プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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H-IIAロケット試験機1号機の開発状況について

平成13年4月11日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 本年夏期打上げのH-IIAロケット試験機1号機用の第1段エンジンについて、最終的な性能確認のための領収燃焼試験の準備が整い燃焼試験を実施することとしたため、その他の準備状況と合わせ報告する。

2. 経緯

(1) 平成12年10月に実施した試験機1号機用第1段エンジン(LE-7A)燃焼試験において、液体酸素ターボポンプのメッキ剥離と液体酸素タンク加圧用配管の漏洩不具合が発生した。これらの不具合については原因究明及び対策を実施した後再度燃焼試験を行い所要のデータを取得したが、試験機1号機については通常の打上げよりも入念な確認を実施することとし、12年度冬期に予定していた試験機1号機の打上げを13年度夏期に延期した。
(2) その際、宇宙開発事業団は、「品質確認対策チーム」を組織し試験機1号機の品質を再確認するとともに、試験機1号機用LE-7Aエンジンを新製作することとし、作業を進めてきた。

3. 再確認作業の状況

  • 宇宙開発事業団は、試験機1号機打上げに向けメーカ及び下請けメーカと一体となった「品質確認対策チーム」(リーダ:柴籐宇宙輸送システム本部長)を平成12年12月19日に組織し、試験機1号機について、製造、試験及び品質管理の全ての段階が設計に照らして問題ないことの再確認を実施してきた。
  • このうち、LE-7Aエンジンについては、領収燃焼試験実施前に確認すべき項目を点検し、問題点を抽出し、必要な対策を講じた(別紙参照)。これにより領収燃焼試験へ移行することとした。
  • なお、エンジンの寿命余裕の分析のための振動環境下における応力等の詳細解析や射場における整備作業手順書等のエンジン以外のの再確認作業については、一部継続実施中である。

4. 試験機1号機の製作状況(図参照)

  • 機体や第2段エンジンなどは、製作・試験を終え工場等にて保管中である。
  • LE-7Aエンジンの液体水素ターボポンプ(FTP)及び液体酸素ターボポンプ(OTP)については、実際の飛行に用いるターボポンプのインデューサ吸い込み特性を直接的に把握することを目的として、単体での技術試験を実施した。この結果取得された低入口圧力状態を含むインデューサ吸い込み特性データにより、実際に遭遇しうる飛行条件において、ターボポンプが問題なく運転できることを確認した。

5. LE-7Aエンジン領収燃焼試験

  • LE-7Aエンジン領収燃焼試験は、実際に飛行するエンジンについて燃焼試験を行い、エンジンの基本機能・性能を確認するとともに適切な運転状態に調整を行うことを目的としている。
  • 試験機1号機用エンジンについては、以下のステップで4月12日より燃焼試験を実施する予定である。
    (1) 初期作動確認及び作動点調整試験(50秒) :数回
    (2) フライト条件確認試験(約120秒) :1回

6. 今後の予定

  • エンジン領収燃焼試験以降の予定は以下のとおりである。
エンジン領収燃焼試験(種子島宇宙センター)
4月12日〜
全段システム試験(製造メーカ)
 
発射整備作業(種子島宇宙センター)
 
打上げ
 



LE-7Aエンジンに関する点検内容及び結果


点検項目 点検内容及び結果
1.特殊工程に関する点検
(1) 特殊工程FMEAの実施
■特殊工程中で、重要パラメータの評価 【認定試験品と試験機1号機品に有意差なし】
(2) 特殊工程製造データ
■下請けメーカも含め、特殊工程に関する非破壊検査等製造データの点検 【結果:データ問題なし】
(3) 特殊工程アセスメント提言事項実施状況
■外部専門家による特殊工程アセスメント提言事項(溶接条件見直し等)の反映 【結果:反映済み】
(4) 補修工程及び工程変更内容の点検
■下請けメーカも含め、認定試験終了時点から試験機1号機までの変更内容の点検 【結果:変更・補修及び工程変更内容に問題なし】
(5) 特殊工程部位の切断検査(鋳造、溶接、ろう付け)
■長寿命試験後のLE-7Aエンジンの特殊工程部位の切断検査で欠陥の発生状況を点検【結果:欠陥なし。】
■液体水素ターボポンプ精密鋳造部品に発生していた疲労亀裂について、その発生部の健全性を確認するため切断検査を実施し、破面解析及び他のエンジン調査等の結果から亀裂による欠損等の可能性のないことを確認】
(6) 重要部品の検査基準点検
■重要部品(ベアリング保持器及びノズルスカートチューブ)の外観目視検査基準について、限度見本の点検 【結果:問題なし】
(7) 特殊工程に関する品質確認
■長秒時燃焼試験後の鋳造製高圧配管の破壊試験 【結果:使用圧力に対し、設計どおり約2.5倍から4.3倍の圧力で破壊することを確認】
2.振動・衝撃に関する点検
(1) 振動部位の発生応力の再点検
■LE-7Aエンジンの最新形態による全系解析モデル及び振動解析モデルにより、静的荷重、正弦波荷重による寿命評価を実施 【結果:溶接部の応力集中、初期亀裂及び安全率を考慮した上で、要求寿命を満足することを確認】
■小物配管について、実測した減衰率により簡易解析を実施 【結果:要求寿命を満足することを確認】
■現在、過渡振動解析、詳細解析モデルによる評価 【設計の余裕度分析を観点として、詳細解析を実施中。厳しめの結果である一時評価は問題なし】
(2) 燃焼試験による振動部位の実負荷確認
■燃焼試験時の音響データを取得 【結果:フライト時の音響環境が地上燃焼試験時の音響環境より穏やかであることを確認】
■これまで実施した燃焼試験の振動加速度データの再整理 【結果:(1)で使用している解析条件の範囲内にあることを確認】
3.品質確保に関する点検
(1) 発生不具合の要因分析と水平展開
■認定試験及びそれ以降に発生した重大な不具合(9件)の背後要因分析 【結果:背後要因を分析し、類似の要因が他のシステムに内在していないことを確認】
(2) 認定試験以降の不具合処置の再点検
■認定試験・GTV-1・試験機1号機の不具合処置、恒久対策結果の再点検を実施 【結果:問題点を抽出し、対策を実施中。軽微な反映事項はあるが、領収燃焼試験実施に影響する問題はない】
■■ASDAのサインが必要な不具合がメーカだけで処理されたものが数件あり、不具合の処理判定基準を見直した 【不具合処置結果としては、試験機1号機には問題なし】
4.試験機1号機確実性に関する点検
(1) 試験機1号機用エンジン再製作の点検
■再製作工程の現物点検 【製造中間工程での■ASDAの監督項目を従来より増やすとともに、従来の監督員にチームのメンバーを加えて点検を実施。メーカにおいても、作業者、検査員以外の設計担当者や生産技術担当者が、適時、工程に立ち会い実施】
■認定試験エンジン以降の設計変更、工程変更内容についての点検 【結果:品質上の問題となる変更はないことを確認】
■製作中に発生した不具合への対処 【処置に問題のないことを確認】
・主噴射器の液酸マニホールドの鋳物部分の欠陥:マニホールドを良品と交換
・液水ターボポンプ取付用タービンマニホールドの寸法外れ(約10μm):シール性能や構造強度に影響しないことを確認。そのまま使用。
■領収試験条件がフライト条件に合致しているかの点検及び試験データの詳細な点検 【結果:試験機1号機の確実性を上げるため、液酸ターボポンプについて低い入口圧条件での単体作動試験を追加し、吸込性能の余裕を確認。液水ターボポンプについては、当初の試験において、ポンプの軸振動が設計上の許容値以内ではあるものの、最近製造された他のポンプに比べ若干高めであった。確実を期すため、部品交換・再組立を実施し再度試験を行い、従来のポンプと同程度のレベルであることを確認】
(2) 地上試験とフライト環境の差異による影響の点検
■地上試験の環境条件とフライト環境の差異の点検 【結果:両者の差異について、試験結果あるいは解析結果より問題のないことを確認】