宇宙開発事業団
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
技術試験衛星VIII型において新規に採用される大型展開アンテナ(19m×17m×2つ)の展開技術について、事前に宇宙空間で実験するため、アンテナ小型部分モデル(LDREX:直径6m)をARIANE508に搭載し、ギアナ宇宙センターから、平成12年12月20日9時26分(日本時間)に打ち上げた。
展開実験は、同アンテナをロケット機体に取り付けた状態で行い、折り畳んだアンテナを固定するバンド(保持解放機構)の解放やアンテナの初期の展開など、実験開始後約3分間は計画通り進行したが、アンテナが約5度(半頂角)開いたところで展開が停止した。20分間そのままの状態にあり、その後計画に従ってロケットから分離された。ロケットから分離された直後、展開が再度始まり、約40度まで展開したことが確認されたが、ロケット上に設置されたカメラの観測視野から外れたため、最後まで展開したかどうか確認されていない。なお、実験をモニタ-するための各種テレメトリデ-タ及び画像は全て得られた。
本資料は、フライトデータから確認できた内容等から、上記の不展開に関する原因究明結果について報告する。あわせて、本実験により確認できた事項等をまとめる。
フライトデータから、LDREXの制御系並びに温度環境は正常であることが確認できた。従って、展開が停止した原因は機械的な機構部分にあると考えられる。フライトデータの分析により、破損や展開抵抗の増加の可能性はないと考えられることから、結論としてメッシュ(注)の引っかかりが原因と推定される。すなわち、
保持解放機構のクランプバンドは、解放直後その先端部は速い速度で展開するが根元付近の展開速度は遅い。一方、アンテナは保持解放機構で締め付けられて収納されるため、歪みエネルギーが蓄積され、解放直後膨張する。その結果、クランプバンドの根元付近とアンテナとの間で干渉を生じ、アンテナは反力を受け振動を開始する。しかし、地上試験では重力による減衰効果と支持治具の影響のため、この干渉が発生してもあまり揺れない。ところが宇宙空間では、重力が作用しないとともに支持治具もないため、振動が抑制されず予期せぬ振動が発生したものと推定される。計算機シミュレーションによると無重力状態では、観測されるような大きな振幅が発生しうる。
保持解放機構を解放した直後、アンテナは少し膨張し、その一部がクランプバンドに接触して反力を受け、予期せぬ大きな振動が発生した。この振動により、本来アンテナのトラス間に収納されていたメッシュが外に動き、隣のトラスの先端部に被さった。アンテナは約5度まで展開したが、そこでメッシュが引っかかり展開が阻止された。