プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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H-IIAロケット試験機1号機の打上げ結果について(速報)

平成13年9月5日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

試験機1号機の飛行試験の目的

 標準型H-IIAロケットの最も基本的な形態により、静止トランスファ軌道への飛行を行い、その機能・性能を実証するためのデータを取得すること(飛行実証)。

結果概要

  • H-IIAロケット試験機1号機(H-IIA・F1)は、平成13年8月29日16時00分00秒(日本標準時)に種子島宇宙センター大崎吉信射点(LP1)より打ち上げられた。
  • その後、予定された飛行経路を順調に飛行し、リフトオフから約40分後にレーザ測距装置(LRE)を静止トランスファ軌道に投入した。また飛行中の技術データを取得した。
  • さらに、今回の打上げ機会を利用して、第2段のスピン実験、第2段再々着火前予冷実験及びGPSデータ取得実験を計画通り実施した。

試験機1号機打上げシーケンス

イベント 計画値 予測値 フライト結果
リフトオフ 0秒 0秒 0秒
SRB-A分離 1分50秒 1分50秒 1分51秒
衛星フェアリング分離 4分5秒 4分11秒 4分20秒
第1段エンジン燃焼停止検知 6分30秒 6分36秒 6分41秒
第1段・第2段分離 6分38秒 6分44秒 6分49秒
第2段エンジン第1回燃焼開始 6分44秒 6分50秒 6分55秒
第2段エンジン第1回燃焼停止検知 12分24秒 12分32秒 12分49秒
第2段エンジン第2回アイドル燃焼開始 24分41秒 24分46秒 24分58秒
第2段エンジン第2回燃焼停止検知 27分50秒 27分55秒 28分2秒
LRE分離 39分35秒 39分40秒 39分47秒
(注) 小数点以下を四捨五入し、分秒で表示
(注) 計画値: 機体の質量・推進性能のノミナル値を使用した飛行経路に基づく
予測値: 機体の質量・推進性能に領収試験結果(タグ値)等を使用した飛行経路に基づく

軌道投入精度
(LRE分離時)

軌道傾斜角(度) 計画値 フライト結果 差(σ値)
遠地点高度(km) 36186.200 36190.627 4.427(0.100)
近地点高度(km) 251.300 251.319 0.019(0.021)
軌道傾斜角(度) 28.492 28.496 0.004(0.710)
近地点引数(度) 179.065 179.189 0.124(1.279)
昇交点経度(度) 36.384 36.345 -0.039(-0.349)
(注)フライト結果はGPSR実験装置による測定結果を示す。


DREによる軌道データも正常に取得され、8月31日 8時31分に停波した。

飛行経路

飛行実証した技術

特記事項

(1)LE-7Aエンジン推力
LE-7Aエンジン推力は領収試験結果の約108トンに対して約106トンと推定(想定している推力の範囲内)。今後、より詳細に評価を実施する。
(2)フェアリング分離時微粉
UHF技術テレメータにてフェアリング分離画像を取得した。その画像にてフェアリング分離面付近から微粉が発生していることを確認した。現在、発生源を調査中である。
(3)飛行安全計算機の片系故障
リフトオフから449秒後に飛行安全計算機(冗長系)の片系が停止し、表示装置が停止した。飛行中は動作している残りの片系にてモニタを続行した。原因を調査中である。
(4)SRB-A落下点探索
飛行後にSRB-A落下点を航空機で探索した。その結果、SRB-A2本とも水没したことを確認した。
(5)フェアリング部品の漂流
海上保安庁より、フェリング部品(2個)が三重県大王埼の南約650kmを漂流している旨連絡があった。さらなる技術データ蓄積のため回収を目指したが、発見できなかった(9月5日午前1時をもって探索打ち切り)。

カウントダウン作業の状況

29日 3時17分 機体移動完了
移動発射台と設備配管の接続
11時00分 打上げ時刻を13時から16時に再設
ターミナルカウントダウン
● 推進薬およびヘリウム気蓄器への充填
● 機体位置・姿勢自動初期設定
● 電波系統点検(ロケット/地上設備組合せ点検)
14時10分 X-110分 X-110分 ターミナルカウントダウン
● 姿勢制御系作動点検
● 機体位置・姿勢自動初期設定(最終作業)
● 風観測データに基づく飛行プログラムの更新
X-40分 ● 機体位置・姿勢自動初期設定終了
● 推進薬自動充填(維持)
X-420秒 ● 秒読み開始
X-400秒 ● 自動カウントダウン開始可ON(各系)
X-280秒 ● 自動カウントダウン開始可ON(指揮者)
X-270秒 ● 自動カウントダウン開始
X-215秒 ● 推進薬充填終了
X-200秒 ● タンク加圧開始(各タンク順次開始)
X-180秒 ● 設備電源から機体搭載電池へ切り換え
X-80秒 ● 発射台下部の水素ガス処理用トーチ点火・煙道注水
X-30秒 ● セーフアーム装置作動
X-18秒 ● 誘導制御系飛行モードへ切り換え
X-15秒 ● SRB-A駆動用電池起動(X-7秒に作動確認)
X-11.7秒 ● エンジンからの水素ガス処理用トーチ点火
X-4.7秒 ● LE-7Aエンジン着火
X-0秒 ● SRB-A点火(リフトオフ条件確認後)
16時00分

● 特記事項
  1. 配管接続部漏洩点検作業にて、第1段液体酸素注排液弁に設備側から逆圧を印可した。漏洩点検等により当該弁の健全性を評価し、打上げ作業を続行した。
    【原因】
    設備取扱い用の系統図に一部誤記があり、これをもとに手順書を作成したため。なお、極低温点検時は、注排液弁手前の弁を閉としていたため、逆圧は印可されなかった。
    【対処】
    設備取扱い用の系統図と実際の配管系統を再確認する。
    設備取扱い用の系統図の管理手法を再考する。
    逆圧印可の可能性を排除する手段を再検討する。
  2. 液体水素系の配管接続装置の油圧制御が不良のため、自動接続ができなかった。手動にて接続を行い、打上げ作業を続行した。
    【原因】
    配管と配管サポートの干渉あるいは3系統ある油圧制御装置を同時作動させたための作動時間の遅れが原因と推定。さらに、異常時の手順が不明確であったため復旧に時間を要した。
    【対処】
    配管接続試験を実施し、これに基づき手順の再確立等、所要の対策を講じる。
    異常時の手順を明確にする。
  3. ヘリウム系の配管接続装置付近から白煙が確認された。白煙の発生がおさまったことを確認し、打上げ作業を続行した。
    【原因】
    接続装置の断熱不足による、周囲の空気中の水分の急冷による。
    【対処】
    断熱を強化する。

今後の予定

詳細な評価結果については、ワークショップ等にて公開する(10月中を目標)。
LREを用いた投入軌道の評価をおこなう。
LE-7Aエンジン部及びSRB-Aノズル部に搭載した音響ビーコンをもとに落下地点の探査を実施する
( SRB-A :10月上旬、 LE-7A:11月上旬)。