プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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LE-5Bエンジンの信頼性向上燃焼試験の結果について

平成13年3月21日

宇宙開発事業団
宇宙輸送システム本部

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 燃焼試験の概要

  1. H-IIAロケット第2段エンジン(LE-5B)については、昨年9月までに開発試験及び試験機1号機の飛行に実際に用いるエンジンの燃焼試験を終了しているが、その後も、耐久性に係る技術データの蓄積のため、昨年10月から11月まで試験用エンジンを用い、エンジンの要求寿命(2400秒)を越えて燃焼試験を実施してきた(最終的に5130秒)(図-1)。
    (1) 平成 8年 4月〜平成11年8月: 開発試験
    (2) 平成12年 3月〜5月: 信頼性向上試験
    【目的】厳しい作動範囲を含む寿命確認(1台分の認定試験相当)
    (3) 9月: 試験機1号機用エンジン領収燃焼試験
    (4) 10月〜11月: 信頼性向上試験
    【目的】高負荷作動条件における耐久性に係る技術データの蓄積

  2. 10月〜11月に実施した信頼性向上試験については良好にデータを取得し、以下の試験目的に対し所定の成果が得られた。
    • エンジンシステムとしての燃焼試験データの蓄積による、実飛行時間に対する耐久性余裕の確認
    • 比推力、燃焼再現性や停止過渡特性等の性能データの蓄積による飛行性能予測の精度向上
    • 高負荷作動や低入口圧におけるターボポンプの作動等の厳しい条件下でのエンジン作動特性データの取得によるフライトで遭遇しうる作動条件に対する設計余裕の確認
    • 軸受やシール等の機能部品に関し、秒時を経ることによる特性の変化(劣化等)が、エンジンシステムに及ぼす影響及び要求寿命に対する余裕について、燃焼試験データの蓄積により確認

2. FTPの信頼性について

  1. 亀裂の発生

     試験後の分解点検において液体水素ターボポンプ(FTP)の1段タービンディスクのブレード間部(A部)及び1段タービンディスク前面突起部(B部)に疲労破面を伴う亀裂が認められた(図-2)。

  2. 亀裂の発生原因

    • 今回実施した信頼性向上のための燃焼試験では、エンジンの耐久性に係る技術データ蓄積のため、エンジンの要求寿命(2400秒)を越えて燃焼試験を実施した(最終的に5130秒)。
    • このためターボポンプのポンプ側(高圧)からタービン側(低圧)への水素の流入を抑えるための部品(メカニカルシール)の特性の変化に伴い、タービン側への低温の液体水素の流入が増加した。
    • これにより以下のとおり各部に高サイクルの疲労が生じ、亀裂が発生したものと考える。
      <A部>

       ブレード振動による機械的変動応力にメカニカルシールからの漏洩低温水素の増加によるベース熱応力が畳重し、亀裂が発生

      <B部>

       メカニカルシールからの漏洩低温水素の増加による熱疲労(タービンノズル封止蓋の有無等による温度サイクル)により、亀裂が発生

      ( 金属疲労破面の現象解明は、金属材料技術研究所の協力を得て平成13年1月〜2月にかけて比較に必要な低温環境下におけるインコネル材の基礎データ取得のための材料試験を実施した。
       また、上記については数値流体解析を行い(図-3)、熱応力を算定することによりその妥当性を確認した。)

  3. メカニカルシールの耐久性について

     メカニカルシールについては、開発時の単体試験結果から作動秒時を経ると定常作動中および起動/停止時の漏洩量が増加する傾向が認められている(図-4)。今回は、要求寿命(18回/2400秒)を超える着火34回/4365秒のメカニカルシールの累積作動が行われており、分解点検の結果では従来品と同程度のシール摩耗量ではあったが、システムへの影響が把握されたものである。
     なお、2400秒の要求寿命内における耐久性については、開発段階において既に3台のエンジンについて同種の亀裂は発生しないことが確認されている。
     また既に領収燃焼試験を実施済みの試験機1号機用FTPについては、メカニカルシールに係る製造・試験データ等の履歴を詳細に再評価した結果、問題ないことを確認済みである。