
このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました
LE-7Aエンジン ノズルスカート冷却管侵食の原因究明結果について
平成12年12月27日
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
1. 経緯
(1) |
製造中のH-IIAロケットのLE-7Aエンジンについて、本年11月、ノズルスカートの冷却管が侵食する現象が発見されたもの(別紙1)。 |
(2) |
このため、試験機1号機用に引き当てる予定だったLE-7Aエンジン(旧TF#1エンジン)を含め、状況の調査並びに原因究明を実施してきた。 |
2. 原因究明の状況
2.1 製造中のエンジンの調査結果
(1) |
X線による検査により、冷却管肉厚約0.52mmに対し、旧TF#1エンジンを含めそれ以降に製造した合計3機に同程度の侵食(最大約0.3mm程度)が存在していることがわかった。 |
(2) |
認定型エンジン4式については、X線検査による同程度の侵食は認められない。 |
(3) |
なお、認定型エンジンのノズルスカート1式について補強バンドを除去し、侵食を確認・実測したところ、0.03〜0.095mm程度のわずかな凹みが確認された。本ノズルスカートについては、23回、約2,100秒の燃焼試験で問題なく、設計上の寿命要求を十分満足している。 |
2.2 模擬試験結果
(1) |
冷却管をろう付けする工程を模擬し、実際のろう付け工程において遭遇しうる各種条件下で試験を実施した結果、「フッ素系潤滑剤」が存在する条件で同程度(約0.3mm)の侵食が発生した。 |
(2) |
このフッ素系潤滑剤は、ろう付け工程において実施するノズルスカートの漏洩点検方法を旧TF#1エンジンから改善したことに伴い、使用することになったものである(別紙2)。 |
(3) |
なお、フッ素系潤滑剤とは別に、ろう材中のバインダ(のりの役割)の量が、管の表面性状に影響(数10μm程度の小さな凹みの出現)を与えることが判明した(別紙3)。 |
2.3 構造解析結果
(1) |
冷却管肉厚(約0.52mm)の約3/4が侵食(残りの肉厚約0.12mm)され、かつ最も応力的に厳しいと考えられる箇所における長さ約4cm相当の侵食を模擬したモデルで構造解析を実施し、エンジン燃焼状態にて生ずる応力では延性破壊することはなく、かつ燃焼試験を繰り返すことによる低サイクルの疲労寿命についても、安全率を考慮しても200回以上を有している結果を得た。 |
2.4 原因の評価と対策
(1) |
特殊工程に関する専門家の意見をいただきつつ、原因と対策を評価した。 |
(2) |
今後製造するノズルスカートに関して、以下の対策を講じることで本侵食現象は十分に制御可能な範囲となることを確認し、その妥当性を実機模擬試験により実証した。
- 漏洩点検において、フッ素系潤滑剤を使用しない【根本的対策】
- 以下の方法によりろう付け中のバインダ残留量を削減する【さらなる品質向上】
- ろう材のバインダをあらかじめ削減する
- ろう付けの前処理として、温度・圧力を制御しバインダを十分揮発させる
- バインダが揮発しやすいようなろう材の塗布形状とする(溝を設ける)
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(3) |
また、下記の通りろう付け後の検査方法を強化した。これにより、今後製造するノズルスカートに関しては、十分な品質が確保できる。
- 同時ろう付け試験片のみの検査(従来の方法)ではなく、全ての冷却管について、比較用侵食サンプルを用いた目視検査
- 比較的大きい凹みについて、凹み量を型どり実測又はX線にて測定
- 凹み深さが0.05mm以上のものにつき個別に技術検討
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3. 今後の予定
(1) |
試験機1号機用エンジンを含め、今後新たに製造するエンジンのろう付けを、上記方針に基づき実施する。 |
(2) |
既に製造済みのノズルスカートについては、必要な処置を施し、開発試験に供する。 |
(3) |
今回得られた知見に基づき、ろう付けにおける微細な現象のメカニズムを専門家と連携して研究し、さらなるエンジンの信頼性向上につとめる。 |
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