プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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H-IIAロケットの確実な打上げに向けての措置について

平成12年12月8日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

 H-IIAロケットの開発最終段階でトラブルが発生したことを重視し、H-IIAロケットの確実な打上げに向けて、製造、試験及び品質管理の全ての段階が設計に照らして問題がないことを再確認するため、平成13年度夏期に延期された試験機1号機の打上げまでに以下の措置を講ずる。

(1)特殊工程により製造する部位に対する措置

  • 試験機1号機製造時の下請けメーカも含む特殊工程製造データの再評価
  • LE-7A及びLE-5Bエンジン開発供試体の特殊工程部位の切断検査の実施 等

(2)大きな振動や衝撃が発生する可能性のある部位に対する措置

  • LE-7Aエンジンの大きな振動が発生する可能性のある部位について、最新の材料試験データを利用した応力解析の再実施
  • LE-7Aエンジンの燃焼試験での振動データの追加取得・評価 等

(3)品質確保に対する措置

  • 下請けメーカも含めた補修工程、工程変更の妥当性再評価
  • 高圧配管破壊試験等、LE-7Aエンジンの品質向上のための試験実施 等

(4)試験機1号機の確実性の向上/検査の充実

  • 領収試験で不具合のあった試験機1号機用LE-7Aエンジン再製作
  • 試験機1号機用の射場運用用要求文書及び手順書等の再点検 等

 上記の措置は、「H-IIAプロジェクト評価チーム」に製造技術の専門家を追加するなど、独立評価体制を一層強化したうえで、平成13年3月末を目途に実施し、結果を1号機に確実に反映させるとともに、必要に応じて製造中の試験機2号機以降の機体に対しても水平展開を行う。
 なお、H-IIAロケット評価・専門家会合の提言を受け、設計に関連する改善事項の洗い出しは完了しており、上記措置による確認事項が、製造上の品質に関する範囲であることから、平成13年度冬期打上げ予定の2号機以降の機体に対しても十分反映が可能である。



1. H-IIAロケット開発の状況

  • LE-7Aエンジンの設計・製造の限界確認のための燃焼試験(特別会合の提言を踏まえ強化)において、本年8月液体水素ターボポンプ(FTP)のボルトの一部が破壊するトラブルが発生。
  • 原因究明の結果、宇宙開発委員会の技術評価部会の助言に基づき、インデューサの設計変更に着手し、現在外部の専門家の協力を得て実施中。
  • 一方、本年10月、試験機1号機のフライト用エンジンの領収試験において、OTPのメッキ加工部分と液体酸素配管のベローズに不具合が発生。
  • さらに、本年11月、工場立会い(特別会合の提言を踏まえ強化)において、H-IIA後続機用として製作中のLE-7Aエンジンのノズルスカート冷却配管に微小な浸食痕を発見。
  • H-IIAロケットの開発最終段階でかかるトラブルが発生したことを重視し、製造、試験及び品質管理の全ての段階が設計に照らして問題がないことを再確認するため、打上げを平成12年度冬期から平成13年度夏期に延期。
  • 同機打上げまでの間に、事業団及びメーカ技術者が一体となって、特殊工程のある製造部位などに対して、これまで取得した試験データ、記録等の十分なる確認・評価を、体制を強化して実施予定。
  • これら活動で得た成果は、実機・図面・基準・手順・体制等に反映し、試験機1号機以降のH-IIAをより一層確実に開発し打ち上げていく所存。

2. H-IIAロケット試験機1号機打上げまでの活動(措置)

 開発試験の終盤/実機製造段階において、特殊工程や、大きな振動に起因する不具合(メッキ剥離、ベローズ破損及びノズルスカート浸食)が発生したことに鑑み、これらの部位及び製造上の品質管理面に関して事業団及びメーカの設計、製造、試験、品質管理の技術者が一体となって、これまでに取得した開発試験、製造記録、品質管理記録等のデータの十分なる確認を再度行うこととする。 試験機1号機を確実に打上げるために上記措置内容を網羅的に検討した結果、以下の内容を実行することとしたい。

(1) 特殊工程により製造する部位に対する措置

  • 特殊工程のFMEA(故障モードと影響解析)の実施
    • H-IIAロケット全般にわたって重要な品質特性に重大な影響を与えかつ製造ばらつきの大きいクリティカルな工程である特殊工程について、FMEA(故障モードと影響解析)を実施し、重要加工パラメータの選定・管理について再評価を行う。
      (対象部位)ろう付け、電鋳、溶接、メッキ、拡散接合
  • 特殊工程アセスメント提言事項の実施
     H-IIロケット8号機失敗を受けて実施してきた特殊工程アセスメントの提言事項を実施する。代表例を以下に示す。
    • ろう材突き合わせ部の強度データを取得し、それに基づき隙間許容値を設定する(LE-7Aエンジン)
    • 低合金鋼の溶接継手(母材、溶接部、熱影響部)の靭性値を取得することにより、機械強度データの充実を図る(SRB-A)
  • 下請けメーカも含めた特殊工程製造データの再評価
    • 試験機1号機の製造時に得られた特殊工程に係る製造データに対し再度見直し、評価を行う。
  • 特殊工程部位の切断検査の追加実施 LE-7A・LE-5Bエンジン開発供試体について特殊工程部位を中心とした切断検査を追加実施し、実作動による負荷が設計で考慮した範囲内であること等の確認を行う。

(2) 大きな振動や衝撃が発生する可能性のある部位に対する措置

  • 振動部位の応力解析の実施
    • LE-7Aエンジンの大きな振動が発生する可能性のある部位については、最新の材料試験データ等を使用して、全システム応力解析/コンポーネント応力解析を実施して問題のないことを再確認する。
  • 燃焼試験による振動部位のデータの追加取得
     LE-7Aエンジンに関し、大きな振動が発生する可能性のある部位について、燃焼試験でデータを追加取得し、評価を行う。
  • SRB-A着火衝撃確認試験の実施
    • SRB-A着火時の衝撃が分離装置に与える影響について着火衝撃確認試験を実施し、解析の妥当性を再確認する。

(3) 品質確保に対する措置

  • 発生不具合の要因分析と他サブシステムへの水平展開
    • H-IIAロケット全般にわたって開発試験及び実機製造で発生した不具合のうち、重要と判断したものについては、詳細な要因分析を実施し、他サブシステムも含めた水平展開を行うことにより、同様な不具合要因のないことを確認する。
  • 下請けメーカも含めた補修工程、工程変更の妥当性の再評価
    • 認定試験で確立した工程を変更する場合に、設計、製造、検査等の関連部門による十分な検討が行われ、必要に応じ解析や確認試験が行われているか、下請けメーカでの製造工程も含め再評価する。
  • LE-7Aエンジンに関する品質の向上
    • 高圧配管破壊試験
    • ノズルスカートチューブ成型試験
    • 異物確認検査装置の強化
    • 溶接工程確認装置の強化

(4) 試験機1号機の確実性向上/検査充実

 試験機1号機に対しては(1)〜(3)に加え、以下を実施することにより、機体製造及び射場作業の確実性を向上させる。

  • 試験機1号機用LE-7Aエンジン再製作
  • 全段システム試験再実施
  • 試験機1号機用の手順書、要求文書等の再点検

3. 今後のH-IIA開発・打上げへの反映事項

  • 平成11年5月の宇宙開発委員会「宇宙開発基本問題懇談会」における「プロジェクトの進め方」や「人的資源の効果的活用」等に関する提言を受け、宇宙開発事業団は「プロジェクトマネージャ制度の強化」、「試験・実証の充実」、「外部要員の活用等による人的資源の強化」等の確実な開発に必要な体制整備の施策を開始した。
  • さらに、平成11年11月のH-IIロケット8号機の打上げ失敗を踏まえた平成12年5月の宇宙開発委員会「特別会合」の提言では、宇宙開発事業団の組織・体制のみならず、産業界の製造現場における品質保証、検査のあり方に踏み込んだ改革方針がとりまとめられた。本提言を受け、宇宙開発事業団ではH-IIAの確実な開発のために、1章に記した「エンジンの限界確認のための追加燃焼試験」や「工場立会いの機会強化」等を行った。
  • また、H-IIAロケット評価・専門家会合においては、設計に関連する改善事項についての洗い出しが行われ、現在、必要な措置を実施している。
  • 今後は、確実な開発を引き続き進めるとともに、2章に記した確実な打上げに向けた措置を平成13年3月末を目途に行い、その結果を1号機に確実に反映させる。また、製造中の試験機2号機以降についても、水平展開が必要になった場合には速やかに対応し、確実に反映する。
  • なお、上記のとおり、設計に関連する改善事項についての洗い出しは完了しており、再確認事項が製造上の品質に関する範囲であることから、冬期に打上げ予定の2号機以降の機体についても時間的余裕をもって確実に反映することが可能。

 反映計画に関するLE-7Aエンジンのスケジュールを例として下記に示す。