プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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H-IIAロケットLE-5Bエンジンの信頼性向上試験の試験結果と
今後の計画について

平成12年7月28日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 経緯

(1) H-II8号機の失敗を受けて、H-IIAロケットの開発強化の一環として、LE-5Bエンジンの信頼性を向上する燃焼試験計画を設定し、平成12年3月15日の宇宙開発委員会に報告した。
(2) 試験計画どおり平成12年3月より5月まで、角田ロケット開発センタにおいて高空燃焼試験を実施した。

2. 試験結果の概要

 合計11回の試験を実施し、着火回数19回、燃焼秒時2,690秒の燃焼を行った。作動実績を図1に示す。(尚、今回試験はすべてタイマー停止で、これによりLE-5Bエンジン燃焼試験は着火57回、合計燃焼秒時8,366秒の連続成功を記録した。)
 目的であるエンジンの耐久性確認は、表1のとおり認定試験範囲での要求寿命確認および、高圧燃焼による厳しい作動範囲(図1の(2))での確認ともに、既定の判断基準を達成した。
 また推力、推進剤流量、各部温度・圧力・振動等の計測データ(含む、H-IIロケット8号機LE-7エンジン不具合対策の反映として計測したFTPインデューサ出口圧力)について詳細な解析・評価を実施し、計画の作動点(図1の(1))における比推力性能、各部の機能特性等が所期のとおりであることを確認した。

表1 耐久性確認達成度
 試験目的現状判断基準
1 通常ミッションを想定した
寿命耐久性確認
燃焼秒時:2,690秒
着火回数:19回
(2項の回数、秒時を含む)
燃焼秒時:2,400秒
着火回数:18回
2 高負荷作動を想定した
寿命耐久性確認
燃焼秒時:1,280秒
着火回数:9回
燃焼秒時:800秒
着火回数:8回

 上記燃焼試験終了後に、エンジンの分解を行い健全性を確認したが、水素ターボポンプのタービンディスク部の表面にクラックが認められた。原因はタービンノズル流を励振源とするディスクの振動と考えられる。
 類似部分のクラックは認定試験において発生しており、ターボポンプの機能や作動状況に影響を与えるものではなく、応力を低減する形状変更等の対策を講じている。
 今回のクラックについて、表面強化対策(ショットピーニングにより表面に残留圧縮応力を与え疲労強度を向上させる)を行ったタービンディスク部に係る残留応力の検査と疲労強度再解析の結果より、表面強化対策を行わなかったものは、通常範囲を超える高負荷作動や強度のばらつきに対して、強度余裕が十分でないことが明かとなった。

 なお、強度余裕の向上方策については既に確認試験を行っており、表面強化対策を追加したターボポンプにより、判断基準を超える着火28回、燃焼秒時3,646秒の耐久性を確認している。これを最終対策とした結果、強度余裕については適正であると判断している。

3. 今後の試験計画

(1)  今後さらに信頼性向上のための耐久性の技術データ蓄積を継続するが、当初計画の田代常圧試験はノズルスカートも含めた有効なデータ取得ができるよう高空燃焼試験に取り込み実施する。また、水素ターボポンプについても最終対策品の1式によりデータ蓄積を行う。
 見直し後の試験計画スケジュールを図2に示す。また、燃焼試験の試験構成を表2に示す。
(2)  判断基準(試験回数・秒時)を達成したことから、H-IIAロケット試験機1号機用のLE-5Bエンジン領収試験を実施する。