宇宙開発事業団
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
平成12年6月に実施したSRB-Aの地上燃焼試験(QM2)において、燃焼終了時にノズル部の構成部材の一部(炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製破片)がノズルから排出された。燃焼終了後にノズル部を調査した結果、スロートインサートがモータケース内に脱落していた。今回の現象は、燃焼終了時にスロートインサートがノズル上流側に移動・脱落したため、ラジエーションシールダ等の一部を破損し、これが破片となって排出されたものである(図1)。
その後、ノズル部の詳細調査、各種取得データの解析・評価、「スロートインサート脱落現象」の詳細検討等を実施して、この度、是正対策をまとめたので、その概要を報告する。
調査解析作業として、
燃焼中、スロートインサートには、下記の力が作用する(図2-1参照)。
(1) | 熱膨張による押出力(上流側に移動させる力)、 |
(2) | スロートインサート背面に発生する熱分解ガス等の圧力による押出力 |
(3) | 燃焼ガスによる抵抗力(スロートインサートを下流側に押しつける力) |
(4) | ラジエーションシールダによる抵抗力(部材のせん断力・熱膨張等に伴う摩擦力) |
このうち、燃焼ガスによる抵抗力は燃焼圧力の低下とともに減少するため、燃焼末期(圧力が約十数気圧になると)にこれらの力の釣り合いが崩れ、(1)、(2)の押出力が(3)、(4)の抵抗力に勝り、スロートインサートが上流側に移動を開始するが、これに伴い、(1)の力は消失し、また、(2)の熱分解ガスは、移動により生じたスロートインサートとライナーインサート間の隙間から流出するため、スロートインサートは、(3)の抵抗力により保持されノズルから脱落することはない。
PMでは燃焼圧力約0.68MPa(約7kgf/cm2)で、また、QMでは燃焼圧力約1.0MPa(約10.4kgf/cm2)で上記現象が発生し、ノズルからスロートインサートが脱落することは無かった。
QM2でも、スロートインサートは、燃焼圧力が約1.6MPa(約16.3kgf/cm2)になった時点で上流側に移動を始めたが、この時ノズルが約2.2度の舵角を保持していたことにより、スロートインサート後端とノズル開口部が干渉して軸方向に不均一な力が作用していたため、スロートインサートが偏向した。これに伴い、(2)の背面ガスが流失して圧力が低下したため、スロートインサートが移動を停止するとともに偏向が解消した。その後、再び(2)の背面ガス圧力が蓄圧し、燃焼終了時のノズル操舵(約4.5度)をきっかけに、(1)、(2)の押出力によりスロートインサートが移動を開始したが、この時点では、(3)の燃焼ガスによる抵抗力が小さいため、スロートインサートがノズルから脱落したと推定される。
推定された原因を踏まえ、有限要素法による構造解析(スロートインサート/ラジエーションシールダ接合面に設けるテーパによる抵抗力の評価、テーパ付与形態でのノズル部強度評価)及びテーパ角度・ラジエーションシールダの炭化層厚さをパラメータとした強度試験を実施して是正対策を設定した。
その結果、燃焼末期におけるスロートインサート押出力に対する抵抗力の増加及びスロートインサート後端とノズル開口部との干渉を防止する以下の設計変更を実施する。概要を図2-2に示す。
(1)ラジエーションシールダによる抵抗力を増加させるために、スロートインサートとラジエーションシールダとの機軸に平行な接合面について、傾斜角(テーパ)を付与する。
(2)ノズル開口部からのスロートインサートへの力の作用及びライナインサートからのガスの通路の閉塞を防止するため、スロートインサート後端とノズル開口部部材との隙間寸法を増加させる。
平成12年9月下旬、上記対策を施したノズルを使用した実機サイズ・モータの地上燃焼試験(QM3)を実施するとともに、試験後のノズル部等の詳細評価を実施してモータ・システムの妥当性を確認する計画である。