プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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国際宇宙ステーション米国実験棟での中性子計測実験における
データ解析結果(速報)およびデータの一般公開について

平成13年9月5日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 宇宙開発事業団(NASDA)が開発した中性子モニタ装置(BBND:Bonner Ball Neutron Detector)による国際宇宙ステーション(ISS) 米国実験棟内の中性子計測データの取得にともない、そのデータ解析結果(速報)およびデータの一般公開について報告する。

2. 中性子計測実験の概要

BBNDはISSに搭載される日本として初めての装置であり、平成13年3月14日に米国実験棟に搭載され(3月23日計測開始)、米国航空宇宙局(NASA)と共同で船内中性子環境計測を実施している(下図)。


ISSに搭載された中性子モニタ装置(BBND)

中性子計測実験は、ISS内の宇宙環境が人間に及ぼす影響について広く研究を行う国際共同プロジェクト(HRFプロジェクト:Human Research Facility Project)の一環として実施され、国際パートナに取得データを提供し国際貢献を図るとともに、ISSでの有人活動のために必要となる宇宙放射線被曝管理技術の向上に資することを目的としている。

3. データ取得までの経緯

(1) BBNDの計測データは、当初計測開始後1週間ごとに地上へ送信される予定であったが、ISSの通信機器の不具合、軌道上におけるワークステーションのソフトウェアの不具合、クルータイム不足等の理由により、現時点ではデータの地上への送信は一度も実施されていない。
(2) 従って、当面の処置として、STS-104(7月12日打ち上げ、7月24日帰還)において2台の記録部(ハードディスク)を回収した。
(3) NASAにおける作業(KSCからJSCへの輸送、データのコピー等)を経た後、8月6日に計測データを取得し、データ解析を開始した。

4. データ解析結果(速報)

 平成13年3月23日から7月6日までの106日間の中性子計測データを取得した。このような長期間にわたる中性子計測は今回が初めてのケースである。これらのうち、静穏時(4月8日から4月11日)、太陽フレア発生時(4月15日)におけるデータから作成したISS船内の中性子線量当量マップを別紙に示す。これによると、従来の研究により南大西洋異常地域(SAA:South Atlantic Anomaly)で中性子の量が多いことがわかっていたが、太陽フレア発生時には極近傍においてもSAAと同程度の中性子線量当量が観測された。

5. データの公開

 取得データの解析結果は、NASDAホームページ内の宇宙環境計測データベースにて、適宜、一般に公開する。
 また、日本国内外の研究者等に計測データを広く利用してもらうため、上記の宇宙環境計測データベースを通して、無償で9月下旬から計測データの提供を開始する。

6. 今後の予定

(1) 中性子計測実験は、STS-108(11月29日打ち上げ予定)における中性子モニタ装置回収まで継続して実施される。
(2) データの地上への送信に関しては、9月上旬にNASAが不具合等の対策を試みる予定である。不具合が解決されれば一週間ごとに計測データを取得するが、不可の場合にはSTS-108にて装置と同時に回収する予定である。
(3) 今後取得したデータは逐次解析を行い、宇宙環境計測データベースを通して公開するとともに、日本国内外の研究者へのデータの提供を行う。



中性子計測実験データ解析結果(速報)


1. 太陽フレア発生時のデータ

 今回は、幾つかのフレア発生の影響を取得している。例えば4月15日15時UT(世界標準時)頃最大951PFU(注)(4月15日13:19UT発生のX14/2Bフレア)の影響を極近傍で受けている。この例では南大西洋異常地帯(SAA: South Atlantic Anomaly)のピーク値と同じ程度の影響が発生しており、通常の4倍から16倍に達した。4月15日の時系列データを図1に、南極及び北極から見た軌道毎の線量当量変動を図2に、船内中性子線量当量マップを図3に示す。

(注)Proton Flux Unit (静止気象衛星GOES観測で10MeV以上の陽子の粒子フラックス(個/cm2-s-sr))


図1 線量当量の時系列データ(4月15日:太陽フレア発生時)





図2 北極及び南極から見た軌道毎の線量当量変動(4月15日:太陽フレア発生時)





図3 ISSでの船内中性子線量当量マップ(4月15日:太陽フレア発生時)




2. 静穏時のデータ

 太陽活動の穏やかな2001年4月8日から4月11日のデータを基に作成した船内中性子線量当量マップを図1に示す。STS-89のデータ(次項参考資料を参照)に比べると全領域で若干減っている。


図4 ISSでの船内中性子線量当量マップ(4月8日〜4月11日:静穏時)


(参考資料)

過去の中性子計測実験

BBNDを用いて実験を行ったSTS-89シャトル/ミールミッション(1998年1月)において得られた中性子線量当量マップを下図に示す。この実験により、単位時間に飛来する中性子の数は、SAAと両極地域において他の地域より高い値であることが観測された。
STS-89では、太陽活動極小期(1998年)であり、また3.5日間と短い実験期間であっため、フレアの影響を確認することはできなかった。今回の中性子計測実験で得られた静穏時の中性子線量当量マップは、STS-89で得られた中性子線量当量マップより同じような傾向を示している。今回のミッションでは、ISSにBBND搭載することにより長期間の計測が可能となり、太陽フレアの影響を観察することができた。


図 STS-89での船内中性子線量当量マップ