宇宙開発事業団
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
若田宇宙飛行士が搭乗したSTS-92「ディスカバリー号」の飛行結果について報告する。
STS-92ミッションは、国際宇宙ステーション(ISS)の組み立てのための飛行であり、シャトルとしては100回目の飛行にあたる。
本ミッションでは若田宇宙飛行士が2回目のシャトル飛行を行い、前回搭乗したSTS-72の飛行の時と同様にシャトルの遠隔マニピュレータシステム(ロボットアーム)の操作を担当して、Z1トラスとPMA-3のユニティへの結合や、船外活動の支援などを行った(図1参照)。なお、Z1トラスは、姿勢制御装置や通信システムなどを搭載した、ISS組み立て初期段階における要となるモジュールであり、PMA-3はシャトルとのドッキングに使用される与圧可能な円錐形モジュールである。
本ミッションによって、ISSは搭乗員の長期滞在受け入れの準備が全て整い、1998年11月の組み立て開始以来、初めて宇宙飛行士の長期滞在が可能となる。
ディスカバリー号は、10月12日(木)午前8時17分[米国東部夏時間(EDT)10月11日(水)午後7時17分]に、フロリダ州NASAケネディ宇宙センター(KSC)から打ち上げられた。
【ISSとのドッキング】
午前2時45分に国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングを行った。FD2に発生したKu バンド通信システムのトラブル(別表1)のため、ドッキングにはスタートラッカーが使用された。シャトルがKuバンドレーダを使用せずに他の宇宙機とドッキングしたのは初めてのことである。ISS内部の空気の状態確認の後、クルーがISSへ入室した。
【Z1トラスの取り付け】
午前1時頃から若田宇宙飛行士がロボットアームを操作してZ1トラスのユニティへの取り付け作業を開始し、同午前4時7分に完了した。この作業は、「きぼう」日本実験棟など、ISSを構成する与圧モジュール同士(ロシア要素以外)を結合するために開発された結合機構(共通結合機構:CBM)を用いた初めての結合作業である。
【EVA#1の実施】
午後11時27分から同16日(月)午前5時55分にかけて1回目の船外活動(EVA)を行い、Z1トラスの配線接続、2つの通信アンテナの移設等を実施した。若田宇宙飛行士はロボットアームを操作してEVAクルーを支援した。
【EVA#2の実施、PMA-3の取り付け】
午後11時15分から同17日(火)午前6時22分にかけて2回目のEVAを実施した。若田宇宙飛行士はロボットアームを操作し、EVAとの協調作業により、PMA-3をユニティへ取り付けた。
【EVA#3の実施】
午後11時30分から18日(水)午前6時18分にかけて3回目のEVAを行い、Z1トラスへの直流変圧器の取り付けや配線接続等を実施した。若田宇宙飛行士はロボットアームを操作して、EVAクルーを支援した。
【EVA#4の実施】
午前00時00分から午前6時56分にかけて4回目のEVAを行い、Z1トラスのケーブルトレイ(米国実験棟デスティニーがユニティへ結合された時に、デスティニーへ電力を送るための電力ケーブルや冷却用の配管を接続する)の展開など、後続の組み立てミッションに備えた作業を実施した。その後、SAFER(EVAクルーの自力救助用の小型推進装置)の機能確認を実施した。この間、若田宇宙飛行士はロボットアームを操作して、上記EVA作業及び試験を支援した。船外活動中に動けなくなった宇宙飛行士を救助するためのクルー救助技術の実証試験は時間の関係で取り止めた。
なお、STS-92におけるEVA時間は以下の通りである。
EVA#1(ISSとしては7回目): | 6時間28分 |
EVA#2(同8回目): | 7時間7分 |
EVA#3(同9回目): | 6時間48分 |
EVA#4(同10回目): | 6時間56分 |
合計 | 27時間19分 |
参考までに、STS-92を含め、これまでのISS組み立てで行われたEVAの合計は69時間34分となり、スペースシャトルミッションの合計では54回のEVAで338時間10分となった。
【ザーリャへの物資搬入など】
ザーリャ内の空気検査や様々な機器の表面からの細菌のサンプル収集、ザーリャへの補給物資の搬入、Z1トラスに取り付けられているコントロール・モーメント・ジャイロ(CMG)の機能確認およびヒーターによる保温、ロボットアームカメラを用いたISSの外観検査などが行われた。
【ISSからの分離】
日本時間10月20日午後10時頃からシャトルとISSを切離すための準備が開始された。全てのハッチが閉鎖され、漏洩試験により空気漏れが無いことが確認された後、切離し作業のための装置が起動された。午前0時8分にシャトルがISSから正常に分離した。なお、ISSからの分離は、シャトルのトイレの故障修理やCMGの機能確認に予定以上に時間を要したことから、当初予定から1周回(約1時間30分)遅らせられた。
【帰還延期】
STS-92のクルーは荷物室ドア閉鎖やシャトル搭載コンピュータのソフトウェアを再突入と着陸の管制用に移行するなど帰還に向けた準備を進めていたが、KSCの天候不良(横風)のため、NASAは23日午前1時20分頃、帰還中止を決定し、翌24日午前3時51分へ着陸を延期した。
【帰還再延期】
KSCの強い横風、及び代替着陸地であるカリフォルニア州エドワーズ空軍基地(EAFB)の低く垂れ込めた雲と雨が着陸条件を満足しなかったため、24日午前6時25分頃、NASAは帰還中止を決定し、翌25日午前2時52分以降へ着陸を延期した。
当日は3回着陸機会があったが、最初の機会のKSCは天候が回復せず、2番目の機会であるEAFBが着陸地に選ばれた。EAFB周辺の天候は、前日とは打って変わり快晴、南西の風秒速約3.6〜6.2m(7〜12ノット、横風の制限は15ノット)、乱気流無しとの好条件であった。
着陸日時: | 日本時間10月25日(水) 午前5時59分 |
[米国太平洋夏時間10月24日(火) 午後1時59分] | |
飛行時間: | 12日21時間43分 |
飛行距離: | 9,815,600km(530万マイル) |
飛行周回数:202周回 |
打上げ前及びミッション中に生じたトラブル(別表1参照)については、NASAの行う会議(打上げ前ミッション・マネジメント・チーム(PMMT)会合や飛行中のミッション・マネジメント・チーム(MMT)会合など)への参加や情報収集を行い、安全上問題ないことを評価・確認した。
また、「きぼう」の運用に向けたフライトコントローラ養成訓練の一環として、ミッション期間中、宇宙開発事業団(NASDA)要員4名、支援会社要員6名をNASAジョンソン宇宙センター(JSC)のミッション管制センター(MCC)に派遣すると共に、筑波宇宙センター(TKSC)の「きぼう」運用管制室にNASDA要員4名、支援会社要員10名をシフト制で配置し、NASAの管制業務のモニターを行った。
加えて、ミッション期間中、別表2に示す広報活動を実施した。
若田宇宙飛行士及びSTS-92クルーによる一般向け帰国報告会については、1月に開催することとして、クルーの来日スケジュール及び帰国後報告会の日程案の詳細について調整を行っている。
ISS組み立てについては、STS-92ミッションによりISSの搭乗員長期滞在受け入れ準備が整ったことを受け、日本時間10月31日午後4時53分にカザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から、ISSに長期滞在する第1次搭乗員3名がソユーズロケットにより打上げられた。ソユーズ宇宙船とISSとのドッキングは、日本時間11月2日午後6時20分に予定されている。また、第1次搭乗員は2001年2月に予定されているスペースシャトル「ディスカバリー号」(STS-102/ISS組み立てミッション(5A.1))で帰還するまで、ISSに約3ヶ月半の間滞在する予定である。今後ISSには、搭乗員が交代しながら滞在を続けることとなる。