当性が確認された。試験終了後にノズル部を構成する部材である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の破片が飛散していたため、平成12年6月4日(日)までに当該SRB-Aの分解、燃焼試験時の各種データの調査を実施した。
以下に、今回の地上燃焼試験結果の概要について報告する。
SRB-Aは、H-IIロケット用固体ロケットブースタ(SRB)の技術をベースに製造性・運用性の向上及び高性能化を目的として、一体型モータケースの採用、高燃焼圧力化、電動アクチュエータ方式の採用等の改良を施している。SRB-AとSRBの比較を図1に示す。
これまでに実機サイズのSRB-Aを用いて3回の地上燃焼試験を実施し、良好な燃焼特性及び推進性能データが取得されたが、平成11年8月に実施した認定型モータ(QM)地上燃焼試験において、ノズル開口部の一部に予想を上回る過大エロージョン(損耗)が確認された。このため、信頼性向上を図るために2回の実機モータ地上燃焼試験を追加し、過大エロージョン対策の妥当性を確認することとした。
今回のQM2は2回のうちの初回試験である。
過大エロージョンの原因は、アブレーション材として採用しているCFRP部材の一部(継目部)が熱応力及び内部分解ガスによる部材の層間剥離・膨張によって、破壊・脱落したためと推定している。この対策として以下の設計変更を実施した。
設計変更前後のノズルの概要を図2に示す。
供試体及び燃焼試験場の状況を図3(1/2,2/2)に示す。
今回の試験とQM燃焼試験との主要相違点は以下のとおりである。
・ | 設計 | : | ノズル開口部の設計変更(過大エロージョン対策:前述) |
・ | 試験条件 | : | |
- | 推進薬初期温度:18℃(QM 22℃) | ||
- | ノズル舵角:同一方向の総舵角量の増加 (ノズル舵角と時間の積:QMに比べて約1.6倍) |
モータの燃焼性能は正常で、温度、歪み等の計測データも良好に取得したが、ノズルを構成するCFRPの破片が飛散していた。
主要推進特性の結果を以下に示す。
実測値 | (計画値) | ||
・ | 最大推力(海面上) | 約2170kN | (2170) |
{約 221tonf | (221)} | ||
・ | 最大燃焼圧力 | 約10.7MPa | (10.8) |
{約109[kgf/cm2] | (110)} | ||
・ | 燃焼時間 | 103秒 | (104) |
燃焼圧力の予測と実測値の時間履歴を図4に、CFRPの飛散状況を図5に示す。
なお、試験時の天候は薄曇りで、南南東の風2.8m/s、気温25.3℃、湿度87%、気圧1009hPaであった。
ノズル開口部のエロージョン状況は、現地での目視確認及び簡易計測よれば以下のとおりであり、エロージョン特性の改善が確認できた(図6)。
今後、工場において詳細な計測・調査を行う計画である。
(1) | CFRP材の継目削除及び材料変更により、破壊・脱落等が無くなり、対策の妥当性が確認された。 |
(2) | CFRP部のエロージョン量は、小型モータ(実機の1/5サイズモデル)の燃焼試験結果・解析等から設定した設計予測エロージョン量以下であった。 |
(3) | 燃焼終了時のノズル外表面の温度上昇は、1℃以下であり、断熱性能は良好であった。 |
(1)状況
SRB-Aの分解、燃焼試験時の詳細な画像調査等から、以下の状況が確認された。(図7及び写真1(1/2,2/2)、写真2)
なお、今回のラジエーション・シールダのエロージョン量(飛散したCFRPを含む)は、従前の試験時とほぼ同じような傾向が見られる(図8)。
また、スロートインサートは、内面に従前の試験と同程度のエロージョンが観察されるものの、欠損やクラック等の異常は見られなかった。
(2)現象の推定
1) | 燃焼終了とほぼ同時期にスロートインサートがノズル上流側に移動したことにより(*)、ラジエーション・シールダの一部を破損し、これが破片となってノズルから排出 |
(*)燃焼終了時、スロートインサートを保持している燃焼圧が低下することから、ライナインサートから発生するガスの圧力とラジエーション・シールダの拘束力とのバランスによりスロートインサートが上流側に押し出される場合がある。このことは予め起こりうると想定されており、以前に実施した燃焼試験時(PM、QM)にもスロートインサートの上流側への移動が生じている。 | |
2) | スロートインサートがノズルから離脱したことにより、その背面のライナインサートが露出し、熱影響を受けて強度の劣化している部位が脱落、ノズルから排出 |
(3)推定原因とその影響
QM2では、SRB-Aによる制御能力の余裕を確認するため、QMに比べてノズルの総舵角量を増加させたが、これによるラジエーション・シールダへの熱負荷の変動等と今回の現象との関連を含めて、引き続き詳細なメカニズムの調査・検討を進める。
本事象が上記(2)の推定の範囲にある場合には、ノズルの大幅な設計変更に至るものではなく、QM3の燃焼試験について予定どおり9月頃実施可能と考える。
今後、詳細にノズルの検査・各種データの解析・評価等を行う予定である。
(1) | 6月19日頃まで ノズル寸法計測及び外観調査、取得データ詳細解析・評価、CFRP飛散現象詳細検討(解析等による推定原因・メカニズム検討、確認試験等) |
(2) | 6月27日頃まで ノズル切断調査、試験・解析結果評価等 |
(3) | 6月末頃 試験結果報告会 |
なお、6月9日に技術評価部会及び専門家会合へ本件を報告する予定である。