プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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宇宙3機関統合後の将来事業構想案の検討状況について

平成13年11月14日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

はじめに

 宇宙3機関(宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団)の企画部門を中心に、独自に統合後の新機関における将来事業構想について本年9月以降検討を行っている。
 本資料は、現時点での検討状況を標記メンバの責任で中間まとめを行ったものである。
 本資料の構成は、下記のとおりである。




I.宇宙輸送系

  1. 全般
  2. * 国及び国民の安全の確保の観点から、日本が主体的に運用できる世界レベルの輸送系を確保するとともに、国として宇宙輸送系基本技術を保持することが必要である。
    * 国民生活の質の向上及び知的資産の拡大のためにも、主体的に運用できる輸送系の確保と輸送系基本技術の保持が必要である。

  3. 使い切りロケット開発の進め方
  4. * 世界においても、日本においても、向こう20数年程度は使い切りロケットが使用されると予想される。
    * 我が国の現有乃至は開発中のロケットについて、統合により充実される研究開発体制の下での大幅な基盤技術の向上を通じて世界に誇れる高い信頼性を有した輸送機を早期に仕上げることを第一優先とする。
    * 新機関は、民間と連携し運用コストの低減化、運用性の向上にも取り組む。
    * ロケット及びその技術は、開発が完了した部分から順次、民間に移転する。その際、産業界が競争力を確保するために必要となるロケット基盤技術、射場、大型試験設備/技術、高度解析技術などの保持と高度化を図る。

  5. 将来型輸送系研究開発の進め方
  6. (1)再使用型宇宙輸送機
    * 将来の世界の宇宙輸送系は、高い信頼性を確保しつつ大幅なコスト低減が可能な再使用型へ移行し、打ち上げ競争及び宇宙利用に質的な変化を引き起こすと予見される。(今後、宇宙の環境保全は重要課題になることが予想され、再使用型はこの観点からも有効である。)
    * このような世界の情勢に鑑み、将来にわたり日本が主体的に運用できる世界レベルの輸送系を保持するためには、使い切りロケットと共通要素技術について成果の交流を図りつつ、これと並行して、統合によるロケット/航空技術の融合を活かして再使用型輸送機の研究開発を遅滞無く推進する。
    * 20数年後には、世界レベルの競争力を持つ完全再使用型輸送機を完成させることを目標とし、懸かる目標の確実な達成に向けて、今後の10年余の間に、小型機による幾つかの飛翔実証等を通じて独自の革新的基盤技術を確立する。
    * 最終的な実機開発は国際協力の可能性をも視野に入れるにせよ、当面はサブシステム・システム技術を含めてデザインオーソリティ確保を可能とする独自技術力の獲得を目指す。再使用型輸送機研究開発にあたっては、有人輸送への発展性を考慮する。
    (2)有人輸送機
    * 世界的に見れば、長期的には、航空機がそうであったように、十分な信頼性の確保とともに、有人輸送コストが大幅に下がれば、宇宙飛行は一般化するであろう。一方、わが国の輸送系で自由に宇宙に行きたいとの国民の期待があり、有人輸送機も、長期的には、輸送機の研究開発の重要な対象と考える。
    * 宇宙ステーション計画参加を通じて、有人宇宙技術を習得しつつ、有人輸送システムについては、再使用型輸送機の研究開発成果を活かして、我が国が自主的に運用できる有人輸送システムの基盤的研究を行う。

II.衛星系(宇宙利用)

  1. 全般
  2. * 安全の確保に関連した衛星の基本技術については、国としてこれを開発し保持する必要がある。
    * 衛星開発にあたっては、宇宙利用の将来ニーズを踏まえたミッション設定が必要。中期的な観点からは、地上の様々なシステムと適切な連携相互補完のもと、宇宙システムの特色を生かした、情報収集・地球観測と通信・放送・測位により、国民が快適で安心・安全に暮らせる社会を実現することが重要であると考えられる。
    * 広い裾野を持ち国際市場の拡大が予想される宇宙開発利用産業において、我が国の産業界が、技術的優位性を確保し発展することが必要である。
    * 今後新たな社会ニーズにより開拓される利用分野もあると考えられ、長期的な観点では宇宙における新エネルギー利用等が想定される。

  3. 衛星の研究開発の進め方
  4. * 安全の確保に関連した衛星の基本技術の確保について、新機関はこの実務に於いて重要な役割を担う。
    * 新機関は、社会ニーズを踏まえた新たな宇宙利用ミッションの提案・創出を行うとともに、利用機関、民間など外部機関と連携し、先導的な技術開発、軌道上実証・評価等を行い、宇宙利用の拡大を図る。
    * 技術的成立性が明らかなもの、あるいは特定の利用用途に限定される技術の開発は個々の利用機関や民間で行われることを期待し、新機関は用途が広く、技術的にリスクの高い先端技術の開発を重点的に実施する。
    * 新機関は、民間が産業化を目指し実施する軌道上技術実証、大学等が教育を目的に実施する宇宙実験等のため、実験機会を設ける。
    * 研究開発においては、現宇宙3機関が有する知見・手法・技術を発展、活用し効果的な業務の実施を図る。
    * 我が国への直接的な成果の還元はもとより、我が国と身近なアジア・太平洋地域の諸国が宇宙開発活動の恩恵を享受することは我が国にとっても好ましいことであることから、日本を中心とした本地域への貢献も果たせる、ミッション、技術開発に力点を置く。

  5. 衛星の研究・開発の重点対象
  6. * 地球観測分野では、「安全確保のための情報収集」、「洪水・地すべり等の災害の常時集中監視・予測」、「気候予報の精度の向上」及び「異常気象などの地球環境変化影響の早期検知」、等のニーズに対応するため、観測の頻度や分解能の向上、観測波長域の拡大、データ処理アルゴリズムの改良等の技術開発を行う。
    * 通信・放送・測位分野においては、既に商業化が進行していることを踏まえつつ、新機関は、民間が実施するにはリスクの高い先端的な技術開発や、ミッションの高度化を行い、国民生活の利便性向上に貢献する。
    (例) 複数衛星の機能連携・運用、アンテナの大型化、
    衛星軌道決定の高精度化
    * 我が国が行う一連の宇宙開発利用活動の水準を効率的に高め、また活動範囲を拡大するため、衛星の小型化・高機能化を目指した技術開発を行う。
    * 宇宙における新エネルギー等、将来の新たなミッション分野の開拓を行うための先端技術開発も行う。

III.基盤技術開発

  1. 全般
  2. * 我が国の宇宙開発利用を高度かつ確実に推進するためには、高いレベルの基盤技術が必要である。
    * このため、新機関は、現宇宙3機関の技術力を結集することにより、基盤技術開発の中核となるとともに、その技術の保持・発展を図る。
    * 基盤技術の強化は、先端的なミッション達成に必要な技術の開発を通じて行う。

  3. 基盤技術開発の進め方
  4. * 統合する機関がそれぞれ保有している技術等を体系化し、新機関のもとで、全体として最も有効かつ効率的に活用、継承、発展させる体制を確立する。
    * 世界水準の先端的ミッションの実現に必要な世界水準の基盤技術を確立し、ミッション達成を通じて技術実証、技術発展を推進する。
    * 新機関は、インハウスでの設計、試作・試験、検証・評価能力を強化する。
    * 新機関は、利用機関・大学等との技術開発の連携協力を強化し、基盤技術の裾野の拡大を図る。
    * 先進技術のタイムリーな軌道上技術実証のため、小型衛星等を活用する。
    * 宇宙環境が宇宙用材料に及ぼす影響など宇宙開発利用にあたり必要とされる技術的基礎データの蓄積と一般への提供を行う。
    * 民間で可能な技術開発、試験、評価などは、原則として民間に任せる。
    * 新機関は、技術成果を社会の宇宙開発以外の分野にも普及させ、民間等の活動に拡大・発展させることに努める。

  5. 基盤技術開発の重点対象
  6. * 高度なミッション達成を支える技術<
    (例) 技術戦略上不可欠な部品/サブシステム、ミッション機器、
    高精度姿勢制御技術、ロボット技術、インテリジェントシステム
    * ミッション達成に直結する技術、国内他機関等から要望の高い技術
    * システムの信頼性、安全性を高める技術
    (例) 試験・検証技術、高度シミュレーション・解析技術、
    信頼性の高い宇宙部品の確保、クリティカルな現象の解明、
    物性等の基礎データ
    * 日本の得意な独自分野で世界をリードできる技術
    * 共通的地上施設設備の高性能化、高度化された情報システムの整備と活用技術
    (例) 試験設備、追跡管制設備、ミッションデータ解析センター、
    情報インフラ・コンテンツ
    * 宇宙環境安全を支える技術
    (例) 保全、デブリ観測、低減化、除去など

IV.国際宇宙ステーション計画

  1. 全 般
  2. * 国際宇宙ステーション計画は、人類の将来に関わる重要な国際協力プロジェクトであり、我が国の「人類の知的創造への国際貢献と国際的地位の確保」を図り、「国民、特に次世代が夢と希望と誇りを抱ける」プロジェクトとして期待されている。
    * 我が国が参加するこの計画において、新機関は、国民が共有する有人宇宙施設である日本の実験棟「きぼう」(JEM)の確実な開発と運用の達成、利用促進、有人宇宙活動の展開などの事業を実施する。

  3. 国際宇宙ステーション計画における開発及び運用の進め方
  4. * 新機関は、JEM、宇宙ステーション補給機(HTV)、生命科学実験施設(セントリフュージ)等の開発を確実に行い、安全かつ低コストの運用を実現する。
    * 新機関は、国が運用責任を有する安全性・運用性を担保し、定常化した運用業務(宇宙ステーションの維持及びHTVによる物資補給運用を含む。)については段階的に民間に移管する。

  5. 国際宇宙ステーション計画における利用の進め方
  6. * 新機関は、利用目的に応じて適用できる国の枠組みに基づき、利用者との明確な役割分担の下で、JEM等の利用を実施する。
    * 新機関は、宇宙科学、微小重力科学、宇宙環境を利用した生命科学等の科学研究、将来の宇宙活動の展開に必要な先端技術開発のための利用促進において、中心的な役割を果たす。また、研究者の競争的活力が活かせ、研究者自らが責任を果たせる新たな仕組みを整備する。
    * 広範な利用課題を開拓するために、民間のアイディアを活用した応用利用(例えば、ゲノム創薬等)を新機関と民間等が協力して実施する。
    * 民間が行う広告・エンターテイメント等の幅広い目的での一般利用については、新機関は必要に応じその活動を支援する。
    * 一般利用のうち、公的な利用(例えば、教育)については、新機関は関係機関と連携して積極的に実施する。

  7. 有人宇宙活動の在り方
  8. * 新機関は、JEM等の開発・運用・利用、宇宙飛行士の打上げ・宇宙滞在・帰還等を通じて、安全・長期の有人宇宙活動を支える技術の研究開発(宇宙医学を含む。)を行う。
    * 宇宙ステーションでの有人活動を通じて、知の探求(自然の法則の探求、生命現象の理解等)、夢の追求(人類の活動領域の拡大等)、地球社会・国家への貢献(異人種・異文化の融合、教育等)に寄与する。更にその活動が、人間に新たな自然観・生命観・社会観の芽生えを促し「人類が共存できる地球社会」の実現に貢献することを目指す。

V.宇宙科学

  1. 全般
  2. * 統合後の新機関においては人類の知的資産の形成が統合の目標の一つであり、宇宙科学は引き続き重点的に進められるべき課題である。
    * 一方、宇宙科学は本来的に世界の最先端を目指すゆえ、先進的な工学技術の開発を強く促し、我が国の宇宙開発全体の技術開発の先導的役割を果たすことができる。
    * また、宇宙科学に対する国民の関心は高く、宇宙科学の成果が統合後の新組織全体の活動を象徴的に示す役割も期待される。

  3. 宇宙科学の進め方
  4. * 科学ミッションについては平成12年度宇宙理学委員会において策定された将来構想をベースとして各種ミッションを着実に進める。統合後は国際宇宙ステーションにおける宇宙科学等をも含め、将来構想の充実を図る。
    * ミッションの提案、評価、実行については従来どおり大学を基礎としたボトムアップシステムによって進める。これを保証する大学共同利用機関の性格を新組織においても維持する。
    * 科学衛星とそれに必要な技術を軌道上実証する試験衛星の開発は、これまでに大きな成果が得られていることから、科学目的と先進的工学技術開発を融合して進める。
    * 世界水準の宇宙科学を支える先端技術の研究開発により、宇宙科学に限らず、広く我が国の宇宙技術全体の水準向上を目指す。
    (例) 搭載機器の超軽量化、超遠距離通信、冷却技術、高感度センサー、
    超高精度姿勢制御、フォーメーション衛星、大型展開構造等
    * 先端的な宇宙ミッションを進める現場において大学院教育を行い、次世代の宇宙開発を担う研究者の育成を図る。
    * 統合のメリットを明確に意識した研究、開発体制をとる。当面の課題として以下のようなものを考える。
    打ち上げ手段の多様化
    H-IIAロケットによる科学衛星打ち上げ、ピギーバック衛星の活用
    現宇宙3機関共同ミッションの発展的継続と新たなミッションの創出
    惑星科学と地球観測との連携、協力
    地球環境問題の理解、解析手段の共有

VI.航空科学技術

  1. 全般
  2. * 航空科学技術は、宇宙技術の分野と同様に多くの高度先端技術をシステムとして統合する高い付加価値を生み出す科学技術領域であり、科学技術及び産業の高度化に資するのみならず、地球環境保全への対応、国民生活の質の向上等に資する重要な戦略的分野である。
    * このため、科学技術創造立国としての我が国の将来をも左右する極めて重要な戦略的、基盤的、先導的技術として取り組むことが必要である。

  3. 航空科学技術研究開発の在り方
  4. * 空科学技術は、新機関において宇宙開発を推進する上での重要かつ不可欠の基盤である。(使い切り、弾道形態の現在の宇宙輸送機から、運用性能の飛躍的拡大を図る上で再使用性・空力軌道・有翼形態の次世代宇宙輸送機の研究開発は航空科学技術が基盤となっている。)
    * 新機関においても、我が国航空科学技術研究開発の「中核」機能としての、これまでの航空宇宙技術研究所の役割を今後とも担うことが不可欠である。
    * 社会の要請に的確に対応するとともに関係省庁の航空政策(航空安全、事故調査、航空機開発、環境保全等)の有効な推進に資する。
    * 宇宙分野の研究開発と同様に、飛行試験による先端技術実証などの航空科学技術開発、並びに施設、設備基盤を維持、発展し、関係機関、民間等の共用に供する。
    * 新機関の中では、航空科学技術研究開発の基盤となる技術、設備等が宇宙開発と共通であるため、引き続き一体的に進める。