プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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国際宇宙ステーションのサービスモジュールに搭載する実験装置の出荷について

平成13年3月22日

宇宙開発事業団

宇宙開発事業団(NASDA)は、国際宇宙ステーション(ISS)のサービスモジュール(SM)に搭載する実験装置である微小粒子捕獲実験装置及び材料曝露実験装置(MPAC&SEED)、並びに高精細度テレビジョン(HDTV)カメラシステムを3月30日にロシア航空宇宙庁(RASA)に向け出荷することと致しましたのでお知らせ致します。

 これらの装置はプログレス無人補給船で2001年7月に打ち上げられる予定で、MPAC&SEEDについてはSMの外部に船外活動により取り付けられ、HDTVカメラシステムについてはSM内部で医学実験・広報応用実験のための画像取得に用いられます。




国際宇宙ステーション・ロシアサービスモジュールを利用した宇宙実験


1. ミッション概要

 宇宙開発事業団(NASDA)は国際宇宙ステーション(ISS)の早期利用の一環として、2001年7月からISSロシア・サービスモジュール(SM)を利用して、微小粒子捕獲実験及び材料曝露実験(MPAC&SEED実験)、並びに映像取得実験(HDTVカメラ実験)を実施します。
 実験装置は、カザフスタン・バイコヌール宇宙基地からプログレスにより打ち上げられ、SM内外での実験後に、適宜ソユーズを利用して、MPAC&SEED実験試料、並びにHDTVカメラ実験記録テープをロシア地域内で回収する計画です。

2. 実験の概要

2.1 微小粒子捕獲実験及び材料曝露実験(MPAC&SEED実験)

 今回の宇宙実験では、最長3年間にわたって宇宙空間における微小粒子の捕獲実験及び宇宙用材料の曝露実験を実施します。これは、これまでにわが国が実施してきた同種の実験と比べて長期間の実験であることが大きな特徴です。また、今回の実験では、実験開始後1年、2年及び3年経過毎に実験試料を回収するため、最長3年間にわたる微小粒子の捕獲数変化、曝露材料の経年変化を評価することが可能です。これらの実験結果は世界的にみても貴重な実験成果であるとともに、我が国の今後の宇宙機開発に大きく貢献するものと期待されています。

●微小粒子捕獲実験

 ISS軌道に存在する微小粒子(スペースデブリ、マイクロメテオロイド等)の存在量、大きさ、組成、衝突エネルギ等について評価し、安全な宇宙活動に支障をきたす恐れのある微小粒子環境の把握、また、太陽系形成や進化の一層の理解に貢献するなど、宇宙環境モデルの最新化などに資するものです。

* スペースデブリ: ロケットや人工衛星等の破片、固体ロケットの燃焼生成物など。人工起源。
* メテオロイド: 人工起源以外のもの(彗星、惑星等)の固体粒子。天然起源。
表―1 MPAC実験試料
No.提案者提案機関微小粒子捕獲材
1 今川 吉郎 宇宙開発事業団 低密度発泡体、金属板
●材料曝露実験

 宇宙機の長寿命化、高信頼性化のために、宇宙機の曝露部に使用される様々な宇宙用材料の耐宇宙環境性の向上が重要になります。曝露実験では、各種の宇宙用材料(熱制御材料、固体潤滑剤等)を宇宙放射線、原子状酸素等の宇宙環境にさらし、それら材料の劣化状況、及び宇宙機からのアウトガスや姿勢制御用ガスジェットのプルーム等の汚染物による汚染状況を評価し、今後の宇宙用機器等の開発に資するものです。

表-2 SEED実験試料
No.提案者提案機関選定試料
1 永尾 陽典 富士重工業(株) 宇宙用構造材
2 藤田 修、
中村 孝
北海道大学 宇宙用柔軟膜構造材
3 小田原 修 東京工業大学 宇宙用構造材等
4 足立 幸志 東北大学 宇宙用固体潤滑剤
5 土佐 正弘 金属材料技術研究所 宇宙用固体潤滑剤
6 秋山 正雄 (株)IHIエアロスペース 宇宙用固体潤滑剤
7 今川 吉郎 宇宙開発事業団 宇宙用膜構造材、宇宙用熱制御フィルム、宇宙用塗料、宇宙用接着剤



図―1 宇宙機のおかれる宇宙環境のモデル図

2.2 映像取得実験(HDTVカメラ実験)

●医学実験

 宇宙飛行士は、精神的、肉体的なストレスが多い特殊環境にさらされるため、医師や専門家のサポートが重要になります。
 日本人宇宙飛行士の健康管理はNASDAの業務であり、HDTVカメラシステムを使用した基礎実験により、遠隔医療への応用、心理面でのサポートへの適用に向け多くの知見を得ることができます。

表-3 医学実験テーマ
No.研究者提案機関実験テーマ
1 宮本 晃 宇宙開発事業団 HDTV映像を用いた軌道上健康管理技術の研究
●広報実験

 ISS内部の活動状況及び地球撮影等による宇宙活動の映像取得により、ISS計画の国民への普及啓発に活用します。

表-4 広報実験テーマ
No.研究者提案機関実験テーマ
1 福田 義也 宇宙開発事業団 宇宙ステーションにおける高精細映像情報の広報応用実験

3. 実験装置の概要

3.1 微小粒子捕獲実験装置及び材料曝露実験装置(MPAC&SEED)

 実験装置は、プログレスにより2001年7月に3式打ち上げます。実験装置3式をSM外壁に取り付け、各々1,2,3年間宇宙環境に曝露させた後、曝露実験試料部分(微小粒子捕獲材、曝露実験試料)のみを、ソユーズにより回収します。地上に回収された後に、試料の分析・評価、及び地上対照試験データとの比較評価を行います。


図-2 MPAC&SEEDのSMへの取り付け状態

図-3 MPAC&SEED
外形寸法:900(H)×570(W)×156(D)mm
打上げ重量:28.5kg
回収重量:9kg
主要構造材:アルミニウム

3.2 高精細度テレビジョン(HDTV)カメラ・システム

 HDTVカメラ・システムは、大きく分けて、HDTVカメラとコンバータユニットより、構成されています。
 HDTVカメラは、カメラとビデオレコーダが一体になったカムコーダで、高精細度のHD映像、音声をビデオテープに記録します。コンバータユニットは、HDTVカメラへの電力供給、ダウンリンク用にHD映像のSECAM映像への変換を行います。これらの装置は、民生品をベースとして、搭載品に整備したものです。
 すべての医学実験映像は実験中にSMのビデオシステムを使ってダウンリンクされ、地上と軌道上で医学面接が実施されます。また、広報映像の一部もダウンリンクされる計画です。映像は、すべて、ビデオテープに録画され、回収後解析されます。


図-4 HDTVカメラ
主要仕様
CCD有効画素:1080×1920(200万画素/CCD)
記録形式:デジタルビデオ方式
記録時間:40分/テープ
ズーム:9倍、15倍レンズ仕様(5.5〜120mm)

図-5 コンバータユニット
主要仕様
直流電源機能:28VDC/16VDC変換
信号変換機能:HD信号/SECAM信号変換
外形寸法:465(w)×400(d)×80(h)mm
重量:7.0kg

4. スケジュール

(ミッション概要)

  • 打上げ予定時期:2001年7月(プログレス4)
  • ビデオテープ回収予定時期:2001年11月、2002年3月、7月
  • 曝露試料回収予定時期:2002年7月、2003年7月、2004年7月
  • 搭載場所:ISSロシア・サービスモジュール
  • 軌道高度:約400km
  • 軌道傾斜角:51.6度
  • ISS搭乗員:3名

表-5 マスタースケジュール

5. 今後の材料曝露実験及びHDTV実験の計画

 NASDAは、2005年の打上げを目指して、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームを利用する実験テーマの一つとして、宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)を開発中です。
 SEDA-APは、微小粒子捕獲実験装置及び材料曝露実験装置を含む各種宇宙環境計測センサを搭載した装置で、船外の宇宙環境の計測及び材料に対するそれらの影響評価などを実施します。
 また、HDTVカメラ・システムは、2004年以降の「きぼう」への搭載を検討中です。