プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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M-Vロケット不具合に対するJ-Iロケットへの水平展開について(その2)

平成12年11月30日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 概要

 平成12年2月に打上げられた宇宙科学研究所(ISAS)のM-Vロケット4号機において、第1段ロケットのグラファイト製スロートインサートの破損が発生した。宇宙開発委員会技術評価部会及びISASによる原因究明の結果、破損原因はグラファイトに内在していた欠陥であると推定された。調査報告書では併せて、第2段及び第3段ロケットにグラファイト製スロートインサートを使用している宇宙開発事業団のJ-Iロケット(図1参照)への水平展開を行うことが謳われた。


 宇宙開発事業団では、ISASや他の有識者の協力を得ながら、水平展開の方針について検討してきた。9月の第13回技術評価部会に提出した第1報では、第3段のグラファイト(品種名:IG-12、図3参照)の破壊確率は十分低く、適切な非破壊検査を行って有害な欠陥を含む素材を排除することを条件として、これまで使用してきたグラファイト材を使用することを報告した。
 本報告では、9月の段階では物性データの不足を理由に結論を持ち越していた、第2段のグラファイト(品種名:G140、図2参照)製スロートインサートへの対策の方針を示す。




2. 結論

(1) 第2段のスロートインサートについては、欠陥を含むグラファイト素材を排除するための非破壊検査を行える確証が現時点で得られていない。よって、グラファイトが使用可能との結論は出せないため、スロートインサートの材質を3次元カーボン・カーボン材(以下「3D-C/C」という)に変更することを基本として、今後の作業を実施する。
(2) 3D-C/C化したスロートインサートの設計検証は、実機サイズの厚肉モータの燃焼試験等により行う。その設計及び試験等に際しては、ISASとの緊密な連携をとって進め、ISASが開発する他モータと極力設計思想を合わせ、それぞれの試験結果を反映することによって信頼性の向上と試験の効率化を図る。
(3) 一方、3D-C/C化スロートインサートの開発の過程において、事前には予測の困難な技術的課題が発生する可能性が全くないとは言い切れない。万一、致命的な問題が起きた場合に対する備えとして、これまでに非常に多くの成功実績(直径1m以上の固体ロケットに限っても約30年間で46機)を有するグラファイト材に戻す可能性を残すため、G140グラファイト材の健全性を評価する方法等について、引き続き調査・検討を行う。

3. 第2段スロートインサートに対する検討状況

(1) 物性値取得については、合計で約250個のG140材のテストピースを製作し、高温状態での値を含めて、熱伝導率、比熱等の熱物性値及び熱膨張係数、応力-歪特性、引張・圧縮強度等の機械物性値の取得作業を行い、一部を除きほぼ完了した。しかし、その結果を受けて実施する破壊確率及び許容欠陥寸法等の解析結果が出るのは12月以降になる見込みであり、現時点では最終的な結果を導き出すには至っていない。
(2) 非破壊検査については、実機の検査に必要な透過厚さ(約270mm)を模擬したG140のテストピースを製作し、超音波検査の評価を行った。その結果、G140の粒度の荒さ(図4参照)に起因すると思われる超音波の大きな減衰のため、現時点では直径3〜12mmの人工欠陥を、いずれも検出することができていない。
これに対しては、超音波の周波数を下げたフェーズドアレイ式探触子により、欠陥の検出ができる可能性が残されているが、その確認には新たなプローブの開発等が必要であり、約3〜5ヶ月を要する。
なお、表面欠陥検出のための渦流探傷については、深さ1.8mmの表面欠陥が検出できることを確認している。
(3) 第3段で使用しているIG-12グラファイト材(M-V、H-IISRBと同一)を第2段に適用した場合の検討は9月の時点で実施しており、破壊確率が極めて高く、採用できない結果となっている。
一方、同時期に実施した第2段スロートインサートをグラファイトと同一形状で3D-C/C化した場合の検討において、強度上の安全余裕が十分あることを確認している。