プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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LE-7AエンジンとLE-5Bエンジンの燃焼試験結果について(続報)

平成12年6月9日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会技術評価部会/専門家会合における報告資料を、以下に掲載します。

 なお、本日の技術評価部会において、海底より回収されたH-IIロケット8号機用LE-7エンジンについて、NASDA筑波宇宙センターに広報・NASDA内教育用に展示されるとともに、外部機関の研究用に広く供することとされました。
 LE-7エンジンを研究に利用する場合には、NASDAと共同研究等の契約が必要となります。手続きについては、詳細な事項が決まりしだいホームページにてお知らせします。

<LE-7Aエンジンの燃焼試験結果>

1. 概要

 LE-7Aエンジンについて、8号機インデューサ不具合要因に対して、現設計の妥当性を確認するために、認定エンジンを用いた燃焼試験を、種子島宇宙センター(4月に実施)とMHI田代試験場(5月に実施)で実施し、試験結果の評価を行なった。
 また、LE-7Aのインデューサ水流し試験(4月に実施)を実施し、結果を評価した。

2. 燃焼試験結果概要

(1)種子島

 4月21日から4月28日にかけて種子島の燃焼試験場において、FTP入口圧力をフライト模擬相当まで低下させた燃焼試験を、認定エンジンを用いて、3回実施した。本シリーズの主な試験結果を下表にまとめる。
 ほぼ計画どおりのインターフェイス条件を達成し、図1-1図1-2に示すとおり、H-IIAノミナルフライト相当のポンプ入口条件(PIF、キャビテーション係数、NPSH等)を網羅するデータを取得した。

 S7-155HS7-156HS7-157H
FTP回転数(回転/s) 673.5 719.4 716.1
インターフェイス圧力(PIF:MPa) 0.311 0.258 0.472
流量(QF:m3/s) 0.514 0.536 0.538
流量比(Q/Qd) 0.925 0.930 0.939
インターフェイス温度(TIF:k) 20.87 20.81 20.94
NPSH(m) 276.4 206.4 498.3
キャビテーション係数Kw 0.03433 0.02287 0.06018

(注) S7-157Hは、酸素側の入口圧をフライトとほぼ同様に模擬し、加減圧し、FTPインデューサへの影響を確認した。試験は350秒実施したが、図1-1では70秒までを表示。
(2)田代

 5月9日から5月14日にかけて田代燃焼試験場において、FTP入口圧力をフライト模擬相当まで低下させた燃焼試験等を、認定エンジンを用いて、2回実施した。本シリーズの主な試験結果を下表にまとめる。
 初回試験により作動点が高めに外れたため、初回試験(T7-229H)は液体水素ターボポンプ回転数上限の制限により自動緊急停止した。
 変動圧力のばらつきなどについては、特に有意差のないことが確認できた。
 今回の試験結果を図1-1図1-2に示す。

 T7-229HT7-230H
FTP回転数(回転/s) 730.5 705.6
インターフェイス圧力(PIF:MPa) 0.226 0.339
流量(QF:m3/s) 0.560 0.532
流量比(Q/Qd) 0.956 0.942
インターフェイス温度(TIF:k) 20.78 20.79
NPSH(m) 222.9 319.6
キャビテーション係数Kw 0.02384 0.03861
(3)データ取得結果

 主なデータ取得結果を以下に示す。

1 FTPの軸振動(図1-3(1/2,2/2))から1.1ωの非同期は確認されてないことから、旋回キャビテーションの発生はなかったと推定される。
また、インデューサ翼の固有振動数2.7kHz近傍の2.8kHzにピークが認められたが、その大きさは、LE-7の約15μmo-pに比べ約5μmo-p程度と十分小さい。
2 インデューサ近傍の変動圧力(PVIDFC:図1-4)には、3.2kHz近傍に変動のピークが認められたが、インデューサ翼の固有振動数である2.7kHz近傍には特に顕著なものはなかった。(LE-7では同様に3.2kHzに変動圧のピークがあり、インデューサ翼の固有振動数が同じ周波数で存在していた。)

3. FTPインデューサ水流し試験結果

(1)試験条件

 基本的にはLE-7インデューサ水流し試験と同等のコンフィギュレーションで、入口圧力、流量を試験パラメータとして変化させ、圧力および歪データを取得した。
 入口圧力条件は、0.1MPa(1kg/cm2a)からステップ状に低下させ、0.02MPa(0.2kg/cm2a)まで実施した。流量条件については、実作動状態に近い流量比0.94に加えて流量比0.88と1.00で実施した。

(2)圧力変動

 入口圧力が0.035MPa(0.35kg/cm2a)では、旋回キャビテーションと思われる1.3ωの比較的小さな変動成分が見られるが、0.03MPa(0.3kg/cm2a)では、1ω、2ω、3ω成分が顕著となる状態となった。LE-7と比べ、翼に対する定常負荷である正圧面と負圧面の平均圧力の差圧は大きいものの、疲労に通じる圧力変動は小さい結果であった。

(3)動ひずみ計測結果

 LE-7に比較して、オーバーオール値から求めた実機状態に換算した変動応力は、入口圧力0,035MPa(0.35kg/cm2a)で最大となるが、8号機事故の亀裂発生近傍で約67%程度、30度手前で60%と低い結果となった。

4. まとめ

 今回の試験結果から、インデューサ翼の共振や有害となる大きさの旋回キャビテーションは認められず、8号機事故原因となった過大な変動応力を発生させる可能性が少ないことが明らかになった。
 今後、LE-7Aエンジンの認定試験を通じて、軸振動に発生する2.8kHzの振動の影響、インデューサの個体差や様々な運転状況における負荷に対して、LE-7A用FTPのインデューサの健全性を確認していくこととする。

<LE-5Bエンジンの燃焼試験結果>

1. 目的

 LE-5Bエンジンの信頼性向上を図る目的で実施中の燃焼試験について、状況を報告する。

2. 試験結果

 平成12年3月18日より角田ロケットセンタで燃焼試験を開始し、現在まで計10回の高空燃焼試験を実施した。

(1)作動結果

 試験結果の作動点図を図2-1に示す。初回から5回の試験(試験番号KH328〜KH332)で、性能データ取得試験を実施した(図2-1)。真空中推力約137〜約141kN、エンジン混合比4.91〜5.07の領域で、予定の性能、データの再現性、安定性を確認した。
 性能データ取得に引き続き、高圧燃焼による寿命耐久性確認を目的に試験を実施し、4試験(KH333、KH335〜337)で高圧燃焼確認範囲(図2-1)内の確認ができた。真空中推力約  145〜約147kN、エンジン混合比4.74〜5.34の作動領域で作動領域で正常な作動が確認でき、供試体については、後点検においても、燃焼室溶接部の蛍光浸透探傷検査等の結果、異常は認められなかった。

(2)試験達成状況

 試験目的に対する達成の状況は、表2-1のとおりであり、判断基準を達成した。

表2-1 試験達成状況
試験目的現状(〜KH338)判断基準
通常ミッションを想定した
寿命耐久性確認
燃焼秒時2,710秒
着火回数19回
燃焼秒時2,400秒
着火回数18回
フライトシフトを想定した
寿命耐久性確認
燃焼秒時1,300秒
着火回数9回
燃焼秒時800秒
着火回数8回
(3)水素ターボポンプインデューサ圧力計測

 LE-7不具合の反映としてLE-5Bエンジンの水素ターボポンプインデューサ出口圧力(PIDF)変動の計測を実施した。結果として圧力および軸振動に顕著な回転同期成分は認められていない。今後の試験で計測精度の改善を行い、データ取得を実施する。

3. 今後の予定

 前半の試験で、試験秒時や回数の判断基準を達成することができた。
 今後は、限界作動領域(図2-1の高圧燃焼領域)での試験を実施し、耐久性および設計限界のデータを蓄積する。