宇宙開発事業団
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
宇宙開発事業団改革推進委員会により「宇宙開発事業団の改革についての所見」(以下「所見」という。)がとりまとめられたので報告する。
(1) | 平成12年5月の宇宙開発委員会特別会合終了後の記者会見において、科学技術庁長官(当時)が、H-IIAロケットの打上げに向けた業務運営等の改革を確実かつ透明性をもって行うために、事業団に第三者の有識者からなる「改革推進委員会」を設置することについて言及した。 |
(2) | これを受け、平成12年6月、事業団は改革推進委員会(委員長:久保田弘敏東京大学教授)を設置した。 |
(3) | 改革推進委員会は、平成12年7月〜平成13年10月までに7回の会合を開催し、事業団の主な改革項目について議論(下表1参照)を行った。 |
(4) | 改革推進委員会は、第7回会合における所見案の議論を踏まえ、委員間で引き続き意見交換を行い、今般所見をとりまとめた。 |
改革推進委員会の所見を別紙に示す。
事業団は、所見で指摘及び提言されている項目について対応策を検討し、「経営改革についてのアクションプラン」の改訂に反映させるとともに、第7回の改革推進委員会で事業団の改革の進捗状況に含めて報告した。
会合 | 審議事項 |
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第1回: (12年7月26日) |
NASDAの経営改革についてのアクションプラン(改訂版) |
第2回: (10月23日) |
開発の進め方品質保証の強化に対する取り組みH-IIAロケットの開発状況 |
第3回:(於 筑波) (11月29日) |
品質保証の強化に対する取り組み(続)衛星の開発強化の取り組み状況技術基盤の強化に対する取り組みアクションプランの階層別及び期間別整理 |
第4回: (13年1月24日) |
品質保証の強化に対する取り組み(その3)-H-II及びH-IIAロケットの事故・不具合の背景要因分析-企業との役割・責任関係の見直しアクションプランの階層別及び期間別整理(続) |
第5回: (3月27日) |
品質保証の強化に対する取り組み(その4) - 企業における取り組みの強化状況 -高度情報化の推進に対する取り組み専門的人材の育成活用に対する取り組み |
第6回: (6月21日) |
これまでの審議における主な意見主な意見に対するNASDAの対応H-IIAロケット試験機1号機の開発状況について宇宙開発全般に対するNASDAの考え方 |
第7回: (10月11日) |
H-IIAロケット試験機1号機の打上げ結果の報告改革の進捗報告委員会の所見の議論 |
その他: (13年8月29日) |
H-IIAロケット試験機1号機の打上げ視察 |
序 文宇宙開発事業団改革推進委員会は、宇宙開発委員会特別会合報告書で指摘された改革方策を受けて、宇宙開発事業団(以下、「NASDA」という。)がH-IIAロケット試験機の打上げに向けた業務運営などの改革を確実かつ透明性をもって推進するために、平成12年7月に設置され、平成13年10月までに7回の会合を開催してきた。 本委員会は、NASDAからの改革の進捗状況の報告に対して活発な議論を行い、様々な助言を行ってきた。NASDAは、本委員会の助言を真摯に捉え、自らを変えるという努力を行っている。先般のH-IIAロケット初号機の打上げ成功はその成果によるものと理解している。 この1年の間に科学技術庁と文部省が統合されるなど中央省庁の再編があった。また、現在は、特殊法人改革(原則、廃止か民営化)の一環としてNASDAと宇宙科学研究所及び航空宇宙技術研究所が統合されるという大きな構造改革の流れの中にある。このように、本委員会が発足した当時とは情勢が大きく変わってきている。 本委員会は、NASDAが本所見で述べられている指摘・提言の趣旨やその議論の過程を十分認識して、これからのNASDAあるいは新たな宇宙開発組織の活動に役立てていくことを期待する。また、本委員会は、このことによって、我が国の宇宙活動が着実に発展していくことを期待するものである。 所 見 概 要本委員会は、宇宙開発委員会特別会合などの改革方策に沿ってNASDAが自らの業務の改革を行っている状況について論議した。その主たる項目は
である。NASDAは、従来の開発の進め方を改革する必要性を理解しており、それを着実に行ってきた。その努力は高く評価できる。本委員会で議論された改革項目は、短期的に成果の出るものばかりではなく、中長期的な視点でその達成を求められるものがある。したがって、本委員会で議論された指摘と提言を踏まえて、引き続き自己改革に取り組んでいくことを期待する。 NASDAの改革方策に関する指摘と提言NASDAの改革方策について、本委員会におけるこれまでの議論を以下に示す指摘と提言にまとめた。
(1)開発方策 宇宙活動を確実に進めていくには、一つの失敗や不具合から多くのことを学び、類似の失敗・不具合を起こさないようにするとともに、高い信頼性を確保する開発方策(現象の分析、潜在的な事象を顕在化させる方策、シミュレーションの高度化、等)を工夫する必要がある。 (2)技術開発マネジメント 開発実証された技術はこれをできるだけ維持し、設計の変更に当たっては局所最適化に陥らないようその影響を網羅的に把握する必要がある。 また、開発過程で発見された技術課題は、大学などの研究機関の協力を得て徹底的に究明する仕組みをつくる必要がある。このことによって、学術研究にも貢献することになる。 さらに、開発の過程において当事者では気づかない点をNASDA内部及び外部の専門家が的確にアドバイスする仕組みを構築する必要がある。 (3)単品生産の品質管理 宇宙開発における製造は単品ないしは少量生産によるものが多い。このような場合には大量生産品で用いられている統計的品質管理手法を適用することは難しく、コストも考慮した単品生産に適した品質管理手法を検討し、製造現場に浸透させることが必要である。 (4)事故・不具合の教訓の活用 従来、事故や不具合が発生した場合、原因究明は詳細にわたり実施されてきたが、それだけに留まっていたケースが少なくない。確実な開発のためには、これだけでは不十分である。事故や不具合の背景要因まで分析的に遡り、組織のあり方や意思決定のプロセスまでを含めたトータルシステムとして問題がなかったかを究明し、対策をとる必要がある。 また、それらのデータを蓄積し、今後の開発や分析手法の高度化に活かすべきである。また、改善策の評価も必要である。
(1)NASDAと企業の一丸となった取り組み NASDAと企業が同一の目標に向かって一丸となって取り組むことが重要である。 (2)NASDAと企業との役割分担の明確化 NASDAが開発のすべての役割と責任を担うことは現実的ではない。NASDAの役割を出来上がったもののチェック(検査や検証)などに重点化し、企業により多くの役割と責任を分担させることが必要である。その結果、企業が自立して、国際的に競争できる企業になれるであろう。 また、そのためにNASDAと企業の契約形態などについても検討する必要がある。 さらに、NASDAは企業に対して広く競争的環境をつくり、その透明性を確保することが必要である。 (3)企業における取り組み NASDAが如何に厳密に仕様を定めて検査しても限界がある。技術的に不完全なところはものづくりを担うメーカの自主的な活動で補われるものである。したがって、製造メーカにおける体制の強化が重要である。 また、熟練技術者に頼っているところは、情報技術(IT)を活用するなどして、できるだけ形式知化、マニュアル化し、確実に製造できるようにする。そのためには、メーカは、常に設計・製造の品質の向上(レベルアップ)を提案するシステム作りが必要である。
NASDAは宇宙開発プロジェクトの責任機関として自ら保有すべき技術を明確にして、これに関して内部で専門家を育成する。 また、外部から優秀な人材を招聘するなどして、技術基盤の強化に努めるべきである。
(1)優先順位付けとリソース 情報化については緊急に必要なものと中長期的に必要なものに分け、コストパフォーマンスを重視し、優先順位を付けて効果があがるものから取り組むというアプローチを取ることが望ましい。 また、その際にはアウトソーシングを含めリソースの確保などに十分配慮する必要がある。 (2)データベース化と技術蓄積 データベースは、NASDA内のそれぞれの部署で使用し易い形で作成し、これを一元的に管理する方策をとることが現実的である。 また、技術は開発担当企業に蓄積されると同時にNASDAに蓄積され、NASDAで蓄積された技術は様々な企業に展開されるというループを形成すべきである。
(1)キャリアパスと人材育成制度 組織横断的な人材育成に当たっては、優秀な専門家にはそれにふさわしい処遇と、キャリアパスとして専門分野毎に構成するグループに帰属することが有利であるというようなインセンティブが働くようにすることが必要である。 また、人事制度には柔軟性をもたせ、適宜見直していくことが必要である。 (2)外部機関の活用 NASDA職員の能力強化に当たり、内部における能力強化策と同時に、国内外の機関に職員を派遣するなど外部機関の積極的な活用を図るべきである。 また、大学などの教育機関と協力して、若い人材の教育・養成についての仕組みづくりを行うことも重要である。
(1)積極的なメッセージ発信 宇宙活動に対する国民の理解と支持を得るためには、宇宙活動の理念 と目標、そしてそれを実現するための活動を分かり易くかつ積極的に伝えるよう努力すべきである。「NASDA-i」をはじめとする宇宙関係機関における広報活動はその一端として評価されるが、さらに政策の形成や科学ジャーナリズムにも影響を与えるような広範囲な広報活動を推進することを期待する。 本委員会では、我が国の宇宙開発に対する理念として、新たな文化の創出、社会・経済基盤の拡充及び先端技術への挑戦などが議論された。(下別紙1参照) (2)リスクの明確化とその社会との共有 宇宙開発のような先端的な技術開発はリスクが高く、実行あるいは計画されている品質管理につとめたとしても、学問的に未解決なところが残り、成功を100%保証することは難しい。このような活動においては、技術的に確認できている点と確認できていない点を明確にして、国民にその情報を提供し、潜在するリスクをできる限り共有するプロセスが必要である。
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委員長
委員
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会合 | 審議事項 |
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第1回: (12年7月26日) |
NASDAの経営改革についてのアクションプラン(改訂版) |
第2回: (10月23日) |
開発の進め方品質保証の強化に対する取り組みH-IIAロケットの開発状況 |
第3回:(於 筑波) (11月29日) |
品質保証の強化に対する取り組み(続)衛星の開発強化の取り組み状況技術基盤の強化に対する取り組みアクションプランの階層別及び期間別整理 |
第4回: (13年1月24日) |
品質保証の強化に対する取り組み(その3)-H-II及びH-IIAロケットの事故・不具合の背景要因分析-企業との役割・責任関係の見直しアクションプランの階層別及び期間別整理(続) |
第5回: (3月27日) |
品質保証の強化に対する取り組み(その4) - 企業における取り組みの強化状況 -高度情報化の推進に対する取り組み専門的人材の育成活用に対する取り組み |
第6回: (6月21日) |
これまでの審議における主な意見主な意見に対するNASDAの対応H-IIAロケット試験機1号機の開発状況について宇宙開発全般に対するNASDAの考え方 |
第7回: (10月11日) |
H-IIAロケット試験機1号機の打上げ結果の報告改革の進捗報告委員会の所見の議論 |
その他: (13年8月29日) |
H-IIAロケット試験機1号機の打上げ視察 |