プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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2001会計年度 NASA認可予算について

平成12年11月15日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 NASA 2001年度予算の米議会における審議について、これまでの経緯及び可決された予算法案の概要を報告する。

2. 概況

 2000年10月27日、NASA2001年度予算は、クリントン大統領がその予算を含む退役軍人・都市開発・独立機関(VA-HUD)歳出法案に署名したことからPublic Lawとして成立した。
 全額としては142億8530万ドルで、前年度当初認可予算よりも6億8450万ドル(5.0%)(注1)、大統領要求よりも2億5000万ドル(1.8%)、それぞれ増額となっている。増額の大きな要因は、NASAの要求にはなかった多数の項目に対し議会が予算を付けたことである。そのような項目は総額で3億9000万ドル強にのぼり、要求額に対する増分2億5000万ドルを上回っている。これはすなわちNASAの要求項目の一部には要求どおり資金が行き渡らないことを意味する。
 にもかかわらず、NASAは 2001年度予算の内容を高く評価している。第二世代宇宙往還機の開発を主目的とする "Space Launch Initiative" や、太陽活動と地球の関係について理解を深めることを目的とする "Living with a Star"、バイオテクノロジーを中心とした学際的な研究を進めて医学関連テクノロジーの発展への貢献を図る "Bioastronautics" など、ゴールディン長官が打ち出した新たなプログラムについてはNASAの要求に沿って予算が認められていることが、評価の理由である。

注1:
2000年度補正予算(SAT会計に150万ドル追加)を加えれば、6億8300万ドル(5.0%)の増加である。特に断りのない限り、この調査報告では当初認可額を2000年度予算額として用いる。

3. 歳出法成立の経緯

 2001年度 VA-HUD歳出法は成立まで次の経過をたどった。

2000年 2月7日 大統領予算要求提出
5月23日 下院歳出委員会VA-HUD小委員会で検討。賛成多数で可決。
6月7日 下院歳出委員会で検討。賛成多数で可決。
6月19〜21日  下院本会議で審議。賛成256:反対169で可決。
9月13日 上院歳出委員会VA-HUD小委員会で検討。賛成多数で下院と異なる案(上院版)を可決。
同上 上院歳出委員会で上院版を検討。賛成27:反対1で可決。
10月12日 上院本会議で審議。賛成87:反対8で可決。
10月18日 両院協議会開催
10月19日 下院本会議で両院協議会報告(H.Rept. 106-988)を賛成386:反対24で受諾。 
同上 上院本会議でH.Rept. 106-988を賛成85:反対8で受諾。
10月27日 大統領が法案に署名 ⇒ 制定(法案番号: P.L. 106-377)

4. 法案の特徴

  • 2001年度 NASA予算(注2)の概要は添付1に示すとおりである。
  • 2001年度 NASA予算も前年度と同様に次の4つのaccount (会計)から構成されている(添付2参照)。
    • 有人宇宙飛行 (Human Space Flight: HSF)
    • 科学・航空・テクノロジー(Science, Aeronautics and Technology: SAT)
    • ミッション支援 (Mission Support: MS)
    • 監察総監 (Office of Inspector General: IG)
  • HSF以外の会計については、いずれも前年度認可額・大統領要求額を上回る額が2001年度予算として認可された。
  • IGを除く各会計の下にある予算は債務未発生の状態で2002年9月末まで2年間有効である(施設建設費については2003年9月末まで有効)。
注2:
本調査報告で予算と記した場合は、特に断りのない限りBudget Authority (支払いの義務、すなわち債務を負担する権限。BAと略す。)を指すものとする。

4.1 各会計の内容

 この項では、「有人宇宙飛行(HSF)」と「科学・航空・テクノロジー(SAT)」の各会計について、両院協議会報告書で取り上げられている事項を概説する。

4.1.1 HSF
  • 国際宇宙ステーション(ISS)、スペースシャトルなどのプログラムがこの会計の下にある。
  • HSF会計の認可額は54億6290万ドルで、昨年度認可に比べ2500万ドル(0.5%)、大統領要求に比べ3700万ドル(0.7%)のそれぞれ減少である。
  • 【減額の理由】Mars 2003 Lander計画(後述参照)の資金の一部として4000万ドルをHSF会計からSAT会計に移したため、HSF会計は要求よりも減となった。この4000万ドルの移し替えはNASAが予算要求提出後に出した要望に基づくもの。削減額4000万ドルの内訳は「シャトル予備費」、「商業化・テクノロジープログラム」の各下位科目からそれぞれ3000万ドル、1000万ドルである。一方、大統領要求に対する追加も300万ドルなされている(バイオアストロノーティクス施設関連費として。後述参照)。これらの増減合わせ、HSF会計予算は大統領要求に比べ3700万ドルの減となった。
  • 【ISS予算】HSF会計の下にある予算科目については金額が明らかにされていないものの、「宇宙ステーション」科目にはほぼ大統領要求どおりの額(21億1450万ドル)が認可されていると推定される。[理由・・・(1)Mars 2003 Lander計画資金となる4000万ドルは「宇宙ステーション」科目から供出されてはいない。(2)2001年度予算大統領要求に示された額を超えてISS開発にHSF会計の下の資金を用いてはならないとする条項も別の箇所にある(administrative provisionsのひとつ)。]
  • ジョンソン宇宙センター(JSC)に建設されるバイオアストロノーティクス(Bioastronautics)施設の設計作業(2001年半ばまでに完了予定)の費用として上述のとおり300万ドルが追加された。バイオアストロノーティクスは2001年度予算要求の際にNASAが打ち出した新たなイニシアチブで、ISS滞在などの長期ミッションに携わる宇宙飛行士の健康を維持するため現在なされている対策(診断・治療・予防措置・リハビリテーション)の研究・開発をさらに効果的に進めることを直接の目的とする。施設の建設の資金をISS予算からどのように捻出するかについて、NASAはオペレーティング・プランを通じて明らかにするよう求められている。
  • 別のadministrative provisionによれば、ISSの研究利用・商業化管理活動に関するNASAと非政府組織(NGO)との協定を2001年12月1日より前に締結するためにこの歳出法またはその他の歳出法で認められる資金を用いてはならない。
4.1.2 SAT
  • 認可額は61億9070万ドルで、昨年度認可に比べ6億980万ドル(10.9%)、大統領要求に比べ2億6130万ドル(4.4%)のそれぞれ増加である。
  • SAT会計の下にある予算科目のうち、「宇宙科学」、「地球科学」及び「航空・宇宙テクノロジー」については次のとおり。
4.1.2.1 宇宙科学
  • 一連の火星探査機失敗を受けて行われた計画の見直しの結果、2001年度予算要求を提出した後にMars 2003 Landerプログラムの内容が変更された(ローバー2基を2003年に打上げ、火星表面の異なる地点に到達させるという計画になった)。計画変更に対応して、NASAは当初予算要求を修正し、スペースシャトル予備費など他の要求項目からMars 2003 Landerプログラムに合計7500万ドル移し替えることを議会に提案していた。この提案は今回そのまま認められた。
  • 2001年度予算要求で提案された「太陽との共生(Living with a Star)」イニシアチブには要求どおり2000万ドルが付与された。このプログラムは、一連の新規ミッション(地球から見た太陽の裏側を観測するSolar Sentinelsや太陽の嵐域や内部を調査するSolar Dynamic Observatoryなど)と現行プログラムへの補強とから構成される。太陽の変動の研究をさらに進め、地球及び宇宙環境並びに人間活動に太陽が与える影響(impact)を理解し、究極的には太陽天気を予測する能力を得ることを目的とする。
4.1.2.2 地球科学
  • 地球観測システム情報システム(EOSDIS)については、要求額の2億5200万ドルに対し、さらに3500万ドルを追加することとされた。この3500万ドルはすべてEOSDISコア・システム(ECS)のために用いられるものとし(ECSで合計1億1500万ドルとなる)、当該追加分のうち2250万ドルは中核ECSプログラムに充て、残りの1250万ドルはFY 2000に開始された「シナジー」プログラムの継続・拡大に充てるものとする(「シナジー」プログラムは、公衆や地方・州・連邦政府機関、商業セクターのEOSDIS利用を促進することを目的としている模様)。
  • EOS 後継ミッション(follow-on)については要求どおり1億2060万ドルとする(1999年度、2000年度の認可額はそれぞれ450万ドル、2440万ドル)。この内訳は次のとおり。
    • ランドサット7後継ミッション商業データ購入開始のための検討・・・150万ドル
    • 全球降雨ミッション(Global Precipitation Mission)のフェーズA/B検討及び先進的テクノロジー開発(ATD)作業・・・200万ドル
    • "New DIS" 関連検討(将来コストを最小化するため現存システムの再利用に重点)・・・150万ドル
    • 極軌道環境衛星システム(NPOESS)準備プロジェクトの検討・ATD・・・3560万ドル(このうち、高速データ処理とアルゴリズム検証に400万ドル、global wind profile商業データ購入の着手に200万ドル)
4.1.2.3 航空・宇宙テクノロジー
  • Space Launch Initiative (SLI)、すなわち第二世代宇宙往還機(RLV)プログラムには、要求どおり2億9000万ドルが認められた。(参考:2001年度〜2005の5年間でNASAはSLIに45億ドル投じる計画である。)
    • 【SLIの内容】このプログラムでは、第ニ世代RLVの開発を競合的に実施して、遅くとも2005年までに機種を選定、実機開発に移行し、当該RLVが2010年までに商業的に所有・運用されることを目指す。SLIの構成要素は次の4つである。
      1. 「システムエンジニアリング及び要求明確化」・・・技術的その他のリスクを低減する活動を複数の競合的RLVアークテクチャに結びつけるために必要な技術的・プログラム的要求を定める。プログラム全体の方向性を打ち立て、NASA固有システム(後述)に係る適切な計画と予算を判断するために不可欠。
      2. 「RLV競合及びリスク低減」・・・主として産業界のニーズに対応するシステムの技術的リスクの低減に取り組む。
      3. 「NASA固有システム」・・・クルーの輸送や貨物の地球への持ち帰りなど、採算の面から商業的手段だけでは対応しがたいNASA固有のニーズを満たすためのシステムの開発(当該NASA固有システムは商業的システムに追加して運用されることを想定)。
      4. 「代替アクセス」・・・国際宇宙ステーションへの貨物輸送手段やNASAの科学ペイロードの打上げ手段を商業的調達。

      すでに進行しているNASAの宇宙輸送テクノロジープログラム(X-33、X-34、Future-Xなど)もSLIに取り込まれる。

    • 【議会の考え方】両院協議会報告書によれば、SLIに対する議会の見解は次のとおりである。
      (1) プログラムの全期間を通してNASAは次のふたつの原則を維持すべきである。
      1. 実機として開発される打上げ機はいずれも民間によって所有・運用され、商業市場で効果的に競争できること。
      2. 革新性・開放性・弾力性を保証するためSLIは既存及び新興の打上げサービス提供者の競争に依存すること。
      (2) プログラム資金の少なくとも75%は完全な、開放された競争の下に置かれ、すべてのNASAのフィールドセンターがSLIプログラムへの参加資格を有すべきである。

4.2 一般条項

 歳出法には「一般条項(General Provisions)」と呼ばれる条項を集めた部分がある。別の部分で規定した機関ごとの歳出に条件を付けることが一般条項の本来の役割であるが、新たなポリシーを定めたり、既存の法律を修正したりすることも実際には一般条項によって行われている。今回のVA-HUD歳出法には対象をNASAに特化した一般条項が3つある。このうち、主なものは次のふたつである。

4.2.1 自主退職勧奨プログラムの修正・延長
  • この条項により、NASA固有の自主退職勧奨プログラムが内容修正のうえ2年間延長された。なお、この措置はNASAの要請に基づくものである。
  • NASAの自主退職勧奨プログラムはもともと1996年9月制定のFY 1997 VA-HUD歳出法 (H.R. 3666 / PL 104-204) の一般条項により設定された(当該条項は「1996年NASA連邦雇用削減支援法」と呼称されている)。このプログラムの下、NASAは、職員の自主退職を促すため、対象たりえる職員に離職金 (separation pay) を支払うことができるが、この制度を利用してNASA職員がひとり離職すると、NASAはその分定員を削減しなければならなかった(ただし、緊急時などにおける適用免除は認められていた)。
  • 今回の修正により、自主退職勧奨プログラムに基づく退職者が出ても、NASAは定員削減をしなくてよいことになった。これにより、余剰人員が出ている技術分野では当該プログラムを用いて人員削減を行い、生じた定員補充可能枠を人員の必要な技術分野に回して、そこで人員増強をすることができるようになった。修正されたプログラムを用いて、NASAは望ましい人材配置 (proper skill mix) を達成しようとしている。
4.2.2 フルコスト会計の導入
  • FY 2002以降のNASA予算はHSF、SAT及びIGの3つの会計で構成されるものとする旨規定。MS会計が廃止されることになった。
  • HSF会計やSAT会計の下で実施されるミッションへの支援の費用(安全・ミッション保証活動費や大半の施設建設費を始め、人件費や旅費、共通経費などを含む。)は、これまで「ミッション支援(MS)」という独立した会計の下にある資金で賄われてきた。
  • これまでMS会計のもとで扱われてきた費用はFY 2002以降HSF会計とSAT会計に組み込まれ、各プログラム・プロジェクトに配分されることになる。これに伴い、各プログラム等のコストはオーバーヘッドや人件費などを算入したフルコスト・ベースで記述される。
  • フルコスト会計への移行の狙いは、プログラムの本当のコストを議会等が把握しやすくすることである。

5. 予算に対する評価と反応

5.1 実質的な予算増

 添付3はFY 1977から2001年度までの各会計年度の予算(BA)と実際の支出額(outlay)をまとめたものである。インフレーション分を補正した実質値(1996年度のドル額で表示)で比較すると、予算(注3)は1992年度以来2000年度まで対前年度比マイナスが続いていたが、2001年度で初めて前年度額に比べ増となった。添付3に示されたBAの名目値と「実質値」の推移を折れ線グラフで示すと添付4のようになる。

注3:
BAはそれが与えられた年度内に実際の支出、すなわちoutlayとして顕現するものでは必ずしもないので、特定の年度のデフレータを用いて実質値を算定することは論理的厳密性を欠く操作である。したがって、BAに関する「実質値」についてはあくまでも参考に留めていただきたい。

5.2 NASAの反応

 VA-HUD歳出法制定に先立ち、NASAは2001年度予算に対するNASA長官のコメントを公表し、当該予算をNASAが歓迎していることを示した。当該リリースの内容を整理すると次のようになる。

  • 次のような言葉を用いて予算内容を形容・・・「すばらしい」("excellent")、「強固な」("robust")、「正しい方向に動いている」("moving in the right direction")、「NASAの働きに対する賛辞」("a tribute to NASA's performance") 。
  • 次のようなプログラムに対して完全に資金手当てがなされたり、NASAの要望どおり処置がなされたりしたことに言及・・・SLI、シャトル高度化、国際宇宙ステーション、Living with a Star (これらは特に優先順位の高いイニシアチブと位置付けられている。)、Mars 2003 Lander、小型航空機輸送システム。
  • 総職員数を減ずることなくNASA人員の再配分と再構築ができるような形で自主退職勧奨プログラムを延長し、FY 2002予算をフルコスト会計ベースで提出することが認められたことに言及。

5.3 大統領府の反応

 VA-HUD歳出法案への署名にあたって大統領府が発表したプレスリリースによれば、NASA予算については大統領府も肯定的に受け止めている。クリントン大統領は当該リリースの中でNASA予算につき次のように述べている。

  • この法律は、宇宙探査への投資の拡大に寄与するものであり、宇宙輸送の経済を劇的に改善するSpace Launch Initiativeに要求どおり予算を認めている。
  • 予算が要求より増えたことにより、NASAは、新世代の宇宙輸送機の開発を通じて有人宇宙飛行ニーズをより安全・安価に満たすことができ、太陽系の重要な調査対象に対する探査を継続することができる。



NASA予算を記述する文書


  • アメリカ合衆国憲法の規定に基づき、連邦政府の支出は歳出法 (Appropriations Act) によって規定されることになっている(アメリカ合衆国憲法第1条第9節第7項「国庫からの支出は例外なく法律で定めた歳出予算に従ってのみ行われる。・・・」)。

  • NASAの活動予算は、13ある歳出法のうち、退役軍人・住宅都市開発・独立機関(VA-HUD)歳出法によって規定される。VA-HUD歳出法によって規定されるのはNASA予算のほか、退役軍人省及び住宅・都市開発省の2省並びに大統領府の科学技術政策局(OSTP)、環境保護庁などの多くの機関である。

  • NASA予算は「有人宇宙飛行」、「科学・航空・テクノロジー」、「ミッション支援」及び「監察総監」という4つの会計(account)から構成されている。歳出法が定めるのはこの4つの会計の額のみであり、それより下位の科目は法律による規定がなされない。

  • 上下各院の歳出委員会及び上下両院協議会が歳出法案を検討すると、その結果は報告書にまとめられる。当該報告書には、「会計」レベルより下位の科目の一部について予算額が示されることがある(例:「科学・航空・テクノロジー」会計の下の「宇宙科学」、「地球科学」など)。しかし、例えば第二階層の科目すべてについて予算額が示されることはない。

  • このため、歳出法の規定や両院協議会報告書の記述だけでは、NASAの予算要求書の記述に相当するレベルで資金配分は特定できない。プログラムごとの資金配分を知るためには、NASAが議会との約束に基づき作成しているオペレーティング・プラン(Operating Plan)を見る必要がある。 オペレーティング・プランの作成にあたっては、歳出法で定められた会計ごとの額が維持され、両院協議会報告書に現れた議会の要請が尊重される。次年度のNASA予算要求書に前年度認可額として現れるのが、オペレーティング・プランによって定められた数値である(すなわち、FY 2001年度認可予算が細かいレベルどのように配分されたかは2001年2月公表のFY 2002予算要求書に示される)。