宇宙開発事業団
以下のとおり第3回宇宙開発事業団改革推進委員会が開催されました。
平成12年11月29日(水) 10:00〜12:30
宇宙開発事業団 筑波宇宙センター宇宙実験棟大会議室
久保田委員長、大橋委員、桑原委員、蛇川委員、立花委員、中原委員、畚野委員
(1) | 品質保証の強化に対する取り組み(その2) |
(2) | 衛星の開発強化の取り組み状況 |
(3) | 技術基盤の強化に対する取り組み |
(4) | アクションプランの階層別及び期間別整理 |
参考: | 蛇川委員ご提唱の総合的な企業評価基準(JMS)の考え方を用いたアクションプランの類型( 1 , 2 ) |
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議事録(自己紹介及び議題について) |
今日、若田さんが帰還される予定でしたが、強風で1日延びております。非常に順調にミッションを遂行されているようで、非常に心強く感じております。
今日は主としてH-IIAの開発状況その他をご紹介させていただきたいと思います。実は第1回の委員会の後、ほぼ3ヵ月の間に結構いろいろなことがございました。新聞等でもご覧になっているかと思いますが、技術評価部会からかなり重要なご指摘がございました。これはきわめて重要な問題でございますので、宇宙開発委員会にもご報告をいただき、私どももかなり従来とは違った方針を考えておりますので、そういった問題を中心にご説明をさせていただきたいと思います。
当初の予定では1号機を2月の初めに打ち上げる予定で、いまも準備を進めておりますが、そういった意味でも直近では一番重要なテーマだと思いますし、改革といっても、具体的成果に結びつかないといけないので、具体例ということでも意味があるかと思いますので、今日は主としてそういった点についてご報告をさせていただき、またご意見を賜ればありがたいと思います。よろしくお願いをいたしたいと思います。
それでは、議事に入る前に、第1回の7月26日のときにご出席になれなかった委員の方をまずご紹介したいと思います。自己紹介をお願いしたいと思います。桑原委員、お願いいたします。
第1回の委員会のときに、この委員会の進め方でいろいろ議論していただきました。そのときに、進め方を再検討するということになり、進め方の修正案を先にご説明して、それから議題に入りたいと思います。前回の議事録も資料2-1に付いております。この議事録を見ていただければ議論の大体の内容がおわかりになるかと思います。
進め方については、かなり厳しいご意見もいただきました。その提言が幾つかございまして、大きく分けると3つか4つぐらいあったかと思います。
1つはこの委員会の役割でございます。これについては、日本の宇宙開発のあり方も考えた上でこの委員会の進め方を考えなければいけないのではないかということです。この委員会では単に事業団の業務改革だけを行うのではなくて、事業団の経営改革についても議論すべきであるとのことでした。経営改革というと、事業団がこれからどうやっていくか、どう進んでいくか、それはもちろん日本の宇宙開発をどう進めていくかということにもなるだろうと思いますけれども、その点でどういう自主性を持ってやるべきであるかというようなご意見であったかと思います。同時に、この委員会の使命である特別会合、基本問題懇談会で提言されていることをどうやって実行していくかという、モニターという役割もあるのではないかということです。 そういう意味で委員会の役割としては2つあったような気がします。それをこれからどう入れていくかということが問題かと思いました。それについては、後の進め方で具体的にどうしようかということをご説明したいと思います。
もう1つは、委員会の期限という議論もございまして、これを平成13年度末までズルズルとやっていくというのは非常に長過ぎるし、何をやっているかわからない、12年度で、もうできるだけ早くやめたほうがいいのではないかというご意見もございまして、これも次の進め方のところでご相談したいと思います。
それからアクションプランに対するコメントとして、事業団の行うことに階層別、段階別の整理がついていない、そもそも開発プロセスの切り分けが不十分であるというようなご意見もございました。
その他として、H-IIロケット8号機の失敗関連のこと、それから自主技術開発と輸入技術の仕分け等が必要ではないかということもありました。
大きく分けて上記のような4つぐらいのご意見、ご提言等がありましたので、宇宙開発事業団とも相談いたしまて、配布資料2-2のような改革推進委員会の進め方の案をつくりました。これにつきましては、さらにこうすべきである、こうしたほうがいいというご意見がございましたら、出してご議論いただければ幸いに存じます。
配布資料2-2ですが、改革推進委員会の運営としまして、先ほど申しましたように、委員会の進め方のご提言がありましたことを反映して、宇宙開発委員会特別会合の改革方策、基本問題懇談会の提言、外部評価委員会の提言などを踏まえて、NASDAの具体的改革案の説明を受けて助言を行うということが1つです。なお、適宜委員のコメント等を反映して審議事項を追加するということで、これはいわば宇宙開発を進めていく上で事業団がどういう主体性を持ってやっていくべきかというようなコメントがございましたら、これも審議に入れたいということでございます。
委員会の期限につきましては、NASDAの改革が軌道に乗ったと判断される期間ということでございます。ちょっとわかりにくい言い方になっておりますが、13年度末まで行うというわけではなく、「改革が軌道に乗った」というのは、どこまでという問題もありますが、これはむしろ12年度の末、最終の委員会あたりで協議をしてもらって、もうこれで十分、あるいはもっとやらなければいけないという必要があれば続ける、ということでございます。そういう意味で、一応の区切りを本年度の最終会合としたらどうかという意味を含めてございます。
そこで、具体的に各会の審議事項案を設定しております。今日は第2回でございますので、ここでは議題の3つを設定しました。
1つ目は、「開発の進め方」といっておりましたが、これは前回、蛇川委員、生駒委員のご意見がございまして、宇宙開発事業団の開発の進め方がいまいちよくわからない、他の技術分野とも関連してよくわからないというようなご意見もございました。それでは宇宙開発事業団としてどういう改革をしようとしているのかということをご説明いただこうということで、この議題をつくりました。これはこの委員会で委員の方からのコメントを反映して取り上げた議題でございます。
次の「品質保証の強化に対する取り組み」というのは、宇宙開発委員会特別会合の指摘事項にございまして、これを事業団としてはどう考えていくかという説明をしていただこうということでございます。
それから「H-IIAロケットの開発状況」というのは、先ほど山之内理事長からもお話がございましたように、第1回と今回の間にH-IIAロケットの開発の仕方にかなり大きな変化がございましたので、事業団としてこれからどう進めていくかという説明をしていただこうかと思っております。
第3回は3つ用意しておりまして、「技術基盤の強化に対する取り組み」、これは特別会合の提言に対するものであります。2番目の「アクションプランの階層別及び段階的整理」は、前回の委員のご指摘によるものでして、私の理解では生駒委員と中原委員のご意見だったかと思います。それから「衛星の開発状況」の現状を説明してもらおうということでございます。
第4回は「専門的人材の育成活用に対する取り組み」、これは特別会合の提言、指摘事項であります。それから「高度情報化の推進に対する取り組み」、これも特別会合の指摘事項であります。「企業との役割・責任関係の見直し」、これも同じく特別会合の指摘事項であります。これらに対して事業団がどういったアクションをとるかということを説明願おうと思っております。4つ目の「宇宙開発全般に対するNASDAの考え方」、特にリソースとか、重点分野等をどうするのかのNASDAの考え方を聞いて助言をしたいというような意味合いでございます。これは第1回のときに畚野委員、馬場委員がご発言されたことに対応するものでございます。
第5回以降は、これは最終と考えておりますが、ちょうどH-IIAロケット初号機の打上げの後で、その結果の報告をしてもらって、そこでこの委員会をこれで終了にするか、なお継続する必要があるかを検討いたします。
このようにしましたけれども、時期と内容によっては委員の方々のご了解を得て変更することも可能にしておこうと思います。
それから第1回にご提案したときに、第2回ぐらいに種子島宇宙センターの視察をして、現場の技術者との話し合いもしようというような計画をしておりましたが、これはいろいろな事情でいまのところ取りやめております。もしその必要がありましたら、視察ということで別途計画をすることが可能だろうということでございます。
このようなことでいかがでしょうか。第1回にご提案させていただいたことから、そういう意味で中身もかなり変わりまして、宇宙開発事業団自身がどういうことをやろうとしているかということをできるだけ聞きたいという姿勢であります。
確認をしたいのですが、同時に特別会合、基本問題懇談会でいろいろな提言がなされておりますので、それについてどういうアクションをとるか、これも一応思想は同じですが、そのアクションにおいて宇宙開発事業団がどういう方向に向かって改革を進めていこうとしているか、そういうことを聞きたいという希望であります。
以上、進め方のご説明ですが、ご意見がございますか。
その前回のご議論、それから一方、宇宙開発委員会の基本戦略部会のほうで国の宇宙開発のあり方がご議論されておりますので、そうしたご提言に対する事業団のアクションのみならず、今後の事業団の考え方も、時期的には国のほうの考え方がまとめられるのが今年いっぱいということも伺っていますので、それらを踏まえた後に事業団のほうの考え方も少しずつ出せるような格好で、委員長とご相談させていただいたわけでございます。
それをきちんと切り分けて考え方を整理しないと、委員もそうだし、聞いている人もみんな誤解するだろうと思います。これでもうNASDAの経営の話も全部済んだにだと思ってしまいます。
ここで委員からそういう話題が出て、議論になるというのに私は反対はしないのですけど、そこのところを誤解のないようにきちんと切り分けてやらないといけない。
この間出て来た中身で見ると、業務の改革の話だけで、しかも名前がNASDAの経営の改革も含めて全部やるようなことになっているから、これは違うのではないかと言っているわけです。
ですから、名前をこう付けたことについては、大臣が決めたとかいうような話があるらしいけれども、それはそれとして、ここでやる場合に、そこのところの認識をきちんとして、納得してやらないとまずいですよということを申し上げているわけで、久保田先生が最初言われたのと私の意見とちょっと違います。
だから私はそこで踏み込んで、つまり業務改革は粛々としてやれと畚野委員はおっしゃる、では経営改革推進のほうをここでやってはいけないのかというと、そんなことはないと私は思います。したがって、業務改革と経営改革の両方を、程度の差、軽重はあるかもしれませんが、ここでやっていいのではないかと思います。
そういうことで議論をしていただいて、ではNASDAがどういう方向性を持っていくか、NASDAがこれからどうやって進めていくかということに対して、つまり経営に対して少しでも役に立つようなことがここで出てくればいいと私は思っております。
おっしゃるように、切り分けはちゃんとしなければいけないというのは、そのとおりだと思います。そういう意味で、これは業務改革に類することです、これは経営改革に類することですというのは、そのときそのときで認識していきたいと思いますが、そんなところでいかがでしょうか。
そもそも事業団が我々に何を言ってほしいかというところがまず第一にあると思います。
ご案内のとおり、いまでも繰り返しご批判を賜りますが、背景として、ロケット並びに衛星の相次ぐ不具合から、ここに書いてある基本問題懇談会、あるいは緊急提言というので、かなり手厳しいご批判があって、それを受けて私どもがアクションプランというのを提出しました。それに対して、私どもがただ単に独善的にそのアクションプランをやっただけではなくて、それが具体的に成果が上がっているかどうかということを、皆さん方にきちんとトレースをしていただき、またその過程においてご助言もいただき、それをまたきちんとお返しをするということが、この委員会をお願いした原点だと私は思います。
ただ、いかんせん、そういうことを議論していきますと、前回ご提言のあった話にだんだん広がっていきますし、どこが経営問題で、どこが事業問題かという区別は難しいと思いますが、私は原点はそこにあるということをまず踏まえた上で、あとは委員長のご指導のもとに議論をしていただくことは差し支えないと思います。まず原点はそこにあるとご理解いただかないといけないです。
それと、お願いとして、議論があまりにも拡散してもしようがないので、おっしゃったように時間も短いほうがいいと思います。
それから、実は私が来てビックリしたのは、いろいろな委員会があり過ぎて、あっちこっちで同じ議論をしている様子であります。基本問題懇談会、基本戦略部会、あるいは情報推進委員会、各々あり、あっちこっちで同じ議論をしてもしようがないという印象が個人的にありますので、その点を踏まえよろしくお願いをいたしたいと思います。
事業団の原点がいまおっしゃられたようなところだということは認識しておこうと思いますが、松尾先生、いかがでしょうか。
あと、事業団の中に内部的にはいろいろな委員会がありますが、この委員会に関連する大きなものは、過去のものは別にして、現在進行中の委員会としては以上のものでございます。
それからさっきお話した高度情報化に関する委員会は、理事長の諮問委員会として、理事長に答申がいくものでございます。
それから現在宇宙開発委員会のもとにつくられている基本戦略部会というのは、宇宙開発委員長である大臣に出される報告書になっております。
その過程において重要なのは、我々外部のほうからいろいろ指摘をさせていただいたのは、必ずしも内部を全部知っているわけではないので、したがってこちらサイドから出た問題提起に対して、事業団が他の内部のいろいろな状況を含めてどう対応していくのか、その対応が正しいということを確認しながら、あるいは途中で助言すべきことがあれば助言もして見届けていこうということが本来の趣旨だったと思います。
ですから、いろいろ指摘が出たものはもう事業団側は全部ご承知なので、これからの議事の進め方にありますように、各項目について、たとえば人の問題も出まして、外部の知見を集めたらいいのではないかという問題もその中に含まれました。それから事故に対する対応、あるいはメーカーとの関連に対するあり方等々が出ました。これは全部ここに出ていると思います。
ですから、そういう問題に対して事業団がこれからどうやっていかれようとしているかというのをよく聞かせていただいて、これだったらいろいろな委員会で指摘された問題がいくであろうという確認をすることと、あと、どこまでフォローするかというのは議論の対象でいいと思います。
しかし、どこまでもフォローするのは委員会として本質的には長過ぎてまずいと思いますので、ある程度の確認が出たところで、この委員会はとめる。また新しい問題が出てきたら、それはこの委員会で議論するのではなくて、また別の委員会できちんと、事故分析委員会等々がありますので、フォローしていったらいいのではないかと思います。
それがメインの1つの仕事ですけれども、私はやっぱり前回の議論を受けまして、それプラス全体としての議論もしたいと思っております。
さっき話が出ていましたように、議論をするのは構わないと思いますが、そういうことをやるという責任を負ってやらないほうがいいと思います。ここでいまおっしゃったような意見があったら、しかるべきところに伝えるということで処理をしていかれたらいかがかと思います。
ただ、気になりますのは、その処方の効き方イコール業務改革ということではないかと思いますけれども、その業務改革を見るだけでは終わりたくないという気がしております。
ですから、事業団が日本の宇宙開発の中でどういう方向に向かって行くかという議論をしていただいて、ここで結論を出すというわけではないですが、いろいろご意見をいただいたところを事業団がどう受けとめてもらえるか、それを事業団の進め方に生かしていただく、そういう助言ができればいいかと思っております。
要するに伺っている限りにおいては、これは次元が違うところですから、ここで検討した結果が全く台無しになる可能性がないとはいえないような気がするのです。内容的には重複しているようなことなのですか。
それでは、私の少し舌足らずな説明もありましたけれども、いまのようなやり方で進めていくということでよろしいでしょうか。
それでは議事に入りたいと思います。まず1番のH-IIAロケットの開発状況でございます。これは柴藤理事からお願いします。
議事録(討議)
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H-I8号機の事故原因をかいつまんでご説明いたします。LE-7液体水素ターボポンプのインデューサ羽根の疲労破壊によるエンジンの急停止が事故の直接の原因です。断面図がありますが、入口部側にタンクからつながる水素の配管がありまして、インデューサで導入して、2段のインペラで昇圧して約300気圧の圧力まで高めてエンジンに送ります。下はタービンで、プリバーナで水素10に対して酸素1で燃やした低温のガスをここに通過させてエネルギーを与えて昇圧します。このインデューサ羽根が疲労破壊したのが原因です。
破壊の原因は2つあります。1つはポンプ入口圧の減圧に伴う旋回キャビテーションによる変動応力。これはどういうことかといいますと、この入口圧は飛行に合わせて外気圧がどんどん減ってきます。減ってくると、タンクの圧力を減圧してバランスさせます。そのときに減圧に伴う旋回キャビテーションつまり、ポンプのインデューサの回転より1割ぐらい速い、1.1倍ぐらい速いキャビテーション、見かけ上旋回しているような形に見えるので旋回キャビテーションといっておりますが、 が発生してこのインデューサの翼に対して変動応力を与えた。
もう1つは入口整流ベーンとの流体的干渉による流体振動がインデューサ羽根と共振。これはちょうど入口が直前で90度に曲がって水素を導いておりますが、90度曲がっておりますので、流れをよくするための整流ベーンがこのあたりにあります。旋回キャビテーションの発生によって前方に水素が逆流するということがわかりました。その逆流によってこのベーンと干渉して、その流体干渉によって流体振動が起こっている。それとインデューサ羽根の共振点が一致して共振した。これの複合した応力プラスインデューサ翼表面に加工痕、これは15ミクロンくらいの深さの機械加工の跡ですが、そこを基点として応力が作用して疲労き裂が発生・進展して、この部分が欠け落ちております。
8号機の失敗の要因とH-IIAの改善状況について説明します。旋回キャビテーションについては、NPSH(ネット・ポジション・サクション・ヘッド)というのはポンプでいうと水筒ですが、ヘッドが340m以下で発生しております。大体1.1ωといっているのは、ホンプのインデューサの回転に対して1.1倍のものが出ている。 これに関してはH-IIAでは改善しておりまして、減圧中の一瞬のみ発生、ヘッドが300m以下でもレベルが低い。
4ページが水流し試験をやっている画です。ここでは液体水素の代わりには水を扱っていますが、実際には右から流れて、インペラのほうに入り込みます。ここに泡が出ておりますが、これがキャビテーションの発生状況で、これが前方側に流れております。
こういう状態が、入口圧をずうっと減圧していきますと、この楕円で囲んだ時点で1.1ωの旋回キャビテーションが、圧力を下げている限りずうっと発生しております。それに対して、LE-7Aに関しては、減圧をしても、このあたりは1.2ωで、この減圧の途中で一瞬発生しますが、すぐ消える。この7Aに比べて非常に小さい値ということで、これは改善されたと考えております。
3ページ、入口整流ベーンとの流体的干渉に関しては、H-IIAではポンプの取付け方法を変えて、タンクから直接真っすぐ来るようにして、この整流ベーンは採用しておりません。
圧力変動との共振ですが、LE-7エンジンの場合、先ほどのベーンと逆流したときの流れの流体的な干渉で、こういうところ(5ページ)に3.1KHzの振動が出ております。それに対してインデューサ翼一次固有振動数というのがこのあたりにありまして、非常に近いところにありました。それに比べてLE-7Aはインデューサ翼一次固有振動数がここまでで、これだけ離れております。
3ページですが、インデューサの加工痕ですが、15ミクロンの加工痕がありましたが、今度は流体研磨による表面仕上げをやって10ミクロン以下にできるということで、現在H-IIAはそれを採用しております。 それからキャビテーションの発生のばらつきですが、インデューサ加工は最終的にリーディングエッジ、手仕上げでやっておりまして、それでばらつきがあったと考えております。
それから領収試験時に入口圧を減圧したときに実際に起こるキャビテーションの状況は確認しておりませんでした。H-IIAの場合は、ポンプの単体またはエンジン領収試験で入口圧を下げて、フライトの使用領域でのキャビテーションの発生状況を確認するという改善をやっております。
6ページは、8号機の結果で、H-IIAの開発強化をやっております。どういうことをやったかといいますと、1段エンジンについては、エンジンを2台追加して、限界というか、実際使うよりもさらに厳しい条件での試験を追加しております。それから固体ロケットも2台追加して、現在確認しております。それからアビオニクス系ですけれども、誘導制御システム試験を追加しております。これは最新のハードウェアと最新のソフトウェアを用いて最終確認をここでやりました。それから2段のエンジンは、信頼性向上試験という形で追加して、実際にさらに厳しい条件に対しての確認をやっております。それからGTV(グランド・テスト・ビークル)の試験ときに、エンジンと機体を組み合わせた燃焼試験を1回追加しております。
7ページは、第1段エンジンの燃焼試験を追加したときの試験ですが、こういう領域です。縦が推力、横が混合比です。領収試験の範囲がこれに対して、現在認定試験の範囲をこういうふうに(外枠線)設定しております。それに対して、さらに厳しい条件で試験をやりまして、LE-7Aとしての設計マージンを確認しました。エンジン特性のばらつきの影響を適正に評価するために、こういう条件でやっております。
8ページです。認定試験エンジンについて2回追加しておりまして、実際に私たちの目標は、1つのエンジンで認定試験は1,900秒以上確認しますが、この3台についても実際やっておりまして、現在、あと8回と7回の追加をやって、これに対しても大体1,900秒をクリアするということで、4台のエンジンで記載の目標の秒時と回数を達成するということです。
9ページの特記事項ですが、液体水素ターボポンプにH-Iロケット8号機と類似の流体現象発生というのは、8号機の原因究明を踏まえて、いまご説明したようなエンジン特性のばらつきによる影響を適切に評価するということで、広い範囲の条件で試験を実施しました。そしてFTPのポンプ入口圧を減圧したフライト条件よりもさらに厳しい条件で試験をした結果、軸振動が大きくなりました。これは種子島におけるエンジン燃焼試験と、それからターボポンプ単体の角田での試験でも発生しました。この結果、ポンプ側ベアリングマウントのボルト頭部が破断、これは12本全部破断しておりました。ボルト頭部の破断については、原因を究明し、以降の試験を実施しております。
10ページは、FTP軸振動の発生状況です。LE-7の場合は、先ほどご説明したとおり、入口圧をずうっと減圧していきますと、ここで1.1ωの旋回キャビテーションが発生しております。これとはまた違った形で、減圧制御をやりまして、ここでNPSH200mぐらいのところで350Hzぐらいの軸振動が発生しました。これは予測では、先ほどのインデューサ、インペラ、タービンを結んでいるシャフトの二次振動によるものだろうと私たちは推定しております。
11ページは、LE-7Aエンジンの液体水素ターボポンプです。これはH-IIAのエンジンのここについております。ポンプの入口があって、インデューサで20気圧ぐらいまで昇圧して、1段のインペラ、それから2段のインペラで昇圧してエンジン側に送り込む。これがタービン側です。
12ページは、H-IIAロケット打ち上げ前段階における技術評価結果ですが、これは宇宙開発委員会の技術評価部会の中に設けられた専門家会合の中で中間報告がありまして、技術評価部会から宇宙開発委員会へ報告されております。
その助言の中に、「LE-7Aエンジンの厳しい条件下の試験において」、先ほどの減圧をずうっとしていったとき、「ターボポンプ入り口付近で試験条件によって異常な流体現象が確認されたことから」、これは先ほどのこういう流体現象に起因した軸振動だということを推定しておりまして、「LE-7Aエンジンの液体水素ターボポンプ・インデューサの設計変更に早急に着手すること」という助言が出されております。
「H-IIAロケット全体の開発リスクの低減の観点からは、速やかに現行のインデューサを用いてH-IIAの新技術の実証に特化した飛行試験を行うことが有意義」である。
NASDAの対応方針ですが、宇宙開発委員会が9月27日にありました。「液体水素ターボポンプの設計変更を直ちに実施し、設計変更後のH-IIAロケットを平成13年度冬期を目処に打上げ」るということで、現在この設計変更のプロジェクトを立ち上げまして、実際に進んでおります。これは外部というか、東北大学の上條先生をヘッドとした、工業技術研究所、それから大学の先生方、当然NASDAは入っておりますが、それとMHI、IHI、企業も入れた設計チームをつくって実際に動き出しております。
それから「H-IIAロケットの新技術の実証を目的とした飛行実験を、技術評価部会から受けた助言に基づき周到な施策を講じた上で」、この「周到な施策を講じた上」というのは、先ほどの入口圧をずっと下げてNPSHが低くなったときに、そういう異常な状態、軸振動が起こるということで、ポンプの回転数とか、タンクの入口圧をそういうことが起こらないようにした状態ということです。そして「現行設計のH-IIAロケットにて平成12年度冬期に実施」するということで、現在動き出しております。
13ページは、第2段エンジン(LE-5B )の燃焼試験です。これは領収試験範囲、認定試験範囲に比べて、こういう厳しい領域について試験をして、このエンジンの信頼性の確認を実施しております。
14ページは、固体ロケットブースタの燃焼試験です。追加したこの2つの燃焼試験を6月2日と10月4日に実施しました。ノズルエロージョン対策は、この前のQM(認定モデル)の試験でノズルのFRP(繊維強化プラスチック)部がかなりえぐられておりましたが、それの対策をして、それが妥当であることの確認をしております。また、ノズルスロートが燃焼直後に燃焼機側に抜け出すという事象が見られております。それでQM#3でそれの対策をし、エロージョン対策、ノズルの保持力向上の対策を確認しております。ただ、エロージョンが少し大きいところがありますので、現在それの評価中です。
15ページは、地上試験機(GTV)と射場システムの総合試験ですが、これも6月、7月、8月と3回、10秒、100秒、150秒としまして、H-IIAの全体の機体と射場システムの適合性、それからエンジンと推進系との適合性の確認をしております。
16ページは、まとめです。H-Iロケット8号機の打上げ失敗以降、H-IIAロケットの開発を強化し、確実な打上げに向けた開発を実施中です。
8号機の失敗を教訓とした厳しい条件下での試験を実施しました。特にLE-7Aではターボポンプ入り口付近での異常流体現象が確認できました。これについては専門家会合からの助言で、速やかにインデューサの設計変更を実施することで、いまもう実際にスタートしております。
なお、この他については速やかに設計変更を行うべき助言はいただいていませんが、推進系以外はいまのままで問題はないだろうという助言はいただいております。他にもこうやったほうがいいとの助言がありますので、打上げまでに確実に処置を実施することを準備しております。
試験機については、開発リスク低減の観点から平成12年度冬期に現設計のLE-7Aエンジンを適切な条件下で運転する施策を講じつつ、H-IIAで開発された新技術の技術実証、これはLE-7A以外に誘導システム、それから2段エンジンのSRB等がありますが、速やかにするということで、万全の体制で臨むこととしたい。また、LE-5BエンジンやLE-7Aエンジンの耐久性に係る技術データの蓄積をはじめとした信頼性の向上を可能な限り継続し、万全の体制で試験機1号機の打上げに臨みたい。なお、この7Aと5Bに対しては、現在信頼性向上の確認ということでいま試験を実行中です。
だから、これは学問的に見るとそんなに難しいシミュレーション技術ではないと思います。質量もわかっているし、羽根形状ももちろんわかっていますから。ちょっと確認されたほうがよろしいのではないかと思います。
改良設計する場合、コストとも、重量とも大いに関係があるわけですね。
ですから実際には、インデューサ単体で水で確認して、水素で確認します。
それから先ほど桑原先生が言われたシミュレーションについては、現在、NALと宇宙研とNASDAで実際にこれからどうしようかということの検討を始めております。水素は非常に怖いということで、LE-7のときに私たちは実際に下げた実験をやっていなかったのです。
それから、たぶんいろいろなところで出たと思いますが、アメリカはケネディのときに予算を絞られて、「ライト・ファースト・タイム」、とにかく一発勝負ということの背景は、やっぱりこういう技術でバックアップをして、それで実験等で余分なお金を使わないで、一発勝負で成功させようという、その基本的なフィロソフィーの中に、いまの技術でできるものがあれば、やっぱり技術的に背景をきちんと捉えてやっていく姿勢が基本的に大事だと私は思います。ですから是非期待したいと思います。
これはまずいというので、これは是非やる項目だと思って、いま始めております。
全般的にご指摘の点が、不十分だ、まあ怠けたという意味ではなくて、知識、能力を含めて、過去はそれほど十分な能力なり実績がなかったような感じは持っていますので、また土居先生からご指導を賜ることはあるかと思いますが、基本的な提言として、また別途ご報告をさせていただければと思います。
2番目は、改良したつもりでやっても、かえって悪くなっているような場合もあります。新しい設計と元の設計と同じ条件で実験をして、明らかに改良されたと思われるほうが良かったかどうかの確認をよくやらないと、ターンアラウンド・タイムが非常に長くて、気がついたときはもう遅いというようなことがしばしば体験されるものです。
特に今回の場合はシステムとシステムのつなぎ目、インターフェースのところで起こっていると聞いておりますが、最初、一般論でもご指摘したように、インターフェースのところはインターフェースの条件をどういう形でお互いに共有するかということで、シミュレーションを想定する状況が非常に限られてしまいます。ですからそこの部分も含めたような技術を開発しなければいけないし、もっといえば、なるべくそういうインターフェースのところはつくらないような形にシステム開発を持っていかなければいけないというのがこの前の特別会議の一つの方向だったと思います。
そういう意味では、土居先生が担当の情報関係のところを、より具体的に、さっき蛇川さんがおっしゃったように、実機でチェックできるのは非常にたまたまなところなので、もっと統計的なばらつきで何が起こるかということを事前にチェックし、その中で、まだデータが不足で、そこは実機的な、実証的な実験をしなければいけないなら、それはそれでやる。ソフトで済ませられれば、それでやる。ですから網羅するための技術を開発することをお願いしたいと思います。
このことは次の開発の進め方でもまた事例として出てきますので、時間の問題もありまして、次に移らせていただきたいと思いますが。
もう一つは、宇宙開発委員会特別会合でH-I8号機の失敗の説明があり、それを受け、H-Iから全面的にH-IIAに移り、エンジンについてもLE-7からLE-7Aに移ることになりました。それに当たり不利な点は全部捨てて良い点だけ残すという、きわめておいしい説明だけ伺って、私は本当にそうかと、隣の芝生はいつも緑に見えるが、という感じがしました。それから技術評価部会の事故報告書の説明がございました。さっきも、いろいろな理由があって、複合して結局こういう事態になったとありました。あの委員会の報告を見たときには、何も結論を出していないといいますか、NASDAとしてはこの報告書の内容を越えて、もっと一段と深い解析をして、真の失敗の理由は何であるかということを、過去の開発シナリオから洗い出して、きちんと結論づける必要があると、何かのときに申し上げました。今日またご説明を伺いました。
かつて山内委員長のLE-7のエンジン開発会議というのがあり、そのころから委員でしたので昔のことを知っているのですが、要するに営々として開発を続けてきました。本当の開発というのは、実機で遭遇する事態を地上でカバーして、問題を全部洗い出すというのが開発の基本だと思うのですが、そのつもりでいたら、実はそうでなかった。打上げてみると、いろいろ起こってきた。それはなぜかというと、恐らくいままで検証してきた範囲から逸脱した条件がフライトの中で起こったのだろう。それを意識しながらまた試験範囲を広げていくと、いまお話があったように、いろいろな問題点が出てきて、ついには設計変更までしないと安心できないという事態にもなってきた。
ですからそういうところを見ると、私はNASDAとして一番必要なのは、技術というものをもっと冷静に見ていて、自分のポジションがいまどうなっているのか冷静にフォローしている人が必要だということです。開発に関わっている方は、いまやっていることを成功させようと思って、あまり周囲との関連が見えない、自分自身の絶対的位置は見えないかもしれないので、いまの技術のポジションというものを冷静に見て、いまどこか範囲を逸脱しているよと、そういうようなことをきちんとアドバイスできるようなメカニズムがNASDAとして必要であると思います。是非そういう組織、体質をNASDAの中に築いていただきたいと思っています。
それともう1つ、次の8ページですが、実際に認定試験の秒時ですが、実フライト、実際に使うフライトは、認定試験を3〜4回、まあ5回と見ておりますが、そうすると5×5で250秒、プラスの実フライト350〜400。それに対して大体4倍の試験で確認して、寿命に対しても実フライトよりも4倍以上の試験で確認して大丈夫だという試験はやっております。
この問題だけではなくて、いままで日本の技術がキャッチアップできて、これから新しいところに踏み出さないといけない。そういう新しいことをやるときに、どういうふうにして、何を押さえていかないといけないかという認識が、これはNASDAだけでなく、日本の中にないようで、そこのところがまだ遅れているような気がします。
いまNASDAの失敗を振り返っても、ADEOSとか、ETS-6アポジモータだって、そういう考え方で、新しいことをやるときに、きちっとやっていれば、たぶんああいうふうなことが次々と起こらなかったような気がします。そこのところが本質的に何かおかしいということにまず気がついてもらわないといけないような気がします。
宇宙開発は先端技術の粋を集めてやるというのが一般的に理解されているわけで、シミュレーションも一つ一つのテーマごとに開発して、それで終わりというようなものではなくて、もっと高度な、日本の技術をリードするようなものを打ち出していこうという高いところに目標を置いて取り組んでもらう。そしてそれが他の学会や産業界にも利用されていくことが、宇宙開発に対する国民の理解が深まることにつながっていくし、また我々も先端技術の粋を集めてやるというところに非常に意義を感じるわけなので、やはり志というか、取り組む姿勢を是非高いところに置いてもらいたいと思います。
今回のこれも、たとえばある現象が起こったら、その現象そのものに興味を持って、徹底的にそれを追究していく人がいるということが実は研究開発なのだろうと思います。実際に実用する範囲はこの範囲ですから、ここだけやればいいですねというのは、プロジェクト開発というか、非常に合目的的な開発なのだろうと思います。
畚野さんの言われたことと絡んで言いますと、日本は現象そのものに興味を持って突っ込んでいくという体制が国家プロジェクトの中に全く欠けているというのがあると思います。その基盤みたいなものがないと、いつも新しい現象が出てきて困ってしまう。
NASDAがそういう部分の研究を持つべきかどうかというのはまた全然違う議論だと思いますが、そこが日本の社会にないとやっぱりだめだろうという感じが非常に強くして、最近非常に居心地が悪いというか、なんかしっくりこないという気持ちを感じております。
理事長、何かありますか。
したがって、そういう意味も含めて、今日はちょっと即答しかねますので、もう一度調べてからご報告をしたいと申し上げた次第でございます。
まず背景を持っていただく。ともかくロケットは29回まともに上がったわけですね。キャビテーションで失敗したのは今度初めてで、驚いて、びっくりしたわけです。ちょうどいま一番大きな踊り場にきていますから、畚野さんもおっしゃったかと思いますが、自分の持っている実力と欠けているところをちゃんと認識をして、着実に足らないところからまず持っていかないと、アメリカ、ロシアと一ケタ以上違う実験とデータ、失敗経験ですので、そういった意味ではこの数回の失敗というのは非常にいい教訓で、これを着実に実力にしていくことが現状ではないかと私は認識をいたしております。
しかし、水すらやらないという姿勢は、そこまでもいかないと思いますので、いま理事長が言われたように、是非積極的にご検討をお願いしたいと思います。
2ページは、H-IIロケットの開発の背景ですが、昭和59年2月に改定された宇宙開発政策大綱に記されている宇宙開発委員会が出したものです。1990年代の人工衛星の打上げ需要に対応するため、静止軌道で2トン程度の人工衛星打上げを可能とする能力。それから昭和59年7月、宇宙開発委員会の第二部会- 当時H-Iロケット分科会と呼んでおりましたが、H-Iロケットの開発の基本方針及びコンフィギュレーションが決められております。
主な内容は4つありまして、我が国の自主技術による開発、既開発の技術を活用して早期開発、コスト低減を図る。現在の種子島宇宙センターから打上げ可能なロケットとする。主要システム及びサブシステムについて性能等に余裕のある設計を採用し、また安全を考慮して、開発の確実性を図る。留意事項として、実機製作費及び打上げ費が国際的水準になることが期待されております。
3ページは、H-Iロケットの開発計画です。当初計画は、昭和61年開発に着手した当時ですが、H-IIロケットのコンフィギュレーションは、第1段エンジンに大型液酸液水エンジン、これはLE-7と現在呼んでおります。第2段がLE-5、これはH-IIの2段目を改良したLE-5Aです。固体ロケットブースタ、これは大型固体ロケット(SRB)。LE-7の1基だけの水力では足りないので、それを補助するということで大型の固体ロケットを追加する。
開発期間が7年。初号機打上げは1991年を目標としておりました。総開発費約2,000億円で、これは試験機が含まれていなかったと思います。実用段階の目標打上げ費は59年度ベースで170億円。当時はドルレートが240円だと思いますけど、これは欧米のコストの3分の2ぐらいのコストをねらっておりました。これはNASDAのロケット開発本部が中心となって開発を進める。そして航空宇宙技術研究所及び宇宙科学研究所等の協力を得て行うということです。
6ページ、開発の体制ですが、H-IIロケットの開発成果が十分活用できるように、基本的にH-IIロケットの開発体制を踏襲するということで、宇宙開発事業団が関連の研究機関と共同研究を行い、効率的に開発を推進する。それから開発担当の各社は、H-IIロケットの開発と同様の体制をとりました。
LE-7の開発は専門技術委員会を設けるということで、下に書いてありますとおり、航空宇宙技術研究所、宇宙科学研究所、それからLE-7の材料特性がかなり大きな部分を占めておりましたので、通産省の中国工業試験場にも共同研究を仰いでおります。事業団の理事長の諮問委員会として、LE-7の技術委員会が設けられておりました。その下に各企業がこういう体制で参加しております。これはいままでのH-IIの開発と大体同じ体制をとっております。
戻りまして4ページです。LE-7の開発をスタートしましたが、やはりクリティカル・パスがLE-7にあって開発が難航して、計画を二度見直しております。最初が平成元年、液体水素ターボポンプ部の破損。平成4年が噴射器部の破損。これは大爆発して、1年遅れで計2年の遅れになっております。
この不具合に対して、LE-7エンジンの総点検を実施し、NASDA内部のエンジン開発体制を強化しております。エンジン製作工場にNASDA事務所を開設し、NASDA職員を6人常駐させ製造工程の立ち会いの強化を実施しました。
その最終的な結果ですが、1993年冬期に初号機打上げに成功しております。当初予定より2年遅れで、開発期間7年が9年に延びました。総開発費2,700億円で、これは試験機1号機、2号機を含んでおります。当初見積りよりもエンジン、機体の開発費等の経費を追加しております。
5ページは、H-IIロケットの開発経費とマンパワーの推移です。人員は、立ち上がりのとき20数名からスタートして、最盛期で大体40人、打上げと同時にすぐ解散というか、全部人が取られて、20名近くに落ち込んでおります。
7ページは、LE-7の開発の概要です。開発目標として、我が国初の大型液体酸素・液体水素エンジンということで、高性能を発揮する高圧方式のエンジンです。これは2段燃焼サイクルといいまして、フリーバーナーで1回燃焼させて、さらにメインの燃焼機で燃焼させるという、非常に効率のいいサイクルを採用しました。米国のスペースシャトル用エンジンが同じ方式ですし、それからロシアのエネルギアエンジンに次ぐ、世界第3位の高性能エンジンとなるようにという目標で開発をスタートしております。
開発試験は、設計・試作・試験を3回繰り返す開発方式を採用しました。原型エンジン段階、実機型、認定型といっておりますが、たぶん衛星とか、他でいくと1がブレッドボードタイプ、2が認定の前の段階、3が認定試験ということで、3回繰り返す方式でやっております。
先ほどご説明したとおり、二度の大きな不具合が出ております。ターボポンプ部の破損。これはタービン翼が振動で破壊。これは振動だけではなくて、熱応力ですか、初め液体水素温度からいきなり燃焼温度まで大体100Kぐらいの温度差が生じますが、それが立ち上がり、それから終わるときも逆のサイクルが起こります。その熱応力と振動で破損しました。これは原型エンジンでやっております。噴射器部の破損は溶接部が熱衝撃で破損する。これは認定段階でやっております。
8ページは、LE-7燃焼試験の履歴です。上に試験の累積回数と試験累積秒時を年度で示しております。赤い▼がトラブルです。初期段階はスタートストップ、なかなか起動できない。逆に今度は止めるときにバランスが崩れて焼損するとか、そういうものが89年の段階であります。燃焼室の破損。90年に外部爆燃、たぶんこれも溶接部から破壊して、水素が外に漏れて爆燃してしまったという事故です。主噴射機破損、主噴射機破損外部爆燃。このようにかなり大きな事故を何回も経験しております。最終的には93年2月に打上げておりますが、その1年ちょっと前までこういう大きな事故を経験しております。
9ページは、LE-7の開発体制です。開発体制の考え方は、実績のあるLE-5エンジンの開発体制を基本的に踏襲ということで、私たちが液体水素、液体酸素を燃料とするエンジンを初めて開発したLE-5をやって、開発に成功しましたので、その開発を踏襲しようというのがこの開発体制の大きな考え方です。
一方、耐熱合金の使用が不可欠。それで先ほどご説明したとおり中国工業試験場に参加をいただいております。それから開発難度の高いことから、LE-7エンジン技術会議を設置。航空宇宙技術研究所、中国工業試験場、LE-7技術委員会。LE-7技術委員会は大橋先生も参加しておられましたが、当時、山内顧問(元理事長)が委員長で、あと航空宇宙技術研究所、金材研、工業技術院、宇宙科学研究所、各大学の先生方が委員で構成されておりました。企業側は、三菱重工業が設計・製作・試験、燃焼器系、エンジン組立、それから石川島播磨重工業が液体水素ターボポンプと液体酸素ターボポンプ、こういう体制で開発を進めてきました。
10ページですが、H-IIロケット5号機は2段エンジンで失敗しており、それから8号機の失敗の反省と教訓ということです。失敗の直接的な原因に対する対策はすでに講じられていますが、その背景にさかのぼった反省点と教訓は以下のとおりです。
反省点は、H-IIロケットは3号機までを開発段階と位置づけ、開発段階の終了とともに技術が確立したとして、リソースを大幅に削減しました。先ほどの人員の配置でもわかるとおり、打上げが終わったとたんに激減しております。
開発段階の後段階で、減圧制御時にLE-7エンジン液体水素ターボポンプに旋回キャビテーションが発生することがわかったが、この影響を結果的に過小評価した。これは実際にフライトした後わかったのですが、液体水素であるがゆえに応力が非常に低い、液体水素の密度が低いということで、それほど大きな影響はないだろうと過小評価しました。5号機第2段はろう付け不良で、8号機はLE-7エンジンFTPのインデューサの加工痕がありまして、製造上の品質のばらつきによる影響の評価、設計余裕の確認が不十分であったと反省しております。
教訓ですが、開発段階終了後も継続的な信頼性・品質保証のための技術向上を行う必要がある。開発着手前又は開発初期に基盤的研究や基礎的データを十分にとる必要があると反省しております。
11ページは、H-IIロケットの成果とH-IIAロケット開発の背景です。H-IIロケットの成果は、自主技術により、静止軌道2トン級の大型人工衛星を打上げロケットの開発が実現した。それから複数衛星同時打上げの手段も手に入れたということです。
H-IIロケットの課題ですが、我が国初の完全自主開発の大型ロケットであり、この経験を生かし、さらにロケット技術の成熟を図る必要があった。特にLE-7エンジンの開発は、H-IIロケット開発の最難関であったことから、多くの改善事項があった。
H-IIロケットの実機運用コストは、当初170億円で、機体製作費と打上げ費を含んだものですが、これが190億円となり、かつ開発期間中の円高の進行で1ドル240円が100円程度まで落ちて、国際的水準という目標は達成できなくなっております。
12ページは、H-IIAロケット開発の目的です。多様なミッションへの対応。これは静止2トンから3トン相当。それから国際宇宙ステーションへの補給等多様なペイロードに対応。それから将来は簡単な改修で静止4トン相当のペイロードにも対応。
システムの簡素化ですが、H-IIロケットの開発で得た知見を基に、サブシステムの統合化、クリティカル品目を削減、製造工程の見直し・効率化等、システムの簡素化を通じて、信頼性の向上、運用性の向上を図ると同時に、大幅な打上げコストの低減を図る。
13ページは、開発計画と経費です。H-IIAロケットは増強型初号機を13年度に打上げることを目標に8年度に開発に着手しております。その後、H-IIAロケットの早期打上げ需要に対応するために、能力的にH-Iと同じ能力を標準型と呼んでおりますが、標準型初号機を11年度冬期に打上げることとし、開発計画を見直しております。
H-IIロケット8号機の失敗を踏まえ、確実な開発のための追加試験などを実施して、1年延期ということで、現在12年度冬期を目標にしております。
開発経費は、当初開発費約900億円を想定。これはロケットの開発、エンジンの開発、射場設備の開発と、全部含めた費用です。H-II8号機の失敗を受け、開発費を約200億円追加して、約1,100億円となっております。
14ページは、開発体制です。企業を含めたH-IIロケットの開発は、基本的にはH-IIロケットの開発体制を踏襲しております。それからLE-7Aの開発体制も、7の開発体制を踏襲しております。NASDA内の開発体制は、平成12年から、従来システム技術部とH-IIAプロジェクトチームに分散していた開発部隊を、プロジェクトマネージャーの指揮下に担当者を一本化し、また10名程度を増員して、約60名が現在H-IIAのプロジェクトマネージャーのもとにおります。
15ページは、先ほどご説明した宇宙開発委員会技術評価部会のH-IIAロケット打上げ前段階の技術評価に関連した指摘です。技術的課題は、専門家の協力の下に、インデューサの設計変更に着手しております。経営的課題は、開発段階に応じた技術評価。それから技術の継承、発展、蓄積。それから大学・関連研究機関等外部機関及び外部専門家との連携強化。同じくこれも技術評価部会から提言されております。
16ページは、現状の課題の認識です。技術に対する認識。これはN-I以来の技術導入をベースにした開発手法により効率的な開発を進めてきており、その成果としての連続した成功体験の下、本来研究・開発初期段階の業務である限界確認試験が不足しておりました。
H-IIロケット試験機1号機の打上げ成功により運用段階に入ったとして、継続的な技術データの取得・蓄積がおろそかになっていたと同時に、開発経験者による技術継承及び専門家の育成がおろそかになっていた。これは実際に開発を経験した者がだいぶ外に散ってしまって、残った部隊が非常に弱体化したということです。
外部機関及び外部専門家との連携。ロケット開発は広範囲な技術が要求されているにもかかわらず、多様な外部専門家との幅広い協力関係によりパラメトリックな解析作業及び基礎試験の充実による基礎データの蓄積が充分でなかった。
運用段階における信頼性・品質管理への取り組みですが、運用段階における実証データの取得、これに基づく継続的な信頼性、品質向上への取り組みが充分ではなかったと反省しております。
17ページですが、これらの課題に関して、アクションプランでも示しておりますが、開発の進め方として次の対策を講じることにしております。
H-IIA開発・打上げ推進本部の設置。これはH-IIAプロジェクトの確実な実施のために、経営層を含めた全社的かつ迅速な対応を図り、リスク管理を徹底することを目的として、理事長を本部長とする「H-IIA開発・打上げ推進本部」を今年の10月17日に設置し、以下の活動を行っております。
H-IIA開発・打上げに係る進捗状況及び課題の適時的確な把握。上記課題に関する対策の検討/決定及び担当組織への実施指示。上記対策の実施状況の点検/評価。その他、全社的に推進するために必要な施策の検討/決定。
18ページは、基礎的技術データの取得・蓄積・継承の強化です。NASDAが保有すべき技術分野を明らかにし、国内外の機関と協力して、NASDAが我が国の宇宙開発の技術的基盤やエンジン開発の中核となるよう、技術分野毎に専門家集団を早期に形成する。また、プロジェクトの実施に当たっては、その技術蓄積が生かされるよう技術分野毎の専門家と連携して進める。先ほど狼研究総監からも発言がありましたとおり、現在その方向で進み出しております。
それから外部専門家との連携の強化。プロジェクトの実施に当たっては、外部専門家に技術支援と独立評価の両面で協力を得るということで、これに対して、先ほどのLE-7Aのインデューサの改良に関しても、外部の先生方の技術支援を得まして、現在改良設計が進められております。それから独立評価に対しても、2年前からやっておりますが、それをさらに強化して、プロジェクトとは別な観点から独立評価するものを強化するということで現在進めております。
それから運用段階における信頼性・品質向上プログラムの実施。ロケットについては、運用段階においても相当数にわたって実証データを収集し、ロケット技術の成熟度を高める。たとえばLE-7Aに関しては、実際に開発が終わった後も、国内でいろいろな研究をされている方がおりますが、そういう方たちの考え方を採用して、さらに信頼度を高めるとか、認定試験は終わっておりますが、ミニ認定試験的なものをやりながら、さらに信頼性を向上して、品質向上をやっていこうということを現在考えております。
19ページ以下は参考でございまして、宇宙開発の特徴を書いておりますが、これは省略させていただきます。
一つひっかかるところは、いま16ページにも出てきましたが、10ページで、開発終了とともにリソースを減らした、これはまずかったと、これは確かにそうだと思いますが、これは非常に悩ましいところです。だからといって、いつまでも、人を、リソースをつぎ込んでズルズルやっていたのでは、先のことは何もできないようになる。さっきから話が出ている宇宙開発委員会の基本戦略部会でもいま問題になっているわけです。
基本的に日本はべらぼうに少ないリソースで手を広げ過ぎてやっているわけです。だから我々はここで根本的に考えないといけない。日本は宇宙開発をやるのかやらないのか。やるとしたら、リソースを増やすのか増やさないのか。増やさないのだったら、何をやめるのだというところまで検討しないといけないという話をしているわけですが、宇宙開発委員会というか、事務局の科技庁とすれば、とても金を増やすような、リソースを増やすような力はない。ましてや「何をやめる」というような危ないところには踏み込みたくない、俺のいる間は、というのがあるのだろうが。
結局いま程度のリソースで、彼らのいう「限られたリソース」で、手を広げて、ばらまきで、いま同様細々とあれもこれもとやっていくというのが日本の基本戦略になろうとしている。
それはそれとして、NASDAとしても、これは確かにそうだけれども、リソースを減らさずに、どんどんやるというようなことはあり得ないので、どうするのかというのは、かなり真剣に考えて、これからどうするという対策を打ち出してもらわないといけないと思います。
その辺は、特別会合では、プライム契約で云々ということで、その方向で検討するというお話だったと思います。あれから小一年経っていると思いますが、具体的にはどんなふうに議論が進まれたのか、伺いたいと思います。
それと、もっと大きな流れは、2回の失敗続きで、いま商業化の話が頓挫しております。ロケットシステムがNASDA以外の受注を始め出すと、これはもう完全に商業ベースで、ロケットシステムと企業が話し合って、どういう契約方式が一番最適かというのを決めるべきであって、そこまでいくと、NASDAがいうよりも、もっと企業レベルで効率化が進むと思っております。ですから早くそうなってほしいと思っております。
では次回に、企業としてどういう強化策をやっているか、ご報告させていただけますか。
この「簡単な改修」というのは、ちょっと想像がつかないのですが、技術的にはどうなのですか。二乗、三乗ものじゃないのですか。
エンジンも同じ、タンクも同じ、できるだけ共通化して能力を上げようということで現在検討を進めております。H-IIのときは人が減りましたが、何とかH-IIAのほうはこの増強型とそっちのほうで確保しながら、標準型の信頼度、品質向上も並行して進めたいと考えております。
したがって、こういうことの上に立つ専門家の育成と、そういう技術データの取得・蓄積、その応用、利用ができるようなものを構築するためのヒューマン・リソース等々を含めて、これはNASDAだけじゃなくて、我が国全体でその層が薄過ぎる。そこで、先ほど鳥井委員がおっしゃったように、何かがあったときに、追いかけるような暇もなければ、人もないのですね。これは恐らくありとあらゆる分野でいえると思います。
そこで、こういうような規模のものですので、高度情報化のときにも、先ほど馬場委員がおっしゃったようなことで、端的に申しますと、要するにここで開発された技術が我が国の産業を引っ張るような、先導するようなところへといったら、あまりにも高邁過ぎて、いま目先のものを解決するのが先だというようなご意見もありましたが、基本的には、私個人的には、歯を食いしばってでもこのロケットというのはやらなければいけないと思います。
したがって、これはあくまでも規模的には国家戦略に従ってやることになるわけですので、かなりのリソースを確保するということを、このNASDAそのものだけをとりましても、ありとあらゆる分野で、しかも技術の蓄積が企業側にあるということだけでは、きわめてぐあいが悪いわけですので、その技術の蓄積がNASDAで行われ、そしてそのNASDAで蓄積されたものを展開するのが企業であるというようなループに入らないと、きわめてぐあいが悪いと思います。したがって、そういう方向に進めていただくように、是非いまから少しなりともやっていただかなければ困るのではないかと思います。
したがって、先ほど畚野委員からも出ましたけれども、いま基本戦略部会というところで日本の宇宙開発をどうするのだ、どのような国家戦略をもって開発して取り組んでいくのかという問題がいま論議されています。
NASDAは、宇宙開発を研究開発する当事者として、この「限られたリソース」という一言で片づけるのではなくて、日本国の代表として取り組んでいくためには、どのくらいのリソースが必要なのか、十分にするためには、金だけではなくて、どのような支援体制が必要なのかということを、自ら国や国民に訴えることがなければ、我々はわからないでいる。そういう主体性がNASDAに是非とも必要ではないかということがいえると思います。単に、「不足していた」「おろそかになっていた」ということになると、NASDAが非常に不十分で、怠惰であったという印象だけで終わってしまうということでは、やはりよくない。
私自身、個人としては、宇宙開発のような高度技術開発、あるいは技術革新の先導となるようなものを、21世紀の日本は厚くして、頂上を高くしていかなければならないと思っているわけで、リソースをもっと拡大をして、宇宙開発が先導して他の産業にも波及しいくような構図が是非とも必要だ。そのためにもNASDAは自ら取り組む姿勢をはっきりと打ち出してもらいたと思います。
人材の育成では間に合わないと思いますので、むしろ内部の中に専門家を取り込んでいって、本当の意味で技術的に中身のわかった人を、早急に内部に外から取り込む必要があるのではないか。
この委員会自身もそうですね。我々はあまり知らないで、勝手な助言をしているような感じがしないでもないです。ですから本当に専門家を中に取り込んでいくということをやらないと、非常に難しいのではないか。これは経営の問題と業務の問題のボーダーラインにあるかと思いますが、それは是非考えていく必要があるのじゃないかと思います。
もう1点は、実務のほうですけれども、信頼性の改善とか改良点は、要素技術- 技術、技術についてはいろいろお伺いをしたのですが、これは打上げを含めて非常に難しい複雑なトータルシステムです。そういうトータルシステムとしての信頼性の向上。これはデシジョン・メーキングにも関連があると思います。例のチャレンジャーの場合も、ある意味ではデシジョン・メーキングのプロセスが悪かったという話があったと思います。
いま、平成5年にキャビテーションがあって、「過小評価した」という一つの言葉で片づけられておりましたが、本当に過小評価だったのか、それが上部機関に上がるプロセスに問題があったのかとか、そういうトータルシステムとしての信頼性向上にどういうふううにお取り組みになっているかをお伺いしたいですね。
こういう助言を受けまして、事業団としても是非真剣にお考えいただきたいと思います。
技術が足りなかったかという認識の中に2つありまして、1つは16ページに書いてありますように、技術導入から入ってきたということもあって、きわめて手法的なもの、考え方の上で、自分たちで全部つくり上げていくのだというのとの間にギャップがあった。そういう意味では認識のギャップ、手法のギャップ。同時に、リソースというか、リソースの中には人とお金と両方あるわけですが、そうした問題が複合している。それから外部機関とも複合しているわけです。
現在、これらに対応しようとして出ておりますのは、一部は、特別会合でもご指摘されておりますが、エンジンの信頼性向上、その他に、さらに衛星も含めて全体的な信頼性向上をするには、どういう基盤的な技術を蓄積し継承していったらいいかということについて、航空宇宙技術研究所と宇宙科学研究所との連携研究として、その2つの信頼性向上及び中核のエンジンのあり方、技術の蓄積と継承のあり方、そこにさらに大学の先生とか企業の人に入ってもらいながら、そうした体制をつくろうということについて、現在その準備が進んでおりまして、そうした体系をさらに拡大することによって、これに取り組んでいきたいというのが一つの動きでございます。
それから内部の評価のあり方、中間段階における現場からトップまでの情報伝達の問題については、基本的にどの時代でもたぶん難しい点はあると思います。まず内部の評価につきましては、このH-IIも内部評価のチームをつくっておりますが、外部の、いわゆる別の視点からのレビューというか、専門家の導入というか、入っていただくのが必ずしも十分でないことは認識しておりまして、その辺については、さらに広範囲の方のご協力をいただくように努力をしていきたいと思っています。
それからリスク管理というか、全体として、意志決定に現場の方の意見がちゃんと伝わってくるかということにつきましては、企業の現場の方と製造の現場の方が総点検においてそういう対話をしていると同時に、各層、各企業との間でも、開発強化についての連絡会を設けて、経営のトップの方から現場の方まで、状況がそれぞれ言える場を設けてございます。
事業団につきましては、17ページに書いてあるような推進本部を設けて、そうした的確な把握に一層の努力をしているところでございます。
時間が迫ってまいりました。実は12時までということでしたが、もう1つ議題があります。どうしましょうか。これは特別会合で提言されていることですので、先ほどの桑原委員のご示唆にもございましたように、これもこの委員会が助言する一つの重要なテーマでございます。できれば12時15分ぐらいまで時間をいただけましたら、簡単に説明していただいて、ご議論いただき、十分でなければ、次回に持ち越しということにさせていただいてもいいかと思いますが、いかがでしょうか。時間的にはよろしいでしょうか。
それでは、議題の品質保証の強化に対する取り組みにつきまして、原部長、申しわけありませんが、10分ぐらいでよろしいでしょうか。
3ページ、1番目は、H-IIロケット8号機LE-7エンジン燃焼停止事故、これは先ほど柴藤理事からご説明があった内容でございます。簡単に問題点を整理しますと、技術のわりにスペックが不完全であった、それから今回はインターフェース管理の基本である、簡単なところでインターフェースが切ってなかったという問題が指摘されました。改善のポイントとしては、技術が足りない部分は、検証試験を充実するということです。それからインターフェース調整のために少し検討した部分があります。
いま設計上の問題と言いましたが、作業ミスということで、H-IIロケット8号機の種子島における射場整備中にいろいろな不具合を経験しました。1番目は、8号機の空調フェアリングアンビリカルキャリア誤離脱ということです。
これは5ページの画を見ていただけば思い出されるかと思いますが、フェアリングの上のほうに空調ダクトがついております。こちらは3号機のフェアリングですので形はちょっと違いますが、8号機のフェアリングは5メートル径が少し大きくなっております。そこで整備作業中に空調ダクトが意図しないところに落ちてしまった。原因は配管系を誤接続したということです。
6ページにもう1つ画があります。パージラインとアクチエーションの作動ラインが同じサイズで同じ形状であったために、部品の共通化とかいう問題でそうなっておりますが、誤接続をしてしまったということでした。
3ページ、作業ミスで2番目に書いてありますのは、8号機注排弁(デブリ弁)逆圧印加ということですが、射場整備作業中に、タスクリーダーが「このバルブを開にしなさい」といったときに、信じられないことですが、手順書に書いてあるバルブの番号を読み違えてしまって、作業者が指示を受けたバルブを開いてしまった。検討した結果、不具合で物を壊した可能性があるということで、その弁を取り換えなければいけなかったということがありました。
3番目は5号機LE-5A領収燃焼試験時の検査治具残置ということです。タイトルだけだとわかりませんが、領収試験の前に圧力試験をやっておりますが、そのとき圧力試験をかけるために、臨時の閉じ蓋、めくら蓋を入れるわけですが、その試験が終わった後にめくら蓋を取りはずすのを忘れてずうっと置いてあった。それを知らずにLE-5Aの50秒の領収燃焼試験で燃やしてしまった。気がついたときに空だきをしてしまったということです。それで不具合対策措置をして5号機は飛ばしております。
4番目のETS-VIIのロボットアーム取付角誤りというのは、工場内でロボットアームを衛星に取りつけ、取りはずしをしたときに、たまたまボルトがきれいに取り付くように穴があいていたということもありますが、30度回転して取りつけてしまった。これは軌道に上がってから気がつきまして、運用でカバーして、ETS-VIIそのものは試験を成功裡に済ませております。
従来は、作業ミスが起こると、作業者を教育します、点検を充実しますということでやりましたが、作業ミスが起こらないような設計上の配慮をすべきだということから、改善のポイントとしては、動機的要因分析をやります。
それから不具合に至らぬまでも、もう少しで何かやると不具合になったということを、安全のひやり・はっとをもじりまして「品質ひやりはっと」という名前をつけて、これも拾って分析を始めるべきだということにしております。
それから設計上作業に誤りを及ぼさないような、フールプルーフ設計を充実させるにはどうするかということを改善のポイントとしております。
それから作業前後の点検/確認を充実する。
それから製造現場での現物/製造規格の確認、これをじかにもっと見ようということです。
製造のバラツキという観点でくくった不具合ですが、8号機では酸化銀-亜鉛電池の電極部端末の処理が不良で、バリのようなのが出てショートを起こしてしまった。このために電池のつくり直しで打上げスケジュールがかなり延びてしまったということがありました。
それからこれも8号機ですが、1段タンク、水素がなくなったのを検知してエンジンをとめるシーケンスのセンサが3個ついておりますが、そのうちの1個の取り付けがちょっと不良で、種子島の実機での試験中にショートしてしまったという事故がありました。これもタンクに入ってセンサの取り付け直しをしております。
これらは、製造指示内容の不明瞭、コミュニケーション不足、クリティカル部への認識不足があったというふうに問題点を整理しております。
もう一つ不具合で大きなのは5号機のときですが、LE-5Aエンジンの燃焼室ろう付け不良による燃焼室損傷という不具合が起こりました。
この画が8ページにあります。2段エンジンの再生冷却方式ですので、パイプでこの燃焼室をつくっておりまして、このように個々の小さな配管をろう付けでつないで壁をつくっておりますが、そのろう付けが不十分で気孔があったということで、作動中に一部穴があいて吹き出して燃焼ガスがエンジンのコントロールボックスの電気系を壊してしまい、作動停止に至ったという5号機の不具合です。
この改善のポイントとしては、製造のバラツキに関しては、工程解析、工程FMEAといっておりますが、これを一人でやるのではなくて、グループとしてやるべきだ。製造工程の審査も、もう少し強化しなさいということをいっております。
それから製造現場での現物/製造規格の確認、これをNASDA自身がもう少しやることを改善のポイントにしております。
具体的な対策の強化内容をもう少し詳しく書いたのが4ページの表で、内容は先ほどの表と同じです。LE-7Aエンジンでは認定試験の内容を見直して、先ほど柴藤理事からご説明がありましたように、燃焼試験を増やしておりまして、これは現在やっております。それからNASDA/メーカーのインターフェース部分を共同でやることにより、三菱重工業と石川島播磨重工業のインターフェース問題が起こらないように、合同開発チームを設置して5月23日より共同で仕事を始めております。
作業ミスに関しては、NASDAで品質保証プログラム標準というのを昔から定めて、各社で契約においてこのとおりやってくださいということでお願いしている文書ですが、ノーティスを追加して、背後要因分析、大きな不具合、作業ミスを起した場合はヒューマンファクタ分析をやってくださいということを現在メーカーに展開しております。7月19日にメーカーに説明いたしました。
「品質ひやりはっと」に関しては、実施のためにいまから検討していることです。GTV、8号機の事故例か事例集を集めて、テキストになる教訓を抽出し始めたところです。フールプルーフ設計も、去年からこういうことをやろうということで計画しておりまして、急いで実施に入ろうとしております。平成12年度はやはりまだ調査、検討にとどまるかと思います。ただしGTV等の結果を受けて、H-IIA初号機に間に合うものは間に合うようにするつもりです。
作業の点検/確認。NASDAの標準版のタスクレビュー/ブリーフィング、これは5月時点ですぐ見直しまして、検査員による独自確認強化等、タスク文書をすでに修正しております。
あと、製造現場における現物/製造規格の確認というのは、NASDA自身が確認することを強化するということで、急遽、製造/検査に知識・経験の豊富な方を安全・信頼性管理部に招聘しまして、今日現在で25名の方に来ていただいております。このうち、工場内監督で実際に工場のそばにいていただいている方は18名です。ただし、急遽来ていただきましたので、半数はパートタイムです。すでに三菱重工の飛島、小牧北、IHIの瑞穂工場、IHIエアロスペースの富岡工場、KHIの岐阜工場の5工場に常駐して見てもらっています。X線検査フィルムについては、全数NASDAの職員が見るということでやっております。
それから工程解析の強化ということで、品質保証プログラム標準にならいまして、信頼性プログラム標準というのをNASDAは持っておりますが、こちらも重要品質特性の識別・監視、製造工程審査を強化しなさいという意味のノーティスを出しております。そして制定の後、7月19日にメーカーに説明しております。契約的にどう裏づけるかで、直ちにパッと動いているというわけにはいかないところがあります。
平成12年1月〜3月にかけて、外部の専門家による工程アセスメントを行いまし、このときに大きな提言をいただいております。先ほどのX線検査フィルムを全部見るとか、非破壊検査、ろう付け等、最新の技術はどうなっているかというのをもっとやりなさいということが出ております。
9ページ、添付資料1は、NASDAの宇宙開発における品質保証の考え方です。簡単に申しますと、宇宙開発事業の技術仕様書を技術陣がつくりまして、モデルはエンジニアモデルとプロトフライトモデルの2つのモデルで原則として確認する。設計の確認はプロトフライトモデルで認定レベルの試験をして確認する。
フライト品に関しては、原則として遭遇する実環境において試験をする。いわゆるAT(アクセプタンステスト)は原則として実環境ということでやっております。
これらの一連の作業は、データを残すということでやるのだというのが全般的なことです。
先ほど言いました管理基準として、信頼性管理に関して、NASDA-STDARD-17という文書でこういうことをやりなさい、特に信頼性解析をなるべくやりなさい、フェーズの終わりには正式な設計審査をやりなさいというようなことを要求しております。部品材料、工程の適用は必ず審査しなさいというようなことを信頼性管理要求としております。
品質管理要求。これは特に特殊工程の管理、仮組立品の管理、識別管理等いろいろやりなさいということが書いてあります。特に不具合が起こった場合の記録、不具合処理については、うちは昔からしっかりやっております。
それから性能管理のために、技術仕様書、図面を、体系的にツリーをつくって、必ず意図するものが最終製品になるように変更管理もしなさいということを、コンフィギュレーション管理で規定しております。
11ページは、全体の流れの図で、先ほど柴藤理事のところで省略された最後の部分を画にしたようなものです。
12ページは、NASDAとメーカーの関係です。NASDAが信頼性管理要求をまとめて、メーカーは計画をつくってそれを実施するという形です。
13ページは、3つの標準で、やや詳しく具体的にどういうことが書いてあるかが書いてあります。
14ページは、検査方式です。NASDAが直接監督を増やすと先ほど言いましたが、原則として品質証拠方式で、メーカーにおいて品質管理を示す証拠、試験をやったら試験をやったデータを全部文書に残してください、それを後で見ますということで、品質証拠方式が基盤になっております。監督もそうです。検査は、監督員からの報告で、別の人が検査員になっているというだけです。
最後の15ページは、安全・信頼性管理部と各本部との関係で、現在、安全・信頼性管理部のところに招聘開発部員ということで25名来てもらっているということです。
そこで、対策についてのご意見、どう対策をとったかということだけで、あまり時間がなくて申しわけないですが、5分ぐらいでご意見ございましたらお願いしたいと思います。
我々ですと、品質ネットワークなんかをやっていますが、設計の意図するところ、製造技術者というか、生産技術者の意図するところ、それを実現する技能系とは、予測をするわけです。どういうミスをするか、どこが過大な何かをしなければいけないかとかいうディスカッションの中から、その品質保証の体系を仕事の前にするわけです。それを積み重ねていくわけです。それには、あなたに技能があるのかないのかとか、その予知ができなければ、後で起きたことを発見することは10倍難しいです。ですから、そういうレベルへいまきているように思います、我々ごときでも。ですから、「ましてをや」というので、びっくりしています。
正直いって、「ひやりはっと」なんて、単なる新入社員の教育みたいなものですね。ですから、偉そうなことを言うわけではありませんが、もっと高等な何かをつくり上げないと、単品の製造の難しさというものをこの角度で保証するという手法は、我々も経験がないのですが、もっと何か違う角度から見つけないと、たぶんこの延長はだめだと思います。
2点目は、自動車のように毎日毎日繰り返し大量につくっているわけではなくて、年に一度とか二度とか、寄ってたかってつくるという一品料理なものですから、流れ作業で開発された品質管理の手法というのはあまり適用できないのではないか。したがって、開発のエンジニアとか、設計のエンジニアが現場の実際にアセンブルする作業のところへもっと深く食い込んでやっていかないと、難しいのではないかという気がいたします。
それから、ちょっと細かいことですが、12ページのNASDAと企業との関連において、企業の最後に「NASDAの承認を得る」という言葉がありますが、承認をしてはいけないと私は思います。NASDAの指針が文章で出るのでしょうけど、信頼性というのはもっと深いところにあって、この指針に基づいて何かをやりますということを出させるのは結構ですが、それでいいよと、逆にいうとそれだけでいいよということは、いわないほうがいい。だからNASDAは確認はしていただきたいのですが、これでいいのだという承認はやられないほうがいいのじゃないかと思います。以上2点です。
今日は、これだけじゃなくて、その前のロケットのことでも感じますが、今回何が起こりました、それで、これにこんな対策しました、こういうようにやりますということばっかりのような気がします。
それから一歩進んで、根本的にこうしないといけないということを真剣に考えていないのじゃないか。今日はそこまで時間がなかったのかもしれないけれども、そこのほうが重要な気がします。もしこれがNASDAのいまの大部分の認識なり基本的な体質だったら、大問題だと思います。
聞いていて、対症療法だけやったってしようがない。個々の対症療法を議論しても、私はしようがないと思います。いま畚野さんや桑原さんからご指摘のあったことは、きわめて本質的な話です。
蛇川さんのご意見は、率直にいって私は若干違和感があったのです。そこまでできるかなと。実は私は別の産業から来たのですが、その産業は170年の歴史があっても、「ひやりはっと」を毎日やっていますので、そこはもう一度教えていただきながら、この種のきわめて単品生産的かつ経験の少ない産業がどこまでいくかということを前提にしてご議論を賜らないと、ちょっとレベルの違う議論になるのが心配だという感じはいたします。
それでは一応議題を終わりにいたします。かなり時間が食い込んでしまいまして申しわけありません。
それでは、次回以降、今日提案があったようなことで議題をつけ加えることがあると思いますので、それはまたご連絡いたします。
よろしければ閉会といたします。どうも長時間にわたりましてありがとうございました。