プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

プリント

北極海海氷減少と北極振動が相互に影響しあっていることを発見

平成13年3月30日

宇宙開発事業団
海洋科学技術センター

 宇宙開発事業団(理事長 山之内秀一郎)および海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)の共同プロジェクトである「地球フロンティア研究システム」の国際北極圏研究センター池田元美プログラムディレクターらは、ここ30年間において北極海の海氷面積が増減を繰り返しつつ次第に減少していることと、北極上空の反時計まわり極渦が盛衰(北極振動)しながら次第に強化していることが、相互に影響を与えていることを発見しました。
 この成果は、平成13年4月1日発行の学会誌Geophysical Research Lettersに掲載される予定です。

背景

 従来、北極海の海氷面積の減少は、炭酸ガス増加による地球温暖化にともない北極圏の気温が上昇し、いったん海氷が減少すると、夏に太陽放射を吸収して海水温度が上昇することで、さらに海氷が減少するというのが定説であった(図1)

成果および考察

 池田プログラムディレクター等は、ボックスモデル(図2)を用いてシミュレーション計算を行った結果、強い極渦と海氷の減少(あるいは逆に弱い極渦と海氷の増加)の間で相互に影響しあい、海氷が増減しながら減少していく中で、極渦が北極振動しながら強化していくことを発見しました(図3図4)。
 北極振動が北日本の寒暖に大きな影響を与えていることは従来から知られており、その周期性と将来の状態を予測できれば我が国の国民生活に大変役立つことが期待されるところであり、地球規模環境変化の理解とも合わせて、北極圏における大気モデル、海氷・海洋モデルによる地球変動予測の研究を引き続き進めていくことが極めて重要と考えられます。

今後の研究課題

 海氷が薄くなると極渦・海氷・表層水(大西洋水)の間に正のフィードバックがはたらき、北極海海氷が極端に減少し、それにともない極渦が強化する可能性が示唆されました。この正のフィードバックで重要になるのが海氷面積の減少に対する極渦強化率であり、これをさらに正確に見積もる大気モデル研究が必要と考えられます。また、同時に北極海から大西洋に流出する海流の流量をモニターすることが必要です。海氷面積と移動速度については人工衛星による観測が可能ですが、海流流量については現場での観測を実施することが必要となります。



参考資料

1. 国際北極圏研究センターにおける北極域の気候変動についての研究

'97年3月「地球的展望に立った協力のための共通課題(コモン・アジェンダ)」に関して橋本総理とゴア米国副大統領との会談が行われ、日米が協力して地球変動およびその予測の分野における研究を推進することが重要であるとの合意が得られた。
 国際北極圏研究センター(IARC(所長 赤祖父俊一))は、上記の日米コモンアジェンダに基づいてアラスカに設置された研究所である。IARCにおいては平成10年初頭より、池田元美プログラム・ディレクターのもとで、温暖化の指標とされている海氷の減少、それと関連している大気や海洋の変動について研究を進めている。

2. 海氷減少のメカニズム

 最近30年の間に北極海の海氷が増減を繰り返しつつ、減少していることは広く知られている。人間活動に起因する炭酸ガスの増加のみならず、自然現象としての北極上空の極渦の変動、さらに、上空への放射熱を遮断する効果のある低層雲などが、海氷減少のメカニズムとして提案されているが、解明されていないところが多かった。昨年になって、極渦の強化によっても海氷が減少することが、データ解析とモデル研究によってわかってきた。池田プログラムディレクターは海氷面積と極渦の間でお互いに影響を与える可能性を考え、海氷面積の増減と極渦の盛衰の間の相互作用を、簡略なボックス・モデルを用いて説明した(図2)

3. 語句の解説
  • 「極渦」
     北極上空1万メートル付近に存在する西風。さらに上空から見ると、北極を中心とする反時計回りの渦を形成している。
  • 「北極振動」
     極渦が強くなったり弱くなったりする現象。盛衰は数十日から数十年という、さまざまな周期で起きている。



問合せ先
海洋科学技術センター/宇宙開発事業団
地球フロンティア研究システム合同推進事務局 担当:菱田・川崎
TEL 03-5404-7852(菱田)、03-5765-7100(川崎)
ホームページ http://www.frontier.esto.or.jp

海洋科学技術センター 総務部 普及・広報課 TEL 0468-67-5547
ホームページ http://www.jamstec.go.jp (海洋科学技術センター)