プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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ETS-VIII大型展開アンテナ小型部分モデル(LDREX)展開実験の結果について

平成13年3月7日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 技術試験衛星VIII型において新規に採用される大型展開アンテナ(19m×17m×2つ)の展開技術について、事前に宇宙空間で実験するため、アンテナ小型部分モデル(LDREX:直径6m)をARIANE508に搭載し、ギアナ宇宙センターから、平成12年12月20日9時26分(日本時間)に打ち上げた。
 展開実験は、同アンテナをロケット機体に取り付けた状態で行い、折り畳んだアンテナを固定するバンド(保持解放機構)の解放やアンテナの初期の展開など、実験開始後約3分間は計画通り進行したが、アンテナが約5度(半頂角)開いたところで展開が停止した。20分間そのままの状態にあり、その後計画に従ってロケットから分離された。ロケットから分離された直後、展開が再度始まり、約40度まで展開したことが確認されたが、ロケット上に設置されたカメラの観測視野から外れたため、最後まで展開したかどうか確認されていない。なお、実験をモニタ-するための各種テレメトリデ-タ及び画像は全て得られた。

 本資料は、フライトデータから確認できた内容等から、上記の不展開に関する原因究明結果について報告する。あわせて、本実験により確認できた事項等をまとめる。

2. 不展開原因の検討

 フライトデータから、LDREXの制御系並びに温度環境は正常であることが確認できた。従って、展開が停止した原因は機械的な機構部分にあると考えられる。フライトデータの分析により、破損や展開抵抗の増加の可能性はないと考えられることから、結論としてメッシュ(注)の引っかかりが原因と推定される。すなわち、

  • フライトデータを見ると、モータ回転開始からアンテナは約5度展開が進んでいる。この事象はメッシュがトラス先端部に被り、展開が進んでメッシュに張力を生じるまではほぼ正常に展開するが、いったん張力が生じるとそこで展開が阻止される、というモデルで説明可能である。また、アンテナの展開が分離後に再開したが、これは分離に伴う振動によってメッシュの引っかかりが外れたものと考える。この原因については、次項の異常展開解析で詳しく検討する。
     (注) メッシュ:アンテナのトラス内のケーブルの干渉を防ぐためのポリエステル製の膜で、アンテナのトラス間に収納される。
  • なお、図1に示すとおり分離後に展開は進展していることがわかる。その展開進度は設計値に近いため、展開駆動力は設計通りに維持されていたと判断する。

3. 異常展開解析

  • メッシュの引っかかりによる異常展開解析を行って、フライト画像と同様な状態になるようなケ-スを推定した。解析の結果、モジュール2が拘束されるケース4-1(図2)が、フライト画像(図3)から推定される事象に最も近い。すなわち、
    • ほぼ対称である
    • 約5度の展開角度で停止
     ケース4-1以外でも展開が停止するが、いずれも観測されている事象よりは大きく開くか、あるいは著しい非対称形状に至る。
  • このようなメッシュの引っかかりを引き起こした要因として、4.に示す地上試験では発現しなかった予期せぬ振動が考えられる。アンテナがやや開いた状態で、このような振動が発生する場合、機構上は、本来アンテナのトラス間に収納されているメッシュが外にはみ出すような動きをすることがあり得る。(図4参照)

4. 保持解放機構の解放直後における振動の原因について

 保持解放機構のクランプバンドは、解放直後その先端部は速い速度で展開するが根元付近の展開速度は遅い。一方、アンテナは保持解放機構で締め付けられて収納されるため、歪みエネルギーが蓄積され、解放直後膨張する。その結果、クランプバンドの根元付近とアンテナとの間で干渉を生じ、アンテナは反力を受け振動を開始する。しかし、地上試験では重力による減衰効果と支持治具の影響のため、この干渉が発生してもあまり揺れない。ところが宇宙空間では、重力が作用しないとともに支持治具もないため、振動が抑制されず予期せぬ振動が発生したものと推定される。計算機シミュレーションによると無重力状態では、観測されるような大きな振幅が発生しうる。

5. 不展開原因のまとめ

 保持解放機構を解放した直後、アンテナは少し膨張し、その一部がクランプバンドに接触して反力を受け、予期せぬ大きな振動が発生した。この振動により、本来アンテナのトラス間に収納されていたメッシュが外に動き、隣のトラスの先端部に被さった。アンテナは約5度まで展開したが、そこでメッシュが引っかかり展開が阻止された。

6. 本展開実験により確認できた事項

  • 宇宙空間における機構的な作動については、世界的に技術蓄積が少ないが(今回のモジュール型の展開アンテナは世界でも初めて)、地上試験では高い真空状態や無重力環境を完全には模擬できないため、今回の宇宙実験では、引っかかり以外にも、摩擦力や解析手法などを検証した。
  • 実験の結果、摩擦に関する設計、部材選定、展開制御設計、熱制御設計、解析手法等については妥当であることを確認した。

7. 今後の対応

  • 上記原因究明結果(初期振動の発生、メッシュの引っかかり)を踏まえて、今後、外部評価を行いつつ、設計改良等の対策を明らかにし、現在、詳細設計段階にあるETS-VIIIに反映する。
  • また、再度、小型部分モデルによる宇宙実験を実施するか否かについては同対策を明らかにする過程で検討する。

以上